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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第九章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~9章-9話~
「アラガミの減少率が……」
「停滞している……?」
 クロエからの報告を聞き、レイラとリュウが揃って険しい表情を見せる。
 彼らの視線を受け、司令室のモニター前に立ったクロエが重々しく頷いた。
「そうだ。ネブカドネザル討伐以降、ずっとアラガミは減ってきたが……ここにきて減らなくなった」
「増えている訳ではないのですよね? であれば、一時的なものでは?」
 レイラはそう口にして、期待するようにクロエの表情を窺う。
「もともとヒマラヤ支部周辺には、ほとんどアラガミが出現していなかった。つまり減少率の停滞は、そのままアラガミの増加と言い換えられる。……違うか?」
「それは……」
 クロエは抑揚をつけずに淡々と返した。それを聞いたレイラは唇を噛む。
 努めて楽観的であろうとした、レイラの気持ちもよく分かる。
 アラガミ増加の原因を考えた時、まず真っ先に思い浮かぶのは……
 恐らくこの場にいる全員が、ヤツのことを考えているはずだ。
「……いずれにせよ、何か原因があるのは間違いない。それを明らかにして潰さなくては」
「リュウの言う通りだ。早速、調査を開始する」
 クロエははっきりとした声で、俺たちに指示を下す。
「ただし、住民に動揺を与えないよう注意すること。頼むぞ」
「……了解です」
 クロエが言葉を付け加えると、ようやくレイラも頷いた。
 このことが明るみに出れば、人々に不安が募り支部の治安に影響を与えかねない。
 そうなる前に原因を突き止め、解決しなければならない。
「……調査任務、開始します!」



「ここがアラガミの数が一番増えたエリアか……」
 現場に到着したところで、リュウは辺りを見渡しながら呟いた。
 吹きすさぶ砂の大地には点々と岩山が散在している。
 視界はそこまで悪くないが、不意打ちを警戒するなら、山の陰には注意が必要そうだ。
「隊長補佐は、アラガミが減らなくなった原因はなんだと思います?」
 考えながら歩いていると、リュウが俺に声をかけてきた。
「まだ分からないが……あれが関与している可能性は高いな」
「……やっぱり。普通はそう考えますよね」
 俺の答えを聞いて、リュウが表情を硬くする。
「ネブカドネザルを倒してアラガミが減ったなら、減らなくなったのも同じ理由であるはず、か……」
 そう……真っ先に思いつくのはやはりネブカドネザルのことだ。
 俺はヤツ以外に、アラガミの分布図まで塗り替えられるような力を持ったアラガミを知らない。
 ヤツが再び現れたのだとすれば、ヒマラヤ支部は再び窮地に追いやられたことになる。
「それが妥当です。しかし、違う理由も考えておくべきでしょうね」
 そう口にしたのはリマリアだった。
「違う理由?」
「ええ。ないとは限りませんから」
 オウム返しに尋ねたリュウに向け、リマリアは頷いた。
 澄ました表情をしているが、その瞳は僅かに憂いの色を帯びている。
「他の理由ですか。それって、例えばどんな……」
「――リマリア。念のため、ネブカドネザルの探知を頼めるか?」
 俺はリュウの言葉をあえて遮り、リマリアに訊ねた。
「すでに開始しています。討伐任務も、いつでも始められますが」
「……とにかくまずは、目の前の敵をってことですね」
「ああ」
 リュウに応えつつ、神機を構える。
 余計な思考は身体の動きを鈍らせる。
 多くを考える必要はない。敵が何者で、どこにいるのか。それだけを知っていればいい。
「討伐開始だ。始めよう――!」



 全てのアラガミを討伐した後――
 俺たちはその場にとどまり、しばらく探索を続けていた。
「ネブカドネザルの存在は感知できませんでした」
 やがてリマリアが静かに報告すると、リュウは大きなため息をついた。
「またかくれんぼをすることになるのか……」
 落胆するのを隠しもせずに、リュウが漏らす。
 実際、ネブカドネザルと対峙した者ならば、誰もが同じ気持ちになるだろう。
 元凶を叩かない限り、どれだけアラガミを討伐しようと意味がない。このままでは、俺たちはいつまでも終わらないイタチごっこを演じることになる。
(……あの光景がヤツの過去なら、ネブカドネザルがそう何体も現れるとは思えないんだがな)
 ヤツにトドメを刺した瞬間に、俺が見たもの――
 抽象的で朧げな記憶ではあったが……かといって無視できるような内容でもない。
 この神機は何なのか。ネブカドネザルとは何なのか……
『今はそれ以上考えるな。……いずれ答えを教えてやる』
 俺の報告を聞いた後、ゴドーは唇の端を歪めてそう答えた。彼が里帰りを決行したのは、それからすぐのことだ。
 それから今日まで、あまり多くのことを考えずにいたが……状況は変わった。
 仲間に危険が及ぶ可能性を考えれば、これ以上静観してもいられないが……
『お疲れ様です! 報告があるので、至急支部へ戻ってください!』
 そこでカリーナのはきはきした声が耳元に響き、重苦しい空気が吹き飛んでいく。
「了解」
 リュウは手短に答えつつ、アラガミ素材の収集を終えて立ち上がった。



 ヒマラヤ支部に戻った俺たちは、そのまま真っ直ぐに作戦司令室を目指していた。
「カリーナが言っていた報告というのは、なんなのでしょうか……?」
「さあな」
 リマリアに答えつつ、歩みを進める。
 このタイミングだ。考えられることはいくつもある。
 あまり悪い報告でなければ助かるのだが……
 そう考えながら作戦司令室の扉を開くと、そこにはすでに先客がいた。
 すらりとした長身に、ロングヘアとサングラス。涼しげに佇む男の姿を、見間違えるはずがない。
「元気にしてたか?」
「ゴドー隊長……!」
 思わず驚き、声を漏らした俺たちに、ゴドーは軽く片手をあげて応えた。
「土産は後でな。まずは留守中、ご苦労だった」
 飄々と言うゴドーに対し、リュウは何と答えるべきか迷っている様子だった。
 その隙にリマリアが淡々と言って、頭を下げる。
「お帰りなさいませ、隊長」
「ああ。リマリアも元気そうで何よりだ」
 ゴドーがリマリアに親しげに答えたところで、やり取りを眺めていたクロエが口を開く。
「ゴドー君には明日から隊長業務に復帰してもらう。今日は休みでいいぞ」
「ありがたい。何しろ、のんびりバカンスという感じでもなかったんでな」
 言いながら、ゴドーは懐から分厚い書類の束を取り出し、クロエの前に並べた。
「とりあえず、一番いい土産を支部長殿にお渡ししよう。『サテライト拠点』の実地調査と建設計画書だ」
 それを見たクロエが、すっと目を細める。
「ほう? シンガポール支部にもサテライト拠点が?」
「中国支部に寄ってきた。サテライト拠点といえば、元祖の極東か乱立している中国だからな」
 ……予想はついていたが、おとなしくバカンスに興じるような男でもないか。
 ゴドーの言葉を聞きながら、クロエは書類を手に取り、流れるようにページをめくっていく。
 そうして全てを理解したとでも言わんばかりに笑みを浮かべて、ゴドーに目を戻す。
「非常に助かる。サテライト拠点に関しては、公式の資料が少なくてな」
「元はといえば、はぐれ技術者が始めたことだ。そうだろうと思ったさ」
 二人は和やかに笑い合い、軽く握手を交わしてみせる。
 ……なんとも不気味な絵面に思えるのは、俺の心が汚れているからだろうか。
 そうしてクロエとゴドーが途切れたところで、会話を見守っていたリマリアが口を開く。
「アラガミの減少率が停滞していることは、もう聞きましたか?」
「そうなのか? ふむ……」
 ゴドーは軽く眉を吊り上げ、そのまま、静かに考え込むような姿勢を取る。
 それを見たリマリアが、首を捻りつつゴドーに尋ねた。
「驚かないのですね?」
「ん、まあ……そうだな」
 彼女の言葉に、ゴドーは曖昧に言葉を返す。
 そのやり取りに、リュウや俺も違和感を覚えていた。
 もともと落ち着いた男だが、それにしても反応が薄すぎる。ヒマラヤ支部周辺の状況に、興味がない訳でもないだろうが……
 しかし、そんなゴドーの態度以上に気になったのは、クロエのことだ。
 ゴドーの曖昧な反応を見ても、クロエがそれを気にした様子はない。ただ微動だにせず、ゴドーをじっと見つめているだけだ。
 そんなクロエに気づいたゴドーが、一瞬、クロエのほうを見る。
 そうして二人は、僅かな時間黙り込んだまま、じっと互いを見つめていた。
 長く感じた沈黙の後、ふいに二人は視線を逸らした。
「さて……と。それじゃあ俺は、今日のところはこれで失礼する」
「ああ、分かった」
 そうしてゴドーが部屋を出ていくのを、クロエは視線も向けずに見送った。その興味は既に、彼が持ってきた計画書のほうにあるようだ。
 だが……それで先ほどまでの、きな臭い雰囲気が完全に消せる訳でもない。
(今のは……?)
 クロエとゴドーは、明らかにお互い何かを感じ取っていた。
 二人が犬猿の仲なのは周知のことだが、先ほどのやりとりはそんな生易しいものではない。
 気配を消して潜んだ獣の、ひりつく敵意と緊張感とでも言うべきか。
 それは間違いなく……戦場の臭いだ。



 神機の整備をしていると、見覚えのある人影がこっちに近づいてくるのが見えた。
 オレは手を止め、汗を拭ってから作業手袋を外す。
「おうゴドー、旅は楽しかったか?」
「ああ、最高だったさ」
 ハイタッチするように片手をあげるが、ヤッコさんはノッてこない。
 ゴドーはオレの隣を素通りして、そのまま我が物顔で椅子に腰掛ける。
 変わりはないようで安心した。オレはヤツの前に腰かけ、そのまま大きく身を乗り出す。
「つまり、いい土産を期待していいってことだな?」
「いいぞ」
「っしゃあ!」
 ゴドーはこう見えて、必要なことはケチらない男だ。
 自分には不要と思っても、他人が求めるものなら別。それが長い付き合いともなれば尚更。必要な相手であればもう間違いない。
 さて、無駄を嫌う男は、どんなものをくれるのか……レアな神機とは言わねえが、よっぽど面白いものに違いない。
 期待に胸を膨らませていると、ゴドーはそれらしいものを持つでもなく、オレに軽く手招きした。
「早速だが、耳を貸せ」
「おっ?」
 ずいぶんと勿体ぶってくれるじゃねぇか。
 オレは考えつつ、ヤツの傍まで耳を向ける。
 するとゴドーは乱暴に腕をオレの首に回し、身体をグッと引き寄せてきた。
 その強引な行動を、非難する間もなく、ヤツは鋭い口調で耳打ちしてきた。
(……ロシアを調査しろ。急ぎでな)
(……はぁっ!?)
 突拍子もない指示にギョッとする。
 その言葉が何を意味するのか、考えられることは一つだ。
(マジかよ……)
(ああ、マジだ)
 思わず呟く俺に、ゴドーは小さく頷いた。
 まったく……この男はどんだけでかい土産を持ってきたんだ?
 そういうのは、貰う相手の事情も汲んで欲しいもんだが……
(ロシア……ロシアねぇ……)
 あの支部長様のお膝元か。そこを調べるってのがどういうことか、分かんねぇってシラを切んのは無理がある。
(全力で頼む)
 答えに詰まってると、ゴドーはサングラスをずらし、真剣な表情をオレに見せた。
 その鋭い眼光の奥からは、澱みのない強い意志を感じる。
 そいつを目の当たりにしたオレは、大きく息を吐き出した。
(……任せな)
 オレの返事に、ゴドーは満足げにゆっくりと頷くと、そのままニヤリと笑みを浮かべた。
「気に入っただろう?」
「ああ。嬉しくて震えが止まらねぇな」
 素知らぬ顔で言ってのけるゴドーに、皮肉を返す。
 そのままささやかな抵抗として、あてつけるように深く大きくため息を吐いた。
 クロエとは何度か話したことがあるが、ありゃあ敵に回していいタイプじゃねぇ。
 けどまあ、どっちの味方でいたいかって言やぁ、決まってる。
「ったく……悪趣味な土産があったもんだぜ……」


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