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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第三章
「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~3章-6話~
「クベーラに関する最新の情報が入った」
ゴドーが当たり前のようにそう言うと、作戦司令室の中にいた面々は大いにざわついた。
それも当然だろう。
クベーラの出現からしばらく経ったが、今日まで新しい情報は一切得られていなかった。
「確か、クベーラは東南の方角へ去って行ったんですよね。それをヘリで追跡したものの、深い峡谷で見失ってしまった、と」
リュウが顎に手を当ててそう言うと、カリーナが頷く。
「はい。支部から離れた遠隔地では、地上に降りての探索活動は危険すぎますので……」
「一度見失うと終わり、という訳ね」
「そうですね。ヘリもずっと飛んでいられる訳ではありませんし……」
険のあるレイラの言葉に、カリーナはやや申し訳なさそうに答える。
ヘリに積まれている燃料のことだけを言っている訳ではないだろう。
元々、人手も資材も不足しがちのヒマラヤ支部だ。まして他支部からの支援も受けられない状況となっては、アラガミ一体を追い続ける余裕などあるはずもない。
しかし、相手が普通のアラガミではないことも、また事実だ。
あれほど大きな体躯のアラガミを、俺は他に知らない。
各々の会話が止まったところで、ゴドーが再び口を開いた。
「その見失ったクベーラだが、中国支部からの貨物機が空撮した映像に偶然映り込んでいてな」
「本当ですか!」
「位置はヒマラヤ支部より東北東の山中、ヘリで一時間圏内だ」
「……安全とは言えない距離ですね」
ゴドーの言葉に、さしものリュウもその表情を曇らせた。
それだけ支部から離れての行動となると、撤退時のヘリコプターの到着に遅れが生じる。
戦場に留まる時間が長くなればなるほど、こちらのリスクも大きくなっていくだろう。
以前のリュウなら、それでも戦いに行こうと言ったかもしれないが……
ネブカドネザルとの遭遇は、少なからずリュウに影響を与えているようだ。
「それで、どうするのゴドー?」
「二十四時間体制で監視する訳にもいかんし、この距離でこちらから仕掛けるのも現実的ではない」
「しかし、放置しておく訳にもいきません」
俺の言葉を受けて、ゴドーは鷹揚に頷いた。
「そうだ。だからクベーラが支部に向かってきた時の対応策として、迎撃ポイントを設定し、戦力を集中して叩く計画を考えてある」
ゴドーからの目配せにカリーナが頷き、俺たちを見渡す。
「手元の資料を見てください」
「これは……待ち伏せと足止めによる総攻撃、ですか」
「クベーラの足を止めさせて、レーザーバレット一斉射撃と大型破砕弾の雨による立体十字砲火ね」
リュウとレイラは考え込むようにしながら、素早く資料に目を通していく。
俺たちが読み終わるのを待たず、ゴドーは淡々と言葉を紡ぐ。
「ハマればあの巨体といえども、ただでは済まん。また逃げたり、突撃してくるようなら……」
「僕たちの出番、ですね」
「現実的な案だと思います」
ゴドーの視線を受けて、リュウとレイラがしっかりと頷く。
確かにゴドーの言う通り、待ち伏せのほうが不測の事態が起こる可能性は低くなる。
だがこの作戦は、クベーラを支部に近付けるという、大きなリスクも背負ったものだ。
もし俺たちがクベーラを仕留め損ねれば……支部の崩壊は避けられないだろう。
それでもゴドーは、それが最良の作戦だと判断した。
討伐に向かう余裕がないということもあるが、俺たちの実力を信じてくれているのだろう。
だから、俺もゴドーに向けて頷いた。期待を裏切る訳にはいかない。
一呼吸置いてから、ゴドーが再び口を開く。
「そのために、対クベーラ迎撃ポイント一帯を制圧する必要がある。アラガミを徹底的に排除して安全を確保するんだ」
「なるほど……大掃除という訳ですね」
リュウはそう言って口元を緩める。対するゴドーは、真剣な表情を浮かべていた。
「クベーラはまだ動いていないようだが、初動の遅れは避けたい……頼むぞ」
「了解です」
目下の指針が決まったところで、俺たちはクベーラ討伐に向けて動きはじめた。
「――ハァッ!」
「グガァァッッ……!」
確かな手応えを感じながら、ロングブレードを一気に振り抜く。
「グッ……グァァ……」
最後の一体のアラガミが、崩れるようにしてその場に倒れた。
気付けば俺の神機はアラガミの血液に濡れ、妖しい光を放っている。
俺は剣先から滴る液体を落とすため、一度大きくロングブレードを振った。
ゴドーからの指令を受けた俺たちは、旧市街地へと出向いていた。
その目的は、アラガミの掃討。
クベーラを罠にはめるため、エリアの安全を完全に確保する必要があった。
相手は小型や中型ばかりだったとはいえ、地区の完全制圧というのは、なかなかに骨が折れるし、神経を使う作業だった。
『周辺のアラガミ反応はすべて消失しました。お疲れ様です!』
人気もなく、アラガミもいない……ひどく静かになった旧市街地に、カリーナの声だけが響く。
「分かった。じゃあ、後は帰りのヘリを――」
「まだよ!」
俺の言葉を遮って、レイラが鋭く声を張り上げた。
「ネブカドネザルがいる可能性がある……隊長代理、探知にヤツが引っかかってはいませんか?」
臨戦態勢を維持したまま、レイラが俺に視線を寄越す。
促された俺が辺りを見渡すと、いつの間にか俺の隣に彼女が佇んでいる。
「反応、なし」
純白の髪の女性は、遠くを見据えたまま機械的に答えた。
「反応はないそうだ」
「……そう、ならひとまずは安心ね」
俺の言葉を聞いてから、レイラはようやく肩の力を抜く。
視界の隅で、リュウも構えを解いたのが見えた。
「……不思議なものね。見えないものを頼りにして、信じるだなんて」
レイラが自嘲するように言って周りを見渡す。
彼女の姿を探しているのだろう。しかし、すぐに諦めてため息を吐く。
「人格を持った神機……マリアによく似た女性、ね」
「僕はまだ、完全に信じきれていないけど」
俺の神機を見つめながら、リュウは皮肉っぽくそう言った。
「リュウの場合は、それくらい慎重でいいと思うわ」
レイラも笑ってそう返す。
以前までなら、喧嘩になりそうな場面だったが……彼らはそのまま口をつぐんだ。
二人も成長しているのだろう。ありがたいことだ、本当に。
『作業部隊と防衛班がそちらへ向かっています。第一部隊は入れ替わりで帰還してください』
「了解」
カリーナの通信に手短に答えてから、他部隊の到着までその場で待機することになった。
その間、俺たち三人が言葉を交わすことはなかったが……
その沈黙は、居心地の悪いものではなかった。
支部に戻ると、広場に人が溢れかえっていた。
均等に並べられた長机の上に、様々な物資や道具が置かれている。
その隙間を、誰も彼もがバタバタと余裕なく行き来している。
「まるでバザーね……忙しないこと、この上ないわ」
「彼らは何をしているんでしょうか?」
「現在、作業部隊が戦力配置のための設営作業を行っている」
俺たちが疑問に思っていると、背後から即座に答えが返ってくる。
ゴドーは偶然通りかかったようだが……相変わらずの神出鬼没ぶりだ。
「対アラガミ戦では、普通こういうのはしませんよね?」
「まあな。だが大人数を動員する場合は、個々が勝手に動いたら収拾がつかなくなる」
なるほど……相手がクベーラだからこそ、こういう準備も必要になる訳だ。
「合戦のやり方は、今も昔も変わらないって訳ね」
「打撃力の一点集中は不変の鉄則、そのための布陣だ」
得心した様子のレイラに、ゴドーが頷く。
彼の視線の先には、いくつものレーザーバレットと大型破砕弾がまとめて置かれてある。
まさに総力戦という様相だ。
それも当然のことだろう。クベーラとの戦いに勝てなければ、恐らくヒマラヤ支部は壊滅する。
だからこそ、誰も彼もが、真剣な表情で作業に当たっている。
自分たちの居場所を守るため、あるいは大事な人を守るために……
戦っているのは、俺たちだけではないのだ。
「クベーラ……倒したいな」
リュウが呟くと、すぐさまそれにレイラが続いた。
「支部と住民を守るために、ですよ」
釘を刺すようなレイラの言葉に、リュウは思いきり眉を顰める。
「理由はどうあれ、目的は同じさ」
そう言ってレイラとリュウは睨み合いをはじめる。
リュウの目的と言うのは、アラガミ素材を得ることだろう。
クベーラは恐らく、俺たちが新たに発見したアラガミだ。その素材となれば、相当の価値があるはずだ。
(……俺としては、リュウも同じ気持ちなのかと思ったんだがな)
支部と住民を守りたい。その気持ちがつい漏れ出たのかと思ったが……
レイラといがみ合いをはじめた今となっては、判別しようもない。
そこでゴドーが、ため息を吐きながら二人の間に割って入った。
「そこまでだ。燃え上がる前にクールダウンしろ」
それで事態が解決するかと思ったのも束の間――
「燃えてなんか!」
「いません!!」
二人は声を揃えて、怒りの矛先をゴドーに向けた。
「君たち本当は仲いいだろ……」
ゴドーは額に手を当てながら大きくため息をついた。
その言葉が聞こえたのか聞こえてないのか、二人はさらにヒートアップする。
こうなっては歴戦のゴッドイーターも形無しだった。しかめ面で二人をなだめるゴドーの姿に、俺は思わず噴き出してしまう。
そうして起きた小さな笑いが、次第に広場中に伝播していく。
気が付けば広場にいる誰もが、ゴドーのほうを見て笑顔を浮かべていた。
(……誰も、諦めていないんだな)
決戦の前だというのに、誰も彼もが上手くリラックスできている。
これも、ゴドーの意図したものなのだろうか……
絶望的な状況下だったヒマラヤ支部が、今は活気に溢れている。
この熱を、彼らの笑顔を……決して失いたくない。
クベーラは、絶対に倒さなくてはならない。
「……おい、何を他人事みたいにしている。君の部下だろう、なんとかしろ」
不意に背後から声がかかる。
この瞬間がいつまでも続けばいいと思ったのだが……どうやらそうもいかないようだ。
「クベーラに関する最新の情報が入った」
ゴドーが当たり前のようにそう言うと、作戦司令室の中にいた面々は大いにざわついた。
それも当然だろう。
クベーラの出現からしばらく経ったが、今日まで新しい情報は一切得られていなかった。
「確か、クベーラは東南の方角へ去って行ったんですよね。それをヘリで追跡したものの、深い峡谷で見失ってしまった、と」
リュウが顎に手を当ててそう言うと、カリーナが頷く。
「はい。支部から離れた遠隔地では、地上に降りての探索活動は危険すぎますので……」
「一度見失うと終わり、という訳ね」
「そうですね。ヘリもずっと飛んでいられる訳ではありませんし……」
険のあるレイラの言葉に、カリーナはやや申し訳なさそうに答える。
ヘリに積まれている燃料のことだけを言っている訳ではないだろう。
元々、人手も資材も不足しがちのヒマラヤ支部だ。まして他支部からの支援も受けられない状況となっては、アラガミ一体を追い続ける余裕などあるはずもない。
しかし、相手が普通のアラガミではないことも、また事実だ。
あれほど大きな体躯のアラガミを、俺は他に知らない。
各々の会話が止まったところで、ゴドーが再び口を開いた。
「その見失ったクベーラだが、中国支部からの貨物機が空撮した映像に偶然映り込んでいてな」
「本当ですか!」
「位置はヒマラヤ支部より東北東の山中、ヘリで一時間圏内だ」
「……安全とは言えない距離ですね」
ゴドーの言葉に、さしものリュウもその表情を曇らせた。
それだけ支部から離れての行動となると、撤退時のヘリコプターの到着に遅れが生じる。
戦場に留まる時間が長くなればなるほど、こちらのリスクも大きくなっていくだろう。
以前のリュウなら、それでも戦いに行こうと言ったかもしれないが……
ネブカドネザルとの遭遇は、少なからずリュウに影響を与えているようだ。
「それで、どうするのゴドー?」
「二十四時間体制で監視する訳にもいかんし、この距離でこちらから仕掛けるのも現実的ではない」
「しかし、放置しておく訳にもいきません」
俺の言葉を受けて、ゴドーは鷹揚に頷いた。
「そうだ。だからクベーラが支部に向かってきた時の対応策として、迎撃ポイントを設定し、戦力を集中して叩く計画を考えてある」
ゴドーからの目配せにカリーナが頷き、俺たちを見渡す。
「手元の資料を見てください」
「これは……待ち伏せと足止めによる総攻撃、ですか」
「クベーラの足を止めさせて、レーザーバレット一斉射撃と大型破砕弾の雨による立体十字砲火ね」
リュウとレイラは考え込むようにしながら、素早く資料に目を通していく。
俺たちが読み終わるのを待たず、ゴドーは淡々と言葉を紡ぐ。
「ハマればあの巨体といえども、ただでは済まん。また逃げたり、突撃してくるようなら……」
「僕たちの出番、ですね」
「現実的な案だと思います」
ゴドーの視線を受けて、リュウとレイラがしっかりと頷く。
確かにゴドーの言う通り、待ち伏せのほうが不測の事態が起こる可能性は低くなる。
だがこの作戦は、クベーラを支部に近付けるという、大きなリスクも背負ったものだ。
もし俺たちがクベーラを仕留め損ねれば……支部の崩壊は避けられないだろう。
それでもゴドーは、それが最良の作戦だと判断した。
討伐に向かう余裕がないということもあるが、俺たちの実力を信じてくれているのだろう。
だから、俺もゴドーに向けて頷いた。期待を裏切る訳にはいかない。
一呼吸置いてから、ゴドーが再び口を開く。
「そのために、対クベーラ迎撃ポイント一帯を制圧する必要がある。アラガミを徹底的に排除して安全を確保するんだ」
「なるほど……大掃除という訳ですね」
リュウはそう言って口元を緩める。対するゴドーは、真剣な表情を浮かべていた。
「クベーラはまだ動いていないようだが、初動の遅れは避けたい……頼むぞ」
「了解です」
目下の指針が決まったところで、俺たちはクベーラ討伐に向けて動きはじめた。
「――ハァッ!」
「グガァァッッ……!」
確かな手応えを感じながら、ロングブレードを一気に振り抜く。
「グッ……グァァ……」
最後の一体のアラガミが、崩れるようにしてその場に倒れた。
気付けば俺の神機はアラガミの血液に濡れ、妖しい光を放っている。
俺は剣先から滴る液体を落とすため、一度大きくロングブレードを振った。
ゴドーからの指令を受けた俺たちは、旧市街地へと出向いていた。
その目的は、アラガミの掃討。
クベーラを罠にはめるため、エリアの安全を完全に確保する必要があった。
相手は小型や中型ばかりだったとはいえ、地区の完全制圧というのは、なかなかに骨が折れるし、神経を使う作業だった。
『周辺のアラガミ反応はすべて消失しました。お疲れ様です!』
人気もなく、アラガミもいない……ひどく静かになった旧市街地に、カリーナの声だけが響く。
「分かった。じゃあ、後は帰りのヘリを――」
「まだよ!」
俺の言葉を遮って、レイラが鋭く声を張り上げた。
「ネブカドネザルがいる可能性がある……隊長代理、探知にヤツが引っかかってはいませんか?」
臨戦態勢を維持したまま、レイラが俺に視線を寄越す。
促された俺が辺りを見渡すと、いつの間にか俺の隣に彼女が佇んでいる。
「反応、なし」
純白の髪の女性は、遠くを見据えたまま機械的に答えた。
「反応はないそうだ」
「……そう、ならひとまずは安心ね」
俺の言葉を聞いてから、レイラはようやく肩の力を抜く。
視界の隅で、リュウも構えを解いたのが見えた。
「……不思議なものね。見えないものを頼りにして、信じるだなんて」
レイラが自嘲するように言って周りを見渡す。
彼女の姿を探しているのだろう。しかし、すぐに諦めてため息を吐く。
「人格を持った神機……マリアによく似た女性、ね」
「僕はまだ、完全に信じきれていないけど」
俺の神機を見つめながら、リュウは皮肉っぽくそう言った。
「リュウの場合は、それくらい慎重でいいと思うわ」
レイラも笑ってそう返す。
以前までなら、喧嘩になりそうな場面だったが……彼らはそのまま口をつぐんだ。
二人も成長しているのだろう。ありがたいことだ、本当に。
『作業部隊と防衛班がそちらへ向かっています。第一部隊は入れ替わりで帰還してください』
「了解」
カリーナの通信に手短に答えてから、他部隊の到着までその場で待機することになった。
その間、俺たち三人が言葉を交わすことはなかったが……
その沈黙は、居心地の悪いものではなかった。
支部に戻ると、広場に人が溢れかえっていた。
均等に並べられた長机の上に、様々な物資や道具が置かれている。
その隙間を、誰も彼もがバタバタと余裕なく行き来している。
「まるでバザーね……忙しないこと、この上ないわ」
「彼らは何をしているんでしょうか?」
「現在、作業部隊が戦力配置のための設営作業を行っている」
俺たちが疑問に思っていると、背後から即座に答えが返ってくる。
ゴドーは偶然通りかかったようだが……相変わらずの神出鬼没ぶりだ。
「対アラガミ戦では、普通こういうのはしませんよね?」
「まあな。だが大人数を動員する場合は、個々が勝手に動いたら収拾がつかなくなる」
なるほど……相手がクベーラだからこそ、こういう準備も必要になる訳だ。
「合戦のやり方は、今も昔も変わらないって訳ね」
「打撃力の一点集中は不変の鉄則、そのための布陣だ」
得心した様子のレイラに、ゴドーが頷く。
彼の視線の先には、いくつものレーザーバレットと大型破砕弾がまとめて置かれてある。
まさに総力戦という様相だ。
それも当然のことだろう。クベーラとの戦いに勝てなければ、恐らくヒマラヤ支部は壊滅する。
だからこそ、誰も彼もが、真剣な表情で作業に当たっている。
自分たちの居場所を守るため、あるいは大事な人を守るために……
戦っているのは、俺たちだけではないのだ。
「クベーラ……倒したいな」
リュウが呟くと、すぐさまそれにレイラが続いた。
「支部と住民を守るために、ですよ」
釘を刺すようなレイラの言葉に、リュウは思いきり眉を顰める。
「理由はどうあれ、目的は同じさ」
そう言ってレイラとリュウは睨み合いをはじめる。
リュウの目的と言うのは、アラガミ素材を得ることだろう。
クベーラは恐らく、俺たちが新たに発見したアラガミだ。その素材となれば、相当の価値があるはずだ。
(……俺としては、リュウも同じ気持ちなのかと思ったんだがな)
支部と住民を守りたい。その気持ちがつい漏れ出たのかと思ったが……
レイラといがみ合いをはじめた今となっては、判別しようもない。
そこでゴドーが、ため息を吐きながら二人の間に割って入った。
「そこまでだ。燃え上がる前にクールダウンしろ」
それで事態が解決するかと思ったのも束の間――
「燃えてなんか!」
「いません!!」
二人は声を揃えて、怒りの矛先をゴドーに向けた。
「君たち本当は仲いいだろ……」
ゴドーは額に手を当てながら大きくため息をついた。
その言葉が聞こえたのか聞こえてないのか、二人はさらにヒートアップする。
こうなっては歴戦のゴッドイーターも形無しだった。しかめ面で二人をなだめるゴドーの姿に、俺は思わず噴き出してしまう。
そうして起きた小さな笑いが、次第に広場中に伝播していく。
気が付けば広場にいる誰もが、ゴドーのほうを見て笑顔を浮かべていた。
(……誰も、諦めていないんだな)
決戦の前だというのに、誰も彼もが上手くリラックスできている。
これも、ゴドーの意図したものなのだろうか……
絶望的な状況下だったヒマラヤ支部が、今は活気に溢れている。
この熱を、彼らの笑顔を……決して失いたくない。
クベーラは、絶対に倒さなくてはならない。
「……おい、何を他人事みたいにしている。君の部下だろう、なんとかしろ」
不意に背後から声がかかる。
この瞬間がいつまでも続けばいいと思ったのだが……どうやらそうもいかないようだ。