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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第七章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~7章-3話~
「……ここも、問題はなさそうだな」
 本日最初の任務はアラガミの討伐ではなく、対アラガミ装甲壁の状態確認だった。
「内回りの点検はこれでよし。隊長補佐、そちらは?」
「チェック終了。異常ありません」
 リュウの言葉に、同じく装甲壁の確認を行っていた白髪の女性が返事をする。
 今回のような状態確認作業において、彼女は実に役立ってくれていた。
「問題はないそうだ」
「了解です。……僕としてはちょっと心配なんですけどね。存在を認識できないもののチェックを信じるというのは」
 彼女の返事をリュウに伝えると、彼は複雑そうに答えた。
「彼女がこの作業に携わることは、クロエ支部長も承認済みだ」
「それは知っていますが……レイラの戦闘能力を、正確に数値化してみせたそうですね。それがクロエ支部長の見立てに一致していたと」
「ああ」
「……なんだか珍しいですね? 隊長補佐がそれだけ肩を持つなんて」
「ん? ……まあ、そうだな」
 指摘されたことで、俺もはじめてそのことに思い至る。
 リュウが見えないものを信じないのは今日に始まったことではない。
 これまで似たような話をした時、俺から反論したことはなかったが……どうして今日に限って、彼女の肩を持ったのだろう。
 彼女からの視線に気づいた俺は、そっと目を伏せた。
「……とにかく、彼女の判断の正確性は俺が保証する」
 俺が言うと、リュウは困ったような表情をする。
「僕も隊長補佐を疑うつもりはありませんが、もしミスがあった場合のことを考えると……ん?」
 と、そこでリュウは、視線を俺の背後に向けた。
「……あ、あの」
 振り向けば、そこには一人の少女が立っておろおろしていた。
 この外部居住区に暮らす少女だろう。
 かすかに見覚えもある。以前に住民たちに囲まれたとき、遠巻きに俺たちを見ていたかもしれない。
「君は……そうか、家はこの近くだったね」
 リュウはそう言って、彼女に軽く笑いかけた。
「この前は親切にしてくれてありがとう」
 リュウの言葉に、少女はぶんぶんと首を横に振って答えた。
 どうやら知り合いみたいだが……リュウが少女と仲良くなる姿はなかなか想像がつかない。どういう間柄なのだろう。
 考えていると、少女が壁の一部に向けて指をさす。
「あの、そこ……よく、見て……」
「壁の、ここかい? ……特に傷もないけど、どうかした?」
 俺もリュウと共に壁を注視してみるものの、特に異常は感じられないが……
「穴があいて、アラガミが入ってきたの。そこから……」
「ああ、あの時の……」
 少女の言葉を受け、俺も理解する。
 クベーラと二度目に交戦したあの日……アラガミたちはあそこからやってきたのだろう。
「……この子が一人暮らしなのは、そういうことか」
 彼女に聞こえない程度の声で、リュウが小さく呟いた。
 察するに、少女の親はその時亡くなったのだろう。一人で生きていくには、厳しい年齢に見えるが……
「またそこに穴があくかもって、心配で……」
 そう言って俯いた少女の前に、リュウは目線の高さを合わせるように屈み込む。
「そっか……分かった、ここは毎日点検するよ。今は完璧、絶対に壊れたりしないさ」
 笑いかけ、リュウは彼女の頭にポンと手を置いた。
「大丈夫かな……」
「……ああ。リュウ・フェンファンが約束する。何が来ようと、この壁は破らせない!」
 安心させるように、リュウは力強く言い切ってみせる。
「……うそ」
 しかし少女は、その大きな両目でリュウを見つめながら、そう口にする。
 ……賢い子だ。周りの大人たちから聞いたのか、自分で判断したのか分からないが、リュウが嘘をついたと見抜いたのだろう。
 それでもリュウは、悪ぶれもせずに少女の頭を優しく撫でる。
「疑ってくれていいよ。僕は約束を守る、それだけだ」
「……」
「さあ、行きましょうか隊長補佐」
 少女が小さく頷くのを見てから、リュウは立ち上がり俺に声をかけてきた。
 その間も少女は、リュウの顔をじっと見上げたまま、何かを考えているようだった。



 今日は一日、リュウに付き合うことになっている。
 壁の点検を終えた俺たちは、その足で素材集めのため討伐任務に向かう。
「隊長補佐、僕が嘘をついたの、気になりますか?」
 少女の姿が見えなくなったところで、リュウがそう声をかけてきた。
「必要なことだったんだろう?」
「……それは、分かってくれているんですね」
 俺が答えると、リュウはどこか安心したように笑う。
 先ほど少女に向けていた、兄のような表情とはまた違った笑みだ。
「ご存知の通り、対アラガミ装甲壁が絶対に破られない、なんてことはあり得ません」
「ああ」
「この支部に限った話という訳でもない。中国支部や極東支部でも、支部の壁は万全ではなく、アラガミに破られることがあります。……壁の面積はあまりに広く、素材不足は元より、補修作業も大変ですから」
 話ながら、リュウは壁を仰ぎ見る。
 そもそもが厳しい話なのだ。
 アラガミの素材を手に入れられるのは、ゴッドイーターしかいない。
 しかしどこの支部でも、ゴッドイーターは慢性的に不足している。
 そのうえ、素材は壁の補修のみに使われる訳ではない。装備の強化、開発など……その用途は多岐に渡るのだ。
 そして……そこまでして壁の補修をしたところで、壁の強度には限界がある。
「新たなアラガミが出現するたびに素材を手に入れて補強しないと、何でも捕喰するアラガミは、壁なんて簡単に喰い破ってしまいますからね」
 だから新しいアラガミが現れた時には、速やかにオーダーが発令される。支部に接近する前に討伐できなければ、壁が意味をなさないからだ。
 そうした多くの制限のなかで、この壁は辛うじて意味を為しているに過ぎない。
「このことは住民たちも知っている……あの少女もおそらくは」
「……」
 リュウの推測は恐らく正しい。
 だからこそ外部居住区の住民たちは皆、自分たちの不安を和らげようと俺たちゴッドイーターに不満をぶつけているのだろう。
「それでも、リュウは嘘を吐いたんだな」
 咎めるつもりはない。
 単純に、リュウが何かを言いかけていたように思えたので、そう尋ねる。
 リュウはわずかに目を細めた。
「あの子を見て、実家の妹のことを思い出したんです。とてもアラガミを恐がっていました……あの子のように」
 ほとんど抑揚もつけず、リュウは滔々と語っていく。
 しかしその瞳の色は濁っており、どこか苦悶の表情のようにも見えた。
「ホーオーカンパニーは神機を作る企業ですから、両親は幼い妹にも容赦なく現実を教えました。……人類が直面している危機を、全部です」
 リュウは吐き捨てるように言ってから、取り繕うように肩をすくめた。
「そうしたら、妹は笑わなくなってしまったんです。……笑えない真実なんて、ありがたくないですよね」
 そう言ってリュウは同意を求めてくる。
 それにどう答えるべきか……俺には若干のためらいがあった。
 嘘は人を傷つける。
 それはどんな場面、状況……そしてどんな優しい嘘だとしても変わらない。
 リュウだって、家族から騙されていたと知って、ショックを受けたばかりのはずだ。
 そして傷つくのは、嘘を吐かれた側だけではない。
 少女の信用を裏切った時、リュウは誰よりも傷つくことになるだろう。
 嫌われるだろう。憎まれることだってあるかもしれない。
 だが……
「……そうだな。リュウの言う通りだ」
 そう言って、俺も嘘を吐いた。
 リュウは自分が傷つくことも覚悟したうえで、少女を安心させるために笑ったのだ。
 そんな彼の優しさが、間違っているとは思えない。
 だとすれば、これは嘘ではないのだ。リュウの言葉を、本当にすればいい。
 もう二度とヒマラヤ支部の壁は破らせない。
 そうすれば、リュウの言葉は嘘にならずに済む。
「……優しいですね、あなたは」
 俺の表情から何を読み取ったのか、リュウは薄く笑みを浮かべた。
「不正確な情報はエラーの原因になります」
 そこで白髪の女性が姿を現し、俺たちに向けてそう言った。
「今は……」
「八神さん? どうかしましたか?」
 小声で彼女を止めようとしたのをリュウに見つかり、俺は小さくため息を吐いた。
 リュウの覚悟に水を差すのもどうかと思いつつ、とはいえ彼女だけ除け者にするのも気が引ける。
「……不正確な情報はエラーの原因になる、だそうだ」
 観念した俺がそう伝えると、リュウは笑った。
「そうですね。ですが不正確な情報も、エラーもない人間なんていませんよ」
「不正確な情報も、エラーもない人間はいない……?」
 彼女はリュウの言葉をそのまま繰り返してから、首を傾げた。
 それには気がつかず、リュウは自分の胸元を見ながら、確かめるようにゆっくりと語る。
「……嘘も間違いもない、真実だけに囲まれて生きている人なんていない。そして、真実だけが人を幸せにするわけでもない……」
 そう言って前に向き直ったリュウは、
「きっと、そうなんですよね」
 どこか吹っ切れた様子で俺たちを見た。
「ああ。俺もそう思う」
 俺が頷くと、リュウは照れくさそうに視線を逸らした。
「……」
 一方の彼女は、リュウの発言の意味が理解できなかったのだろう。戸惑うように俺とリュウを交互に見ている。
 俺たちに背を向けたリュウは、両手を組んで伸びをして、だらんとその腕を脱力させた。
「何だか、気が楽になりました……あの子に嘘を言ったこともですが、実家に騙されていたことも、少し許せる気分になったかな」
 ふぅ、と軽く息を吐いたリュウがこちらに向き直り、視線を俺の隣に向けた。
「お礼を言わせてください。……神機さんというのが本当にいるなら、ですけど」
 そう言って、リュウは彼女に軽く頭を下げた。
 それに困惑したのが彼女だ。
「なぜ、お礼を言われるのでしょうか? 私の発言が正確に伝わっていないと思われるのですが」
「……ああ、そうみたいだな」
 助けを求めるような彼女に、俺は多くは話さなかった。
 確かに二人の会話は噛み合っていなかったが、それでいいと思えたからだ。



 キュルキュルと不快な音を立てながら、クアドリガがこちらに近づいてくる。
 その動きは重厚な見た目からは想像がつかないほどに速い。
 遠近感を狂わせるそのデカブツの正面に立ち、ギリギリのところでリュウと左右に分かれて避ける。
 その動きを読んでいたかのように、クアドリガの背中から金属音――
「隊長補佐! ミサイルが来ます!」
「ああ!」
 リュウの声に答えると同時、クアドリガの背中から二発のミサイルが発射された。
 標的はどうやら俺らしい。距離を取れば、ミサイルは軌道を変えて俺を追いかけてくる。
 しかし、このミサイルの対処法は理解している。
「ふっ!」
 その場に立ち止まった俺は、限界までミサイルを引き付けて――ギリギリで正面にステップする。
 ミサイルは俺の背後に着弾し、爆発。砕けた礫が飛んでくるが、この程度は気にするまでもない。
 そのまま爆風を利用し、俺はクアドリガへと急接近する。
 それを見て取ったクアドリガは再びミサイルを発射しようとしてくるが――
「それ以上は撃たせません!」
 リュウの放ったバレットが、クアドリガの開いたミサイルポッドを正確に撃ち抜く。
「グオオオオ!?」
 内部で何度か誘爆が起こり、クアドリガは咆哮と共に仰け反った。
 そして、
「終わり――だ!」
 生じた隙に乗じて、俺はクアドリガの装甲内部へと神機を叩き込んだ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「――……っ!」
 鈍い光を纏った神機が、クアドリガの抵抗を許さない。
「ガアア……ッ」
 刀身が完全に埋もれるほどに突き刺したところで、クアドリガは脱力し、大きな金属音を立て動きを止めた。
『クアドリガの反応消失……お疲れ様でした!』
 通信機からカリーナの声が耳に届き、戦闘終了を俺たちに告げた。
 すぐにリュウが、俺の前にやってくる。
「隊長補佐、お疲れ様でした」
「ああ。さっきはフォロー、助かった」
「いえ、当然のことをしたまでです」
 リュウはにこやかにそう言うと、俺の前を通り過ぎてクアドリガに近づく。
 実家に送る分のアラガミ素材を収集しておきたいのだろう。
 相変わらずの姿に、思わず苦笑がこぼれる。
「それにしても……」
 リュウは作業を続けながら口を動かす。
「レイラの巡回討伐だけでは、やはり新手のアラガミの接近を完全には阻止できなさそうですね」
「……みたいだな」
 今日の任務はクアドリガのアラガミ素材を得ることが目的だった。
 それを円滑に達成できたと喜ぶには、今回の交戦はあまりに支部から近すぎる。
 いまやヒマラヤ支部は、大型種が簡単に壁付近まで近づいて来られる状況なのだ。しかもレイラたちがほとんど休まず巡回討伐を行っているにも関わらず、である。
「だんだん分かってきました。手薄なエリアのアラガミ討伐に出るのも、壁の管理者として必要なことのようですね」
「……そうだな」
「アラガミを防壁に近づけない。攻撃は最大の防御といいますしね」
 自分に言い聞かせるようにして、リュウは呟く。
「無茶はしすぎるなよ?」
「分かっていますよ。何かあったら隊長補佐にも手を貸してもらいますから」
「ああ。俺にできることがあれば、どんなことでも言ってくれ」
「相変わらずお人好しですね……」
 少し呆れたようにリュウが息を吐く。
 斜に構えた姿勢は見慣れたものだが、俺に言わせれば彼も相当なお人好しだ。
 以前であれば、想像もつかなかったことだ。
 壁を守るためという理由こそあるものの、リュウが自然にレイラの手助けをしようとするとは……
 壁を守るという約束を果たそうとしていることや、少女に対する振る舞いもそうだ。
 言い方は悪いが……少し前まで、リュウの発言や行動は、形ばかりが先行しているように見えた。
 取り繕って優しい言葉を並べていても、本当は冷めた目線で相手を見ているような……
 しかし、今のリュウからそんな雰囲気は感じない。
 自然に周囲のことを気にかけ、自分にできる一番適切な行動を取っているように感じる。
「じゃ、そろそろ帰りましょうか」
 素材をあらかた集め終わったところで、リュウが柔らかな口調でそう言った。



「すみませんね隊長補佐、また素材をもらってしまって」
 外部居住区まで戻ってきたところで、リュウはポツリとそう言った。
「約束だからな。気にしなくていい」
「ありがとうございます」
 リュウは素直に返事をしてから、少し考えるような間を置いた。
「そうだ。戻ったら何か食べます? 奢りますよ」
「いや、本当に気にしなくても……」
「そう言えば、コーヒーが好きなんでしたっけ? たしか前にドロシーさんたちが……」
「違う」
 つい被せ気味に否定してしまう。
 嫌いではない……と思うが、あれだけ苦いものを進んで飲む気にはなれなかった。
「じゃあ、どんなものが好きなんです?」
「それは……」
 リュウに尋ねられて、言い淀む。
 正直、食事にこだわりを持ったことはない。個人的には、身体が動く程度に食べられればそれで十分なのだが……
「……クッキー、とかか?」
 考えて出てきた答えは、安直なものだ。
 昔、よくマリアが焼いて皆に振舞っていたのを思い出す。
「へぇ、意外と甘党なんですね」
「いや……」
 否定しかけるが、確かに好き嫌いが多かった子供の頃でも、甘いものを拒絶した覚えはない。
(もしかして俺は、甘党なのか……?)
 と、くだらないことを考えていた時だった。
「……」
 一人の少女が、おずおずとリュウに近づいてくる。
「ああ、君か。何か用かい?」
「……」
 リュウが尋ねるも、少女は何も答えない。
 何か言いたいことがあるが、伝えるべきかどうか迷っている、というところだろうか。
「僕がちゃんと仕事をしているか、確かめにきたのかな?」
 リュウは優しい口調で、しかし彼女に伝わらない程度の皮肉を交えて尋ねた。
 攻撃的な口ぶりに少し驚くが……
「違う……」
 少女はぶんぶんと大きくかぶりを振ってから、すがるようにリュウを見つめた。
「あの、ありがとう」
「え……」
 少女の言葉を聞いたリュウが、驚いたように目を見開く。
 そうして放心したのも一瞬。リュウはすぐに調子を戻す。
「……ああ、毎日点検するって言ったのは、ただの仕事だ。やって当然のことだから、感謝されるようなことじゃない。……じゃあね」
 どこか言い訳がましくそう言うと、リュウは少女に背を向けた。
「あ……」
 その背中へ向け少女が手を伸ばすが、リュウは振り返りもせず歩いていく。
「……悪気はないんだ。許してやってくれ」
「……うん、わかってる」
 あとに残された俺が少女に声をかけると、彼女はすぐさま頷いてみせた。
 その視線は今も、リュウが去っていったほうへ向いている。
 ……どうやらこの子は、俺が思っているよりずっと強そうだ。
 そうなると、気になるのはむしろリュウのほうか。
 俺は少女に会釈してから、彼の後を追った。



「さっきの女の子への態度……ですか?」
 支部の広場でリュウに追いついた俺は、彼に先ほどのことを尋ねていた。
 柄ではないと思いつつも、リュウの冷たい態度は少し気になる。
 少女に同情したからではない。
 リュウが自分を追い込もうとしているように見えたからだ。
「あの子の言葉が、何か気に障ったのか?」
「いえ……もちろん、感謝されて嬉しかったですよ。ですが、それを特別なものにしたら、よくないので」
「……どういうことだ?」
 感謝を特別なものにするべきではない……
 意味が飲み込めずに聞き返すと、リュウは流暢に答えてみせた。
「当たり前のことが当たり前じゃないと、誰も安心しませんよね。壁が保守されて、外部居住区は安全……それが当たり前じゃなくては」
「……だから、あえてあの子から距離を置いたのか」
 今回のことが特別なのではなく、当然のことだと思ってもらえるように。
「だとしたら……リュウのあの態度は不自然だ」
「……自覚はあります。先の言葉になぞらえて言うなら、当たり前の行動じゃなかったですよね」
 リュウはそう言って苦笑する。
「前にゴドー隊長が話していました。特別なことをすれば、余計に人は不安になると。……僕の態度は、あの子を不安にさせてしまいましたかね?」
「多分な。あの子は気にしてないと言っていたが……」
 いずれにせよ、リュウの考え方は少しずれているような気がする。
 嬉しいなら喜べばいい。大事なものには寄り添えばいい。それが自然だ。
 なのにリュウは、そうした行動を自分から避けているようだった。
 まるで少女に対し、壁を作っているような……
「ということは、いつも通りに見せつつも、こっそりいつも以上に働く。それがいいってことなのか……」
「いつも以上に? いや、それは……」
 リュウはおもむろに顔を上げると、尊敬の念を交えて呟いた。
「やはり、ゴドー隊長の流儀は勉強になるな……」
「……待てリュウ。その人の流儀は参考にしないほうがいいと思うぞ」
 最近すっかり、第一部隊の面々に心を開いた感のあるリュウだが、何でも善意的に解釈し過ぎるのも考えものだ。
 特にゴドーは……俺も尊敬はしているが、模範にすべき人ではない気がする。



「言われてるぞゴドー」
 支部の受付で任務の報告をしていると、JJがニヤニヤしながら俺の背中を突いてくる。
 当然、セイとリュウの会話の内容は、俺の耳にも届いていた。
「とりあえず、セイには減俸も覚悟してもらおう」
「おお怖ぇ。口は災いの元ってのは本当だな」
 俺の言葉を聞いて、JJが大袈裟に自分の肩を抱いてみせる。
 その胸元ではハムスターが、口を塞いだまま頬を忙しなく動かしていた。
「……八神さんは悪口を言うタイプじゃないですし、ゴドーさんがよっぽどだってことだと思いますよ?」
 受付に立ったカリーナが、呆れるような視線をこちらに向けてくる。
「長い付き合いの俺より、セイの肩を持つのか?」
「まあ、ゴドーさんがゴドーさんですからねぇ」
 深くため息を吐くカリーナの隣で、JJもうんうんとオーバーに頷いてみせている。
「冗談はさておき、俺もセイの意見に賛成だ」
「お前さんを真似するべきじゃないって?」
「というより、真似になっていないからな。いつも以上に働いてどうする……君はまず趣味を持て、と言ってやりたいところだが……」
 言ったところで、リュウは素直に受け入れないだろう。それに……
「面白そうだから放っておくか」
 せっかくやる気になっているんだ、放っておいても何らかの成果が得られるだろう。
 リュウの戦闘技能についても、件の少女……住民たちとの関係もそうだ。
「そういうとこ本当に雑ですよね、ゴドーさん……」
 カリーナが深々とため息を吐くが……この辺りの感覚については、正攻法しか知らない彼女やセイにはなかなか想像もつかないだろう。
 間違いにしか見えないやり方でも、続けることで思わぬ成果を生むこともある。
 そういう意味で、俺はリュウが今後どう変わっていくのか、少し楽しみに感じていた。


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