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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第八章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~8章-2話~

 ヘリは地上に降り立った。
 扉が開かれ、俺がそこから這い出るのと同時、リマリアが宙を舞いながら俺の傍を通り抜け、先に戦場へ足を踏み入れる。
「戦況報告。付近にアラガミの存在を複数確認しました」
 くすんだ廃墟を見据えながら、彼女は周囲の状況、アラガミの種類や数、その位置方向などを細かく報告してくれる。
「ヤツの気配は感じるか?」
「ネブカドネザルの波動は確認できません」
「……そうか」
 ひび割れたアスファルトを踏みしめながら、彼女の隣まで歩みを進める。
 辺りには背の低い建造物が連なっているほかに目立ったものもない。
 もちろん油断はできないが、奇襲を受ける可能性は低い。ここなら安心してアラガミの捕喰と研究が進められそうだ。
「リマリア、ちょっといいか?」
「はい」
 俺の背後に立ったゴドーが、そう言ってリマリアに声をかけた。
「これまでやってきた思考トレーニングの成果を試す時が来た。君に考えてもらいたいことがある」
「考える……ですか?」
「そうだ。様々なことを学んだ今の君なら、何かを導き出せるかもしれない」
 実際、この頃のリマリアの言語、対話能力の成長は目覚ましいものがある。
 支部のメンバーとの交流や、戦場での学習、また空いた時間にも『くだらないこと』を考え続けることで、人間の思考を驚くべき速さで学習してきた。
 リマリアは特異な能力や知識を持ったまま、人間と意志疎通可能な存在……いや。人間そのものになろうとしている。
 それだけに、ゴドーの言葉には、並々ならぬ期待が込められているように感じた。
「承知しました。何を考えればよろしいでしょうか」
「リマリアが感知できていたクベーラの波動と、ネブカドネザルの波動についてだ」
「波動、ですか……」
「そうだ。支部の機材では観測できないこの波動の正体はなんだ? 進化して現れたネブカドを感知できなかったのはなぜだ?」
 話しながら、ゴドーの語気が次第に強くなっていく。
 恐らく無意識なのだろうが、それだけゴドーも彼女の返答を重要視しているのだろう。
 ネブカドネザルの波動……これを解析し、ヤツの居場所を把握できるようにならない限り、ヒマラヤ支部は常にヤツの影に怯え続けることになる。
 ゴドーの言葉を受けたリマリアは少しの間、思案するように沈黙していたが……
 やがて、彼女は静かに口を開いた。
「波動の正体は説明できませんが、感知できなくなった理由は推測できます」
「っ……!」
 彼女の言葉に驚きながら、俺はその言葉を一字一句そのままゴドーに伝える。
 以前の彼女からは、引き出せなかった情報だ。感知できなくなった理由が掴めるなら、そこから逆に感知する方法も引き出せるかもしれない。
「そうか……ぜひともその理由とやらを聞かせてくれ」
 ゴドーの言葉を受けて、リマリアは落ち着いた口調で話しはじめた。
「ネブカドネザルは、これまで私に感知されていた波動を自力で打ち消しているのだと思われます」
「打ち消す? そんなことが可能なのか?」
「波に波をぶつけると打ち消し合います。同じ強さの波をぶつけることで、消すことは可能かと」
 ゴドーの問いかけに、リマリアは淡々と答える。
 その話を、ゴドーは小さく頷きながら熱心に聞き入っている。
「波と波をぶつける……か」
 彼は呟きながら、その厄介な能力にどこか感心しているようでもあった。
 自身から放たれる波動の強さを理解し、それを完全に制御することで身を隠す……学がない俺でも、これが常軌を逸した能力だということは何となく理解できる。
 それを聞いたゴドーはしばらく腕組みして考え込むような様子をみせてから、再びリマリアに問いかけた。
「波動を打ち消した場合、探知は不可能か?」
「そうですね……」
 今度はリマリアが考え込むようなそぶりを見せる。
 返答如何では、ネブカドネザル対策は暗礁に乗り上げてしまう。
 俺も、固唾をのんで彼女の言葉を待った。
 少しの間をおいて、リマリアはゆっくりと口を開いた。
「……対抗手段はある、はず」
「はず?」
 曖昧な言い回しをゴドーが問いただすと、リマリアはこくりと頷いてみせた。
「はい、それを可能にするには、もう少し力をつける必要がありそうです」
「力を……つまり、捕喰が必要ということだな」
「はい」
「なるほど……分かった」
 リマリアの答えは明瞭だった。それを受けたゴドーは一つ頷き、リマリアの方向から視線を外した。
「そろそろ討伐任務の時間だ。栄養価の高い食事のために、やるとするか」
 そう言うと、ゴドーはリマリアに対してではなく、今度はしっかりと俺の目を見据えてきた。
 黒く鈍く光るサングラスの奥に、強い力を感じる。
「セイ、準備はいいな」
「はい……!」
 ゴドーの言葉に頷き返し、神機を構える。
 そうしながら、俺は少しばかり気が逸るのを感じていた。
 ――先ほどのゴドーの口ぶりを聞いて確信した。
 おそらく、ネブカドネザルと決着をつける時は、すぐそこまで迫っている。



「グォオオオオオオオオオッ!」
 渾身の力をもって斬りつけると、ヤクシャは断末魔の咆哮をあげてその場に崩れ落ちた。
 群れを成すヤツらを相手にするのは少し厄介だったが、それでもどうにか片付けられた。
 激しく動き回った自分の肉体を落ち着かせるように深く息を吸い、そして吐き出す。それを数度繰り返せば、緩やかに吹く風の冷たさも感じられるようになってきた。
『お疲れ様です! かなり激しい戦いでしたね!』
「ええ……お疲れ様です」
 朗らかに響くカリーナの労いの言葉に応えつつ、俺は討伐したアラガミたちを神機に捕喰させていく。
 リマリアはゆっくりと、そして確実にアラガミを取り込んでいった。
 ゴドーは神機が捕喰する様子を横目で眺めつつ、肩まわりを叩いて衣服の汚れを落としていた。
 ほどなくして、リマリアは捕喰を全て完了させる。
 それを確認してから、ゴドーは冗談っぽくリマリアに語りかけた。
「たんまり喰えたか?」
「完食です」
 淡々としながらも、食べ盛りの子供のような言葉を返す。
「それは良かった」
 リマリアの返事に、ゴドーも満足そうに頷く。
 それから彼は表情を引き締め、いつもの落ち着いた口調で彼女に尋ねた。
「ネブカド君を探知できるまで、後どれくらいだ?」
「まだ、もう少し必要かと」
「そうか……」
 ゴドーはそう言って呟くと、ヘリとは別の方向へと目を向けた。
「では、もうひと頑張りだな」
『いやいや……無理は禁物ですよ! 予定通り、帰還してください!』
 そのまま戦闘を継続しようとするゴドーの様子を見て、カリーナが慌てて制止する。
「ああ……分かってるさ」
 カリーナの言葉を聞いたゴドーは、はじめから冗談だったというように、皮肉交じりの笑みを浮かべてヘリに向かった。
 しかし、隣に立っていた俺にははっきりと分かる。先ほどのゴドーは、確かに本気だった。
「…………」
 ネブカドネザルとリマリアの進化競争は、それだけ分が悪いのだろう。
 本来であれば、休んでいる暇などないのかもしれないが……
「セイ、リマリア。支部に帰るぞ」
「……了解です」
 俺は戦場に未練を感じつつも、ゴドーの指示に従い、支部に戻ることにした。



 支部に戻ると、ゴドーはすぐさま第一部隊のメンバーたちを作戦司令室へと集めた。
「改めて、我々が必要とするネブカドネザル対策を確認しておく」
 各々が真剣な眼差しで、彼の話に耳を傾けている。
 ゴドーは順序立てて、一つずつやるべきことを並べていく。
「まずはネブカドネザルを感知すること。……これができない限り、主導権を取れないからな」
「どこにいるのか、目星もついていないのよね?」
「ああ。クベーラ戦後、様々な調査を行ったが、手がかり一つ見つかっていない」
「警戒心の強いヤツですからね。捕喰するはずだったクベーラを奪われて、今は警戒している、ってとこですか」
 ゴドーの言葉を聞き、リュウが顎に手を当てて呟いた。
「こっちが探せない限りは、隠れられると何もできないのよね……だけど、放っておくと何をされるか分からない」
 レイラはうんざりするように言って、ため息を吐いた。
 ネブカドネザルの強襲攻撃には、何度も手を焼かされてきた。しかも交戦する度に知能を高めている……クベーラ戦の時には、ゴドーがヤツの行動パターンを読み切り、奇襲に備えることができたが、同じ手が通じるとは考えないほうがいいだろう。
 ネブカドネザルを倒すためには、ヤツの位置を事前に把握しておくことが必須だ。
「次に、アラガミを呼び寄せる能力だ。これも対策を立てなくてはならない」
「ヒマラヤ支部周辺を危険地帯にしている原因ですね」
「ああ。延々と支部にアラガミを集められては、いつまでたってもキリがない」
「……やはり、アラガミ増加の原因はヤツの能力なのでしょうか?」
 かねてから気になっていた疑問を口にする。ゴドーは肩をすくめてみせた。
「どうだろうな。実際にヤツを倒してみないことには判断できんが……少なくとも、アラガミの増加の始まりと、ヤツが出現した時期がほぼ一致していることは事実だ」
「となるとやはり、何の関係もないとは思えませんよね。まったく……ネブカドネザルだけでも厄介なのに」
 リュウの言う通りだ。
 アラガミ増加については置いておいても、ネブカドネザルという脅威と対峙するとき、延々とアラガミを呼び寄せられてはこちらの消耗も馬鹿にならない。
「あれもこれも、ネブカドネザルか……」
「ネブカドネザルを倒せば、アラガミは減る……そう思えば闘志も湧くというものです!」
 滅入るようなリュウの呟きに対し、レイラが気丈に言い放つ。
 まるで自分自身を鼓舞しているような発言に、ゴドーが力づけるように頷いてみせた。
「最後に、『引き寄せ』『弾き飛ばし』能力だ。これが、最も厄介な能力だといえるな」
「間合いをコントロールされてしまいますからね」
 この能力については、俺自身はまだ体感したことはないが……ゴドーの話を聞くに、かなり強力な力なのだろう。
 せっかくネブカドネザルの姿を見つけ、周囲のアラガミをすべて倒したところで、俺たちがヤツに近づけるかどうかは、ヤツ自身の手で決められるのだ。
 はっきり言って、今の状況では戦いようもない。そう感じたのは俺だけではなかったようで、司令室には重たい沈黙が流れていた。
「……ゴドー、何か妙案はないのですか?」
 しびれを切らしたレイラが詰め寄ると、ゴドーは彼女の発言を制するように腕を伸ばして手のひらをレイラへと向け、すっと下ろす。
「そう焦るな。まずは感知することから解決していこう」
 そう言って不敵に笑うと、ゴドーは顎で俺のほうを指し示した。
「感知については、リマリアが何か考えを持っているようだ」
 その言葉を聞き、リュウとレイラも俺たちを見る。
 そこでリマリアは、自発的に口を開いた。
「ネブカドネザルを感知する方法はすでに考案済みです」
「そうなのですか?」
 驚くレイラに対し、リマリアはしっかりと、そしてゆっくりと頷いた。
「ネブカドネザルは自らが放つ波動に波動を当てて打ち消すことで、私の感知を妨害していると考えられます。ですが、その痕跡を完全に消しきるのは困難、ほぼ不可能です」
「それって、つまり……」
「はい。感知の精度を高めて、打ち消しの際に発生するノイズを拾えば、理論上はネブカドネザルを発見できると思われます」
「……!」
 リマリアの言葉を聞き、俺はリュウやレイラと顔を見合わせた。
 そんな中でも、ゴドーは一人、落ち着いた様子でリマリアの言葉を吟味している。
「ノイズか……これまでは感知できなかったのか?」
「ノイズが発生するという仮説は先ほど思いついたものです。また、これまでは感知の精度もそこまで高くはできませんでした」
「では……今なら可能だと?」
「はい」
 リュウからの質問に、リマリアは短く答えた。
 そのうえで、彼女は冷静に言葉を付け加える。
「ただし、感知に専念できる状況に限定されます」
「索敵モードといったところか」
 リマリアの言葉を聞いたゴドーは、腕組みをして何か考え込んでいたが、すぐに何事もなかったように顔を上げた。
「後は実際にやってみるしかないな」
 ゴドーはそう言って、改めて俺のほうへと視線を投げかける。
「……やれるか、リマリア?」
「精度を高めるために、もう少し捕喰も必要です」
 俺の問いかけに、リマリアは淡白に答えてみせる。
「すぐに使える、という訳にはいかないようですね……」
「ああ。もっと食材を集めんとな」
 レイラに比べると、ゴドーの声色は明るかった。
 目の前にある問題は山積みだが、それでも前進したことには変わりない。
 ネブカドネザルとの長い因縁に、終止符を打つ日が迫ってきている。
 そしてその日を迎えるためには、俺とリマリアの手で道を切り開いていく必要があった。
「……必ず実現しないとな」
「はい。実現できなければ、意味がありません」
 俺が静かに語りかけると、リマリアははっきりと答えてみせた。
 表情はいつものように変わらず、口調は淡々としたものだ。
 しかし、その口ぶりからは、リマリアの力強い意志が確かに伝わってきた。


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