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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第九章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~9章-11話~
 一時に比べ、また第一部隊全員が揃って任務に当たることが増えてきた。
 名目は、アラガミの減少が止まったことに関する原因の調査だが、ようは単発的な討伐任務だ。
 リュウが担当する壁の補強や素材集め、レイラの巡回討伐の任務がなくなった訳ではないが、それでも以前ほどの激務ではなくなっている。
 もともと、優秀な能力を持つレイラやリュウを別々に起用することは、リスクのある采配だった。
 どれだけ優れたゴッドイーターでも、死ぬときは一瞬だ。
 そしてアラガミに立ち向かえる人間の数は有限……というより、常に足りてないと言ってもいい。
 だからこそ、神機使いは隊行動を基本として任務に当たっている訳だが……
 これまでのヒマラヤ支部は、それをする余裕すらないほどに追い込まれていたという訳だ。
 とはいえ、今も状況が好転しているとは言い難く……
 レイラに至っては、以前にも増して疲弊しているように見えた。
「……大丈夫ですか、レイラ?」
 集合場所の広場に到着するなり、俯いているレイラの姿が目に入った。
 リマリアが心配そうに声をかけると、レイラは鈍い動きで頭を持ち上げる。
 その表情を見て、俺は少しばかり意表を突かれた。
 ……てっきり、暗い表情をしているのかと思いきや、むしろ逆だ。レイラの瞳は激しい怒りを湛え、ギラギラと輝いていた。
「リマリア、このスケジュール表を見てください。どう思いますか?」
 不機嫌そうに言って、レイラは手に持っていたスケジュール表を開き、俺たちのほうへと向けた。
 見てみれば、そこには日付ごとにびっしりと文字が書き込まれている。
「埋っていますね……美しいほどに」 
「そうなのよ! 巡回討伐のスケジュールが少し緩くなったぶん、訓練が盛られたの!」
 リマリアが慎重に答えると、レイラは叫ぶようにして同意した。
「ということは、スケジュールを組んだのは……」
「クロエ支部長よ! あの人、どうしてもわたくしをギリギリまで追い込みたいらしいわ!」
 よほど腹に据えかねているのか、レイラはスケジュール帳を床に叩きつけながら言う。
「ヒマラヤ支部のナンバーワンを目指しているんだろう? なら当然じゃないか」
「そうですけど!」
 なだめているとも、煽っているとも取れるリュウの口ぶりに、レイラはさらに勢いを増す。
 そんななかでリマリアが、頬に指をあてつつ冷静に言った。
「もし再びアラガミが減少していけば、レイラの能力を伸ばす環境が失われてしまう可能性もあるからでは?」
「……!」
 リマリアの言葉に、レイラはハッとした様子を見せると、そのまま口元に手を添え考え込む。
「確かに、小型種ばかりの頃に戻ったら、実戦と訓練のバランスが悪くなってしまいますが……」
「なるほどね。支部長としては今のうちに、レイラに可能な限りの経験を積ませたいわけだ」
「そう……なのかしら」
「それだけレイラに期待しているんだろう。その裏返しだよ」
 そう言って、リュウはレイラを見る。
「急激な環境変化に対応してきたレイラの成長力は本物だ。今が鍛え時だと、僕も思う」
 リュウが臆面もなく言ってのける。
 レイラに対する素直な称賛の言葉に驚くが……もともとリュウは言葉を選ぶタイプではない。素直に分析した結果がそれなのだろう。
 そんなリュウの発言に、レイラは露骨に嫌そうな表情をした。
「そういうリュウはちゃんと鍛えているわけ?」
 褒められて喜ぶかと思ったが、どうやら上から目線の分析が気に入らなかったらしい。
 対するリュウの態度は涼しいものだ。
「僕はサテライト拠点建設のための、対アラガミ装甲壁の設計や実作業の研究に時間を使っている。この先、必要になるだろうからね」
「必要って……本気で建設業を始める気?」
 リュウの言葉に、レイラが素早く反応する。
 皮肉っぽく振舞いつつも内心では、彼がどんな風に考えているのか、関心があるのだろう。
「まさか……理想より現実。僕はあくまで、じきに訪れる未来に向けて、準備を進めているだけさ」
 リュウは答えたが、その柔らかな表情から察するに、建設業を志すことも満更ではなさそうだ。
 その時、話を聞いていたリマリアがリュウのほうを見て口を開いた。
「ヒマラヤ支部の壁は旧式で、最新式と比べると補修方法が非効率的です。機材も含めて、刷新するべきですね」
「なるほど……」
 リュウはリマリアの見解を受けて、顎に手を当て思案に耽る。
 それを意外そうに見ていたのがレイラだ。
「……リュウ、あなたリマリアと話すのね?」
「何言ってるんだ? 話すだろう」
 対するリュウは、何を今更とレイラを見た後、そのまま視線をリマリアに移した。
「計画、交渉、予算獲得、現場管理……一から学ぶことばかりで、リマリアさんのターミナル検索には助けられています」
「そんな……とんでもありません」
 リュウの称賛に、リマリアは恥ずかしそうに謙遜する。
 そんなやりとりを、レイラは気味悪そうに眺めていた。
「……少し前までは、存在も信じてなかったくせして……」
「見えて、話せる相手となれば、感じ方も変わるんだろう」
「それにしたって、態度が変わり過ぎでしょう。まったく、都合がいいというか……きゃあっ!?」
 そうしてレイラと話していると、いきなり彼女の頭から、ドロシーが顔を覗かせた。
「ちょっと、何を……っ」
「あたしの相談にも乗っておくれよリマリアー!」
「どうしました?」
 いきなりのしかかってきたドロシーに、レイラが不快感をあらわにする。
 その間にも、リマリアは冷静にドロシーに尋ね返し、会話は続けられていた。
「アラガミが減ったら、消耗品の需要が減るだろ? 最近ただでさえピンチなんだよ。売り上げを落とさないためにはどうしたらいいかね?」
「そうですね……需要の変化という観点からすると……」
「ふむふむ……」
「だから……まずはわたくしから離れなさい!」
 賑やかな輪に囲まれるリマリアを、俺はしばらく遠巻きに眺めていた。
 そこでリマリアが、俺の視線に気がつき、近づいてきた。
「あの……えっと、セイさん。どうかされましたか?」
「……ああ。リマリアも、すっかり支部に馴染んだと思ってな」
 レイラに、リュウに、ドロシー……ここにはいないが、カリーナやゴドーたちだってそうだ。
 最近は皆が、リマリアを気の置けない仲間として扱っているように感じる。
 彼女の能力を頼りにしている、というだけではないと思う。他愛ない会話や悪ふざけの輪の中でも、リマリアはいつもその中にいた。
「はい……これも、JJさんが見えるようにしてくださったからです」
 リマリアは嬉しそうに答えた。
 それから間もなく、リマリアは再びドロシーから指名を受けて、輪の中に戻される。
 俺を気にかけてか、ちらりとこちらを見てくれたが……俺としては正直、賑やかな輪を眺めているくらいがちょうどいい。
 ……ほんの少しだけ、俺よりリマリアのほうが馴染んでるのが妬ましい気持ちもあるが。
「ゴドーじゃないけど、本当にマリアみたいです」
 そんな折、気付けばオレの隣に立っていたレイラが、リマリアを見ながらそう話した。
「マリアの元にも、自然と人が集まってきていましたから」
 レイラはそう言って、懐かしむように目を細める。
(マリアか……)
 確かにそうだ。こうして遠くから眺めていると、彼女はまるで……
 俺はレイラに返す言葉を見つけられず、ただぼんやりと、彼女に倣ってリマリアを見ていた。
 


 リュウやレイラたちとの討伐任務を終えた後、俺は神機を持ってJJの作業場を訪れていた。
 定期的なメンテナンスということで呼ばれた訳だが……JJはデバイスの調子を確認しながら、彼女と顔を突きあわせ、たどたどしく話しかけている。
「えー……もしもし」
「はい」
「あ、うん……返事良し……と」
 ぎこちなく応答を繰り返しながら、チェックリストのようなものに結果を書き込んでいく。
「え……と、気分はどうだ?」
「特に問題はありません」
「そ、そうか……」
 呼びかけの一つ一つに、リマリアは落ち着いて答える。
 JJはリマリアとの距離感を探っているのか、どうにもやりとりがぎこちない。
「あー、えーとな……こうして顔を見て話すというのは、なんとも落ち着かない訳だが……」
「はい」
 答えつつ、リマリアはじっとJJの顔を見つめている。
 その視線を受けたJJは、狼狽えるように視線を逸らした。
(妙だな……)
 もともとJJにはリマリアを特別視している節があるが、それにしても今日は度が過ぎている。
 何か理由があるのだろうか……
 そう思いJJを見ていると、それに気づいた彼が、大きくため息を吐いた。
 それから意を決するように、勢い込んでリマリアへと話しかけた。
「オレはエンジニアだ。何か訊きたいことがあれば遠慮なく言ってくれ!」
「……? はい」
 リマリアが戸惑いながら頷く。そのまま会話が途切れそうになると、JJは慌てて言葉を続けた。
「神機の状態とか、全部把握できているなら何も言うことは無いが、あー、他にもメンテでやって欲しいこととか、ないか?」
 取り留めのない言葉を並べて、そのままリマリアの反応を待つ。
 そんなJJをじっと見つめた後、リマリアは静かに口を開いた。
「エンジニアの方が神機を相手に緊張するというのは、不思議です」
「……」
(緊張、なのか……?)
 だとすれば、もう何度も顔を合わせた今になって、緊張し出すのもおかしな気がするが……
「いや、緊張するだろ! 普段は語りかけても何も言わないのが、言葉を返してくるんだからな!」
 それでもJJは、大声をあげて反論した。
 まあ、JJの神機に対する信念や情熱については、以前に彼の口から聞いたこともあるが……
「ヘタクソめ! とか、お前は神機のことを何も分かっちゃいない! とか、言われたらどうしようって……不安でな?」
 そこまで言ってからJJは、窺うようにリマリアを見た。
 オーバーな台詞回しにあからさまな上目遣い……ここまでくると尚更怪しいし、素でこれをやっているならかえって怖いくらいだが……
「なるほど。そうでしたか」
 リマリアのほうはすんなり納得したようで、そのまま丁寧にお辞儀をした。
「いつも真剣に整備してくださっていること、ちゃんと分かっています。ありがとうございます」
「……やめろ、涙腺を攻撃するな……」
 反撃を食らうとは思っていなかったらしく、JJは目元を抑えながらそっぽを向く。
 このリアクションは本心だろうと、なんとなく分かる。
「……じゃあなくてだな、何かオレに要望や質問はないかってことなんだが……」
 よほど思い通りにいかなかったのだろう。JJは少し気落ちした雰囲気のまま、リマリアに訊ねる。
 ここまでの支離滅裂な会話の流れもあって、答えには期待していない様子だったが……
「あります」
「おっ?」
 対するリマリアの返答は、JJの求めるものだったようだ。
「オラクル流量のことで、訊きたいのですが」
「おお、どうした?」
 身を乗り出したJJに向けて、リマリアは淡々と言葉を続けていく。
「ネブカドネザルを捕喰してから、神機のオラクル流量が増大したことはご存じですよね?」
「もちろんだ。オラクル流量は神機のパワーそのもの……今はさぞ絶好調だろうよ」
「はい、十分過ぎる力です……今までの能力を扱うには……」
 言いながら、リマリアは胸の前に手のひらを出し、ぎゅっと握りこぶしを作る。
 そのまま視線を、自身の手からJJに移す。
「現状ではまだ、増えたオラクル流量の全ては使い切れていない……違いますか?」
「……!」
 リマリアの言葉に、その場の雰囲気が変わる。
 JJは一度、大きく目を見開いた後、白状するように肩をすくめた。
「気づいていたか……ああ、その通りだ」
 ……なるほど。JJの本題はこの辺りか。
 同時に取り繕うのもやめたのか、彼は真剣な表情で俺とリマリアを順に見た。
「有り余るオラクル流量を利用した機能が、アビスファクターだ。しかし……現状はアビスファクターを全開で運用しても、まだ出力を持て余している」
「……そうなのか?」
「はい。活動時間の延長や感情表現なども実現しましたが、まだ余っていて」
「……そうか」
 ネブカドネザルを捕喰してから、リマリアが目に見えて大きく変わったのは言うまでもない。
 印象的にはウロヴォロス、クベーラと段階的に成長してきた彼女が、まったく別物になったという雰囲気だろうか。
 それだけに、今の状態でも十分に凄いものだと思っていたが……ネブカドネザルの持つ力は、どこまでも俺の想像を超えていくようだ。
 もし今後、彼女が全ての力を活用できるようになったとしたら、どれだけのことができるようになるのだろう。
「成長しない普通の神機ではあり得ないことだからな……それで、オレに訊きたいのは?」
 そう言って、JJは腕を組みながらリマリアを見る。
 そうして彼女は、おもむろに口を開いた。
「アビスファクターを改良できませんか?」
「なに?」
「オラクル流量の余剰分を使いたいと思うのですが、その使い道を用意していただけないかと」
「使い道を……用意、だと……」
 そこまで繰り返したところで、JJの動きが完全に止まる。
「あの……JJさん……?」
 そうしてリマリアが、心配そうに尋ねたところで――
「ふ……」
「ふ?」
「ふぁーーーーーーっはっはっは!! 聞いたかおい!!」
 JJは突然大声で笑い始めたと思ったら、そのままこちらに視線を向けた。
 それから同意を求めるように、呆気にとられる俺の肩をバンバンと叩く。
「神機さんから新機能を付けてくれと頼まれたぞ!! オレは!! エンジニアとして、これ以上燃えることがあるか?」
「えっと……」
「いや無い!!」
 俺の答えを待たずに断定すると、JJはそのまま小躍りしながら周囲を走り回る。
「あの……?」
 そんなJJを視線で追いかけつつ、リマリアが困惑気味に尋ねる。
「ああ、悪い悪い! 話が途中だったな!」
 そうしてようやく立ち止まったJJは、その手で大きく張った胸を力強く叩く。
「任せろ! すでにアビスファクターの研究は進めてある!」
 言うが早いが、JJは部屋の隅に積まれた部品の山に勢いよく突っ込んでいく。
 もはや最初のぎこちない会話をしていた頃とはまったく別人のようだ。先ほどまでは、何か探ろうとするような気配もあったが……今は微塵も感じない。
「神機のコアからバイパスを刀身に繋げて、疑似アビスドライブの発生を刀身側で制御するプランはすでにあるんだ」
「そうなのですか?」
「ああ。元からアビスドライブとアビスギアは系統が別で、同時運用が可能だろ? ならば、オラクルの経路設計さえできれば多目的運用は難しくない訳だ」
 JJは子供のようなテンションで、はきはきと言葉を続けていく。
「無論、制御するリマリアの負担は増える訳だが……力を持て余している今なら、問題ないだろう」
(リマリアの負担が……?)
 その一言を口にする瞬間だけ、JJの声のトーンが低くなったことが気になったが、俺がそのことを指摘するより早く、JJはリマリアに向けてニッと笑った。
「どうだ、リマリア?」
「それで持て余しているオラクル流量を使えるなら、理想的です!」
 JJの言葉に、リマリアは目を輝かせて答えた。
「よしやろう! お前さんも、いいな?」
 JJはそう言い、今度は俺のほうを見る。
「それは……」
 神機やリマリアが強くなれば、それだけ戦い方にも幅が出る。そのこと自体は、俺もありがたいが……
 ただ、リマリアの負担が増えるというところだけが気になる。
「……大丈夫か?」
「はい、絶対に大丈夫です!」
 念のためリマリアに尋ねると、彼女は力強く頷いてみせた。
「…………」
 少し気になることではあるが、神機のことは専門外だ。
 リマリアがそこまで言うのなら、気にすることはないかもしれない。
 そう考えた俺は、JJのほうを向いた。
「よろしくお願いします」
「よっしゃ!」
 俺の返事を聞いて、JJはパンと両手を打つ。
「ちなみにだが、バイパス制御が成功したら、アビスドライブの複数運用もできそうなんだが……」
「じゃあそれもお願いします」
「あっさりOKを出すな!?」
 リマリアが即座に返答すると、JJはその抵抗のなさに、逆に驚いた様子だった。
「デメリットはありません。お願いしてもいいでしょうか?」
「……ああ」
 リマリアが希望するのであれば、断る理由も見つからない。
 俺たちの回答を聞いたJJは、「ちょっと待っててくれ」と言って、再び部品の山に手をかける。
 それからしばらくした後、JJは目当てのものを見つけたのか、山からその手を引き抜いた。
 その手の中には、見知らぬ部品がしっかりと握られている。
「これは……?」
「神機の改良用に、俺が作ったパーツさ。この刀身パーツで、リマリアのオラクル流量をもっと効率的に使うことができるはずだ」
「へえ……」
「さらに、オラクル流量を効率的に扱うってことはな、すなわち今の出力のさらに上を出すこともできるってことだ」
 そこまで言うと、JJはフフンと得意げな顔で胸を張った。
そうして彼は一連の説明を続けるが、不意にリマリアが彼に尋ねた。
「このシステムは、なんという名前なんですか?」
「ん……? 名前かぁ……」
 JJはそこで、しまったという表情をする。
「そういや……名前、考えてなかったなあ……」
 彼は頭をかき、天を仰いで思い巡らせた。
 それからJJは難しい顔で腕を組み、しばらく考え込んだ後、ふと何かを閃いた様子でこちらを向いた。
「良いのを思いついたぜ」
 そうして、JJはにやりと笑った。
「アビスオーバードライブだ」


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