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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第九章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~9章-5話~
「やはり、みなさんも感じていましたか」
 住民たち一人一人の顔を見渡しながら、レイラが言う。
「壁の外を見たわけじゃないが、アラガミが減ってきたことは分かるよ」
「あんたたちゴッドイーターの出撃の様子を見ればな。前ほど張り詰めた空気はないし、回数も減ってるはずだ」
「……よく見ていますね。その通りです」
 彼らからの鋭い指摘に、リュウが軽く肩をすくめつつ笑って返した。
 実際、もうじき出撃という頃合いだが、リュウもレイラも急ぐことなく、住民たちとの立ち話に花を咲かせている。
 少し前までなら考えられなかったことだ。
 もちろん、今もリュウは壁の点検は続けているし、レイラも巡回討伐を続けているが……いずれも前ほど時間がかかることはなくなったようだ。
 それ以外の時間についても、たとえばリュウなら隊員たちへの指示や、ドロシーやJJとの交渉、相談に勤しんでいたように思うが、今はそうした姿もほとんど見られない。同じようにレイラも、クロエとの訓練の時間が減ったようだ。
 ……これはクロエが忙しくなったからであり、レイラは一人でも鍛錬を行っているようではあるが。
 ともかく、あらゆる意味で支部の状況は改善され、次のステップへと進みつつあった。
「ここはどんどん安全になっていくんだよな?」
「支部長さんはここを世界一の楽園にするって言ってたが、期待してもいいのか?」
 そうして住民たちから尋ねられると、レイラはきっぱりと頷いて見せる。
「信じるか信じないかはみなさん次第です。わたくしは信じていますが」
「うおおお!」
「マジかよ!」
 レイラの言葉を聞き、住民たちの表情が明るくなる。
 それを見たリュウは、やれやれと笑って仕方なさそうに手を叩く。
「僕たちゴッドイーターの力だけでは絶対に実現しませんよ。みなさんも全員、力の限り、理想を目指す、それが最低条件です」
「最低条件か……」
「それはそれで厳しいな……」
 リュウに釘を刺されると、住民たちの一部が渋い顔をする。
 レイラの言葉にすぐさま呼応する者たち、リュウの言葉を重く受け止める者たち。
 どうやら外部居住区の人々のなかでは、ゴッドイーターの人気が大きく二分されているようだ。
 とはいえリュウとレイラ……どちらに信頼を重く置いていようと、向いているのは同じ方向だ。
「誰かがやってくれれば楽でしょうけど、自分の力で実現するからいいのではありませんか?」
「レイラの言う通りです。みなさん、体力作りはしているんですよね?」
「おうよ!」
「体力なら自信はあるぜ!」
 二人の言葉を聞き、威勢のいい青年たちが鍛え上げた腕っぷしを振りかざす。
 そんな彼らの姿を見ながら、リュウとレイラも笑みをこぼす。
「結構なことです」
「そのパワーがあれば、世界一の支部も夢ではありません。これから先が楽しみですよ!」
「おおーっ!!」
 ひと昔前、彼らが強く反発していたことが嘘のようだ。
 いまやリュウとレイラは住民たちと、完全に目標を共有する仲間になっていた。



 支部を離れ、アラガミ討伐に向かっている最中、ふとリマリアが口を開く。
「あの、先ほどの外部居住区でのことなのですが、よかったです」
「よかった?」
「はい。みなさん、あんなに盛り上がって……」
 安心するように笑みをこぼすリマリアを見て、リュウが驚く。
「そういうの、分かるようになったんですね」
「感じるようになりました」
 リュウの言葉に頷きながら、リマリアは自分の胸に手を当てる。
「以前は心拍数などから不安を察知したりするだけでしたが、今は声の調子や表情、姿勢などからも、伝わってくるものがあります。……熱気、とでもいうのでしょうか」
「いいものね、あれは」
 リマリアの言葉を聞いて思い出したのか、レイラが目を細めながらしみじみと言う。
「姫様らしくないぞ」
 それを見たリュウが笑って茶化すと、レイラはすぐさま目を吊り上げた。
「目が死んでる民を率いたいなんて誰が思いますか? 強いリーダーと強い民、それが理想です」
「なるほど……強い民か。確かに、彼らは強くなったかもしれないな」
「そうね。わたくしたちも負けてはいられません!」
「……もとより負ける気なんてさらさらないさ!」
 張り合うように言った二人を見て、俺は眩しさを覚える。
「あなたたちも、そう思うでしょう?」
 そこで二人から目を向けられて、俺はリマリアと顔を見合わせる。
 ……そうだな。俺も他人事じゃない。彼らが成長し、そしてまだまだ上を目指していくように。
「ああ。当然だ」
「私も負けないように……!」
 大切なものを守るためには、まだまだ強くなっていく必要がある。



 すべてのアラガミを討伐し終えたところで、レイラが手をはたきつつ息を吐いた。
「片付いたわ。ま、この三人が揃ったのですから、楽勝なのも当然ですけど」
 そう口にするレイラの足元には、すでに動かなくなったアラガミ……ヴァジュラとクロムガウェインの姿がある。
「勝って当たり前、と思うようになるのもよくないけどな」
 リュウはアラガミ素材を漁りながら、慎重に言う。
「住民のみなさんに、またいい報告ができそうです」
「ああ……」
 リマリアの言葉にリュウは顔を上げ、わずかに表情を緩ませる。
 それを見たレイラが、くすりと笑った。
「アラガミ素材を手に入れて喜んでいた頃とは別人のような顔だわ」
「自分でもそう思っているさ。今はあの頃よりも、喜びの数が増えた……そういうことだ」
 バツが悪そうにしながらも、リュウは素直に首肯する。
 ……本当に変わったものだ。リュウも、レイラも。
 このメンバーで大型種を相手取っていることもそうだし、住民たちや支部周辺の状況も、何もかもが大きく変わった。
「……」
 そんななか――その期間でもっとも変化したかもしれない彼女が、浮かない表情をしていることに気がついた。
「……リマリアは、どんな時が嬉しいんだ?」
「え? 嬉しい時ですか?」
 リマリアは戸惑っていたが、レイラたちからも視線を向けられると、考え込むような仕草をする。
「そうですね。メンテをしていただいた時や、戦闘結果がよかった時、あとは……」
「美味しいものを食べたときはどう?」
「えー……それは、はい……」
 レイラの言葉に、リマリアは普段は見せないような困り顔を見せた。
 それがかえって、周囲の興味を煽った様子だ。
「何が好物なんです?」
「好物……い、言わなくてはダメですか?」
「それくらいはいいでしょう」
 二人に促されると、リマリアは俺のほうを向く。
 止めてあげたほうがいいのかもしれないが……俺も彼女の好物には興味があった。
 俺が止めに入ろうとしないのを見て取ると、リマリアは覚悟を決めた様子で、俯きがちに口を開く。
「……ウロヴォロス」
「ウロヴォロス……?」
 思わず繰り返すと、リマリアはその白い肌を赤く染めながら、こくりと頷く。
「相変わらずウロヴォロスがいいの?」
「ずいぶん照れてるみたいですが、別に恥ずかしがるようなことではないのでは?」
「いいえ、やはり、これは……少し……大きいですし……」
 天災級とも呼ばれるウロヴォロスが、『少し大きい』なのか。
 内心でそう考えていると、リマリアが泣きそうな目を俺に向けた。……俺の考えは、なんとなく分かってしまうんだったか。
「クベーラやネブカドネザルよりも美味しいの?」
「はい……美味です」
 リマリアは素直に白状しつつ、恨むような、不貞腐れるような視線をレイラに向けた。
「あの……これ、言わなければいけないことですか? 」
「……そんなに言いにくいことかしら?」
「はい」
「なぜだろう? 価値観の違いか?」
「レイラが好きな食べ物はヒキガエルと大ミミズです、と言わなければならないとしたら、どうでしょうか?」
 問いただすような口調でリマリアが言うと、レイラは思い切り顔をしかめた。
「それは言いづらいわね……」
「ウロヴォロスってそういう位置づけなのか……。見た目は確かにグロテスクだけど」
 リュウの言葉を受けて、リマリアがびくりと肩を震わせた。
 しかしここまで白状しては、これ以上隠すこともないのだろう。
「でも好きなの?」
「はい……すごく、好みです……」
 リマリアはほんのり頬を赤らめ、上品に言う。ウロヴォロスの話だと思わなければ、なかなか絵になる姿だった。
 それを見たリュウとレイラの表情も自然とほころぶが……リマリアの恨むような表情に気づくと、すぐに視線を外した。
『お話に割り込んですみませんが、そろそろ迎えのヘリが到着します』
「了解です」
「降下地点に移動しましょう」
 ちょうどカリーナからの通信が入ったのを幸いと、二人はテキパキと移動を開始した。
 ……普段はいがみ合っているのに、こういう時の足並みはやけに揃うな。
「……」
 その場に残った俺は、リマリアに何か言おうかと考える。
 皆、悪気があったわけではないが、興味本位でいろいろと詮索しすぎたかもしれない。
 気にしているようなら、謝ったほうがいいかと考えるが……
「…………」
 リマリアのほうを見てみると、彼女は怒るでもなく悲しむでもなく、ぼんやりとその場に立ち尽くしていた。
「リマリア?」
「いえ、なんでもありません」
 俺が深く尋ねる前に、リマリアは首を左右に振り、レイラたちの後を追いかけていく。
 先ほどのやりとりを、気にしている様子でもなさそうだが……
「アラガミが減っていけば、安全になり、みなさんが喜ぶ……。クロエ支部長の計画も進み、ヒマラヤ支部は……」
 彼女の背中を追いかけていると、風に乗って、わずかに呟く声が聞こえた。
「……いい方向へ進む、ですよね」
 その呟きは、俺に聞かせるためのものではなかったのだろう。
 内容が気にならなかったと言えば嘘になる。
 しかしそれ以上追及することはできなかった。
 ……その時のリマリアは、今まで見たことないような憂いを含んだ表情をしていたからだ。



 作戦行動を終えた後、俺とリマリアは支部長室を訪れていた。
「リマリアです」
「これが……JJは本当に可視化したのだな」
 並大抵のことでは動じないクロエも、彼女のことは驚いたらしい。
 しげしげとリマリアを観察するクロエの隣で、ゴドーが僅かに肩をすくめた。
「何度も支部を救ってくれた恩人です」
「そうだな。クベーラ戦もネブカドネザル戦も、君抜きでは勝ち目が薄かった」
「いえ、私は少しのお手伝いをしただけです」
 リマリアは即座に首を左右に振ったが、クロエはほとんど相手にしない。
「謙虚な性格もマリア譲りか?」
「間違いなく」
「恐縮です……」
 マリアの話題に、リマリアは何とも言えない、複雑な表情を浮かべた。
 そんな仕草をじっくり見てから、クロエは視線をゴドーに移した。
「しかし……面白いことになったなゴドー君?」
「そのようで」
 ゴドーは表情一つ変えず、クロエの言葉に首肯を返した。
(面白い……?)
 それはリマリアが見えるようになったことか。それとも、感情を得たことだろうか。
 いずれにせよ、これらの変化は思考や探知の能力のように、戦闘で役立つようなものでもない。
 ドロシーやJJが面白がるならよく分かるが……クロエとゴドーの発言としては妙だ。
 二人が何を考えているのか、俺には到底分かりようもないが……
「…………」
「あの……?」
 不安そうに辺りを見渡すリマリアを見て、俺は肩の力を抜いた。
「リマリアの紹介は以上になります。……失礼しても?」
「ああ。外してくれ」
 クロエから承諾を得て、俺は支部長室を後にする。
 そうして部屋を出てから、扉の前に立ってゆっくりと息を吐いた。
「えっと……どうかしたんですか?」
「……いや」
 俺は答えつつ、リマリアを見た。
 邪気のないまっすぐな目で、心配そうに俺を見ている。
 ネブカドネザルという脅威がなくなった後、それに対抗し、打ち破ったほどの力がどう見られるか……好意的な意見ばかりのはずもない。
 それに……
「……」
 俺は思考を止めて、歩きはじめた。
 いずれにせよ、やるべきことはそう多くない。

 この先、どんなことになろうとも、俺は俺の仲間を守る。それだけだ。


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