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第7回 人類の敵アラガミが生まれるまで

『GOD EATER BURST』に登場するハンニバルの初期のデザインイラスト。


依田 優一
株式会社バンダイナムコスタジオ所属。
第一作「GOD EATER」から参加し、以降は主にアクションディレクターとしてシリーズに携わる。
「GOD EATER 2 RAGE BURST」「GOD EATER OFFSHOT」ではディレクターを担当。

板倉 耕一
株式会社バンダイナムコスタジオ所属。
第一作「GOD EATER」の立ち上げからアートディレクターとしてシリーズに携わる。
キャラクターのほかアラガミなどの主要要素のデザインも担当。

伊藤 通章
株式会社バンダイナムコスタジオ所属。
第1作『GOD EATER』よりシリーズに携わる。
主にアラガミや神機のデザインを担当し、『GOD EATER RESURRECTION』ではアートディレクターを担当。

鈴木 一徹
株式会社マーベラス 第1スタジオ所属。
「GOD EATER 3」開発ディレクター。

伊能 浩彦
株式会社マーベラス
「GOD EATER 3」のアラガミデザインを主に担当。コンセプトアーティスト。


『GOD EATER』『GOD EATER BURST』『GOD EATER RESURRECTION』に登場するアラガミについて

『GOD EATER』『GOD EATER BURST』『GOD EATER RESURRECTION』に登場するアラガミ達。



――本記事では「GOD EATER」シリーズで人類の敵として描かれるアラガミについて、掘り下げていきたいと思います。まず始めに『GOD EATER』『GOD EATER BURST』『GOD EATER RESURRECTION』に関するお話を伺っていきますが、さまざまな種類が存在するアラガミは開発当初、どのように作られたのでしょうか?
依田さん
基本的に、各タイトルの企画初期にアラガミのラインナップが検討されます。ゲーム内の役割から考えて、看板枠(パッケージに出る主役級)は必ず抑えつつ、他にはサイズ感、強さ、モチーフ等(あとスケジュールとコストとか……)からバランスを見てこういう構成でいこう、というラインナップが決まります。

板倉さん
基本的にはゲーム的な仕様が先にあり、どういった技を出すのか、どういった部位が壊れるのか、といったことが決まってからデザインを開始していますね。

依田さん
アラガミの名前の決め方も、最初から決まっている場合と、デザイン・行動パターン・技などが決まった段階で名付ける場合があります。ストーリーの最終ボスとなるアラガミはまた違ったタイミングで決まることがありますね。また、語呂のよさは「GOD EATER」シリーズを通して重要視していまして、たとえば『GOD EATER 2 RAGE BURST』で登場したクロムガウェインは「ガウェイン」という名前でしたが、短くて物足りないという意見から「クロムガウェイン」になりました。ちなみに“クロム”はクロムガウェインの銀色の金属パーツの質感モチーフから来ています。


――「GOD EATER」シリーズの各作品には看板アラガミが存在しますよね。『GOD EATER』ではヴァジュラが看板アラガミに該当すると思いますが、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

ヴァジュラ。

板倉さん
実はデザイン当初の段階だとヴァジュラが看板アラガミになることは決まっておらず、すべてのアラガミが揃ってから、ヴァジュラに白羽の矢が立ちました。話は遡りますが、そもそもアラガミのデザインは、『GOD EATER』の前身である『バガラリー』の反省を活かして作られたものが多くあります。『バガラリー』ではやたら甲殻類や虫をモチーフにしていましたが、感情が読みづらく、また親しみのある生き物ではないので動きも予想しにくいというアクションゲームとしての反省点がありました。そのため、『GOD EATER』では感情が読めて動きが予想しやすい、いわゆる獣タイプをモチーフとして採用しようという話になったんです。そうした中、どんなアラガミが欲しいかという構想段階で、まだ名付け前のヴァジュラに当たるアラガミは虎型として明記されていたのですが、そもそもアラガミってどんな存在? というところからのスタートなので、なかなかデザインが決まらず……。世界を喰い尽くした神という存在らしさを表現するためルーン文字を刻んでみたり、神殿の要素を入れてみたり、いろいろと模索しました。最終的にアラガミには通常種がいてその上位存在として禁忌種がいる、というアラガミの立ち位置の違いが生まれたので、禁忌種にはより神様っぽいモチーフとして人の顔を持たせてみたりし、通常種にはより獣っぽいモチーフを入れ込むことで現在の形に近づきました。ヴァジュラのデザインには特に悩みましたが、総合ディレクターの吉村さんから「モンスターだけどキャラクター」という助言をもらい、怒れる大王としてものすごく古い時代から生きている神というイメージのもとデザインしていきました。体の硬い部分に縄文時代の火焔型土器の雰囲気を反映させて古めかしさを出したり、大王っぽさとして背中に赤いマントをつけたりすることで、イメージに寄せられたと思います。

ヴァジュラの初期デザイン。


ヴァジュラの設定資料。



――『GOD EATER』の続編にあたる『GOD EATER BURST』では新たにハンニバルが看板アラガミとして登場しましたが、こちらはどのような経緯で生まれたのでしょうか?

ハンニバル。

板倉さん
『GOD EATER』の制作において『バガラリー』の反省を活かしたように、『GOD EATER BURST』のアラガミも、前作『GOD EATER』のアラガミの作り方を反省して作った経緯があります。というのも、『GOD EATER』の一部のアラガミは画面外に飛んでいってしまったり、死角から攻撃してきたり、アクションゲームとして目の前で戦うということに適していないものもおりましたので。その中で、ハンニバルは当初からその名前や行動パターン、また看板を飾るということも決まった状態で生まれました。これまでのアラガミよりも柔らかい身体で、関節の可動域も広いアラガミを作ろうと思っていましたね。また、モチーフとして『GOD EATER』のアラガミにはいなかったドラゴンを採用することも決まり、制作に取りかかりました。ただし、ドラゴンそのものとは異なり鱗がなく、ハンニバルという名前の由来から着想を得て手甲など甲冑っぽい要素を取り入れながらデザインしています。

依田さん
『GOD EATER BURST』は1日でも早くリリースしたいという進行だったため、主要メンバー全員の熱量が集中したアラガミでした。看板アラガミなので、『GOD EATER』の反省点を活かした渾身のアラガミを作るという目標からスタートしています。背中の逆鱗を破壊したら見た目が変化するといったことができるのか、など企画段階から技術面も詰めて、短期間ながら順調かつクオリティ高く作ることができました。

ハンニバルの初期デザイン。

板倉さん
ほかには、ディアウス・ピターも『GOD EATER』における非常に印象的なアラガミです。通常種のヴァジュラが大王であるなら、禁忌種のピターは帝王だろうという流れでイメージを膨らませて作りました。なるべく邪悪な雰囲気にしたかったので、顔部分のモデルはどこから見ても暗い闇にしか見えず、闇をはらんだ強そうな雰囲気にしてもらいました。

伊藤さん
ちなみに、『GOD EATER RESURRECTION』におけるピターの場合は、元の印象を崩さないようにしつつ、邪悪さをとにかく盛りに盛ったデザインになっています。ストーリー上の宿敵という存在として、デザイン的な強化だけでなくアクション的な強化という要件もあり、形態変化で背中から翼を展開するようになりました。

『GOD EATER』のディアウス・ピターと、『GOD EATER RESURRECTION』のディアウス・ピター。



――看板アラガミ以外にも、シユウ、セクメト、カリギュラなど多数のアラガミが登場しますが、これらが作られた経緯について教えてください。

シユウ、セクメト、カリギュラ。

板倉さん
シユウは知性を感じる上にカンフー要素のあるアラガミが欲しいという話から生まれたアラガミです。腕を組んでいる姿が特徴的ですが、威風堂々とした雰囲気を出すためにあのようなデザインになりました。ちなみに、マスターヴァンパイアと開発命名されていた時期もあり、吸血鬼的な要素の名残が頭部のデザインとして表現されています。

依田さん
『GOD EATER』は敵の部位を狙って攻撃を当てるというゲーム性を重視していたので、攻撃が当たりやすいところと、そうでないところを明確にしようという意図が前提としてありました。なので、シユウに限らず多くのアラガミがプレイヤーの攻撃属性に対してカチカチに硬い部位と柔らかい部位を両方持っています。シユウは登場タイミング的にもチュートリアルとして、ある種プレイヤーへの壁のような役割を担っているので、少々狙いにくい手のひらと頭が弱点になっており、それ以外は硬いという特徴がありますね。セクメトは本編の難易度7の序盤で登場させたアラガミです。そこからアラガミの強さが一気に跳ね上がるため、手強さが印象に残っているユーザーの方も多いかもしれません。そのタイミングではランク6の武器しか手に入らない状況ですので、なおさら倒すのは難しかったと思います。

シユウの設定資料。

伊藤さん
カリギュラはデザインの作業期間がとにかく短かったのを覚えています。当初は黒くてフードを被ったデザインでしたが、氷の属性に合わせて全身を青い鎧にし、ブレードを持たせた今のデザインに落ち着きました。

依田さん
カリギュラは結合崩壊すると見た目に合わせて攻撃も変化するのが特徴的ですね。彼の見た目の変化についてはちょっとしたボツエピソードがありまして、頭部を結合崩壊すると兜の下に隠れていた体毛(?)が荒々しく逆立つ、というデザインでモデルも作られていました。ですが、ゲーム画面で見てみると体毛のシルエットがタンポポの花のように見えており「思ってたのと違う」ということでリデザインしてもらいました。

伊藤さん
ブレードのサイズもデザインしていたときはもっと小さかったのに、最終的にかなり大きくなりました。今思うと、あれくらいの大きさじゃないと映えなかったので、大きくしてよかったなと思います。また、下からくぐり抜けられないようにするためにブレードを三枚刃にしたという、ゲーム性の意味合いで取り入れられた側面もあります。

カリギュラの初期デザイン。



――そのほか、アラガミを作る上で苦労したことなどはありましたか? また、思い入れのあるアラガミがいれば教えてください。
板倉さん
最初にアラガミのデザインをどうするか決めるときに、私が初めてデザインしたのはオウガテイルでした。アラガミがどの程度生物的な要素を残していて、どの程度装飾があるのか、といったことをオウガテイルのデザインを基準にバランスを取ることができました。あとはどれだけ派手に広げられるかという指針になるアラガミでしたので、思い入れがあります。多数のメディアミックス作品でも、「GOD EATER」シリーズの象徴的存在として登場していますし。あとは、アイテールが女装したおじさんに見えてしまったのは反省しましたね……。だからこそ、ニュクス・アルヴァはしっかりと女性的にデザインしました。

伊藤さん
私が初めてデザインしたアラガミということで、コンゴウは印象深いですね。

オウガテイルと、「ゴッドイーターフェス 2015」の会場に登場したオウガテイルの着ぐるみ。


アイテールと、ニュクス・アルヴァ。


コンゴウ。



『GOD EATER 2』『GOD EATER 2 RAGE BURST』に登場するアラガミについて

『GOD EATER 2』『GOD EATER 2 RAGE BURST』に登場するアラガミ達。



――続いて『GOD EATER 2』『GOD EATER 2 RAGE BURST』のアラガミについてお伺いします。この2作品ではそれぞれマルドゥークとクロムガウェインが看板アラガミとして登場しましたが、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

マルドゥークと、クロムガウェイン。

伊藤さん
マルドゥークは、イケメンの動物といえば何だろうという話から狼に着目し、狼モチーフの看板アラガミを作ることに決めたのがきっかけです。ガントレットのアイディアも当初からありました。ちなみに「『GOD EATER』徹底解剖 10CONTENTS」の「第3回 GOD EATERの世界ができるまで」でも触れられていますが、当初マルドゥークの赤いモチーフは感応種の共通記号を想定していました。そのため、ほかの感応種のアラガミにも赤いモチーフをつけていましたが、見分けがつかなくなってしまい、そのときの名残としてマルドゥークにだけ残っています。

マルドゥークの初期デザイン。

板倉さん
クロムガウェインは、モチーフの獣を考えた際に黒豹が話題に挙がりました。また、それまでのアラガミは派手なデザインの傾向でしたので、シックな雰囲気でまとめています。地味にならないようにしたかったので、金属の要素を入れて、豪華さも強化していますね。

依田さん
四足のアラガミのアクションを策定していく中で、プレイヤーの飽きが来てしまうことを懸念し、新たな要素として背中にアームをつけるというアイディアが採用されたのがクロムガウェインになります。

板倉さん
クロムガウェインは三面図を描くのが本当に苦労しました。イケメンになるように、何度もモデルのレタッチをして完成しました。デザインの時にはもっと重心を落として地面に張り付くような姿勢を想定してデザインしていましたが、アクションの都合上、基本のポーズが重心を高くした姿勢になってしまったので、脚の細さが際立って貧弱に見えてしまいました。ポーズが決まった後にデザインを調整できればよかったですね。

クロムガウェインのデザイン資料。



――それ以外のアラガミでは、マガツキュウビ、紅蓮のオロチもユーザーの印象に強く残るアラガミだったと思います。作られた経緯をお伺いできますか?
依田さん
『GOD EATER 2』開発終盤で行程的に後ろに置かれていた“裏ボス製作”をいよいよ始めなくてはという段に入り、急ピッチで用意したのがマガツキュウビです。裏ボスという存在のため、驚異的なまでの強さにしようという話になり、そこに吉村さんからの「ゴッドイーターのHPの最大値が減る」などのアイディアを受けて誕生しました。初めてテストプレイしたときはあまりの速さでHPの最大値が減って驚きましたが、開発も佳境でいろいろ感覚が麻痺していたのもあり、やばそうだけどおもしろい! ということでOKに踏み切りました。

伊藤さん
何回もチャレンジしましたが、1回しか勝てなかったんですよ。そのくらい難易度がすさまじくて、討伐に成功したときの達成感はある意味一番のアラガミかもしれません(笑)。

依田さん
紅蓮のオロチは、『GOD EATER 2 RAGE BURST』の発売後、アップデート期間でタスクに少し余裕ができた株式会社シフトの山本さんが「アラガミのチューニング興味あります」と仰っていたのをいいことに、関係各所とネゴシエーションして実装までしてもらった、ボトムアップ行程で生まれたアラガミです。当時、制作は進んでいるものの提供方法が決まっていなかったリインフォース神機や、NPCの神機換装システムの開放と絡めてVer.1.20のコンテンツとして組み込まれました。ゲーム本編が終わり、のこじん(遺された神機)集めもかなりやった、というプレイヤーに向けてパラメータを調整し、AI挙動も特徴が出るようにチューニングしました。結果としてターゲッティングや距離による行動選択が他アラガミとは一味違うものになりました。



――『GOD EATER 2』『GOD EATER 2 RAGE BURST』に関してはそのほか、苦労したことなどはありましたか? また、思い入れのあるアラガミがいれば教えてください。
板倉さん
スパルタカスは巨大なとうもろこしに手足がついているみたいに見えてしまったので、もう少しわかりやすくカッコいい感じにデザインしたほうがよかったなと後悔しております。また、シユウが男性的だったのでセクメトは女性的にしたのですが、あまり気がついてもらえなかったこともあり、イェン・ツィーはよりわかりやすく女性的なデザインにしました。あとはアバドンもデザインがとても気に入っているアラガミです。神機の捕喰口とハコフグの要素を組み合わせて作られており、マスコットキャラクター的な存在となりました。当初は「動く宝箱」というオーダーだったのですが、「GOD EATER」シリーズの世界には宝箱なんてものは存在しませんよね。ものすごく困って、いろんなアイディアを出しては没になり、もうダメだと思っていたとき、会社帰りの電車の中でふと「GOD EATER」シリーズってそもそもどんなものだっけ? と原点に立ち返り、捕喰口をモチーフにすれば、いろいろ捕喰するから中に溜め込んでいる=宝箱と考えられるかもしれない、と思いついたことで生まれたアラガミでした。

スパルタカスと、イェン・ツィー。


アバドン。

伊藤さん
一番苦労したのはラーヴァナですね。会議でアラガミに何かを背負わせたいという話になったのですが、それがけっこう無理難題(たとえば仏像とか)で……。ただでさえデザインで試行錯誤している最中の話だったので、いろいろと頭が混乱してしまい(笑)、そうして瞑想した末にでき上がったアラガミなので、ある意味思い入れがあります。また、ラケル博士のアラガミ形態(世界を閉ざす者)は、今でもあれでよかったのか悩んでいるところがあります。ラケル博士がアラガミ化するとあんな風になるのか! という納得感を生ませるために、かなり試行錯誤しながらデザインしました。結果として思いっきりラケル博士の形状を保ったままアラガミにしましたが、ただ巨大化したように見えなくもなく、落としどころが難しかったなと感じています。神様っぽさを保ちつつ、キャラを異形化させるのは大変でした。

ラーヴァナと、世界を閉ざす者。

依田さん
どのアラガミも苦労したので思い入れは強いです。強いて言うなら「GOD EATER」シリーズで実質初めて担当したアラガミであるハンニバルや、先ほども触れましたが紅蓮のオロチは強く印象に残っていますね。



『GOD EATER 3』に登場するアラガミについて

『GOD EATER 3』に登場するアラガミ達。



――ここからは『GOD EATER 3』のアラガミについてお伺いします。アラガミの作り方について、『GOD EATER 3』ではどのように作られたのでしょうか?
伊能さん
まずはアラガミのキーワードを決め、次にこのゲームでどんなビジュアルイメージを与えたいのか、という部分を探っていきます。キーワードから連想するパーツを組み上げていく作業が、デザインの出発点ですね。ある程度パーツの組み上げが終わると、主要メンバーで意見交換をします。そして、それぞれの意見を取り入れて、修正稿を出す……の繰り返しになります。デザインが決定したらモデルに入り、アニメーションやエフェクト、プログラミングといった大まかなフローで作り上げていきます。質感表現に関してはどのアラガミも最後までこだわりました。同じ色同士の駆け引きや、エフェクトが乗っかってきたときの色合いのインパクト等を大事にしつつ、ゲームのスピードで動いて向かって来たときの迫力を増すために、アラガミだけではなくエフェクトをもっと強くしたりもしています。実は「東京ゲームショウ2018」で初めて情報公開したタイミングで、アヌビスの色と質感をぐっと強調させたのですが、それがきっかけでほかのアラガミも派手な方向に調整することになりました。どうしても背景に沈んでしまうので、ルックスと動きによってある種プレイヤーを挑発させるくらいじゃないといけないなと。それを踏まえることで、討伐できたときのあの快感が生まれると思っています。そんな風に、プレイヤーの攻撃意欲を高めるために画面全体でのバランスを取り、訴えかけていかないといけないところを意識してチームで制作を進めていきました。

鈴木さん
そういえば、私が要素(ワード)で悩んでいたときは、ちょうど伊能もデザインで悩んでいました。なので、自信を持ってこれだ! というコンセプトを打ち出してデザインしてもらえるように、考えを巡らせていたのを覚えています。自分が自信を持てないと、ほかのメンバーも自信を持てませんから。それから、アラガミの名前についてはもちろん意味も重要ですが、一番気を遣ったのは語感です。発音したときの印象がキャラクターと合っているかどうか、という点ですね。どのアラガミもシンプルなもの、一度で覚えられるものが採用されていますが、意味や設定にはいろいろ悩みました。特にアックスレイダーは、あまり仰々しい名前をつけてしまうと強そうに見えすぎてしまうというところで苦労しました。ほかにも、一つひとつ丁寧に神話の中身と紐付けてネーミングしているといった要素もあります。たとえばドローミは、プレイした当時知っていた人はワクワクした覚えもあるかもしれませんが、元の神話において出てくるフェンリルという怪物を繋ぎ止めるものがドローミという名前です。だから鎖をモチーフにして、捕喰したときに拘束が解かれて暴走するという仕様になっています。

アックスレイダーと、ドローミ。



――次に、先ほども少し話題に挙がりましたが、看板アラガミであるアヌビスが生まれた経緯を教えてください。

アヌビス。

鈴木さん
プロジェクトメンバーとは一番最初に、看板アラガミとしてどういう形状が望ましいのか、ということを話しました。四足なのか二足なのか、飛んでいるのかなどを考え、結果的に看板アラガミらしく四足はブレずにいこうとなり、そこを取っかかりに伊能が描き出しました。

伊能さん
アヌビスという存在に関してはこれまで、さまざまな作品、幅広い年代の形で描かれてきました。それこそキャラクターとしてだけではなく、神話のモチーフとしての描かれ方もしていました。そんな中、歴代の「GOD EATER」シリーズではディアウス・ピターやハンニバルなどの看板アラガミが登場しましたので、それぞれの役割を踏まえた上で、『GOD EATER 3』におけるアヌビスの立ち位置とはどういったものだろう、と考えました。捕喰などさまざまなキーワードがありましたが、吉村さんから「荒ぶったアラガミが欲しい」というオーダーがあり、そこから“喰う=牙”、“荒ぶった=炎”といったように連想していき、いろいろな要素を盛り込んで実装された形に落ち着きました。

鈴木さん
伊能が一発目に描いてきたアヌビスは、けっこうずんぐりむっくりした形だったのをよく覚えています。ですが、当初からコンセプト自体はブレてはいなくて、次第によりかっこいい姿になっていきました。やはり看板アラガミなので、イケメンでないといけませんから。全体のフォルムからして、そのかっこよさが感じられないといけないという条件がありました。

伊能さん
過去の看板アラガミがすべてイケメンだったので、それを壊してはいけないなと。作品の看板を背負うかっこよさ、みたいなものってありますよね。だからプレッシャーはすごかったです。最初はどういった形で歴代の看板アラガミに寄り添っていくか、かなり探り探りでした。アヌビスの役割的に絶対にかっこよくないといけないですし、神としての神々しさも表現しなければいけなかったのですが、神々しさは具体的に言語化されているものではないので難しかったですね。

鈴木さん
形態変化してもかっこよさが失われない、というのはすごく大事なことで、四足でも二足でもそれぞれ魅力がある、いいデザインになったと思います。正直「GOD EATER」シリーズのアラガミとは改めてどういったものなのか、過去作をプレイしてくれているユーザーの皆さんが「これはアラガミだ」と思ってくれる線引きがどこなのか、当初はかなり苦戦していました。

伊能さん
特にアラガミの生命源であるコアについては、一体どういったものなのかずっと考えていました。コアという単語自体はゲーム中にたくさん出てきますが、アラガミと戦っているときにはほとんどそれが見えません。でもコアを想像しないと、アラガミの内部構造や筋肉構造をイメージできないので、(鈴木)一徹と二人で頭を悩ませながら描いていました。

鈴木さん
内臓はどこにあるのか、骨は何本あるのか、といったことをイメージして進めないとあとからつじつまが合わなくなり、一気に実存感がなくなってしまいます。アヌビスなんて、特殊な骨構造を持っているアラガミなので、上半身と下半身の比率などもとても大事なんです。ちなみに、アラガミを作るときは3つのワードを組み合わせて作るようにしています。最初に情報量が多すぎるとコンセプトが何かよくわからなくなるため、キーワードをかなり絞り、伊能と相談して作るというフローを用いています。アヌビスは“捕喰の王”、“ジャッカル”、“四足から二足への形態変化”という3つの要素だけで最初は組み上げていきました。

伊能さん
アヌビスのこの3つの要素はワードの響きだけですでにかっこいいので、それに負けないようなデザインはどうしたらいいものか、本当に大変でした(笑)。

アヌビスの設定資料。



――アヌビスもかっこよく仕上がっていますが、ハバキリ、グウゾウも印象的なデザインになっています。こちらはどのような経緯で作られたのでしょうか?

ハバキリと、グウゾウ。

鈴木さん
ハバキリは刀を持ったアラガミっていないよな、というところから何か新しいことができないかと考えたのがきっかけです。あまり生物感を意識し過ぎると侍らしさが出ないので、思い切ってメカに振ってみました。

伊能さん
デザインには苦労しましたね。最初は四足の対の雰囲気にこだわっていろいろ試したのですが、蜘蛛っぽくなってしまいました。そこで、試しに二足のブースタータイプを描いて一徹に見せたら、これいいね! となったんです。メカというのは、デザインとしてはかなり挑戦的だったと思います。アラガミのラインナップの幅を広げるために、あえて露骨にブースターを誇張したデザインにして巨大な武器を持たせて、なおかつ上半身はフェミニンなデザインというかけ合わせを意識しました。

鈴木さん
これが男の侍だったら、おもしろいデザインにはなりませんでした。“女性”、“侍”、“メカ”という3つの要素がかけ合わさったからこそ、成立していると感じています。そういう意味でもなかなか思い出深いアラガミです。そういえば、ハバキリのアニメーションを作ったときは、シリンダーがあって、慣性が働いて、でもここは急ストップができるんだ、といったメカの動きをみんななかなか理解していなかったんですよね。メカ的な構造を理解しているアニメーターがおらず、最初はなかなかうまくいかなかったので、けっこうテコ入れした記憶があります。結果的には、ハバキリがターンする瞬間などで、メカらしさと生き物らしさの両立を感じられる仕上がりになりました。ちなみに、当初ハバキリは灰域種の予定で、3体目の灰域種としてデザインしていました。なので、実は捕喰するデザインもあったりします。

伊能さん
ハバキリは亜種を含め、エフェクトにもこだわりました。たくさんの案をプロジェクトメンバーから提案してもらい、みんなの合わせ技で生まれたアラガミです。

当初実装が予定されていた、捕喰するハバキリのデザイン資料。

鈴木さん
グウゾウに関しては、出生を想像できない意味不明なアラガミが欲しかったことから生まれたアラガミです。神って何なんだろう? 自分たち人間が想像できる存在は神ではない、本当は誰も想像できない存在こそが神なのでは? と頭をグルグルさせて現在の方向性に行き着きました。ただ、何かをモチーフにすることはやめた方がいいと考え、難解なコンセプトができ上がった結果、伊能を困らせてしまいました(笑)。唯一明確にあったのは、何にでも変形できる、形を持たないという意味合いを持つ蛇だけは要素として入れようということでした。そうして蛇だけは入れつつ何かよくわからないのを作ろう、と伊能にオーダーしたところ、めちゃくちゃいいデザインを上げてくれたので、すんなり決まりました。

伊能さん
取っかかりがなくて本当に困りましたね。神はシンボリックなものとして、もともと左右対処で描かれることが多いんです。そこで、最初はアイコンみたいなマークをイメージしてデザインを進めました。とはいえ、ゲームとしてのおもしろさも保つ必要があるので、シンボリックなものが浮遊しつつ、周囲に蛇が取りついていて、壁があったり突進してきたりする……という形になっています。今見ても不思議な存在だなと思います。

鈴木さん
グウゾウは声にもすごくこだわっていて、堕天使っぽく、コーラスの雰囲気が感じられるよう意識しました。



――『GOD EATER 3』は新たに灰域種が登場するなど、前作までとの変更点も多いかと思います。そうした中で、作る上で苦労したアラガミや、印象に残っているアラガミはいますか?
鈴木さん
捕喰まわりが一番大変でした。最初に「最速体験会&開発サミット」でお披露目したとき、どういった反応が返ってくるかビクビクしていましたが、エイミーが予告してくれたり、アラガミが捕喰に備えた動きをしたりするおかげで、何とかプレイヤーが対処できるというところにアヌビスは落とし込めていたと思います。しかし、ラーやヌァザは何で喰ってくるか予測がつきにくいアラガミです。そうなると話は別で、やられたことに対する納得感が出ないと、捕喰に対してまったく違う印象を抱かせてしまいます。どうすればそこをプレイヤーに納得してもらえるだろうかと、とても苦労しました。ヌァザに至っては3回も捕喰を作り直していますし。ラーは太陽というシンボルがあったので、まだシンプルな方なのかもと思いつつ、遠隔で捕喰してくるのはあまりシンプルじゃないですかね?(笑) 太陽を持たせるというのは今思うと斬新ですし、神様はやはり左右対称感があると、一気に神様っぽくなるものだなと思ったアラガミでした。あと、アラガミを作る上での3つの要素出しも、後半になってくるとネタ切れで大変でした。バルバルスは物語の序盤で出てくるのに、制作順では最後だったので特にキツかったです。最初は細身な水生生物系をイメージしていましたが、初期デザインではアラガミらしさが感じられず、目をどこにつけようか、存在感をどう醸し出そうか、と暗中模索の状態でした。

ラー、ヌァザ、バルバルス。

伊能さん
ひと通り手を入れ終えて落ち着いたものに対して、また手を入れる必要があったという点では、灰煉種にも苦労しました。あれはなかなかのものでしたね……(笑)。カラーチェンジのみではプレイヤーに飽きられるためもう許されないですし、1体1体かなり時間をかけて慎重に作り込んでいきました。しかも、すでに完成された歴代のアラガミも灰煉種として新たにラインナップされていたので、テコ入れするにしても、元々のコンセプトに対してさらに要素を加えるというのはどこまでやっていいものなのか、とても悩ましいところでした。ただ、灰域種に負けず劣らず、灰煉種も多くの好評をいただけたので嬉しかったですね。思い入れがあるアラガミでいうと、真っ先にバルムンクが思い浮かびます。アヌビスがいて、それに対抗する、両極の柱をそれぞれ占めるような存在が自分の中で必要だと感じていた中で生まれたアラガミでしたので。フェイシャル部分のやり取りもすごく多かった印象があります。バルムンクが変異したバルムンク・レガリアは、個人的に『GOD EATER 3』での集大成という位置づけです。名前もかっこよくてアラガミの見た目と挙動にも合っていますし、とても気に入っているアラガミです。

バルムンクと、バルムンク・レガリア。

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