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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第七章
「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~7章-7話~
「今、リマリアの思考を鍛えているんだってな? あたしも協力させておくれよ!」
俺が店を訪ねるなり、ドロシーはニヤリと笑ってそう言った。
いい商品が入ったというので来てみたが……俺の他にはJJの姿しかない辺り、どうも彼女に謀られたらしい。
ドロシーが俺を呼んだ理由は、なんとなく想像がつく。
クベーラ騒ぎで他支部からの仕入れが少なくなり、つい先日まで繁盛していた産業棟にも閑古鳥が鳴いている。
だから暇潰しの相手として、俺やJJが呼ばれたというところか。
……しかしまあ、ドロシーのことだから、善意でリマリアの助けになろうとしているのは本当だろう。
「よろしくお願いします」
そう言って俺が頭を下げると、JJが同情するようにため息をついた。
「とはいうもののドロシー、何をすればいいのか分かってるのか?」
「分からんからおっちゃんを呼んだんだぞ! やり方は考えてるんだろ?」
「んー……まあな」
JJは生え揃った白い顎髭をさすってから、ニヤリと笑った。
「まず、リマリアは記憶力が優れていて判断速度も抜群だが、それは頭脳と感覚器が人間と違い、独自の思考系統を持つからだと……」
「分かるように説明してくれんかね!」
JJが専門的な講釈をはじめようとしたところで、ドロシーが強引に中断させる。
話を止められたJJは不服そうだったが、そこは大人だ。ため息をついて言い方を変える。
「商売に例えるとだな……リマリアはお客の欲しいものを棚から出してくるのは早いが、その商品の説明ができず、違う商品のおすすめもできない、てとこだ」
「びっくりするほど分かりやすいな……天才か?」
話を聞いたドロシーが、腕を組んで感心してみせる。先ほどまで怒鳴っていた人間の態度とは思えず、その変わり身の早さにJJが胡乱げに彼女を見た。
「つまり商売人というより自動販売機みたいなもん、ってわけだ」
「ああ。リマリアって名前を考え出した時なんかは、かなり頑張ってるがな。それと同じか、それ以上の思考がいつでもできるように鍛えねばならん」
「で、どうやるのさ?」
ドロシーに尋ねられたJJが一つ頷き、真剣な視線をリマリアに向ける。
「リマリア、今日のドロシーはどうだ?」
「……え、あたし?」
「今日のドロシー、ですか? 脈拍、血圧の数値はバイオリズム周期と誤差の範囲で、健全な状態です」
唐突な質問だったが、リマリアはすぐさま対応してみせる。
俺は回答をそのままJJに伝えるが……しかし、JJはゆっくりと首を左右に振る。
「違う、そうじゃない。もっと非理論的に語ってくれ。適当で、いい加減で、くだらないやつだ」
「…………?」
「待て待て! おっちゃんは何を求めているんだ!?」
「事実から離れろってことだよ。例えばドロシー、お前さん昨日何かいいことがあっただろ?」
「いいこと? あったけど、なんで分かったんだ?」
「なんとなくだ」
「はあ!?」
「ま、まあまあ……」
からかわれていると感じたのか、ドロシーがJJに詰め寄ろうとする。
俺が仲裁していると、リマリアが真剣な声色で呟く。
「私にはいいことがあったとは、分かりませんでした」
「……!」
「彼女は何と言ってるんだ?」
「彼女にはドロシーの変化が分からなかった、と」
俺がそのことを伝えると、JJは狙い通りという笑みを浮かべる。
「分かんなくていいって……つか、おっちゃんはなんで分かったんだよ」
「理屈じゃないんだよな。いつもより声の調子がいい気がする、とか……根拠は特にねえんだ」
「デタラメだよな……?」
自分の表情筋を触って確かめるドロシーをよそに、JJからの講釈は続く。
「細かく調べた情報を正確に言い続ける、なんて気持ち悪いだろう? 人ってのは適当でいい加減で間違ってるんだよ」
「適当で、いい加減で、間違っている、ですか……」
「そうだ! そういう感じでもう一度、今日のドロシーはどうだ?」
「質問は変えないのかよ……」
ドロシーの突っ込みには見向きもせず、JJはリマリアのいるほうに熱い視線を向ける。
当の本人はといえば……予想はついていたが、やはり苦戦している様子だ。
「……できそうか?」
「難しいです……普段との差異を判別することはできるのですが。それを答えるのではなく、ここで思考、思考……」
そのままリマリアは思考の海に沈んでいくように、何も話さなくなってしまった。
「……時間がかかりそうだな。ドロシーも自分で考えてみるか?」
「自分で今日の自分をどう思うかって? 適当に、くだらないやつだよな……えーと……」
「はい回答はドロシーから!」
考える時間を与えないように、JJが柏手を打って回答を促す。
「ええっ!? えーと、えーと……今日は売り上げが少し増えそうだと思っている。なぜなら、さっき鏡で見たあたしはかわいかったからだ!」
「……」
「……」
慌てて答えたドロシーがまくし立てた後、その場は沈黙に包まれた。
「何言ってんだお前ェ……」
「あんたが答えろって言ったんだろが!!」
引き気味のJJを見て、ドロシーが顔を真っ赤にして怒鳴る。
(ドロシーがかわいく見える、か……)
それは普段と比べて、ということなのだろうか。
それとも普段から彼女は自分自身のことを……
「あんたも真剣に分析すんな!」
ドロシーに勢いよく頭を叩かれる。……どうして気づかれたのだろう。
「まあ適当ではあったな。じゃあ次、リマリア!」
頭をさすりつつリマリアに目を向けると、彼女は今も真剣に考えている様子だったが……
答えに至ったのか、ふいに前を向いた。
「今日のドロシーは、年上の恋人を欲しがっています」
「…………」
なんとも伝えづらい答えが出てきた。
「お、答えは出たようだな。で、リマリアはなんだって?」
表情に出てしまったらしく、JJからそう尋ねられる。
迷うところだが……言わない、という選択肢はなさそうだ。
「ええと……今日のドロシーは、年上の恋人を欲しがっている、と」
「何言ってんだお前ェ……」
ドロシーが冷たい視線を俺に向ける。
「いや、今のは俺ではなくリマリアが……」
「いいぞ、そういう感じだ!」
「いいのかよ!?」
(……年上の恋人か……)
「だから分析しようとすんなー!」
俺が考えをまとめる前に、鋭いツッコミがそれを遮る。
「で、そう考えた根拠はなんなんだ?」
「鏡を見てかわいかった、と言ったので、そうではないかと」
「年下の男にかわいいアピールはしねえもんな。悪くない思考だ! その調子で行こう」
「一応理由はあるんだな……」
大きく頷くJJと、反論に詰まった様子のドロシー。二人の反応は対照的だが、リマリアが思考したということには疑問を挟んでいない。
なるほど、確かにこういう会話を続けていけば、リマリアの思考力も高まっていくかもしれない。
「で、実際はどうなんだ? 今日は年上好みな日なのか?」
「日替わりみたいに言うなよ!」
からかうようなJJの言葉に、ドロシーが素早く噛みついた。
「日替わりじゃないのか?」
「日によって違うものなのですか?」
JJとリマリアがそれぞれ真剣なトーンでドロシーに聞く。
JJは重ねて茶化しているのだろうが……リマリアのほうは真剣そのものだ。
ドロシーにもそれが分かるのだろう。
だからこそ、一度は振り上げた拳の行き場も見当たらない様子で……
「……決まってない」
沈黙のあと、ドロシーは素っ気なくそう答えた。
「やっぱり日替わりじゃねえか」
「決まっていないものなのですね。好みは変動する……覚えました」
「そういうもんだよ! そういうもんだって! 」
その場の空気に耐えられなくなったのか、ドロシーが助けを求めるように俺を見た。
「セイだって、その時の気分で気になる相手が変わったりすんだろ!? なあ!?」
「……えっ」
「一途かよ!! こんちくしょー!!」
俺の反応を見て、ドロシーが叫びに近い声を上げる。
そのまま暴れるように身体を悶えさせるドロシーだが、フォローの言葉もなかなか見当たらない。俺個人としては、人に恋愛感情を持ったことはないが……対象者を日替わりで変えるというのは不義理に思えてしまう。
とはいえ、これは俺個人の考え方だ。一般的な感覚で言えば、ドロシーのほうが当たり前の気もするのだが……
「ドロシーは何を必死になっているのでしょうか? これは適当で、いい加減なものなのでは?」
「うっ……!」
リマリアの言葉を聞いて、ドロシーが胸を抑えた。
確かに、リマリアが言うように適当に対処していれば、ドロシーのダメージも最小限で抑えられたはずだ。
さらに今の反応で、ドロシーが真剣に答えていたことがなおさら明け透けになってしまった。
項垂れるドロシーに代わり、JJがリマリアの質問に答える。
「不確定、というのも実は重要なんだ。AとBのうち、Bという選択を否定しないというのはな」
「また適当なフォローを……」
「いや、そうでもない。常識や事実として認識している物事の逆の可能性を考えるのは、偉大な発明や進歩において必須だ。アラガミに喰われる人類が、その力を利用して逆にアラガミを喰う神機を作った、なんてまさにそれだろう?」
「逆転の発想ってやつかい」
「つまり、でたらめな選択や答えだったものが、重要な発見に繋がることがある訳ですね」
二人の会話を聞いていたリマリアが、納得するように頷いた。
そもそもの始まりは、そういう話じゃなかった気もしたが……
ひとまずその場は、偶然も大事である、という結論で幕を引いたのだった。
JJたちとのやりとりがあってから、数日後――
俺たちは数人のゴッドイーターを連れて、討伐任務のため遠出をしていた。
目的は支部近辺のアラガミの討伐と、ネブカドネザルの捜索だ。
クベーラの討伐以降、ネブカドネザルは再び姿を見せなくなっていた。
……ヤツのことだ。おそらく強化されたリマリアを警戒し、力をつけている段階なのだろう。
だから俺やゴドーは、こうして支部から離れた位置も捜索し、ヤツから餌を奪うことで誘い出そうとしている訳だ。
とはいえ、リマリアが手に入れた力がどれ程のものになるかは未知数だ。
波動の探知はもちろんのこと、彼女が戦闘中に自ら思考するようになれば、その恩恵は計り知れないものになるだろうが……
ネブカドネザルが力をつけるのが先か、リマリアが思考法を習得するのが先か――それによってヒマラヤ支部の未来が決まると言ってもいい。
それくらい、俺たちに課せられたミッションは重要なもの……のはずなのだが……
『バイタル確認! リマリア、調子はどうですか?』
「今、適当でくだらないことを考えています」
「……くだらないことを考えている、そうです」
『はい? どういうことですか?』
リマリアの発言を伝えると、カリーナが素っ頓狂な声を上げる。
至極当然の反応だろう。
「実は……」
そう言って、俺はJJから教わった思考訓練法について、カリーナに伝えた。
『はあ……それは構いませんけど、戦闘中は集中してくださいね?』
「……はい、すみません」
謝るようなことではない……はずだ。
あくまでリマリアは、真剣にくだらないことを考えているのだから。
「今日のカリーナは……」
そうしてリマリアは、さらにリマリアはカリーナについて思考を巡らせようとする。
俺が頭を抱えそうになったところで――
『アラガミ反応! 討伐を開始してください!!』
通信機越しにカリーナの真剣な声で俺たちに告げる。
「リマリア! 準備はいいか?」
「はい。切り替えます」
「オオオオオオオオオオオオオ……!」
目の前に立ちはだかるアラガミを睨みながら、ロングブレードを強く握りしめる。
続けて大きく深呼吸してから、俺はヤツらへ向けて斬り込んでいった。
「ふぅ……」
『任務完了です! 迎えのヘリを待つ間はくだらないことを考えてもいいですよ』
戦闘が終わったところで、カリーナが通信機越しにそう言った。
「……だそうだが、どうだ?」
「そうですね……」
カリーナの明け透けな言い草に苦笑いしつつ、リマリアを見る。
すると彼女は、神妙な表情を浮かべながら口を開いた。
「今日のカリーナは、少し機嫌が悪い?」
「……カリーナが?」
『私がどうかしたんです?』
「ああ、いや……」
会話を止めるのも変かと思い、カリーナにリマリアの推理を伝える。
『えっ、私がですか? 機嫌が悪い……?』
するとカリーナは、少しの間戸惑っていたが……
『あっ、そうかも!』
何か心当たりを見つけたのか、驚き交じりにそう口にする。
『私は毎朝、今日の運勢を見て部屋を出るんですけど、今日のは最悪だったんですよねぇ……。だから思ってたんです、早く一日が終わらないかなって!』
「なるほど……」
『でも、なぜ気付いたんでしょう?』
カリーナが不思議そうな声色を漏らす。
それに反応するようにリマリアが口を開いた。
「話し方がほんの少しだけ早くなっていましたので、その理由を考えてみました」
「カリーナさんの話し方が、いつもより早くなっていたそうです」
『えー! 自分では全然気付かなかったですよ! 隊長補佐は気づきました?』
「……いえ、気付けませんでした」
『ですよねー! 私の喋りっていつも一定の速さじゃないと思いますし!』
カリーナの声を聞きながら、リマリアのほうを見る。
俺も、話している本人も気がつかなかった微妙な変化に、リマリアが気づいた。
それがどうしてか、俺には特別なことのように思えた。
「まずは気づくこと。そこから思考を広げていく……分かってきました」
自分の胸に手を当てながら、リマリアが言う。
表面的には分かりにくいことだが……なるほど。
リマリアの思考能力は、確かに成長しているようだ。
「おかえりなさい、隊長補佐! リマリアも!」
広場まで戻ったところで、俺とリマリアをカリーナが笑顔で出迎えてくれた。
その隣には、ドロシーの姿もある。
「ただいま帰りました。カリーナさんは休憩中ですか?」
「はい。それで、ちょっとリマリアとお話したくなりまして……!」
カリーナはどこか気恥ずかしそうに言いながら、リマリアを探すように視線を巡らせる。
ということは、ドロシーと二人でリマリアを待ち構えていたという訳だ。
「あたしは違うよ? あくまでリマリアの思考力を鍛えてあげようってね」
おそらく暇潰しに来たのだろうドロシーが、椅子に座って足を組む。
「ちょっとドロシー、自分だけ……」
「で、リマリアはまだくだらないことを考えるトレーニング中かい?」
カリーナからの非難を聞き流しつつ、ドロシーは余裕たっぷりに口にする。
「はい、トレーニング中です。今はカリーナとドロシーの違いについて考えています」
対するリマリアの回答は、また俺の想像の斜め上を行く内容だ。
案の定、伝えると二人はすぐさま食いついたが……なんとなく、嫌な予感がするのは俺だけか?
「私とドロシーの違いですか。それもできるだけくだらない違い、ねえ?」
カリーナは興味をそそられたのか、レクリエーションを楽しむようにドロシーに目を向ける。
「ねぇ、ドロシー。私たちの違いって、どんなことがある?」
しかしそこで、ドロシーがハッとしたような様子を見せた。
そのまま足を崩して立ち上がると、警戒するように距離を取る。
「言っとくけど、あたしは今回ノーコメントだぞ!」
「えー? 面白そうじゃない! ドロシーも考えてよ!」
「い、いやいや……まずはカリーナが言いな!」
カリーナからの言葉に、ドロシーはぶんぶん首を横に振る。
どうやらこの間の思考訓練は、ドロシーの中に深い傷跡を残したようだ。
しかしその時に居合わせなかったカリーナは、怯えるドロシーを気にしながらも、あくまで楽しそうに考えを巡らせていく。
「……くだらない違いでしょ? 服の趣味……は、ダメだ切実なやつだ! スタイル……あーっ、なし! 今のなし!!」
「自分から地雷を踏みに行くタイプだな……」
挙手しては頭を抱えの繰り返し……一人で自爆していくカリーナを見て、ドロシーが呆れたようにツッコミを入れる。
この間の彼女も似たようなものだった気もするが……と考えていたら、ドロシーに一睨みされた。
そこでリマリアが何か思いついたのか、カリーナを真似て挙手をする。
「支部内のファン層の違い、というのはどうでしょうか」
「……!!」
不意打ちをくらった俺は、慌てて姿勢を正しつつ、小声でリマリアに話しかける。
「……リマリア、それはアウトだ」
「何故でしょうか? くだらないと思ったのですが」
「駄目だ。それをくだらないと言うこと自体に、リスクが……」
「……アウト?」
「――!」
なんとかリマリアに説明しようとしていると、背後にいるカリーナから声がかかった。
「どうしました? リマリアは何と?」
「おいやめろ! 意外と攻めてくるぞリマリアは!」
「攻める? 私が神機だからでしょうか?」
「いや、そういう意味ではなくてだな……」
「もー、八神さん! ちゃんとリマリアがなんて言ったか、教えてください!」
さらにカリーナから詰め寄られた俺は、ついリマリアの言葉を言いたくなるが……
多分口に出してしまえば、確実に誰かを傷つけることになる。
「……!」
そう考えた俺は、ぐっと堪えてそっぽを向いた。
「むぅ、まさか八神さんがここまで口をつぐむなんて……」
「な? それだけのことを口にしたんだよ、奴さんは……!」
もはや誰になんと言われようが退く気はない。
ひとまず先ほどのリマリアの発言は、俺の心の中に閉まっておくことにする。
「なーんか、釈然としないなぁ……」
「いや、あたしはむしろ助かったんじゃないかと思うけどね。……そもそも『あたしたちの違い』って話題の時点で、ちょっと危なすぎたんだよ」
カリーナが不服そうにする隣では、ドロシーがほっと額の汗を拭っている。
それを見ていたリマリアが、再び口を開いた。
「では、ドロシーとカリーナの共通点はどうでしょうか?」
(共通点か……)
まぁ、違いに比べれば危険度が低い話題かもしれない。
そう考えて二人にそのまま伝えると、カリーナはすぐさま機嫌を直した。
「共通点なら大丈夫そうですね! ドロシー、いいでしょ?」
「油断ならんけど、まあ共通点ならいいか……」
ドロシーがぎこちなく頷くと、さっそくリマリアは思考モードに入ったようだ。
その間に、カリーナが俺に視線を向けてくる。
「八神さん、次は絶対にリマリアがなんて言ったか教えてくださいね!」
「それは……」
「いいですね……?」
「……はい」
さらに念を押されたところで、俺は観念し頷いた。
確かにカリーナからすれば、せっかくリマリアと話に来たのに彼女の反応を知られないのも面白くないだろう。
彼女が何と答えるか心配ではあるが……こうなれば俺も腹をくくろう。
「ドロシーとカリーナの共通点、適当でくだらないものは……」
答えを導き出したのか、リマリアが静かに口を動かしはじめる。
俺もそこで考えるのをやめ、彼女の唇の動きを読むのに集中する。
「仕事を愛しすぎていて、人間の恋人ができ……」
「終了―!!」
「おわりー!! だから言ったのに!!」
二人は口々に大声をあげ、両手をぶんぶんと大きく振った。
双方かなりのダメージを受けたらしい。二人は赤くなるのを通り越して涙目になっている。
そんな二人をしっかり見てから、リマリアはもう一度口を開く。
「まだ続きがあるのですが」
「トドメを刺す気かい!?」
「リマリア……恐ろしい子……!」
全力でツッコむドロシーの隣では、カリーナが爪を噛みつつ慄いている。
そんな中でただ一人、当の本人はというと……
「……?」
頭に疑問符を浮かべ、自らの所業に全く気付いていない様子だった。
「今、リマリアの思考を鍛えているんだってな? あたしも協力させておくれよ!」
俺が店を訪ねるなり、ドロシーはニヤリと笑ってそう言った。
いい商品が入ったというので来てみたが……俺の他にはJJの姿しかない辺り、どうも彼女に謀られたらしい。
ドロシーが俺を呼んだ理由は、なんとなく想像がつく。
クベーラ騒ぎで他支部からの仕入れが少なくなり、つい先日まで繁盛していた産業棟にも閑古鳥が鳴いている。
だから暇潰しの相手として、俺やJJが呼ばれたというところか。
……しかしまあ、ドロシーのことだから、善意でリマリアの助けになろうとしているのは本当だろう。
「よろしくお願いします」
そう言って俺が頭を下げると、JJが同情するようにため息をついた。
「とはいうもののドロシー、何をすればいいのか分かってるのか?」
「分からんからおっちゃんを呼んだんだぞ! やり方は考えてるんだろ?」
「んー……まあな」
JJは生え揃った白い顎髭をさすってから、ニヤリと笑った。
「まず、リマリアは記憶力が優れていて判断速度も抜群だが、それは頭脳と感覚器が人間と違い、独自の思考系統を持つからだと……」
「分かるように説明してくれんかね!」
JJが専門的な講釈をはじめようとしたところで、ドロシーが強引に中断させる。
話を止められたJJは不服そうだったが、そこは大人だ。ため息をついて言い方を変える。
「商売に例えるとだな……リマリアはお客の欲しいものを棚から出してくるのは早いが、その商品の説明ができず、違う商品のおすすめもできない、てとこだ」
「びっくりするほど分かりやすいな……天才か?」
話を聞いたドロシーが、腕を組んで感心してみせる。先ほどまで怒鳴っていた人間の態度とは思えず、その変わり身の早さにJJが胡乱げに彼女を見た。
「つまり商売人というより自動販売機みたいなもん、ってわけだ」
「ああ。リマリアって名前を考え出した時なんかは、かなり頑張ってるがな。それと同じか、それ以上の思考がいつでもできるように鍛えねばならん」
「で、どうやるのさ?」
ドロシーに尋ねられたJJが一つ頷き、真剣な視線をリマリアに向ける。
「リマリア、今日のドロシーはどうだ?」
「……え、あたし?」
「今日のドロシー、ですか? 脈拍、血圧の数値はバイオリズム周期と誤差の範囲で、健全な状態です」
唐突な質問だったが、リマリアはすぐさま対応してみせる。
俺は回答をそのままJJに伝えるが……しかし、JJはゆっくりと首を左右に振る。
「違う、そうじゃない。もっと非理論的に語ってくれ。適当で、いい加減で、くだらないやつだ」
「…………?」
「待て待て! おっちゃんは何を求めているんだ!?」
「事実から離れろってことだよ。例えばドロシー、お前さん昨日何かいいことがあっただろ?」
「いいこと? あったけど、なんで分かったんだ?」
「なんとなくだ」
「はあ!?」
「ま、まあまあ……」
からかわれていると感じたのか、ドロシーがJJに詰め寄ろうとする。
俺が仲裁していると、リマリアが真剣な声色で呟く。
「私にはいいことがあったとは、分かりませんでした」
「……!」
「彼女は何と言ってるんだ?」
「彼女にはドロシーの変化が分からなかった、と」
俺がそのことを伝えると、JJは狙い通りという笑みを浮かべる。
「分かんなくていいって……つか、おっちゃんはなんで分かったんだよ」
「理屈じゃないんだよな。いつもより声の調子がいい気がする、とか……根拠は特にねえんだ」
「デタラメだよな……?」
自分の表情筋を触って確かめるドロシーをよそに、JJからの講釈は続く。
「細かく調べた情報を正確に言い続ける、なんて気持ち悪いだろう? 人ってのは適当でいい加減で間違ってるんだよ」
「適当で、いい加減で、間違っている、ですか……」
「そうだ! そういう感じでもう一度、今日のドロシーはどうだ?」
「質問は変えないのかよ……」
ドロシーの突っ込みには見向きもせず、JJはリマリアのいるほうに熱い視線を向ける。
当の本人はといえば……予想はついていたが、やはり苦戦している様子だ。
「……できそうか?」
「難しいです……普段との差異を判別することはできるのですが。それを答えるのではなく、ここで思考、思考……」
そのままリマリアは思考の海に沈んでいくように、何も話さなくなってしまった。
「……時間がかかりそうだな。ドロシーも自分で考えてみるか?」
「自分で今日の自分をどう思うかって? 適当に、くだらないやつだよな……えーと……」
「はい回答はドロシーから!」
考える時間を与えないように、JJが柏手を打って回答を促す。
「ええっ!? えーと、えーと……今日は売り上げが少し増えそうだと思っている。なぜなら、さっき鏡で見たあたしはかわいかったからだ!」
「……」
「……」
慌てて答えたドロシーがまくし立てた後、その場は沈黙に包まれた。
「何言ってんだお前ェ……」
「あんたが答えろって言ったんだろが!!」
引き気味のJJを見て、ドロシーが顔を真っ赤にして怒鳴る。
(ドロシーがかわいく見える、か……)
それは普段と比べて、ということなのだろうか。
それとも普段から彼女は自分自身のことを……
「あんたも真剣に分析すんな!」
ドロシーに勢いよく頭を叩かれる。……どうして気づかれたのだろう。
「まあ適当ではあったな。じゃあ次、リマリア!」
頭をさすりつつリマリアに目を向けると、彼女は今も真剣に考えている様子だったが……
答えに至ったのか、ふいに前を向いた。
「今日のドロシーは、年上の恋人を欲しがっています」
「…………」
なんとも伝えづらい答えが出てきた。
「お、答えは出たようだな。で、リマリアはなんだって?」
表情に出てしまったらしく、JJからそう尋ねられる。
迷うところだが……言わない、という選択肢はなさそうだ。
「ええと……今日のドロシーは、年上の恋人を欲しがっている、と」
「何言ってんだお前ェ……」
ドロシーが冷たい視線を俺に向ける。
「いや、今のは俺ではなくリマリアが……」
「いいぞ、そういう感じだ!」
「いいのかよ!?」
(……年上の恋人か……)
「だから分析しようとすんなー!」
俺が考えをまとめる前に、鋭いツッコミがそれを遮る。
「で、そう考えた根拠はなんなんだ?」
「鏡を見てかわいかった、と言ったので、そうではないかと」
「年下の男にかわいいアピールはしねえもんな。悪くない思考だ! その調子で行こう」
「一応理由はあるんだな……」
大きく頷くJJと、反論に詰まった様子のドロシー。二人の反応は対照的だが、リマリアが思考したということには疑問を挟んでいない。
なるほど、確かにこういう会話を続けていけば、リマリアの思考力も高まっていくかもしれない。
「で、実際はどうなんだ? 今日は年上好みな日なのか?」
「日替わりみたいに言うなよ!」
からかうようなJJの言葉に、ドロシーが素早く噛みついた。
「日替わりじゃないのか?」
「日によって違うものなのですか?」
JJとリマリアがそれぞれ真剣なトーンでドロシーに聞く。
JJは重ねて茶化しているのだろうが……リマリアのほうは真剣そのものだ。
ドロシーにもそれが分かるのだろう。
だからこそ、一度は振り上げた拳の行き場も見当たらない様子で……
「……決まってない」
沈黙のあと、ドロシーは素っ気なくそう答えた。
「やっぱり日替わりじゃねえか」
「決まっていないものなのですね。好みは変動する……覚えました」
「そういうもんだよ! そういうもんだって! 」
その場の空気に耐えられなくなったのか、ドロシーが助けを求めるように俺を見た。
「セイだって、その時の気分で気になる相手が変わったりすんだろ!? なあ!?」
「……えっ」
「一途かよ!! こんちくしょー!!」
俺の反応を見て、ドロシーが叫びに近い声を上げる。
そのまま暴れるように身体を悶えさせるドロシーだが、フォローの言葉もなかなか見当たらない。俺個人としては、人に恋愛感情を持ったことはないが……対象者を日替わりで変えるというのは不義理に思えてしまう。
とはいえ、これは俺個人の考え方だ。一般的な感覚で言えば、ドロシーのほうが当たり前の気もするのだが……
「ドロシーは何を必死になっているのでしょうか? これは適当で、いい加減なものなのでは?」
「うっ……!」
リマリアの言葉を聞いて、ドロシーが胸を抑えた。
確かに、リマリアが言うように適当に対処していれば、ドロシーのダメージも最小限で抑えられたはずだ。
さらに今の反応で、ドロシーが真剣に答えていたことがなおさら明け透けになってしまった。
項垂れるドロシーに代わり、JJがリマリアの質問に答える。
「不確定、というのも実は重要なんだ。AとBのうち、Bという選択を否定しないというのはな」
「また適当なフォローを……」
「いや、そうでもない。常識や事実として認識している物事の逆の可能性を考えるのは、偉大な発明や進歩において必須だ。アラガミに喰われる人類が、その力を利用して逆にアラガミを喰う神機を作った、なんてまさにそれだろう?」
「逆転の発想ってやつかい」
「つまり、でたらめな選択や答えだったものが、重要な発見に繋がることがある訳ですね」
二人の会話を聞いていたリマリアが、納得するように頷いた。
そもそもの始まりは、そういう話じゃなかった気もしたが……
ひとまずその場は、偶然も大事である、という結論で幕を引いたのだった。
JJたちとのやりとりがあってから、数日後――
俺たちは数人のゴッドイーターを連れて、討伐任務のため遠出をしていた。
目的は支部近辺のアラガミの討伐と、ネブカドネザルの捜索だ。
クベーラの討伐以降、ネブカドネザルは再び姿を見せなくなっていた。
……ヤツのことだ。おそらく強化されたリマリアを警戒し、力をつけている段階なのだろう。
だから俺やゴドーは、こうして支部から離れた位置も捜索し、ヤツから餌を奪うことで誘い出そうとしている訳だ。
とはいえ、リマリアが手に入れた力がどれ程のものになるかは未知数だ。
波動の探知はもちろんのこと、彼女が戦闘中に自ら思考するようになれば、その恩恵は計り知れないものになるだろうが……
ネブカドネザルが力をつけるのが先か、リマリアが思考法を習得するのが先か――それによってヒマラヤ支部の未来が決まると言ってもいい。
それくらい、俺たちに課せられたミッションは重要なもの……のはずなのだが……
『バイタル確認! リマリア、調子はどうですか?』
「今、適当でくだらないことを考えています」
「……くだらないことを考えている、そうです」
『はい? どういうことですか?』
リマリアの発言を伝えると、カリーナが素っ頓狂な声を上げる。
至極当然の反応だろう。
「実は……」
そう言って、俺はJJから教わった思考訓練法について、カリーナに伝えた。
『はあ……それは構いませんけど、戦闘中は集中してくださいね?』
「……はい、すみません」
謝るようなことではない……はずだ。
あくまでリマリアは、真剣にくだらないことを考えているのだから。
「今日のカリーナは……」
そうしてリマリアは、さらにリマリアはカリーナについて思考を巡らせようとする。
俺が頭を抱えそうになったところで――
『アラガミ反応! 討伐を開始してください!!』
通信機越しにカリーナの真剣な声で俺たちに告げる。
「リマリア! 準備はいいか?」
「はい。切り替えます」
「オオオオオオオオオオオオオ……!」
目の前に立ちはだかるアラガミを睨みながら、ロングブレードを強く握りしめる。
続けて大きく深呼吸してから、俺はヤツらへ向けて斬り込んでいった。
「ふぅ……」
『任務完了です! 迎えのヘリを待つ間はくだらないことを考えてもいいですよ』
戦闘が終わったところで、カリーナが通信機越しにそう言った。
「……だそうだが、どうだ?」
「そうですね……」
カリーナの明け透けな言い草に苦笑いしつつ、リマリアを見る。
すると彼女は、神妙な表情を浮かべながら口を開いた。
「今日のカリーナは、少し機嫌が悪い?」
「……カリーナが?」
『私がどうかしたんです?』
「ああ、いや……」
会話を止めるのも変かと思い、カリーナにリマリアの推理を伝える。
『えっ、私がですか? 機嫌が悪い……?』
するとカリーナは、少しの間戸惑っていたが……
『あっ、そうかも!』
何か心当たりを見つけたのか、驚き交じりにそう口にする。
『私は毎朝、今日の運勢を見て部屋を出るんですけど、今日のは最悪だったんですよねぇ……。だから思ってたんです、早く一日が終わらないかなって!』
「なるほど……」
『でも、なぜ気付いたんでしょう?』
カリーナが不思議そうな声色を漏らす。
それに反応するようにリマリアが口を開いた。
「話し方がほんの少しだけ早くなっていましたので、その理由を考えてみました」
「カリーナさんの話し方が、いつもより早くなっていたそうです」
『えー! 自分では全然気付かなかったですよ! 隊長補佐は気づきました?』
「……いえ、気付けませんでした」
『ですよねー! 私の喋りっていつも一定の速さじゃないと思いますし!』
カリーナの声を聞きながら、リマリアのほうを見る。
俺も、話している本人も気がつかなかった微妙な変化に、リマリアが気づいた。
それがどうしてか、俺には特別なことのように思えた。
「まずは気づくこと。そこから思考を広げていく……分かってきました」
自分の胸に手を当てながら、リマリアが言う。
表面的には分かりにくいことだが……なるほど。
リマリアの思考能力は、確かに成長しているようだ。
「おかえりなさい、隊長補佐! リマリアも!」
広場まで戻ったところで、俺とリマリアをカリーナが笑顔で出迎えてくれた。
その隣には、ドロシーの姿もある。
「ただいま帰りました。カリーナさんは休憩中ですか?」
「はい。それで、ちょっとリマリアとお話したくなりまして……!」
カリーナはどこか気恥ずかしそうに言いながら、リマリアを探すように視線を巡らせる。
ということは、ドロシーと二人でリマリアを待ち構えていたという訳だ。
「あたしは違うよ? あくまでリマリアの思考力を鍛えてあげようってね」
おそらく暇潰しに来たのだろうドロシーが、椅子に座って足を組む。
「ちょっとドロシー、自分だけ……」
「で、リマリアはまだくだらないことを考えるトレーニング中かい?」
カリーナからの非難を聞き流しつつ、ドロシーは余裕たっぷりに口にする。
「はい、トレーニング中です。今はカリーナとドロシーの違いについて考えています」
対するリマリアの回答は、また俺の想像の斜め上を行く内容だ。
案の定、伝えると二人はすぐさま食いついたが……なんとなく、嫌な予感がするのは俺だけか?
「私とドロシーの違いですか。それもできるだけくだらない違い、ねえ?」
カリーナは興味をそそられたのか、レクリエーションを楽しむようにドロシーに目を向ける。
「ねぇ、ドロシー。私たちの違いって、どんなことがある?」
しかしそこで、ドロシーがハッとしたような様子を見せた。
そのまま足を崩して立ち上がると、警戒するように距離を取る。
「言っとくけど、あたしは今回ノーコメントだぞ!」
「えー? 面白そうじゃない! ドロシーも考えてよ!」
「い、いやいや……まずはカリーナが言いな!」
カリーナからの言葉に、ドロシーはぶんぶん首を横に振る。
どうやらこの間の思考訓練は、ドロシーの中に深い傷跡を残したようだ。
しかしその時に居合わせなかったカリーナは、怯えるドロシーを気にしながらも、あくまで楽しそうに考えを巡らせていく。
「……くだらない違いでしょ? 服の趣味……は、ダメだ切実なやつだ! スタイル……あーっ、なし! 今のなし!!」
「自分から地雷を踏みに行くタイプだな……」
挙手しては頭を抱えの繰り返し……一人で自爆していくカリーナを見て、ドロシーが呆れたようにツッコミを入れる。
この間の彼女も似たようなものだった気もするが……と考えていたら、ドロシーに一睨みされた。
そこでリマリアが何か思いついたのか、カリーナを真似て挙手をする。
「支部内のファン層の違い、というのはどうでしょうか」
「……!!」
不意打ちをくらった俺は、慌てて姿勢を正しつつ、小声でリマリアに話しかける。
「……リマリア、それはアウトだ」
「何故でしょうか? くだらないと思ったのですが」
「駄目だ。それをくだらないと言うこと自体に、リスクが……」
「……アウト?」
「――!」
なんとかリマリアに説明しようとしていると、背後にいるカリーナから声がかかった。
「どうしました? リマリアは何と?」
「おいやめろ! 意外と攻めてくるぞリマリアは!」
「攻める? 私が神機だからでしょうか?」
「いや、そういう意味ではなくてだな……」
「もー、八神さん! ちゃんとリマリアがなんて言ったか、教えてください!」
さらにカリーナから詰め寄られた俺は、ついリマリアの言葉を言いたくなるが……
多分口に出してしまえば、確実に誰かを傷つけることになる。
「……!」
そう考えた俺は、ぐっと堪えてそっぽを向いた。
「むぅ、まさか八神さんがここまで口をつぐむなんて……」
「な? それだけのことを口にしたんだよ、奴さんは……!」
もはや誰になんと言われようが退く気はない。
ひとまず先ほどのリマリアの発言は、俺の心の中に閉まっておくことにする。
「なーんか、釈然としないなぁ……」
「いや、あたしはむしろ助かったんじゃないかと思うけどね。……そもそも『あたしたちの違い』って話題の時点で、ちょっと危なすぎたんだよ」
カリーナが不服そうにする隣では、ドロシーがほっと額の汗を拭っている。
それを見ていたリマリアが、再び口を開いた。
「では、ドロシーとカリーナの共通点はどうでしょうか?」
(共通点か……)
まぁ、違いに比べれば危険度が低い話題かもしれない。
そう考えて二人にそのまま伝えると、カリーナはすぐさま機嫌を直した。
「共通点なら大丈夫そうですね! ドロシー、いいでしょ?」
「油断ならんけど、まあ共通点ならいいか……」
ドロシーがぎこちなく頷くと、さっそくリマリアは思考モードに入ったようだ。
その間に、カリーナが俺に視線を向けてくる。
「八神さん、次は絶対にリマリアがなんて言ったか教えてくださいね!」
「それは……」
「いいですね……?」
「……はい」
さらに念を押されたところで、俺は観念し頷いた。
確かにカリーナからすれば、せっかくリマリアと話に来たのに彼女の反応を知られないのも面白くないだろう。
彼女が何と答えるか心配ではあるが……こうなれば俺も腹をくくろう。
「ドロシーとカリーナの共通点、適当でくだらないものは……」
答えを導き出したのか、リマリアが静かに口を動かしはじめる。
俺もそこで考えるのをやめ、彼女の唇の動きを読むのに集中する。
「仕事を愛しすぎていて、人間の恋人ができ……」
「終了―!!」
「おわりー!! だから言ったのに!!」
二人は口々に大声をあげ、両手をぶんぶんと大きく振った。
双方かなりのダメージを受けたらしい。二人は赤くなるのを通り越して涙目になっている。
そんな二人をしっかり見てから、リマリアはもう一度口を開く。
「まだ続きがあるのですが」
「トドメを刺す気かい!?」
「リマリア……恐ろしい子……!」
全力でツッコむドロシーの隣では、カリーナが爪を噛みつつ慄いている。
そんな中でただ一人、当の本人はというと……
「……?」
頭に疑問符を浮かべ、自らの所業に全く気付いていない様子だった。