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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第七章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~7章-2話~

「八神さんは、クベーラ戦をどのように想定していますか?」
 ゴドー達との話を終えた後、俺とレイラはそのまま巡回討伐へ向かおうとしていた。
「通常の攻撃は、ほぼ効果がないわけですが……」
「ああ。俺やゴドーの攻撃どころか、神機兵すら太刀打ちできなかった。だが、アラガミバレットが有効だという話もある」
「それはわたくしも聞いていますが……戦いながら調達しなければならないのでしょう? おまけにクベーラをネブカドネザルが守っているとなると……」
「ああ。腕の見せどころだな」
 俺が頷くと、レイラが思いっきり顔をしかめた。
「それ、冗談のつもりで言ってます? 全然笑えないんですけど!」
「……」
 冗談のつもりはなかったが……
 言われてみれば、緊張感のない発言だったかもしれない。
「すまない。過酷な戦いになると思う」
「そう断言されるのも、それはそれで複雑ですが……」
 言いながら、レイラはわずかに表情を和らげた。
「……なんて、いつからあなたとこんな風に話すようになったのかしら?」
「言われてみれば……はじめは話す理由がないからと、会話もしてくれなかったか」
 初対面から無視されるというのは、なかなか堪える経験だった。
「会話は必要最低限であるべきです。その考えは今でも変わった訳ではありません」
 レイラはつれなく言ってから、ちらりと俺のほうを見た。
「でも、こうしてあなたと話すのも、悪い気は……」
「おい!」
 俺たちの会話を遮って近づいてきたのは、いつか見た外部居住区の痩せ男だ。
 他の住民たちもその後に続く。
 その剣幕を見るに、単に無駄話を注意しに来たという訳ではなさそうだ。
「中国支部からの輸送機が来なくなったってのは本当なのか!?」
 男は悲壮感も混じる声色でそう尋ねてくる。
「…………」
 残念ながら、クベーラの襲撃で中国支部との空輸ルートが止まったのは事実だ。
 すでに俺たちは、クロエからそう説明を受けている。
 とはいえこの情報は、一般には伏せられているはずだが……
「……空を見ていれば、気付くでしょうね」
 レイラが口にする通りなのだろう。
 危険度の高い外部居住区に住む彼らだからこそ、輸送機の数や発着時間はしっかり確認していたはずだ。
「まずいことになってるんじゃあないのか? 物資の配給は減ったりしないんだろうな?」
「どういうことなんだ、説明してくれ!」
「ヒマラヤ支部がやられたわけではありません。物資の生産は予定通り、配給も減りません」
 余裕なく詰め寄る住民たちを前にしても、レイラは冷静で落ち着いた対応をみせている。
 しかし、それでも住民たちの表情が晴れることはない。
「アラガミは増えているんだろ! でかいやつも増えてるって聞いてるぞ!!」
「中国支部の輸送機が来なくなったのも、それが原因じゃないのか!?」
「…………」
 生活に関わることだけあって、彼らの指摘はかなり的を射ている。
 下手に口を開けば、彼らをさらに不安にさせてしまうだろう。
 とはいえ、黙っていたって同じことだ。
 彼らが帯びる熱は今も上昇し続けているし、臨界点は間近に思える。
(住民を傷つけるような展開だけは、避けたいところだが……)
「お静かに!!」
 俺がある種の覚悟を決めたところで、辺りにレイラの覇気に満ちた声が響き渡った。
「…………」
 彼女の激しい叱咤の声に、波が引くように周囲の喧騒が収まっていく。
 レイラは彼らが完全に黙るのを待ってから、ゆっくりと話しはじめた。
「覚えていますか? わたくしはどれだけアラガミにやられても、必ずここに戻ってくると宣言したことを。……今日はもう一つ、宣言します」
 レイラはそこで一度言葉を区切って、住民たちをゆっくりと見渡す。
 すぅ、と静かに息を吸う。そのかすかな吐息を、その場にいる誰もが聞いた。
「――あなた方がわたくしより先に死ぬことは、あり得ません!!」
「なっ……!」
 戸惑ったのは彼らだけではない。
 レイラの宣言に意表を突かれたのは、俺も同じだ。
「馬鹿なことを……!」
「そんなこと、出来るものか!」
「確かに、わたくしひとり では、あなた方の安全を保障することは困難です」
 糾弾するような言葉の数々を真正面から受けながら、レイラは一切怯みもしない。
「それでも、あなた方の誰かがアラガミに襲われるようなことがあった時には……必ずわたくしがアラガミの前に立ち、先に死にます」
 そして確固たる意志と決意を持って、悲壮な言葉を紡いでいく。
「これは約束です。だからわたくしが生きているうちは、安心してください」
 そこでレイラは――軽やかに笑ってみせた。
 それを見た俺は、信じられない思いだった。
 恐怖に支配された人々に詰められながら、決死の覚悟を語り、慈愛の表情で笑いかける。
 こんな芸当を、彼女の他に誰ができるというのだろう。
 そう感じたのは、俺だけではなさそうだ。
「…………」
 住民たちの何人かは、未だに小声で彼女への文句をぶつぶつ言っていたが、周りが黙っていることに気がつくと、居心地悪そうに顔を伏せる。
 それでも納得した訳ではないのだろう。レイラに視線を向けるのは気が引けるのか、彼らのほとんどは俺を睨みつけた。
 その視線は冷たく、そして険しいものだ。
「今はとても不安で、苦しい時だと思います。ですがわたくしたちと共に、乗り越えて行きましょう」
 彼らの様子に気づいていない訳でもないだろうが、レイラは強引に言葉を締めくくると、言うべきことは全て話したというように踵を返した。
「レイラ・テレジア、出撃します!」



「……言い過ぎだったんじゃないのか?」
 ゲートから居住区の外に出たところで、俺からレイラに声を掛けた。
「そうでしょうか?」
「流石にな。先に死ぬなんて約束をして、本当にそんな時が来たらどうするつもりだ?」
「そうですね……」
 俺の口調は、自然と厳しいものになっていた。
 その言葉を受けて、レイラが少し考えるようにして空を見上げる。
 それから一つ息を吐いて、はっきりと言う。
「わたくし、それで構いません」
「え……?」
「失うものがないとは言いませんが……今のわたくしにとって、ヒマラヤの人々の命より大事なものはありません」
 レイラは迷う素振りも見せずに、言葉を紡いでいく。
「また言い過ぎだと言われそうですけど、本当なのです」
 そう言うと、彼女は支部の居住区がある方角へと視線を向けた。
「これまでずっと、わたくしは自分のことを貴族だ、公人だと言ってきました。……ですがそれは出自のことであって、わたくし自身にしか意味のないものでした」
「…………」
「しかし、ゴッドイーターとしてこの支部を、人々を守っているのだと実感できるようになって、変わったのです」
「変わった、か……」
 俺の言葉に、レイラは静かに頷いた。
「人々がいてこその貴族や公人だということ……彼らがいるから、わたくしが目指すものには意味があるのだと……」
 レイラは目を閉じ、穏やかな表情で話す。
 その脳裏には、きっとヒマラヤ支部に住む人々の姿がよぎっているのだろう。
「リュウがアラガミを恐れない、というのも少し理解できました」
「……」
「ま、今でもアラガミは恐いですけど!」
 最後に冗談めかしてそう言って、レイラは柔らかく笑ってみせた。
 その表情を見れば、彼女が本気でヒマラヤ支部の人々のことを、大事に思っているということがよく分かった。
 自分の命を軽く見るような彼女の発言には、少し思うところもあったが……ここで余計なことを言って、水を差すのは野暮だろう。
「……レイラは強くなったな」
「強く、ですか」
「ああ」
 世辞を抜きにしてそう思う。
 俺には彼女のように、ほとんど知らない人々のために自分の命を犠牲にするような覚悟は持てない。
 レイラやリュウ、カリーナやゴドー……仲間たちを守ることだけで精一杯だ。
 そこに俺と彼女の、根本的な器の違いがある気がした。
「……本当はこんな力技な成長はしたくなかったのよ? でも、そこはもう諦めました」
 レイラはため息を吐きながらそう返す。
 彼女自身、思うところもあるようだが、以前なら強くなったと言っても素直に受け取りはしなかっただろう。
 気負いを感じさせないその表情が、彼女の成長を如実に表しているようだ。



「グオオオオ!!」
 咆哮と共に、コンゴウがレイラに向けて突進してくる。
「レイラ!」
「分かっています!」
 アラガミの行動を予測していたのだろう。
 レイラはすぐさまシールドを構え、コンゴウの突進を受け止めようとする。
とはいえ、中型種を正面から止めるのは無謀だったのだろう。勢いよくシールドが弾かれると、レイラはそのまま地面を転がることとなった。
 しかしそれすらも予想通りだったのか、吹き飛ばされた勢いを利用し、レイラはすぐさま体勢を立て直す。
「大丈夫か……!?」
「ええ、この程度なら問題ありま……」
「グオオオオ!!」
 答えるレイラの真正面まで、すでにコンゴウは迫ってきている。
 それを見たレイラは、その場で怯むどころか前に出ようと――
 したところを、それを防ぐように俺が割って入る。
「――っ!」
 神機を銃形態へと変形させ、動き出したコンゴウに向けて発射する。
「グオオオオ!?」
 バレットは狙い通り、今まさに走り出したコンゴウの足へと突き刺さり、ヤツは痛みからか体勢を崩す。
「レイラ!」
「……分かっています! やあああああああ!」
 声をかけるまでもなかったかもしれない。既にコンゴウに駆け寄っていたレイラは、勢いよくブーストハンマーを振り下ろした。
「グオオオオ!?」
 コンゴウの顔面に直撃したその一撃がトドメになったのだろう。
 叫び声をあげながら、コンゴウは地面へと倒れ伏すこととなった。
『所定エリアのアラガミ反応、全て消失しました! お疲れ様!』
 同時にカリーナから通信が入るが、レイラの返答は素っ気ないものだ。
「すぐにヘリを回して。次のエリアへ向かいます」
『少しぐらい休憩を挟んでもいいんですよ?』
「ああ。無理はしないほうがいい」
 心配そうなカリーナの言葉に、俺もすぐさま追従する。
 相手は中型種が主だったとはいえ、消耗がなかった訳でもない。
 だからこその言葉だったが……
「八神さん、今日はなんだかやけに過保護じゃなくて?」
 疑うような視線を向けられ、俺は思わず口を噤んだ。
「……一度気を抜くと余計に疲れるのです」
 それを見たレイラが、ため息交じりにそう言った。もしかしたら、俺に助け舟を出してくれたのかもしれない。
『分かりました。急ぐよう伝えます』
 納得したカリーナがすぐさまヘリの手配に動き出し、通信が一旦途切れる。
 そこでレイラはわずかに伸びをし、姿勢を崩した。
「だいぶ効率化というものが分かってきました。すぐ帰ってしまうゴドーの態度も、こういうことだったのですね」
「それは……どうだろうな」
 素直に頷くべきなのだろうが、言葉に詰まってしまった。
 確かに効率化という面もあるだろうが、ゴドーの場合それだけには思えない一面もある。
 俺の反応を見て、レイラはクスリと笑う。
 もしかして、からかわれたのだろうか。
「では、もうひと仕事いきましょう!」
 戸惑う俺をよそに、レイラは気合を入れるように言うのだった。



「……戻ってきたぞ!」
 巡回討伐を終えた俺たちが外部居住区に足を踏み入れると、住民たちが俺たちを待ち構えるように立っていた。
 やや不謹慎な感想だが、彼らの待ち伏せにも慣れてきたところだ。
 俺はレイラと共に、迷わず彼らに近づいていく。
「……」
「何かしら? また不満のぶつけ先を求めてきたの?」
 俺たちを見る住民たちに対し、牽制するようにレイラが言った。同時に強い視線を住民たちに向ける。
「いや、そうじゃなくてだな……」
 対する住民たちの言葉は、どこか覇気がないものだった。
 レイラを見ると、彼女も少し面食らった様子だ。
 住民たちは何か言いあぐねている様子だったが、意を決するようにレイラに近づく。
 俺はすぐさま、レイラを庇うように前に出るが――
 どうやらそれは、杞憂だったようだ。
「頼む、死なないでくれ!!」
 痩せ男は頭を下げながら、そう言った。
「……いきなりですね?」
 戸惑うようなレイラの言葉に、すぐさま痩せ男が呼応する。
「だってあんた……いつも傷だらけで帰ってくるだろ? 今だって、酷いもんだ……!」
「嬢ちゃんが死んじまったらここはお終いなんだよな? だから……」
 必死に懇願する彼らの言葉を聞いて、レイラは一つ、ため息をこぼした。
「暇なのね?」
「え……?」
 レイラの言葉に、住民たちはぽかんとした表情を浮かべる。
 そんな彼らに、レイラははっきりと言い放つ。
「いいですか……わたくしは生きることに忙しいのです! 死ぬことなんか考えている時間はありません!」
「…………」
 確かに、レイラの言う通りだ。
 死ぬために命をかける人間がどこにいるだろう。
 レイラは決死の覚悟を彼らに示したが、死ぬつもりだと言った訳ではない。
 むしろ誰よりも強く、全ての人を生かそうという思いで口にしたのだ。
 そんな彼女にしてみれば、彼らの思い違いは有り得ないものだったのだろう。
「みなさんもくだらないことを考える暇があるなら、身体でも鍛えてみては?」
「鍛えるって、何のために……?」
「一歩でも多くアラガミから逃げられるように。あなたを守るゴッドイーターの近くへ走れるように……無駄なんて思わないで、やってみることです」
 人に助けを求める余裕があるなら、生き残るための努力をしろと。
 レイラの言葉は厳しく、そして正しいものだった。
「……何だか、クロエ支部長みたいだな」
「確かに、彼女の影響は否定できません」
「…………」
 正直に言えば、俺もレイラに怒られた住民たちとそう変わらない。
 周りの人々を守るために、レイラが生き急いでいるのではないかと疑うところがあった。
 もしもそうなら、俺が彼女を守ればいいと考えていたが……レイラは俺が思っているよりずっと強いようだ。
 彼女を守りたいと考えたこと自体が、俺の驕りだったのかもしれない。
「……俺も、身体を鍛えるべきかもな」
「そうですね。余計なことを考えずに済みますから」
 くだらない考えを改めるために言った言葉だが、レイラにそれが伝わったかどうか……
 俺の言葉に答えると、レイラは改めて住民たちへと視線を向けた。
「ですが、みなさんがわたくしを心配してくださったことには、感謝いたします」
 そう言うと、レイラは皆に向けて頭を下げた。
「……ありがとう」
 そこだけ妙にぶっきらぼうに言うと、レイラは彼らに背を向けた。
 一方の住民たちと言えば、礼を言われるとは思っていなかったのだろう、皆一様に驚きの表情を浮かべている。
 彼らに言葉をかけることもなく、レイラは支部に向けてさっさと立ち去っていく。
 そんな彼女の背中を見つめる人々の目は、以前ほど冷淡なものではなくなっているように思えた。



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