ゴッドイーター オフィシャルウェブ

CONTENTS

「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第九章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~9章-4話~
 対策はすぐに開始された。
 感情を手に入れたリマリアを正しい方向に導いていくため、広場に有志が集められる。
「では、リマリアの情操教育をはじめまーす!」
 カリーナの音頭が広場に響き渡る。どうやら彼女は、司会進行を務めるつもりらしい。
「感情を育てるのですよね」
「個性や価値観を作るってことでもあるらしいな」
 レイラとドロシーが口々に言い合い、隣でリマリアがお辞儀する。
「よろしくお願いします」
 なんとなく、冗談じみた状況だが、皆一様に大真面目だ。
 ……それほど皆、俺が彼女の教育をしていくことを不安に思っているのだろうか。
 なんとなく乗り切れないが、この空気の中では指摘もしづらい。
「……それで、まずは何を?」
「自分で考え、感じる力をつけることからです!」
 尋ねると、カリーナは胸を張って答えてみせた。
「考える、は前からあれこれやってるよな?」
「はい。くだらないことや、正解のないことを考えるなどは、今もしています」
 ドロシーとリマリアのやり取りを聞いて、カリーナは顎に手をやり考え込む。
 結論はすぐに出た。
「では、感じる力のほうをメインでやりましょう! というわけで……」
 カリーナはびしっとリマリアを指差し、宣言する。
「ものまねをしてください!」
「それは先日あなたたちがやったでしょ!」
 思わずツッコミを入れるレイラに対し、カリーナは不敵な笑みを浮かべる。
「甘いですよレイラ」
「え?」
「ものまね、それは他人を演じることです。すなわち自分ではない何かを表現するということ……そうすることで、より自分というものが見えてくるんです」
(なるほど……)
 意外と説得力のある説明に、一瞬納得しかけるが……
「という感じで、自分はこうじゃない、本当はこうなんだ、と意識するのがいいの……かも」
「いかにも最近勉強しました、って感じの解説をありがとう」
「あ……!」
 そう言ってドロシーはカリーナの後ろに回り込むと、彼女が持っている本を奪い取る。
 なるほど……あの本の受け売りだったわけか。
「で、ものまねなんだが……できるかいリマリア?」
 カリーナの恨みの視線を飄々と受け流しつつ、ドロシーが流し目を送る。
 リマリアは悩むように、周りを見渡していたが……
「ネブカドネザルの能力をコピーしたくらいですから、楽勝なのでは?」
 リマリアはそう口にしたレイラに目を向けると、何か思いついたような様子を見せる。
 それから唐突に表情をきつく引き締め、髪をかき上げて背を向けた。
「そう、あなたとは話す理由がない……それだけです」
「ちょっと!? いきなりやらないでよ!!」
「ひと昔前のレイラね! 似てる似てる!」
「意外な持ちネタ……。いや、感情の起伏に乏しいからやりやすかったのか」
 レイラは一人、顔を赤くしているが、カリーナたちは大盛り上がりだ。
「必要なことですから」
「もういいわよそれは! もっと難しいやつを、JJとかをやりなさいよ!」
「ハードル高ッ!?」
 よほど自分を真似されて嫌だったのか、レイラが強引に流れを変える。
「JJさんを……?」
「おっちゃんはいくらなんでも……」
 リマリアとJJとでは、性別も年齢も何もかもが違う。リマリアも流石に困惑していたが……
「神機ってのはな、イキモノなんだよ」
 必死に眉間に皺を寄せつつ、リマリアが呟く。
 声色も、できる限り低くしているようだ。
「意外と実感のこもってるやつが来た……」
「だが、似るわけないよな……」
 何とも言えない反応を見せるカリーナとドロシーを尻目に、レイラが大きく息をつく。
「これ、本当に情操教育になるのですか?」
「おっちゃんやらせたのは姫様だろ!!」
 いがみ合う二人を眺めつつ、リマリアがどこか呑気に口を開く。
「あ、でも分かります。レイラもJJさんも、私らしくないということが」
「そうそう、消去法で的を絞りこんでいくの! そしたらそのうち、自分が見えてくるはずよ!」
 カリーナがここぞとばかりにこの会の正当性を推す。
 リマリアもその気になったようだ。
「……やってみます」
「じゃ、あたしのマネは?」
 意気込むリマリアにドロシーがリクエストする。
 するとリマリアは、ふっと表情を緩めてニヤリと笑う。
「またおいで」
「あっ、いい……」
 これは……なかなかの悪人顔だ。
 ドロシーに似ているかと言われれば何とも言えないが……少なくとも本人は気に入ったようだ。
 再びものまねをせがむドロシーの横で、カリーナが真剣な表情で呟く。
「姉御適正はありそうね……」
「それがこの会の成果なわけ……?」
 これからもリマリアの情操教育は続く。



『アラガミが減ってきたとはいえ、まだまだ油断できませんよ! 討伐任務、開始してください!』
 カリーナからの通信が入る。
 俺が返事をするより先に、横に佇むリマリアは飄々とした表情でそれに答えた。
「さっさと片付けて、帰るか」
『リマっ……ゴドーさん!?』
 ……どうやらものまね大会はまだ継続中のようだ。
 なんとなく気の抜ける状況だが、リマリアも真剣に自分を模索している訳だし、無碍にはできない。
 と、そこでリマリアが俺を見ているのに気がついた。
 ……まさか、俺にコメントを求めているのか?
 思わぬ不意打ちに戸惑いながら、俺はこの場をどう切り抜けるか素早く思考を巡らせる。
 そっくりと言えば嘘になるし、本当のことを言えば傷つけるかもしれない。
 ならばこの場で、俺にやれることは限られている。
「……隊長、指示を!」
 俺は彼女のものまねに乗っかり、ゴドーに言うように指示を仰いだ。
「指示までは無理です。おかしな戦いになってしまいます」
「そうか……」
 すぐに真顔になったリマリアに指摘され、俺は少し物悲しい気持ちになる。
『聞いてみたい気もしますけど、遊びじゃないので』
「はい、ちゃんと戦います!」
 カリーナの言葉に、リマリアはすぐさま気合を入れなおす。
 次第にアラガミの群れがこちらに向かってきた。
 ……慣れないことはするべきではない。
 俺は行き場のない悲しみをぶつけるように、アラガミの元へ走っていった。



『アラガミの反応、すべて消えました! お疲れ様!』
「じゃ、帰るぞ」
『はやっ!? 言うと思ったけど!!』
 リマリアのものまねに対し、カリーナが素早く反応した。
「……カリーナさんもさすがですね。毎回毎回」
『オペレーターは反応の良さも大事ですから』
 俺の言葉に、カリーナは得意げな様子で答える。
『アラガミの数は順調に減っているみたいですし、この調子で行きたいですね』
 彼女の言葉に、俺とリマリアは互いに深く頷いた。



 支部の受付前まで戻ってきたところで、ドロシーが茶化すように手を振ってきた。
 隣にはカリーナ、レイラの姿もある。
「お帰り、ゴドー隊長!」
 カリーナから話を聞いたのだろう。愛嬌を振りまくドロシーに、リマリアは苦笑いを返す。
「いえ、ゴドー隊長は違和感がすごかったので……」
「リマリアとは性格が全然違いますからねえ」
「あと、ものまねをやってみて分かったことがあります」
 フォローを入れるカリーナに会釈してから、リマリアは真面目な表情で言う。
「私は人間と違い、疲労や痛み、苦しみなどを感じることができません。そのため、負の感情が生じにくく、理解することも難しいのです」
「あー、それはそうだな」
 リマリアの冷静な自己分析に、ドロシーが感心しながら頷いた。
 確かに、負の感情の発生と肉体の有無には深い結びつきがありそうだ。ストレスというのは基本、外界との軋轢によって発生するものだろう。
「このことから考えると、私は人間と比べて感情の起伏が小さいのではないのでしょうか」
「気持ちが落ち着いている、ということかしら?」
 カリーナが人差し指を頬に当てながら尋ねると、リマリアはしっかり頷いて見せる。
「そうなのではないかと。感情がないとか、薄いとかいうわけではないと思うのですが」
 リマリアの話を聞いたドロシーは、なるほどねぇと頷いてから、唐突に俺のほうを向いた。
「感情がないとか薄いとかで言えば、むしろそっちの隊長補佐のほうだよね」
 なかなかひどい言われようだが、否定する材料も見つからない。
「……そんなことないと思いますが」
「そうよ。ドロシーは戦ってる時の八神さんを知らないから」
「ん? じゃあ、戦闘中は喋りまくったりしてるってこと?」
「それは違うけど……だーとかおーとか、けっこう叫んだり?」
「……へぇ~?」
 リマリアが大真面目に何度も頷く隣で、ドロシーがニヤニヤしながらこちらを見てくる。
 カリーナたちはフォローのつもりで言ってくれたのだろうが……
 たまに叫ぶ人と思われるくらいなら、感情がないと思われていたほうがマシだった。
「話を戻すけど、そうやって一つ一つ知っていくのも、成長なんだろうな」
「そうですね。皆さんと自分を見比べながら、少しずつ私というものを理解していければなと」
「うんうん、その調子で頑張りな! もちろん、あたしもちゃんと手伝うけどさ!」
「わたくしも手伝います。第一部隊の先輩として、後輩の世話をするのは当然ですから」
 そこで、そこまで黙って話を聞いていたレイラが、腕を解きながら口にした。
 リマリアは一度会釈すると、二人それぞれに向けて微笑んでみせる。
「ありがとうございます、ドロシー、レイラ」
「あ、今の表情いいじゃないですか!」
「ん?」
 カリーナが明るく指摘すると、リマリアはなんのことか分からなかったらしく、頭に疑問符を浮かべている。
「自然に出た笑顔って感じで、リマリアらしかったと思います!」
「そうなのですか?」
 そう言いながらリマリアは、自分の頬に手を当てて確認していく。
「え、自分で自分の顔は分かんないのか?」
「はい……私の容姿は認識できているのですが、私が肉体を動かしているわけではありませんので」
「えっと……リマリアの姿は隊長補佐が認識しているものだから、リマリアが表情や動きを制御しているわけではないってことなの?」
 カリーナの問いにリマリアが頷く。
「なるほどねぇ。顔の筋肉があってそれを動かしてるとかじゃないもんな」
「もう一度、同じ表情はできるの?」
 レイラの言葉を受け、リマリアはもう一度表情を変えてみようと試みる。
 自然とその場にいる全員が、彼女の顔に注目した。
「えーと……こう、でしょうか?」
 そう言ってリマリアは、渾身の表情を俺たちに見せるが……
「変わっていませんね」
「……」
「では、こう……?」
「……全然変わらんな」
 周りが言う通り、変化はほとんどないに等しい。彼女の声色から察するに、何かしらの努力があったことは窺えるのだが……
「そんな! 再現できません! 何故でしょうか!?」
 そこでリマリアは、縋りつくように俺を見る。
 彼女としては、なんとか皆の期待に応えたいのだろうが――
「いや……まあ、気分の問題じゃないか?」
「それだな、たぶん。感情をいつでもどこでも再現できるなんて、うさんくさいからな」
 俺の言葉にドロシーが同調する。
 リマリアは先ほど、嬉しかったから笑えたのだ。同じ気持ちにならなければ、それを再現できるはずもない。
「難しいのですね……。ですが、やりがいがあります」
 俺たちの反応を見たリマリアは、しかし気落ちせず、前向きに言った。
 そんなリマリアを見て、思わず周りの表情がほころぶ。
「娘か妹を見守る気分ですね、ふふっ!」


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
CONTENTS TOP