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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第八章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~8章-6話~

『目的地に到着……時間通りだ』
「了解しました。……ヘリの離脱を確認次第、作戦行動を開始してください」
『了解した』
 通信機の向こうから、ゴドーさんの愛想のない声がこちらに届く。
 私はそれに応えつつ、周辺のアラガミ反応を再度確認する。
(敵は……うん、なんとかなりそう)
 もちろん油断は禁物だけど、なにしろ今回の出撃メンバーは、ゴドーさんと八神さんだ。
 ヒマラヤ支部が誇る二本柱が揃い踏みとなれば、大抵のアラガミは脅威にならない。
 とはいえ、それで私の仕事が楽になるという訳ではない。ゴドーさんも八神さんも、凄腕の神機使いでありつつ、それ以上に癖の強い人たちでもある。
 ゴドーさんはいつも行動が読めないし、八神さんも独断専行と命令違反の常習犯なのだ。
 それぞれタイプは違うけど、しっかり見張っておく必要があるのは間違いない。
「作戦エリアからヘリが離脱したのを確認。それでは三人とも、気を引き締めて頑張ってください!」
 自分に言い聞かせながら、ゴドーさんと八神さん、それにリマリアに向けて発破をかける。
 しかし……
『……ザ……ザザザ……』
 通信機の向こうから返事はなかった。
「……? ノイズが激しいですね、もう一度お願いできますか?」
『…………』
「あれっ、通信が……ゴドーさん? 聞こえませんか、ゴドーさん!」
 その問いかけに、答えてくれる人は誰もいなかった。
「困ったわ。これから作戦開始なのに、通信機の故障かしら……?」
 軽く機材をいじってみるが、調子は戻らない。
 昔の人は機械を叩いて直したというけれど、貴重な機材を壊してしまってもいけないし……
(おかしいなぁ……さっきまで調子は悪くなったのに……)



「……良かったのですか、カリーナさんを無視して」
 俺が尋ねると、ゴドーは悪びれもせずに肩をすくめた。
「なるべくこちらの切り札は、公にしたくないのでな。カリーナには悪いが、支部との通信は切らせてもらった」
「…………」
 確かに、知能の高いネブカドネザルを相手取る以上、用心に越したことはないだろう。
 それに……これはあくまでも仮説だが、ゴドーはネブカドネザル以外のものに対しても、警戒心を向けているのではないだろうか。
 例えば、カリーナが尊敬している人物である……
「ではリマリア、説明を聞こうか」
 俺の思考を遮るように、ゴドーが俺の背後を見つめる。
 その姿を、ゴドーが捉えられたわけではないだろうが……彼女はすぐに答えた。
「はい。ネブカドネザルの『引き寄せ』『弾き飛ばし』対策についてです」
「ふむ……」
「これまで、ネブカドネザルのこの能力について、感知はできるものの、再現することができず、具体的な対抗手段を用意できていませんでした」
「そこまでは俺も把握している。何か進展があったのだな?」
 白髪をなびかせながら、リマリアは頷き、言葉を紡ぐ。
「まず、これまで対策してきたステルス能力、アラガミを呼ぶ波動は、物理的な力を持たないものでした」
「信号に使える程度までの力だった、ということだな」
「はい」
 確かに、ネブカドネザルのステルス能力は、あくまでも機器やセンサーに感知されないためのものであり、ヤツ自身の姿を隠す類の力ではない。
 同じようにアラガミを呼ぶ波動も、それ自体が俺たちに害を与えるものではなかった。
 そういう意味では、この二つの能力は同系統のものなのだろう。
 だから彼女はそれらを再現できるし、それを基に対策を講じることも可能になった。
「では、再現できないものにどう対処するかです」
 残る問題は再現できず、物理的に干渉してくる『引き寄せ』『弾き飛ばし』への対策だが……
 リマリアは答えに辿り着いたのだろうか。
「先日、リュウが『踏ん張って耐える』と言いましたね? ですが、地面に神機を刺した程度では耐えきれません」
「そうだな……ならばどうする?」
 ゴドーの問いかけに対し、リマリアはしっかりと頷き、回答する。
「ネブカドネザルが放った物体を動かす力を……乗っ取ります」
「何……?」
 ゴドーの眉根がわずかに動いた。
「……乗っ取る、とは?」
「物理的な力への対処法は打ち消す、耐える、受け流す……。いろいろありますが、調べていたらある手法を発見したのです」
 リマリアは俺の問いに対し、淀みなく答えていく。
「それが相手の力と同化し、自分のものとしてコントロールを奪い、操る……すなわち、乗っ取るという方法です」
「ほう……確か、東洋の古い武術の理論だったか?」
「よくご存じですね。それを応用することにしました」
(なるほどな……)
 極東支部出身の俺にとっては、馴染みの薄い考えでもない。
 相手の力を利用することで、弱者が強者に勝つ。
 こうしたコンセプトを基に生み出された技を、俺もいくつか知っている。
「それで、具体的にはどんなことをする?」
「まず、ネブカドネザルの放った力と接触します。その瞬間に力を掴まえ、シンクロして無効化します」
「超高速で、それをやるというのか? 簡単ではないと思うが……」
 呟きながら、ゴドーは俺のほうを一瞥する。
 そんな中でもリマリアは、普段と何ら変わらない、涼しげな眼差しをしていた。
「そのために、新たなアビスギアを使用します」
「……アビスギア。アビスファクターの、身体強化能力だな?」
「その通りです。そのアビスギアにて、全身にセンサーフィールドを張り、力が接触した瞬間に超高速で解析します」
「……最初から解析をする万全の態勢でいるという訳か」
 ゴドーは顎を擦りながら呟いた。
「ふむ……では、解析ができたとして、残る問題はリマリアが再現できないというその力を、どう乗っ取るかだな?」
「それも問題ありません。解析できれば、力のベクトルをシンクロさせて同化し、同時に力そのもののコントロールを奪います」
 すらすらと、事もなげに答えていくリマリアだが……そこに誇張や強がりがあるとも思えない。
 どうやら本当に、確実と呼べる対策方法を編み出せたらしい。
「最初から完璧にはできませんが、数回の接触で解析を進め、誤差12%未満のシンクロができれば制御は可能かと」
「あえて何発かやられながら解析するつもりか」
 ゴドーは彼女の言葉を咀嚼しながら、俺のほうを見る。
「隊長補佐、君はこの案をどう思う?」
「…………」
 気づけばリマリアも俺のことを見つめていた。
 その眼差しはまっすぐで、澄み切った色をしていて、俺が目を逸らすことを許さない。
 答えは既に自分の中で出ていたが……決然とした彼女の姿に、より一層決意が固まった。
「問題ありません、やらせてください」
「分かった。こちらも全力でバックアップしよう」
 俺の回答を予想していたのか、ゴドーは僅かに頬を歪めただけだった。
「ところで、やられながら解析する際には、センサーフィールドを使わず解析できるか?」
「使わずに、ですか?」
「ああ。ネブカド君に警戒されないよう、決定的なチャンスまで秘密にしたい」
「了解です。……リマリア、可能か?」
 俺が尋ねると、彼女は小首をかしげてみせる。
「解析精度が低下するので、やられる必要回数が増える計算になりますが、よろしいですか?」
「……そうだな」
 相手はあのネブカドネザルだ。一撃一撃が必殺の力を持つ獣の猛攻を、あえて喰らわなければならないなど、常軌を逸している。
 ヤツの攻撃を喰らう回数が増えるなら、俺は同じ数だけ死にかけることになる。
 だが……リスクを得るのは簡単だが、チャンスは得ようとしなければ得られない。
 それに別段、これは分の悪い賭けという訳でもない。
「そこは、お前の力を信じるさ」
 俺には頼もしい仲間がいる。
 こちらの限界が来るより先に、リマリアが必ず解析を終えてくれるはずだ。
「ありがとうございます」
 俺たちのやり取りを聞いていたゴドーが、満足げにニヤリと笑った。
「よし、ここらで通信を復旧するぞ。あまり長時間になると不自然だしな」
 言いながら、彼は通信機器を弄りはじめる。
「あーあー、こちらゴドーだ。おい、聞こえるか? カリーナ、返答しろ!」
 ゴドーの白々しい問いかけに、やがて反応が返ってくる。
『あ、戻りました! 通信機のトラブルですか?』
「ああ、すまない。正常になったので作戦開始に問題はない」
「分かりました! それではオペレート、開始します!」
 カリーナに任務の開始を告げられ、ゴドーが軽い口調で言う。
「さて、手早く終わらせようか」
「はい……!」
 ようやくネブカドネザルに対抗する目処はついた。
 昂ぶる心を抑えながら、俺は目の前の任務に集中するよう努めた。



「ああ、ゴドー隊長か」
 ノックもせずに支部長室の扉を開けば、クロエは驚く素振りも見せずに、ただ俺のほうを一瞥した。
 それだけの所作の中にも、隙が無い。
 やれやれ……部屋の内装はほとんど変わっていないのに、持ち主が変わればこうも印象が変わるものか。
 ポルトロンがそこに腰かけていた頃は悪趣味に見えていた支部長室も、今は荘厳で洗練された場所に思える。
 ようは以前より、息苦しさが増していた。
「なるほど……その顔を見るに、ネブカドネザルを討伐するための要素が揃ったのだな?」
「必勝の策をもって打ち倒す、ではなく……化かし合いで作り出したチャンスをものにするという勝ち方になるが」
「確実とは言い難い、か……」
 クロエはそう言ってため息を吐くが、気落ちするような人物ではない。
 ただ事実を反芻している……それがヒマラヤ支部、支部長クロエ・グレースという女だ。
 そんな彼女には、有り難いことに回りくどい説明やへりくだった物言いは必要ない。
 俺は単刀直入に要求を突きつけた。
「ネブカドネザルとの交戦許可をいただきたい」
「…………」
 クロエの顔色に変化はない。
 ただ静かに瞳を閉じたかと思うと、さしたる間を置かずゆっくりと口を開く。
「ゴドー隊長はここが勝負所だと判断するか?」
「俺の判断ではそうだ。あなたの直感だと、どうかね?」
「私には分からない」
 現場のことは現場の人間が一番知っている、自分の意見など聞いてどうする?
 そう言わんばかりの物言いに、俺は心の中で苦笑した。
 どこまでもまっすぐで峻烈な女だ、と。
「やめろ、とは言わないのだな……それを返事だと受け取らせていただこう」
 クロエはなおも無言を貫いた。
 つまり、俺にとっても彼女にとってもこれ以上の会話は不要ということだ。
 俺は彼女に背を向け、早々と部屋を後にする。
 頭の中で、来たるべき時に向けた戦略を練りながら……



「ネブカドネザル対策が揃ったというのは本当なのですか?」
 任務を終え、広場で一息ついていると、レイラとリュウが近づいてきた。
 出し抜けなレイラの質問に、リマリアが返答する。
「実戦で有用性を確認していないので確実とは言えませんが、揃いました」
「……っ! そうですか、本当に……」
 リマリアの言葉を伝えると、レイラは感極まったように言う。
 それも当然だろう。
 ヒマラヤ支部を苦しめてきた最大の脅威を、ようやく振り払うことができるのだ。
 リュウも拳に力を込め、少なからず気分が昂ぶっているように見えたが、それでも彼は冷静だ。
 咳払いしてから、窺うように俺を見る。
「ところで、やはり対策の内容は共有してもらえないのですか?」
「それは……」
 言葉に詰まる俺に代わって、レイラがやや伏し目がちに答えた。
「ゴドーが情報漏洩を避けるために、味方にも何をやるのかは秘密にすると決めたのよね」
「……敵を欺くにはまず味方から、ということか。策というのは味方の動きや視線でバレることもあるというからな」
「わたくしは……隊長補佐、あなたが勝てると思うならいいです」
「そうだな。僕もそれで構わないが……本当に勝てそうなのですか?」
 レイラとリュウは口々に言って、こちらを見据える。
 本音を言えば、割り切れない気持ちもあるだろう……俺やゴドーの作戦が失敗すれば、彼らは何も分からないまま、死ぬことになるかもしれない。
 それでも二人とも、俺に命を預けてくれている。
 だったら……俺が彼らに言うべき言葉は決まっている。
「――必ず勝てる」
 勝率が低いとは思わない。リマリアやゴドーは綿密に作戦を練ってくれていた。
 後は俺が、彼らの想定通りに上手く立ち回れるかどうかだが……
 泣き言や弱音を吐くつもりはない。
 レイラたちの想いに応えるためにも、俺は必ず勝つと決めている。
「……分かりました。ならばわたくしも、信じて戦うのみです」
「ああ。クロエ支部長とゴドー隊長がいけると判断して、隊長補佐がこの感じなら、やってみるだけさ」
 頷き合った彼らの瞳に、迷いの色は微塵もなかった。
「リマリア、あなたも勝つ気なのですね?」
 そこでレイラが、試すようにリマリアに訊く。
 少し前のリマリアなら、ここで気の抜ける一言でも口にしそうなものだが……
 リマリアの返答は、真剣だった。
「勝ちます。負けない、ではなく勝たねばならないと認識しています」
 機械的な表情を浮かべる、どこか幻想的な白髪の女性。
 しかしその言葉のなかには、たしかに並々ならぬ決意が感じられた。
 そんな彼女に感化されるように、リュウとレイラが互いを見る。
「一度で仕留めないとな」
「ええ……!」



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