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第3回 GOD EATERの世界ができるまで

初代『GOD EATER』の製品コンセプトイラスト。


吉村 広
株式会社バンダイナムコスタジオ所属。
『GOD EATER』シリーズ 総合ディレクター。開発全般を統括。ゲームコンセプトや世界観構築を担当。

板倉 耕一
株式会社バンダイナムコスタジオ所属。
第一作「GOD EATER」の立ち上げからアートディレクターとしてシリーズに携わる。
キャラクターのほかアラガミなどの主要要素のデザインも担当。

小林 くるみ
株式会社バンダイナムコスタジオ所属。
第二作「GOD EATER BURST」より制作に参加。
「GOD EATER 2」以降、板倉氏から継いでキャラクターデザインを担当する。

鈴木 一徹
株式会社マーベラス 第1スタジオ所属。
「GOD EATER 3」開発ディレクター。

伊能 浩彦
株式会社マーベラス
「GOD EATER 3」のアラガミデザインを主に担当。コンセプトアーティスト。

伊藤 迅一
株式会社マーベラス
「GOD EATER 3」のフィールド、神機デザインを主に担当。コンセプトアーティスト。



――今回の記事では「GOD EATER」シリーズの世界観の成り立ちについてお話を伺います。「GOD EATER」シリーズといえば、独特な世界観が特徴の一つだと思いますが、崩壊した世界、神機、アラガミといった要素があるなかで、どのように世界観を構築していったのでしょうか?
吉村さん
実は今の形に落ち着くまで3、4回企画が変わっています。当初は、のちに『GOD EATER』の作中アニメとして名前が登場することになる「バガラリー」というゲームを企画していて、そこからユーザー調査を進めるなかで反応がよかった“ゴッドイーター(神を喰らうもの)”というキーワードをもとに世界観を広げていきました。

「バガラリー」で芽吹いたアイディアが『GOD EATER』として結実するまで、さまざまなアートを練り上げながら世界観を構築していったという。


板倉さん
『GOD EATER』の開発初期にユーザー調査を行ったときのことですが、ターゲットとして考えていた日本の中高生に親しみを感じてもらえるように、アニメ調の絵柄で退廃的な雰囲気のイラストを提案させていただきました。アニメ調の絵柄だとゲーム体験のリアリティを感じてもらえないのではないかと不安でしたが、調査では予想以上の好反応をいただきました。分析したところ、どうやらアラガミの迫力や血飛沫、冷たい目をしているキャラクター、現実に存在するようなビルが崩壊している様子などにユーザーの皆さんはリアリティを感じたようです。なので、そういった要素が魅力的に映ったと捉えて、世界観を膨らませていきました。


――「GOD EATER」シリーズの各作品についてもお伺いしたいと思います。まずは原点である『GOD EATER』ですが、ビルに開いた大穴のビジュアルが印象的でした。あれはどのようにして生まれたのでしょうか?
吉村さん
“喰らう”というキーワードを広げていった結果としてあのビジュアルがあります。世界が普通に壊れたのではなく、喰べられたことで崩壊したというのを表現するために、まずは崩壊を印象づけるキャッチーな要素が必要でした。そのなかで、アラガミにかじり取られた象徴としてあの丸くくり抜かれたビルが生まれました。

ビルの大穴が壊れた世界を印象づける、本作の象徴的なフィールド「贖罪の街」。


板倉さん
崩壊した建物のデザインを現代的なものにしたのは、事前に吉村から「崩壊した世界をノスタルジックに感じさせたくはない」「敵の恐ろしさを強く感じさせられるものにしたい」と言われていたことが理由です。昔の建物が朽ちて植物が生い茂っているような哀愁漂う様子ではなく、今なお喰い荒らされ、崩壊させられ続けている世界を表現するようにしました。ほかにも火力発電所や空母などをモチーフにした個性的なフィールドがいくつもありますが、人類が作り上げてきた文明さえもたやすく破壊されている様を描くことで、アラガミに対する恐怖を感じさせたいと思い制作しています。また、人類の信仰心さえも打ち砕くアラガミの恐ろしさを感じさせようとして、「贖罪の街」や「鎮魂の廃寺」では寺院が徹底的に破壊されています。そのように破壊される舞台を考案した後に、全体の印象のバランスを踏まえて色の設計を行いました。

吉村さん
「鎮魂の廃寺」は、最初は雪がなくて荒廃しただけの寺院だったと思います。そこから寒い属性を追加するため夜にしたり雪を降らせたり、そうしたゲーム的なバランスもあとから調整しました。

世界観の表現とゲームバランスを両立させながら、数々のフィールドが作られていった。



――アラガミと戦う主人公像はどのようにして作られていったのでしょうか?
吉村さん
まず主人公のキャラクターカスタマイズ要素は最初から決めていました。当時ハンティングアクションゲームというジャンルでは、自分でキャラクターを作り上げて戦うのが一般的でしたので。『GOD EATER』はそうした自分で作る主人公にも関わらず、RPG的なストーリーに重きを置いているのがほかのゲームと大きく異なる点だと思います。ちなみにストーリーに力を入れたのは、新規タイトルだからその方が手に取ってもらいやすいだろうという意図もありましたね。シナリオ量は当初予定していた4倍くらいに増えました。

板倉さん
グラフィックを量産するスケジュール的な都合もあり、シナリオが完全に決定する前にすべてのデザインを完成させる必要がありましたね。

吉村さん
なので、最終的にNPCのポジション替えなどもいろいろと発生しています。主人公のデザインでいうと、あの世界に存在するゴッドイーターのイメージ像という縛りのもと、たくさんのデザインパターンを作ってもらったのですが、あるときプロデューサーの富澤から「物語の中心に立つ存在なのにデザインがバラバラなので統一感を持たせたい」という意見がありました。そこで急遽、漫画家の曽我部修司さんにフェンリルの制服をデザインしていただきました。もともとフェンリルのマークはあったのでデザインに組み込んでいただきつつ、制服のおかげで一気に世界観が確立されていった気がします。

板倉さん
組織の名称として、北欧神話から引用された「フェンリル」という名前は決まっていましたので、組織のマークはオオカミの頭部をモチーフにデザインしました。神に反抗する組織なので禍々しさを表現してみたり、バランスを試行錯誤しながら細部を詰めていきました。最終的に「トライバルデザイン」と「頭蓋骨」の要素を混ぜることで反抗的でクールな感じに仕上がり、神に対抗するダークヒーローのような存在としてのフェンリルを印象づけられたと思います。さらに主人公の制服デザインでは、それまでに作ってきた仲間キャラの衣装の雰囲気や要素をうまく使っていただき、ありがたく思いました。

主人公が着用しているフェンリル制服の設定資料。細部の素材・質感にもこだわりが詰まっている。



――一方、NPCのデザインはどのように作られたのでしょうか?
板倉さん
それこそフェンリルのマークに込めたダークヒーロー的な印象を持たせつつ、現代的で華やかな衣装を着せたいと考えました。その結果、ギャングのような雰囲気とミリタリー要素を足したうえで、各キャラクターの役どころによってそれぞれのキャラクターを個性豊かに膨らませました。

吉村さん
NPCをデザインしていた頃はちょうど開発過渡期で、各キャラクターの制作が独自に進んでいったことにより、今になってみれば魅力の一つでもありますが、とてもバラバラなデザインになってしまいました。アリサはニーハイの上からヒールのあるブーツを履き、かと思えばコウタは普通にスニーカーみたいな靴を履いていたりして、部隊として敵と戦う世界観にしては、統一が取れていないですよね。そこで、リベットやベルトなどのパーツで統一性を持たせました。サクヤも最初は世界観に寄せたグローブ、短パン、ブーツという姿でしたが、キャラクター性を優先し、ヒールを履かせて大人の女性らしさを出すことになりました。一番大変だったのはリンドウですね。全体としてのコンセプトがよかったからこそ、手袋の丈などの細かいところが気になって……。

板倉さん
最初はちゃんと衣装を着こなしているパターンも作りましたが、リンドウのワイルドさや自由さを表現するうえで違和感を感じ、最終的には腕まくりさせたり前を開けっ放しにしたりしましたね。

吉村さん
特徴的なシルエットでしたので、少しでもバランスを崩すと一気にダサくなってしまうんですよ。そういった細かいバランス配分が大変でした。アリサも最初は衣装の前が全開だったのですが、前を閉じるためにネクタイをつけたという経緯があったりします。


――主人公たちが生活するアナグラも印象的な存在ですが、どのようなことをイメージして作られたのでしょうか?
板倉さん
キャラクターが自分自身で巨大な武器を振るうアクションゲームなので、高度に発達した未来のイメージではなく、頑丈さや力強さが感じられる無骨な基地をイメージしました。油とホコリまみれの重機のような印象を与えることで、重厚な雰囲気を出しています。ただ、そこに神と戦うという神秘的な雰囲気も感じさせたかったので、神々しいデザイン性と無骨な工業性が両立できるであろう「アール・デコ」の様式を建物のデザインに取り入れました。

吉村さん
各キャラクターの部屋に関しては、私物を配置して個性を出すようにしています。ソーマは彼の鬱屈した想いを表現するため、銃を部屋の中で撃ったりして荒んでいる雰囲気に、アリサは普段背伸びして頑張っているところの反動を表現したくて、あえて整理整頓できず服がめちゃくちゃ散らかっているようにしました。

板倉さん
リンドウの部屋は、デザインした時点では大人の男性らしくお酒をたくさん置いていましたが、途中から主人公の部屋になるので、最終的にお酒はなくしましたね。

吉村さん
ほかにも、コウタは作中に登場するアニメ「バガラリー」のグッズが飾ってあり、ゴミも散らばっている年相応の少年らしい雰囲気に、サクヤはリンドウというパートナーがいるので、ほかの男性や年下に対する無防備さを表現するため下着が置いてあり、また野菜を配置することで料理が作れて自立した女性の雰囲気にしています。シオは純真無垢な子どもらしく、落書きにまみれた部屋にしました。

コウタが好きな作中アニメ「バガラリー」のイラスト。『GOD EATER BURST』ではプレミアム衣装として、「バガラリー」の主人公・イサムの衣装を着たコウタも登場している。



――続いて『GOD EATER 2』の世界観ですが、赤い雨という新たな災害や、感応種という新たなアラガミが登場しました。こうした新要素はどのように決まっていったのでしょうか?
吉村さん
『GOD EATER』は完結した物語でしたので、RPGであればそこで終わるものでした。しかし本作は繰り返し遊べるハンティングアクションゲームなので決してアラガミはいなくならず、戦う理由も消えません。そんななかで、ユーザーの皆さんが一番気になっていたであろうリンドウのお話を『GOD EATER BURST』で描ききったので、続編の『GOD EATER 2』ではどうしようかと考えたときに、世界を広げようという方向性で新たな要素を考えました。そして『GOD EATER』で世界を救ったようなヒロイックな体験を再び提供するために、新たな脅威として“終末捕喰”をテーマに据え、そこから逆説的に考えてできたのがあの世界観です。それまではアラガミに立ち向かう人類という構図でしたが、一般人とゴッドイーターの対比も描きたいと思ったことで、赤い雨によりダメージを受ける一般人という要素も盛り込みました。

板倉さん
感応種のデザインに関しては紆余曲折ありました。当初はマルドゥークの赤い帯を感応種の共通記号にしようという話もあったのですが、実際にプレイしてみたら、デザインが全然違うのに同じアラガミに見えてしまって混乱するという意見が出てきたので、共通記号を入れずに個性を出す形になりました。

吉村さん
ほかにはフライアも新しい要素ですが、さまざまな新要素を盛り込むにあたり、極東支部を最後の舞台にすることで、ユーザーの皆さんに馴染み深い場所で馴染み深い敵と新たな気持ちで対峙してほしいという想いがありました。そこで、ブラッドが極東に来るための要素として、船をモチーフにしたフライアが誕生したという背景があります。

板倉さん
フライアは一つの支部そのものが移動するならものすごく巨大なものだろうと考え、香港の「九龍城」を参考にデザインしました。最初は列車のようにしようかと思っていましたが、デザインを詰めていくうちに船の形に落ち着きました。

吉村さん
ちなみにフライアの中にある庭園は、ブラッドという部隊の異質さを表す存在として据えています。母親的な存在であるラケル博士がブラッドという子どもたちに作った憩いの場というイメージですが、見方によっては環境が整いすぎていて畏怖を感じるようなものだとも思うんです。そういったところが、ラケル博士のイメージにぴったりだと思い設計しました。ジュリウスと庭園で出会うのも、ブラッドが最前線の精鋭部隊でありながら夢心地のように感じる場所でもあるかのような違和感を抱かせることを狙っています。あとは、フェンリルのシックザール支部長がとても男性的な存在だったので、ラケル博士が女性的な存在となるような対比も意識していました。


――ブラッドは統一された黒い制服を着ていますが、フェンリルの制服とはかなり印象が違いますよね。
小林さん
もともと大人の政治劇を描くというテーマがあったので、未来の世界ではあるもののSF作品のような特殊スーツではなく、貴族文化の名残を表現しようと思いデザインしました。制服のイメージカラーとして決まっていた黒色と金色をベースにし、アナログ感を出して特殊部隊っぽさを狙っていますが、完成するまでにとにかくたくさんラフを描いた覚えがありますね。

当時作成された制服のラフの一部。前作を超える、かつ差別化されたデザインを目指し何パターンも作られた。


吉村さん
「GOD EATER」シリーズはそれぞれテーマカラーがあり、『GOD EATER』は赤色と黒色、『GOD EATER 2』は白色と金色をテーマにしています。そのなかで、ブラッドの制服は作品のテーマカラーと対比性を持たせるため黒色を使って表現してもらいました。ブラッドは家族のような特殊な存在で代わりはいないという、ある種悲哀をまとった統一感を出すための要素として盛り込んでいます。なお、このあとに発売された『GOD EATER 2 RAGE BURST』では武器種ごとに違う制服を着るようになっていて、統一性はあるものの各キャラクターの個性が出ている形にグレードアップしました。

主人公が着用しているブラッド制服の設定資料。



――ブラッドをはじめとする本作の新たなNPCについても教えてください。
小林さん
まずブラッドについて話していくと、ジュリウスはすごく大変でした。“人の道を踏み外してでも仲間を守る”という方向性は決まっていて、そこに完璧超人、美形、強い、人格者、人望が厚いといった要素をつけ足すことで、納得のいくデザインになりました。続いてシエルですが、当初はジュリウスに尽くすキャラクターとして作り上げていました。最終的に主人公に寄り添う流れになりましたが、ラケル博士の秘密兵器的な存在という部分は最初から変わらなかったので、ラケル博士の影響で可愛く着飾っているだろうという想定のもとあの衣装になりました。ギルバートは、抽象的ですが“アイルランドのミュージシャン”を思い描き、彼の持つ鋭さのようなものを体現しました。ちなみに、マグノリア・コンパス出身者は統一感を持たせるため、金色をキーカラーとして取り入れています。ナナはシルエットの末端部分を大きく描写することで、可愛らしく活発に動く様子が伝わるようにしました。ロミオは、無垢ではあるものの真っ白な存在ではないので、帽子を被せることで少し影のある印象にしました。リヴィは大人びた骨格なのに少女っぽい服が似合うというミスマッチ感が特徴で、死神がモチーフになっています。また、本作の鍵を握るラケル博士とレア博士は対極になるよう意識し、ラケル博士は小柄で可愛く、一方のレア博士は大人な女性をイメージしています。特にラケル博士は迷わずデザインできたキャラクターで、滅びゆく世界のさらに先まで見通しているような底知れなさを表現しました。


――そうした世界観を経て、次の『GOD EATER 3』では作中の時間が大きく経過し、開発始動のトレーラーではフェンリルの崩壊が伝えられるなど、ガラッと世界が変わったような印象を受けました。
吉村さん
終末捕喰については『GOD EATER 2 RAGE BURST』で答えが出て、世界は救われました。そのなかで改めてユーザーの皆さんが救いたい、滅びに抗いたいと思える世界とはどんな世界なのかと考えた結果が『GOD EATER 3』の世界です。前作ではアラガミが発生したことで世界が滅んで……という世界の歴史を知らないと理解できない物語でしたが、『GOD EATER 3』は単体でも楽しんでもらえる作品として、なぜこの世界は滅んでしまったのかというストーリーに挑戦しました。

鈴木さん
一度壊れた世界がさらに壊れるというのはどういうことかとゼロから考えた結果、本作では灰域を発生させることにしました。灰域はもともと弱くなっているものを取っかかりに第一段階はオレンジに燃えるように侵食していき、侵食が進むにつれて異型化していく存在で、どんどん世界がおかしくなっていくことを表現しています。序盤に登場する旧市街地は、前作の世界を踏襲しつつ、侵食の第一段階を表したものです。

灰域によって浸食されている旧市街地のイメージアート。


伊藤さん
やっぱりビルがシリーズを通して象徴的なものでしたので、最初はそれをどう壊していくかに論点が集中しました。そして、灰をテーマにすると決めてから、どのように世界が崩れていくのかを考えるなかで、アラガミに対抗するワクチンのようなものを開発していたのではないかという意見が挙がったんです。その方向性で進めるうちに異形化というコンセプトが出てきて、氷や岩などステージに作用するものを取り入れていきました。

鈴木さん
ユーザーの皆さんを飽きさせないように、戦闘の舞台はこまめに変えていくという考えがありましたので、フィールドは可能な限り多くのアイディアを出して、そこから厳選していきました。まずは7つに絞り、最終的に6つに落ち着きました。世界地図を想定し、航路を順番に進んでいくごとに世界が大変な有様になっていくことを表現するため、山岳地帯のような自然から地下プラントといった人工のインフラ施設へフィールドが遷移するようにしています。進むにつれてフィールドが不気味な色味に変化してゆき、最終的にはラストバトルの舞台となる更地に辿り着く、というイメージのもとアイディアを出していました。実は真っ赤な軍事基地のフィールドも途中までは想定していましたね。

コンセプトが決まったあとは、街や山、インフラ設備といったイメージアートが次々に作成された。


伊藤さん
フィールドにはいろいろなこだわりがありますが、限界灰域もそのひとつです。もともと大きなモチーフとして“巨大な卵から生まれた女神のように見える何か”が存在していて、それがさまざまなもの、ひいては光さえも吸収してしまったうえで何かを生み出そうとしている様を描きたいと考えていました。ただ、フィールドに生物的なものを配置するとアラガミの存在が薄れてしまうと思い、最終的には“何かが生まれそうな大きなつぼみ”として表現しました。

鈴木さん
プロジェクト開始当初、灰域が発生した理由としていろいろなアイディアが出たのですが、そのひとつに「ある人物のAIが暴走したのだが、そこに『GOD EATER 3』のとある登場人物が関わっていた」というものがあります。紆余曲折ありそのままの設定ではなくなりましたが、その暴走したAIの思念がナノマシンとして形作られた……というのが限界灰域のコンセプトでした。思い入れがあるといえば、あとは研究施設にもいろいろな設定を盛り込んでいますね。

伊藤さん
もともと研究していた危険性の高い“何か”が流出してしまったが故に、カプセルが光っていたり、根っこが押しつぶしてきたりといった、異形化した状態を表現しています。

鈴木さん
最初は対抗適応型ゴッドイーターであるAGEの研究施設として考えており、それがアラガミにより廃墟と化したうえで、灰域に飲まれたという設定です。カプセルはAGEの何かしらの培養に使われていた残骸をイメージしています。まだこの研究施設は生きているんじゃないか!? と感じられるような表現ができればと考えていました。

伊能さん
そんなに表立って語ってはいませんが、フィールドにはそれぞれキャラクター性を持たせようと考えて設計しています。ライティングのこだわりもそのひとつです。今までの話を踏まえてフィールドをよく見てもらえると、そういった部分にも気がつくかもしれません。


――本作の主人公は、最初にPVで発表されたときの反響もかなり大きかったように思います。こちらはどのように生み出されたのでしょうか?
吉村さん
今までとまったく立場の違うゴッドイーターの象徴として、両腕に手錠のような腕輪をはめているというアイディアがあり、それをベースにデザインを組み上げていきました。また、虐げられている感じを表現するために、継ぎ接ぎなどの要素が生まれました。インナーは『GOD EATER 2』のもの、アウターは『GOD EATER』のものを身にまとうことで、そういうハイブリッドなちぐはぐさを表現しています。

小林さん
主人公は初期のラフスケッチの「1」と「4」が一番はじめのイメージでした。最初は世界観の雰囲気がつかめなかったので、今までの「GOD EATER」シリーズの雰囲気は一旦考えずにラフを描きました。そこから、ボロボロの服しかもらえずツナギをそれぞれアレンジして着ているイメージにしてみたらどうだろうと思い、ラフスケッチの「5」や「6」のデザインになっていきました。主人公をはじめキャラクターたちが黒いテープを使っているのは、当時アスリートがカラフルな「キネシオテープ」を使っているのを見たことからインスピレーションを得ています。キャラクターごとに身体の使い方や筋肉の流れが違うので、それを表すために貼り方も変えています。主人公はNPCより先に完成したので、その後NPCをデザインしていくための基準になりました。ただ、脚を見せないパンツスタイルの女性主人公は「GOD EATER」シリーズ初でしたので、少し心配な部分もありましたね。白髪は、虐げられた環境により、ストレスが一定値を超えて髪が白くなってしまったイメージです。『GOD EATER』で期待の新兵として、衣服も普通に支給されていたようなキャラクターたちが虐げられるとどうなるかということを意識し、『GOD EATER』の無骨なイメージを念頭に置いてデザインを起こしていきました。

『GOD EATER 3』主人公の初期のラフスケッチ。


吉村さん
NPCも『GOD EATER 2』に引き続きとても魅力的なキャラクターに仕上げてくれました。

小林さん
ユウゴは最初、とっても濃い東洋人というオーダーでした。外見はスッキリしつつも、知的かつワイルドで、高貴で誇りを失っていないイメージです。ただ、筋肉がバキバキの東洋人だとリンドウと被ってしまうので、スッキリとしたクールさを意識してデザインしていきました。不自然じゃない範囲で比重が上にいくように首や肩まわりに防具をつけたり、オーバーサイズな服を着せたりして、上が四角く、下は細長いシルエットになるよう形成しています。あと、ユウゴに関しては黒目を塗りつぶした猫目のような表現に挑戦してみたかったというところもあります。3Dモデルでそういった質感を表現することには、開発終盤まで苦戦しました。クレアはフィムの子守をするというほかのキャラクターとは異なる役割に就いているので、それをイメージした服を着せてみたりもしています。頭部のシルエットは、特殊なヘアアレンジではありつつも普通の女の子っぽい可愛さも意識しました。実は初期段階ではうさぎの一種「ロップイヤー」をイメージしていたので、もっともみあげが長いデザインでした。バニーガールっぽさや騎士っぽさは「ロップイヤー」の名残で、銀色と青色を組み合わせて、ロイヤルかつエレガントな雰囲気を出しました。

ユウゴのラフスケッチ。


小林さん
ジークは吉村さんと私のイメージがぴったり一致して、初期に描いたラフのひとつがそのまま採用されました。

吉村さん
ユウゴで苦労した分、ジークのデザインはすんなりと決まりましたよね。

ジークのラフスケッチ。


ジークの設定イラスト。


小林さん
ただ、性格に関しては最初はもっとやんちゃなイメージでしたね。ジークに限った話ではありませんが、あとからキャラクターの性格や設定が変わっても何とかなるように、ある程度キャラクター性は立たせつつも振れ幅を持たせてデザインすることを常に意識しています。また、『GOD EATER 3』では造形が揺れるという表現が可能になったので、マフラーを使ったデザインにもチャレンジしました。雰囲気は『GOD EATER』のシュンに似せつつもあそこまでパンクな印象にはせず、可愛くなりすぎない程度のポップさ、ストリート感を出しました。ルルは脚が隠れているからこその魅力を詰め込んだキャラクターです。甘い雰囲気のクレアとの対比を意識し、ルルは“アサシン”や“アジア人”というキーワードのもとクールに仕上げました。コントラストをつけるという意味では、身長を含めたボディバランスとして縦長のイメージも意識しています。また、ルルはフェンシングのベストから着想した部分があり、ユウゴはアメフトのフレーム、ジークはスニーカーの靴紐編みといったように、『GOD EATER 3』のNPCはスポーツからインスピレーションを得たデザインも多いです。当初はミナト「バラン」がどのような場所かわからなかったので、サイバー感を出したりアジア民族っぽくしたり試行錯誤し、最終的にはスポーティなイメージになりました。腕のパーツもスポーツウェアから着想していて、世界観やキャラクター性に沿うように調整しながら取り入れました。キースは努力家で利発な感じではありつつも、世渡り上手で人に甘えたり動かしたりするのが上手そうなイメージでデザインしています。もともと戦闘に加わるNPCの予定ではなかったので、一緒に出撃できることになり嬉しかったです。特徴的な髪型もこだわった要素のひとつです。ニールは当時キースと並行してデザインしていましたが、兄弟であるキースとジークと差別化するため、印象深いミディアムヘアの髪型にしました。内面は前作までの登場キャラクターであるソーマに似た印象を意識し、アウターのシルエットやフードを常に被っているなどの要素を入れました。

吉村さん
ちなみにニールたち三兄弟は身長や髪色、目の色が同じという共通項があります。

小林さん
エイミーはゆるふわ系の可愛さを少し取り入れたキャラクターで、首から上のデザインは初期から固まっていました。民間のオペレーターというところが本作ならではの特徴なので、軍事的な制服ではなく小綺麗な私服を着せています。色の数やパーツデザインのベースはかなりシンプルなので、その分質感にはこだわりました。腰から下のディテールにはいろいろと要素を盛り込んだのですが、ミッションカウンターで隠れて見えなくなってしまったのは残念です! イルダは水引やしめ縄、紙垂など祈祷にまつわるモチーフを多く取り入れています。それらのモチーフは、大きなものを背負っている一方で脆く弱い一面もあり、人類の脅威であるアラガミに立ち向かうには神頼みも致し方ない、という部分を表現するためのものです。さらに、左手の小指には願いを叶えてくれるという意味合いを持つ「ピンキーリング」をモチーフにした指輪もつけています。衣装に関しては大きな組織のトップなのでパンツスーツかなと思ってはいたものの、『GOD EATER 2』のサツキと被らないようにする必要があり、うしろをスカートのようにふんわりとしたシルエットにすることで差別化できました。また、当初はストーリーにおける役割が明確ではなかったので、優しさや強さのさじ加減を吉村さんとすり合わせて、落とし込んでいきました。

イルダのラフスケッチ。


板倉さん
本作ではAGEとそれ以外のゴッドイーターという違いをベースにした、ミナトごとのキャラクターの違いが印象的ですよね。たとえば、リカルド、アイン、ガドリンは過去のデザインを踏襲しており、一方でヴェルナーはAGEであるもののAGEという存在を憂い、独自の組織「朱の女王」を作って率いているリーダーなので、制服で軍隊感を出しています。フィムはシオに続くヒト型アラガミに挑戦してほしいというオーダーがあり、“可愛らしい娘のような存在”というキーワードから広げていきました。


――ストーリー序盤で主人公たちが生活していた牢獄や灰域内を航行するクリサンセマムもまた印象的でしたが、どういった経緯、コンセプトで作られたのでしょうか?
鈴木さん
AGEはそもそも待遇が悪いという設定ですが、一般的な牢獄だとわざわざ用意されたものという感じもあり、AGEが過ごす場所はそんなものじゃないだろうというところがはじまりです。壊れても仕方のない建物であり、壁をぶち抜いて柵を立てただけの「お前たちにはこれでちょうどいいだろう」みたいなメッセージのある牢獄にしたいと思い作りました。

不潔で湿気のある場所を想定したという、主人公とユウゴが過ごしたペニーウォートの牢獄のイメージアート。


ペニーウォートの地上部分の設定資料。灰域の汚染対策のために建物は地下に建設され、地上にはわずかな設備と喰灰除けの堤防が配置されている。


鈴木さん
灰域踏破船クリサンセマムについては、本来は大人数で運用する船のため、あれだけ席があります。エイミークラスが最低でも2人は必要かと思います。どこでどういう生活をさせるか、構造デザインも開発中期に決まりました。シナリオの序破急は見えていたので、ストーリーの規模感に収まるであろうと想定して少し余裕を持ったスペースを用意しました。ゲームでプレイしている場所は、実は本来の外観でいくととても小さいスペース。灰域踏破船の真ん中のちょっと下くらいが、あの生活スペース。ある程度そんなに広くない場所(ミナト)でも移動できる船と考えた時、フライアほど大きくはできませんでした。感応レーダーは当初もっとリッチな表現でしたが、イベントシーンで映ると処理負荷がかかってしまうので、表現を調整しました。

板倉さん
構造については、外観と内観で整合性を持たせるため、ちゃんと外観の中にブリッジを収めています。また常に過ごす場所ではあるものの、フライアのように整った内装だと世界観に合わないと思ったので、部屋の配線や機械をむき出しにすることで、あくまでも急ごしらえで作ったものであり、装飾にこだわっている余裕すらないという世界の状況を表現しています。

クリサンセマムの外観のデザインイメージ。


クリサンセマムのブリッジのデザインラフ。


クリサンセマムの男性乗組員室と女性乗組員室のデザイン。


クリサンセマム内部の背景資料の一部。部屋ごとの特徴がわかりやすく設計されている。


鈴木さん
ユーザーの皆さんのなかには、ブリッジの環境音が大きすぎると感じた方もいると思います。ただ、よくよく考えてみるとむき出しの機械がすぐそばにあるので、むしろ音が大きい状態が正常なんです。そうしたリアリティも楽しんでもらえると嬉しいですね。

伊能さん
灰域踏破船に関しては、メカなのにどうしても中に入ると部屋感が出てしまうといった悩みもありました。なので、暗い空間に浮かぶ赤色など、色を使うことで空間を分けて表現するというところにもこだわりました。


――本作はタイトル画面にも大きなインパクトがあります。
伊藤さん
ゲーム内のどこかの場所を使って作ろうという話になり、いろいろと試すなかで、フェンリルが破壊されているという状況に立ち向かう象徴として、更地と巨大な大穴と主人公という要素に決まりました。

『GOD EATER 3』のタイトル画面。ゲーム内の主人公のビジュアルがそのまま反映されるため、プレイヤーは自分だけの物語をそこに感じることができる。


鈴木さん
キャラクターの顔を見せると感情が伝わってしまうため、当初からあえて背を向かせようと考えていました。ただ、「GOD EATER」シリーズは主人公が明確なキャラクター性を持っているので、しっかりと存在感が出るように大きく見せる必要もありました。となると情報量はいらないので、最終決戦はあの場所でやると決まっていましたし、とにかくレイアウトにこだわって作った結果があの画面です。タイトル画面ってゲームの顔だと思いますので、見れば『GOD EATER 3』だとすぐにわかる象徴的な画になっていれば幸いです。
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