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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第九章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~9章-3話~
 ヒマラヤ支部中が宴会で賑わった日から、数日が経った。
 あの日支部中で巻き起こった乱痴気騒ぎは凄まじいものがあり、このままヒマラヤ支部が崩壊するのではと思えたほどだ。
 特に、普段頼りになる大人たちの豹変ぶりは凄まじいものがあり、俺は自身が未成年であることに心の底から感謝を覚えたのだった。
 ……リュウやレイラと並んでいて、俺だけがやたらと成人に間違えられたのは気になったが。
 とにかく、そんな騒動で支部の内部はかつてないほどに荒れ果てたのだが、数日経てば見る影もない。
 今も俺の目の前では、あの騒動の主犯の一人、JJが真剣な表情で機械いじりに勤しんでいるが……本当に、あの日の彼と同一人物なのか?
 そうして彼に疑いの目を向けていると、彼はふいに、握りしめていたスパナを机に叩きつけた。
「よおし、セット完了だ! 起動してみてくれ!」
「……分かりました」
 俺は頷くと、JJの説明に従って、神機のコアに接続された新たなデバイスを起動する。
 デバイスから駆動音がし、続けて甲高い機械音が鳴り響く。
 その音が収まったところで、JJがニヤリと笑った。
「それでいい。じゃあ呼ぶぞ……リマリア?」
「はい」
 俺の隣に立ったリマリアが、一つ返事をして頷いた。
 俺にとっては普段通りの光景だったが……
 JJの手伝いをしていたリュウは、目を見開いて大声をあげる。
「出た!」
「成功だ!」
 前のめりに叫ぶJJに対し、リュウはまるで幽霊でも見たかのように仰け反っている。
 その反応こそ対照的だったが……これはもう、間違いないのではないだろうか。
「見えて、いるのですか?」
 リマリアは自らの胸に手を当てながら、おずおずと尋ねる。
 それに対し、JJは親指を立ててぐっと彼女に見せつけた。
「おう! 瞳の色までばっちり見えているぞ!」
「声も聞こえますよ。……本当に声はマリアさんそっくりだ」
 リュウも検分するように、下から上までじっくりと彼女のことを確認している。
 もともと彼女の存在には懐疑的だった彼だが、こうなっては認めざるを得ないだろう。
 JJは本当に、リマリアを可視化するデバイスを完成させてみせた。それにより、リマリアはようやく俺以外の仲間たちとコミュニケーションを取ることが可能になったのだ。
 俺は神機に装着されているデバイスに目を向ける。
(すごいな……どういう仕組みなんだ?)
 そうしてしげしげとデバイスを眺めていると、JJがそれに手を触れた。
「リマリアの姿と声は、お前さんの目や耳で捉えているわけじゃあない。つまり直接アタマで認識している何か、ってことになるだろ?」
 JJは悪戯を成功させた子供のように、楽しげに語る。
「となると、偏食場パルスによる感応現象が作用していると考えられる」
「……感応現象ってのは、接触者同士の記憶や、思考が伝達される現象ですよね? 第二世代型神機使い以降の、適合力が高いゴッドイーター同士の接触で発生しやすいという……」
 JJの複雑な講釈を聞いて、すぐにリュウが反応した。
「でもリマリアさんのような前例はないですが……」
 そのままリュウは、懐疑的な視線をJJに向ける。
「ま、感応現象ってのはまだ未知の部分も多いもんだからな。いろいろあるんだろうよ」
「その未知なものをどう細工してリマリアさんを見えるようにしたのか、謎なんですけど」
「そらまあ、見たいから見えるようにした! ってだけのことよ」
 むんっ、とJJは大きく胸を張って見せる。
「簡単に言ってくれますけど、そんなイージーなものではないでしょう!」
 苛立ち、詰め寄るリュウに対し、JJは笑いながら答えてみせる。
「めんどくせえ部分はあるが理屈は簡単よ。目は光を感じ取り、耳は音を感じ取るよな? つまり偏食場パルスを感じ取る器官が、偏食場パルスを感じとるわけだ」
「……そうなりますね」
「だろ? だったら神機使いが感じるものを、同じように受け取れる疑似器官があれば……あとはそれを解析して再現する装置を組めば、ご覧の通りってわけよ!」
 そう言ってJJが指を向けた先には、どう反応したらいいのか困っている様子のリマリアがいる。
「大体分かりますけど、分からないな……」
 もどかしそうにリュウが言う。
 とにかく、JJはとんでもないことをやってのけたようだが……知識がないため、俺にはなかなかピンと来ない。
「……そんなにすごいことなのか?」
 小声でリュウに訊ねると、彼は頷き、耳打ちして来る。
「おそらくですが、JJさんは普通のエンジニアでは知り得ない技術や理論を手に入れているのでしょう。なんでも彼は昔、非合法な人体実験で……」
「リュウ、その辺にしておけよ?」
 JJは不気味な笑みを浮かべながら、彼の背中にもたれかかる。
 それに対し、リュウも挑発的な笑顔で答える。
「分かっていますよ。僕はまだ、そちら側へ行く気はありませんので」
 ほんの数瞬、二人は視線を交わしていたが、すぐにJJが気を吐いた。
「まあ、こまけえことはいいじゃねえか! 出るもんは出たんだからよォ!」
「ありがとうございます」
 リマリアが律儀にお辞儀すると、それを見たJJは慌てて両手を横に振った。
「いやいや、大したこっちゃあねえよ。むしろこっちが出てきてくれてありがとうだ」
「でも、不思議ですね。その姿って、どういう仕組みでそうなっているんです?」
 リュウの関心はそのままリマリアに移ったようだ。彼女の服装や装飾を見ながら、リュウは興味深げに呟く。JJもすぐに乗っかった。
「確か、マリアとお前さんの好みが混ざって出来ているんだったか? ドロシーがそう言っていたはずだ」
「背格好はマリアさんの面影がありますが、それ以外は別人ですよね」
「…………」
 二人に悪気はないのだろうが、そうしてリマリアを観察されると、なんとなく居心地が悪い。
 そんな俺の表情をどう捉えたのか、リマリアが真剣な表情で口を開く。
「私はマリアではありません。この神機を司るもの、リマリアです」
「そうだとしか言いようがないんだよな。研究が進めば、何か分かるかも知れないが……」
 と、そこまで口にしたところで、JJが慌ててリマリアに向き直る。
「おおっと! オレはリマリアを研究対象とは見ていないぜ? お前さんは仲間だ! ……そう思っているよ」
「仲間……」
 リマリアが何か反応しかけたところで、リュウが彼女とJJの間に割って入った。
 身体を固くするリマリアの顔を遠慮なく見つめつつ、リュウは低い声で唸る。
「こうやって実際に見て、聞いてしまうと、もう実在しないんじゃないかなんて疑う余地がない……」
 項垂れながらそう呟いたリュウは、俺に一度、申し訳なさげに視線を寄越した。
 別に気にしていた訳ではない。俺は首を大きく横に振り、そのまま彼に笑みを向けた。
 そこでリマリアが、俺をじっと見つめているのに気がつく。

「わー!! リマリア! リマリアなのね!」
「おおう、本当にドセクシーじゃないか! 眼福だねえ!」
 と、そこで整備場の扉が開き、カリーナとドロシーが猛ダッシュで近寄ってきた。
 そのままリマリアを囲って、彼女を細かく観察していく。
「すごい勢いで来たな……」
「ああ……」
 男性陣が呆気にとられるなか、リマリアが恐る恐るといった声色で、二人に訊ねる。
「カリーナさんも、ドロシーさんも、私が見えますか?」
「見えるー!」
「聞こえてもいるよ! 声はホントにマリアと同じだな」
 カリーナたちが心底嬉しそうに言うと、リマリアも安心したように表情を緩める。
「改めまして、リマリアです。よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げるリマリアに、二人は満面の笑みで答える。
「礼儀正しい! こちらこそよろしくお願いしますね!」
 二人は姿が見えるようになる前から、ずっとリマリアを気にかけてくれていた。文通していた友人と、初めて顔を合わせたような気分なのだろう。
「これって、ずっと出ていられるのかい?」
「ずっとではありません。今の力であれば、長時間でも大丈夫ですが、休みは必要です」
 ドロシーの問いかけに、リマリアは首を横に振る。
 いかにJJの大発明と言えど、制限があるのは仕方ないだろう。
「無理はするなよ? 肝心な時にへばって神機が使えないんじゃ困るからな」
「お気遣いありがとうございます。ですが絶好調なのでご心配なく」
 リマリアの言葉に嘘はなさそうだ。それを聞いたJJも満足そうに頷いた。
 そんなやり取りをにこにこ見守っていたカリーナが、そこで思い出したように声を上げる。
「おーっとと、そういえばそろそろ出撃の時間でしたね! いけますか、リマリア!」
「はい! いつでも!」
 勢いのあるカリーナの言葉に、リマリアも同じ調子で返す。
 そこでリュウが、思いついたように疑問を口にする。
「リマリアさんの扱いはどうなるんです? 第一部隊の所属メンバーということになるのかな」
「当然じゃないですか! ずっと一緒に戦ってきた仲間なんですから!」
 即答したのはカリーナだ。
 彼女に隊の人員配置を決める権限はないと思うが……それをここで言うのは野暮か。
「私が、仲間……?」
 驚きながら呟いたのは、リマリアだけだ。
 カリーナの言葉は、その場にいた全員の総意と言えるだろう。
「そうだよ。女子会やった仲だしな!」
「オレはいつでも神機は生き物だって言い続けてきたぞ?」
「皆さん……」
 リマリアは眩しそうに、全員の顔を見渡していき、最後に俺のほうを見た。
 俺の考えを知りたがっているように見えるが……心外だな。答えは初めから決まっている。
「これからよろしく、新人さん」
 最低限の言葉で答えると、俺は出撃のために入口へ向かう。
「……はい! よろしくお願いします、隊長補佐!」
 力強い声が辺りに響き、追いかけて来たリマリアが俺の隣に並んで歩き出す。
 新たな隊員との出撃に向け、仲間たちの足取りは軽かった。



「あっ、戻ってきましたね!」
 戦闘を終え、広場まで戻ってきたところでカリーナとドロシーが俺たちを出迎える。
 どうやらまた、リマリアと話をしに来たようだが……その隣には、レイラの姿もある
 彼女は心なしか、そわそわしているように見えるが……
「リマリアはどこです?」
「ここにいます、レイラ」
「うっ……!」
 答えると同時、リマリアが宙から姿を現すと、レイラはびくりと体を震わせた。
「大丈夫だって、レイラ。リマリアは幽れ……」
「わ、分かってるわよ!」
 ドロシーの口を強引に塞ぎつつ、レイラは改めてリマリアに目を向ける。
 やはり初めての対面となると、レイラも緊張があるのだろうか。
 軽く咳払いしてから、リマリアを見つめる。
「……本当にマリアの声そのままなのね。久しぶりに聴きましたけど、間違いありません」
 リマリアが神妙に頷くと、レイラは遠慮のない、まっすぐな視線をリマリアに向ける。
「あなたには何度も助けてもらいました。改めて礼を言わせてください。ありがとう、リマリア」
 そのままレイラは、しっかりとリマリアに向けて頭を下げた。
 それに慌てたのがリマリアだ。
「そんな……私もレイラから大切なことを教えてもらいました。感謝しています」
「大切なこと? 何かありましたっけ?」
 レイラが首を傾げると、リマリアは大きく頷いた。
「マリアの形見の指輪を捕喰した時、これは無意味ではないかと私が疑問を投げかけたことを覚えていますか?」
「……それが?」
「その時、レイラが『意味があるかどうかは心が決めるのよ』と、教えてくれました」
 そこまで口にして、今度はリマリアがレイラを見つめる。
「ええ……覚えていますけど、それが大切なこと?」
「はい。なぜかその言葉を聞いて以来、ずっと何度も思い出すのです」
 ピンと来ていない様子のレイラに、リマリアは強く念を押す。
「心とはどういうものなのか、今も分かりません。……分からないので、ずっと考えています」
「おっ、それって思考のトレーニングだな?」
 そこでドロシーが、思い出したように口を挟んだ。
 リマリアはゆっくりと頷く。
「はい。答えがないのでずっと考えていられます。それが私にはとても大切なことで……」
 リマリアは目を閉じながら、真剣な声色で語っていく。
 そこで、難しい顔で話を聞いていたレイラが、確かめるように言葉を連ねた。
「あなたは答えが出ることを望んでいないの?」
「え? いえ、そんなことは……」
「では、あなたは何のためにそんなことをしているの? それで本当に、答えを出すための努力をしていると言えるのかしら」
「それは……」
「……あえて人、と言いますけど、あなたってどんな人なの?」
「え……?」
「心がどういうものか考えていると言っていたけど……そもそもあなたにはまだ自分、というものがないのでは?」
 核心を突くような一言に、その場の空気が硬化する。
「ちょっと、レイラ……もう少し言い方を考えてあげたほうが……」
「いえ……レイラの言う通りなのだと思います」
 カリーナの言葉を遮ったのは、他でもないリマリア自身だった。
 彼女は俯くでもなく、あっさりとした声色でその事実を受け入れる。
「心がどういうのなのか分からないのは、私が自分を持っていないからなのでしょうか?」
「……」
 リマリアが尋ね返すと、レイラはそのまま黙り込む。どうやら頭の中で考えをまとめているようだ。
 その隣に立ったドロシーが、軽い調子でリマリアに伝える。
「リマリアって、こういう感じじゃないのか?」
「こういう……?」
 リマリアは視線を向ける先で、ドロシーが姿勢を正し、俺に指を突きつけてため息を吐いた。
「もう、めんどくさがってちゃんとやらないんだから……」
 ドロシーはそう言ってしなを作り、笑みを浮かべて俺を覗き込んでくる。
 ……なんだろう。よく分からないが、妙に腹が立つ。
「それマリアのマネ!? へったくそな……」
 我慢ならない様子でカリーナが割って入り、ようやく俺も趣旨を理解したが……本当にマリアの真似だったのか?
「じゃなくて、リマリアのイメージはこうでしょ」
 続いてえへん、と喉の調子を整えてから、今度はカリーナがものまねを開始する。
「ニュースをお伝えします。昨夜未明、外部居住区のドロレスさん宅に強盗が押し入り……」
「淡々と喋る報道関係者かよ!! 見た目に引っ張られすぎだろ!!」
「あの……」
 息の合った漫才をはじめる二人を前に、リマリアは困惑した様子を見せる。
 そこで、それまで黙っていたレイラが呆れた様子でリマリアに言う。
「無視していいのですよ。あなたはあなた、他人のイメージに左右される必要などありません」
「レイラ……」
「先ほどの話ですが……心とはどういうものなのかは、わたくしも知りません。ですが、自分は自分です」
「自分は自分……私は私……?」
「ええ。リマリアが考え、感じて、どうしたいと思うか? あなたという存在を証明するものは、それだけです。……でしょう?」
「ああ、レイラの言う通りだ」
 レイラの言葉に頷くと、リマリアもつられるように、頷いた。
「さすが姫様、いいこと言うわねえ」
 ドロシーがぱちぱちと手を叩くと、レイラは当然という表情で髪をかき上げた。
「今は分からないことも多く、戸惑うかもしれません。でも、これから自分と向き合っていけばいいだけです」
 レイラの言葉に、カリーナたちも続けて頷く。
「ネブカドネザルを捕喰してから、まだ日も浅いですからね。これからゆっくり、自分探しをしていきましょう」
「情操教育は大事だぞ。早いうちにちゃんとやっておかないと、やんちゃに育つからな!」
「やんちゃ……?」
「リマリアに限ってそんなことはあり得ないでしょう」
 ドロシーの言葉にリマリアが首を傾げると、カリーナは笑いながらそれを否定するが……
「……いや、ないですよね!?」
 カリーナは少し考え込んでから、なぜか俺のほうに視線を向けた。
 それからリマリア、レイラ、ドロシーまでもが俺を見る。
「あ、あるんでしょうか……?」
「……たしかに、八神さんが教師にふさわしいかと言われると……」
「優等生に見えて、実は無茶の常習犯だよねぇ……」
「それじゃ、やっぱりリマリアはやんちゃに……」
「そんなことは、ない……と思う」
 否定の言葉は、自然と尻すぼみになっていった。
 リマリアのため、俺も自分と向き合い、生き方を見直す必要があるのかもしれない。


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