ゴッドイーター オフィシャルウェブ

CONTENTS

第4回 キャラクターに命が吹き込まれるとき

『GOD EATER 2』のキャラクターボイスで検討された資料(一部抜粋)


渥美 航
株式会社バンダイナムコスタジオ所属。
第一作「GOD EATER」の立ち上げからシリーズに携わる。
最新作「GOD EATER 3」ではディレクターの他、シナリオも一部担当。

依田 優一
株式会社バンダイナムコスタジオ所属。
第一作「GOD EATER」から参加し、以降は主にアクションディレクターとしてシリーズに携わる。
「GOD EATER 2 RAGE BURST」「GOD EATER OFFSHOT」ではディレクターを担当。



――今回は『「GOD EATER」シリーズの主人公のキャラクターボイス』をテーマにお話を伺っていきたいと思います。まずは、プレイヤーが複数の種類のなかから好みの声を選択できる主人公のボイスですが、あのボイスパターンはどのように決めているのでしょうか?
渥美さん
『GOD EATER BURST』までと『GOD EATER 2』以降では決め方が若干異なるのですが、基本的にはタイトルごとにベースとなる主人公像というものがあり、ボイスパターンが1~20番まであるとしたら1番にそのキャラクターを据えていました。そのうえで、都度、今回の世界観にはどんな主人公がいたら嬉しいだろうと考え、”熱血””クール”など様々な属性を列挙していくというところからスタートしています。

依田さん
『GOD EATER BURST』のときは少し特殊で、『GOD EATER』(無印)から新たに追加された11〜20番のボイスを自分が担当したのですが、そのときは事前に属性を決めず、セリフを書き進めながら並行して属性を決めていました。

渥美さん
やはり『GOD EATER』と時代が地続きの『GOD EATER BURST』と時間が少し飛んでいる『GOD EATER 2』とでは、作り方を変えている部分もいろいろありますね。実は、ボイスパターンの属性を決めていく過程で、一つ前のナンバリングにあった属性は基本的に使わず、20パターン分すべて一新するようにしていました。シリーズとして続いていますが、各タイトルの主人公は別のキャラクターですし、置かれている状況も違いますから。かといって、”クール”や”熱血”といった所謂鉄板の属性を無くすのも違うと考え、『GOD EATER 2』以降は各ボイスパターンの性格に「主属性」「副属性」という考え方を導入し、同じ”クール”なキャラクターの中で差別化を図りました。また、基本的に数人の開発メンバーで分担してボイスパターンを制作しているので、メンバーが属性を理解しやすいように、そのキャラクターが言いそうなサンプルセリフを作ったり、そのキャラクターの仲間や仕事に対するスタンスを表にまとめたりしていました。そうして副属性も決めていったことで、仲間には優しいけどアラガミに対しては容赦ないといった、個性的な主人公ボイスが生まれていったと思います。

依田さん
ボイスごとの一人称や語尾なども属性を詰めていく際に決めていて、20種類あるボイスに印象のばらつきが出るようにバランスを取っています。

――各ボイスを務める声優はどのようにキャスティングされているのでしょうか?
渥美さん
『GOD EATER BURST』までは、基本的に声優事務所の青二プロダクションさんにざっくりとした要件のみお伝えいて、キャスティングについては一任させていただいていました。『GOD EATER 2』以降は基本的にこちらから一人ひとり指名させていただきましたが、京言葉キャラなど、一部の特殊なケースでは特徴に合った演技ができる方を選んでいただいています。『GOD EATER 3』はすべてのキャスティングがこちらからの指名でしたが、改めてそうそうたる顔ぶれになったなぁと実感しています(笑)。

依田さん
キャスティングに関しては、テキストの制作がはじまった段階でまだ決まっていないことも多く、収録を進行しながら並行して決めていったこともありましたね。


――ボイス収録時のエピソードについて教えてください。
渥美さん
「GOD EATER」シリーズの主人公ってイベントシーンで喋ることがあるんですけど…ああいったシーンは、実は最初に収録させていただいた方の演技でカットの尺が決まっています。つまり、残りの39人の方は最初の方の演技尺に合わせて演技していただくことになるんです。ここで難しいのが、ある人は「僕は〜〜だ」というセリフで済むところを、ボイスパターンによっては「わたくしは〜〜ですわよ」と言わなければならず、文字数の異なるセリフを同じ尺の中で演じなければいけないということです。この尺合わせの問題は、収録現場でいつも苦労するポイントなのですが、特に叫び声は感情があふれるシーンが多いので長さを合わせていただくのは本当に大変だったのではないかと…。

依田さん
どうしてもリテイクが多くなるので、1テイク録る度にエンジニアさんの方をちらっと見て、「今のはどうですか…?」と恐る恐る確認していました。「語尾の部分をあと少しコンマ単位で短くしてください」なんて言われることもよくありますね。主人公のボイスパターンの収録時にはまだガイドとなる画がないので、キャストの皆さんも雰囲気が掴めず難しいと思います。

渥美さん
そういえば、収録では台本に関するトラブルもありましたね。『GOD EATER BURST』のエリックの収録現場でのことですが、セリフが文字数制限を超えて枠からはみ出ていたことに気づいておらず、印刷された台本に何て書いてあるかわからないというちょっとした事件がありました(笑)。結局見えない部分のセリフをその場で作り上げることになり、急遽用意したセリフがいくつかゲーム内で使われることになりました。


――普段はセリフをどのように作られているのでしょうか?
渥美さん
最初にボイスパターン用の属性を決めるとき、そこにサンプルとなるキャラクター性の情報も一緒にまとめていると言いましたが、実は私の場合はあまりそれを参考にせず、まったく新しいNPCを作る気持ちでセリフを書いています。

依田さん
『GOD EATER BURST』の女性主人公の11番に「お嬢様」キャラクターがいるのですが、お嬢様ということは「爺や」という存在に繋がるけどいいのかな、ととても悩んだ覚えがあります。ボイスはユーザーの皆さんが「こういうキャラにしよう」と思って選ぶものですが、ユーザーの皆さんが想像していないバックボーンが存在していいのかという点で、非常に葛藤しながら書きました。このキャラクターは料理が上手いとか下手とか、本当はゲームをプレイしている一人ひとりが考えるところではあるものの、そういった設定を詰めていかないとキャラクター性が乏しくなり、意外性のあるキャラクターが生まれなくなってしまうんですよ。

依田さん
あと、特殊な条件のシーンでのみ変化するセリフには特に気を遣いました。たとえば『GOD EATER 2』のジュリウス戦のセリフがそうで、ジュリウスと戦っているわけだから「殺す」など攻撃性の強い言葉は絶対言わないですよね。ほかにも「ぶち抜け!」みたいな言葉遣いのキャラクターが、このイベントバトルでは「止まれー!」って言ってたりします。そんな風にけっこう細かくシチュエーションやNPCとの関係性を意識する必要がありました。

渥美さん
そのキャラクターがその状況下でどんな反応をするか、という部分にはかなりこだわっています。『GOD EATER 2』にめちゃくちゃマイナス思考なキャラクターがいるんですが、常日頃からネガティブなことを想像している人って、実際に悪いことがおきた時の驚きや怯えが少ないんじゃないかなと思いまして、他のキャラならギョッとするような場面でも、このキャラに関しては「あー、やっぱり…」と半ば諦めたような反応にしていました。……」と発するセリフがあります。

依田さん
そういった個々の反応を検討しなければいけないことも多く、またそもそも主人公のボイスは用意しなければいけないボイスの数が圧倒的に多いので、とにかく大変ですね。京言葉のキャラクターなんて、自分には手に負えなかったと思います。

渥美さん
まったく知識がなかったので、あのときはイチから京言葉を勉強しました。

依田さん
主人公ではありませんが、方言でいうと『GOD EATER 2』のウララもそうでしたよね。以前監修する機会があったんですけど、セリフがよくわからなくて、方言は難しいなぁと感じました。ウララのセリフは渥美さんにしか書けないと思います。

渥美さん
ウララの場合、方言の成分を濃くしすぎるとオペレーターとして機能しなくなってしまうので、訛りも残しつつなるべく字面が標準語に近い形になるようにし、ふとした場面で方言っぽい言葉が出て可愛く聞こえるというバランスを意識していました。東北まわりの方言というと一般的には濁点のついたセリフがイメージされることが多いかと思いますが、ウララはなるべく濁点要素を入れないようにしています(笑)。

『GOD EATER 3』のキャラクターボイスで検討された資料(一部抜粋)


――特に思い入れのあるボイスパターンはありますか?
依田さん
一番に思いつくのは『GOD EATER 2』の女性主人公の19番です。「高圧的戦闘狂」という設定名のボイスパターンなのですが、女性としてはかなり荒っぽい口調で、こんなセリフ喋らせて本当に大丈夫かな……なんて思いながら書いていました。ただ、思った以上にバイオレンスなセリフを書くのはストレス解消になるようで(笑)、ト書きに「目をひん剥いて突進していると思ってください」と書いてあったり、最終的にはなかなか振り切った演技を要求している台本になっていましたね。『GOD EATER RESURRECTION』女性主人公の「ギャル」は深夜特有のテンションで“ギャル”を降霊してセリフを書いたのですが、出来上がった台本を見たほかの開発スタッフに笑われました。今ではいい思い出です。

渥美さん
『GOD EATER』だと男性主人公の5番の「熱血」は、熱い演技がPV映えして、自分でも使っていて気持ちよくてとても印象に残っています。被弾ボイスなどはかなり「やられ感」も強いのですが、ほとばしる情熱が絶えず伝わってくるので戦闘シーンが映えるんですよ。『GOD EATER 2』だと、女性主人公の9番の「効率重視」は思っていたよりユーザーの皆さんの反応がよくて驚きました。ちょっと内向的な喋り方からは効率重視で物事を処理するような雰囲気を感じないので、こんな設定名だとは思われてなかったんじゃないですかね。結果として、セリフと喋り方のバランスが取れていたのかもしれません。

依田さん
『GOD EATER 2』の男性主人公だと20番の「プラス思考」は思い入れが強いです。当時はプラス思考ってなんだろうと思いながら書いていましたが、でき上がったセリフを見返すと、何が起きてもポジティブに捉える妙な個性のキャラクターができていました。アラガミが乱入してきたときに「逆に運がいい!」って言ったりとか(笑)。あと、男性主人公の5番の「やる気なし」は、普段は「やれやれ……」みたいな雰囲気だけどやるときはやるというキャラクターですが、『GOD EATER BURST』に登場する男性主人公の15番の系譜という立ち位置だったので、筆の進みがとても良かったことを覚えています。ああいった「男子だったらちょっとなってみたい」キャラクターはセリフがスラスラ出ますね(笑)

渥美さん
あとは『GOD EATER 3』だと、まずは男性主人公の1番の「正統派」に触れないわけにはいかないですね。『GOD EATER 3』で主人公が置かれた厳しい状況を鑑みると、「人々のためにアラガミを討伐するんだ」といった正義感に溢れるスタンスではなく、生き抜くために目の前の仕事を乗り切るというスタンスを軸にしました。そんなハードな世界を生き抜いてきたからちょっとやそっとのことでは動じない、でも共に生き抜いてきた仲間だけは譲れない……といった具合に、歴代の「GOD EATER」シリーズのなかでもひときわ世界観を象徴しているボイスパターンになったと思います。他には、男性13番はギャップがあっておもしろいキャラクターになったかなと思います。実は「分析インテリメガネ」というなかなか酷い(笑)設定名でして、口調も融通が利かなそうな雰囲気を醸し出していますが、実は内側に熱いものを秘めていて、仲間との可能性をどこまでも信じるインテリという、ちょっと新しいタイプを狙って作りました。女性主人公では、作るのが楽しく反響も大きかった17番の「真面目系アホ」が印象深いですね。口調は真面目なのにどこか抜けているというキャラクターを作ってみたくてボイスパターンとして採用しましたが、キャストの方がとてもノリノリで演じていただき、かなり突き抜けたキャラクターになりました。
CONTENTS TOP