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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第三章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~3章-4話~

「おはようございます!!!」
 作戦指令室に、カリーナのヤケクソ気味な大声が響き渡る。
 それから彼女は、俺たちに深々と頭を下げた。
「四十時間ほど爆睡したカリーナ・アリ・ラーイです!」
 顔を上げたカリーナは、恥ずかしそうに頬を染めている。
 カリーナが、ゴドーから強制的に休みをもらったのが二日前。
 どうやら彼女は、今日までずっと眠り続けていたらしい。
 カリーナはそのことを申し訳なさそうにしているが、それを責める者は一人もいない。
「それだけ無理をしていたということだ」
 むしろ呆れた様子でゴドーがため息をつくと、これにレイラが同意する。
「過労で倒れられるよりマシです」
 容赦のない言葉だが、カリーナが気にし過ぎないよう彼らなりに気を遣っているのだろう。
 そのことは彼女にも伝わっているらしく、カリーナの頬がかえって赤みを増した。
「自分のふがいなさが許せません……くぅ」
 いっそ怒ってもらいたそうなカリーナだったが、彼女に感謝することはあっても叱る理由などあるはずもない。
 恐らくヒマラヤ支部にいるほとんど全ての人員が、そう考えているはずだ。
「そんなことより! ビッグニュースがあるじゃないですか!」
 だから、リュウがさっさと話題を変えても、誰も文句は言わなかった。
「あ、クアドリガのことですよね?」
 カリーナが出現した大型種の名を口にすると、リュウは分かりやすく目を輝かせる。
「そう! クアドリガ! あのクアドリガですよ、クアドリガ!!」
「何度も言わなくていいです」
 興奮して詰め寄るリュウからカリーナを庇うようにして、レイラが二人の間に入った。
 暗に落ち着けと窘めるような言い方だったが、リュウの勢いは止まらない。
「砲火の機動戦車クアドリガ!! 数々の兵器を取り込んだ破壊の象徴とさえ言われるあのっ!」
「それは昔の話です……。今では研究も進み、戦術も完成されています。一体だけならさほどの脅威ではありません」
「レイラはロマンが分かってないな」
「アラガミにロマンなどあるものですか」
 レイラはそう言って冷たくリュウをあしらうが、彼のテンションは変わらない。
「それでは支部長代理! さっそく出撃命令を!」
 レイラの言葉を無視して、リュウがゴドーに詰め寄った。
 そんなリュウに対し、ゴドーは淡々と言葉を返した。
「対クアドリガには、俺と隊長代理の二人で出る」
「えっ! 僕は!?」
 理解しかねるという様子のリュウに対し、ゴドーは深々とため息をついて見せた。
「……リュウ、君は悪い意味でアラガミ討伐に慣れてしまっている」
「悪い意味で……?」
「そうだ。死を恐れず、いつでも冷静で、判断ミスも少ない」
 ゴドーの言葉に、リュウが思いっきり眉を顰める。
 確かにそれだけ聞くと、リュウからすれば褒められているようにしか思えないだろう。
 だが俺には、ゴドーの言いたいことがはっきりと分かった。
「そこが弱点でもある。君はアラガミを恐れなさ過ぎる」
「それの何が問題なんですか?」
 リュウは少し黙った後、開き直るようにしてそう言った。
 その声色は冷たい。反抗心をあらわにするリュウに対し、ゴドーは再びため息をつく。
「君にそれを教えるのは俺じゃない」
「では、誰なんです?」
「…………」
 ゴドーは答えない。
 けれど、その視線は確かに俺に向けられていた。
「……いいだろう。出撃を許可する」
「いいんですか! やった!」
 ゴドーの言葉に、リュウはもろ手を挙げて喜んで見せる。
 レイラが何か言いかけるが、ゴドーが黙ってそれを制して言葉を続けた。
「君ももう新人ではない。信頼には応えてもらいたいな」
「もちろんです! やりますよ、僕は」
 リュウは自信満々に答えてみせるが、ゴドーは彼ではなく、俺にそう言ったように思えた。
 視界の隅で、レイラがちらりとこちらを見たのが分かる。
(俺にどうしろって言うんだ……)
 人間関係の問題をゴドーが苦手にしていることは知っている。喧嘩相手のレイラがリュウを止められないのも重々承知だ。
 だが、だからと言って俺を頼られても困るのだが……
「……?」
 とはいえ、病み上がりのカリーナにまた厄介ごとを任せる訳にもいかない。
 俺が小さく頷くと、ゴドーは唇の端を吊り上げてみせた。
「では各自、準備をお願いします」
「……了解」
 カリーナから今回の作戦に関する資料を受け取りながら、リュウを見る。
 人はそう簡単に変わらない。一日で解決するような問題であれば、誰も苦労はしないだろう。
 しかも、本人が問題を問題と捉えていないとあっては……
 明るく喜ぶリュウを見ながら、しばらくは苦労する日々が続きそうだと思った。



  出撃用のヘリを下りると、そこは閑散とした住宅街だった。
 先に下りていたゴドーが、俺とリュウを交互に眺める。
「支部の警戒範囲拡張により、新たに加わったエリアだ。……皆、慎重にな」
「さっそくクアドリガを探しましょう!」
 支部長代理から直々の注意だが、リュウの気持ちはすでにアラガミに向いているようだった。
 期待に胸を膨らませるリュウを後押しするようなタイミングで、カリーナから通信が入る。
『クアドリガの反応を確認しました。そこから東に一キロほどです』
「東か……。二人とも、急ぎましょう!」
 今にも走り出しそうなリュウに、ゴドーが待ったをかける。
「まだ不慣れな場所だ、深追いするなよ?」
「分かっています!」
 いい返事をしながらも、リュウは待ちきれないといった様子で先行してしまう。
 離れていく背中に向けて、ゴドーが一つため息をこぼす。
「仕方ないな。作戦開始だ」
「……了解」


  クアドリガの姿は、すぐに目視できるようになった。
 住宅街の、家を挟んで向かいの道路。
 開けた通路の真ん中を、そいつは我が物顔で闊歩していた。
 これまで見てきた大型種……クベーラやウロヴォロスと比較すればまだ現実的なサイズに思えるが、それでも二階建ての住宅よりも高いくらいの背丈がある。
 それだけでも恐ろしいのに、何よりその身に纏う、椎鈍色の外殻が威圧的だった。
 赤銅色に焼けたミイラのような頭部、胸部の他には、およそ生物らしい箇所が見当たらない。
「……両肩に抱えたミサイルポッド、獣の顔のような前面装甲。鬣のような排熱器官……素晴らしい! なんて歪で、格好いいんだ……!」
 悠々と歩くクアドリガの背中を追いかけながら、リュウが小声で熱っぽく語る。
 正直、このような場面でなければ、俺も彼に同意していたかもしれない。
 戦闘と破壊の象徴のようなあのアラガミが、現実を闊歩している……その非現実的な光景には、何か胸の内から沸き立つようなものを感じさせる。
「ふぅ……」
 興奮か、憧憬か、それとも単なる恐怖なのか……胸の内が狭まり、苦しくなるような思いがして、俺は大きく息を吐いた。
「家屋を離れたところで仕掛けるぞ」
「……はい」
 心の中を落ち着かせながら、ゴドーの言葉に頷く。
 レイラも言っていた通り、一体だけならクアドリガは大きな脅威ではない。
 ウロヴォロスだって倒せたのだ。今後は大型種との戦いも増えてくる。これくらいの相手は、当たり前に倒せる必要がある。
「そう逸るな。迂闊に出過ぎれば危険を招く」
「…………」
 俺への発言かと思ったが、ゴドーの視線はリュウに対して向けられていた。
「ですが、奇襲を仕掛けるなら今のうちです。開けた場所で戦うメリットも分かりますが、隠れる場所がないのは長期的に見て不利なのでは?」
 ゴドーの言葉に、塀にじりじりと近付きながらリュウが答える。
「側面から斜め後方に位置取っていれば、前面装甲からのミサイルは確実に避けられる。無理をして仕掛ける理由がないな」
「僕と隊長代理なら、ロングブレードで頭部の排熱器官に有効打を与えられます。あの家屋の二階からなら、安全に近付けると思いませんか?」
「…………」
 ゴドーがこちらに視線を送り、肩をすくめた。
 どうやらお手上げということらしい。
「……リュウの案でいきましょう」
「ああ、そうだな」
 俺の提案に、ゴドーはあっさりと頷いた。
「やった……!」
 実際、リュウの立てた作戦は理に適っていた。それをむやみに否定してしまえば、独断専行に走る可能性もある。ゴドーもそれは避けたかったのだろう。
 ゴドーが静かに合図して、俺とリュウは住宅の屋根を伝ってクアドリガに近付いていく。
 俺たちが空中から排熱器官を攻撃すると同時に、ゴドーが地上から攻撃を仕掛け、注意を分散する算段だ。
「確実に結合崩壊を狙っていきましょう。頼りにしてますよ、隊長代理」
 リュウの声には、緊張とともに嬉しそうな色が混じっている。
 本当に、アラガミを恐れていないのだろう。
 俺もあの時までそうだった。
 ネブカドネザルにマリアがやられた、あの時までは――
「行きましょう、隊長代理」
「いや、支部長代理からの合図がまだだ」
「配置にはついているんでしょう? このままだと、家屋から離れすぎます。飛び移れなくなりますよ」
「駄目だ、待機を続ける」
「ですが……っ」
「…………」
 俺は黙って首を振る。この距離で音を立てるのは自殺行為だ。
 足元から地響きが伝わってくる。巨体がゆっくりと歩みを進める。
 不意に、隣でリュウが立ち上がった。
「っ……! 僕は一人でも行きます!」
「リュウ――!」
 止める間もなく、リュウが屋根の上を跳ね、クアドリガの背中に飛び乗った。そうしてそのまま、力任せに排熱器官を攻撃する。
 クアドリガが俺たちに気が付く。そうして短い脚を器用に動かし、二度、三度、その場で方向転換を行っていく。
「この……これでっ!」
「――っ!」
 クアドリガの顔が、まっすぐに俺を捉えた瞬間……俺はヤツに向けて跳んだ。
「グオォオオオオオオオッ!」
「なっ……!?」
 クアドリガが姿勢を低くしたと同時、前脚についたキャタピラが回転しはじめる。
 次の瞬間、ヤツはその巨躯からは想像もつかない速さで突進を敢行した。
 背後で家屋が、ガラガラと音を立てて崩れていくのが分かる。木のようにバキバキと音を立てて折れたのは電柱だ。
 その電柱が、ヤツの背中に捕まっているリュウに向け、ゆっくりと倒れていく。
 次第に近付く長い影を、リュウは抵抗もできずに無防備に見つめる。
「……ッ!」
 その体を無造作に引っ張り上げ、俺は地面に向けて跳んだ。
 リュウを抱えたまま、俺は地面に身体を打ち付ける。それと入れ替わるようにして、ゴドーがクアドリガに向けて斬りかかった。
「体勢を整えろ! ヤツは待ってくれんぞ!」
 ゴドーの言葉を証明するように、クアドリガの背中のミサイルポッドから、次々とミサイルが発射される。
「くっ……!」
 俺とリュウはそれぞれに立ち上がり、宙に吹き上がる砂ぼこりの中をクアドリガに向けて駆け出した。
 あのミサイルへの対処法は大きく分けて二つ。範囲外まで逃げ切るか、それができないならヤツに密着することだ。
 クアドリガが咆哮を上げる。周囲で地面に着弾したミサイルの音が鳴り響く。
 崩れた家屋は赤々と燃え、煙を空まで立ち上らせている。
「状況が悪い。いったん距離を置くか。態勢を立て直したほうがいい」
 顔をしかめたゴドーに、俺も頷き返した。とても戦闘を続行できる環境ではない。
 しかし、リュウはその意見に真っ向から反対した。
「戦いづらいのは向こうも同じです。このまま押し切れますよ」
「……リュウ、一度冷静に――」
 俺の言葉を遮るように、リュウがこちらに向けて手をかざす。
「さっきは僕のことを庇ったつもりかもしれませんが、あれくらい、自分で見て避けられました」
「…………」
「あと少しで排熱器官を破壊できるんです。……今度は絶対、邪魔しないでください」
 冷たい声色でリュウは言うと、そのまま神機を構え、クアドリガに向けて突撃する。
「ったく、あいつは……」
 珍しく苛立った様子でゴドーが呟く。
「……ゴドー隊長」
「分かっている。俺たちで援護するぞ」
「了解。俺は右側から仕掛けます」
 作戦を細かく話しているような時間はない。
 最低限の言葉を交わし、リュウに続けてクアドリガに接近していく。
「…………」
 先ほどのリュウの言葉は、驕りや強がりではないはずだ。
 リュウはクアドリガの行動を抑え込むために、はじめから自身の安全を切り捨てていた。
 それなのに、俺はリュウを庇って逃げた。リュウにしてみれば腹立たしかっただろうが……
 俺は間違ったことをしたとは思っていない。
「これで……っ!」
 リュウは器用にクアドリガの背中を登り、再び排熱器官に攻撃を加えていく。
「グオォオオオオオオオッ!」
 その瞬間、クアドリガの表情が、歓喜に歪んだように見えた。
 同時にクアドリガが放ったのは誘導ミサイルだ。背中に張り付くリュウに向けて、寸分違わず向かっていく。
 だがリュウは、それには目もくれずに排熱器官への攻撃を続ける。ギリギリまで引き付ける気か、そもそも避けるつもりがないのか……
 それとも俺たちがこう動くことさえ、リュウの計算のうちなのか。
「邪魔だ」
 ゴドーが飛び出し、チャージスピアを振り抜く。遅れて俺は、ロングブレードを振りかぶる。
 ミサイルはリュウに着弾する前に、空中で音を立て爆散した。
「……! よぉしっ!」
 リュウの一撃で、排熱器官が根本からついに折れる。
 その苦しみに、クアドリガが咆哮を上げ、身体からミサイルを縦横無尽に放とうとする。
 しかしその前に、ゴドーの一撃が左側のミサイルポッドをあっさりと貫いた。
 背中の一部が爆発したのだ。いかにクアドリガの装甲が厚いといえど、その衝撃は内部にまで届いただろう。
 他のミサイルは放たれるが、クアドリガはその前に体勢を崩している。照準を絞りきれなかったミサイルが、見当違いの方向へと逸れていく。
 それを確認ながら、俺はクアドリガの正面……ミサイルを放ち、閉じかけた前面装甲に神機を滑り込ませる。
 柔らかな肉の感触が、俺の手に伝わってくる。
「リュウ、ここだ……!」
「ナイスッ!」
 リュウの反応は無邪気だった。クアドリガの背中から軽やかに下りつつ、俺がこじ開けたヤツの腹の奥底に向けて、ロングブレードを深く突き刺す。
「グオォォ……ッ!」
「終わり、だあ……ッ!」
 リュウが体重をかけて一気に神機を押し込むと、クアドリガは身体をゆっくり左右に揺らした。
 内部では苦しみ悶えているのかもしれないが……厚い装甲は、そんなものまで覆い隠してしまえるらしい。
 やがてクアドリガは四肢を折り曲げてその場につけると、そのまま一切の動きを止める。
 その亡骸は鉄のオブジェのようで、とても直前までそれが動いていたとは思えなかった。
「なんとかなったか……」
「みたいですね」
 ゴドーと俺が安堵の息をついたところで、場違いに明るい声が辺りに響いた。
「やったぞ! クアドリガを倒した!! 素材もいただきだっ!!」
 リュウは嬉しそうに天を仰いでガッツポーズをしてみせる。
 そんなリュウを見つめて、ゴドーは静かに言葉を紡いだ。
「リュウ、いいか……?」
「全員で協力して、クアドリガを討伐した。問題はなかったですよね?」
 ゴドーが何を言いたいか分かっているのだろう、先回りするようにしてリュウがそう言った。
「……ああ、問題はなかった」
 ゴドーは頷くが、その表情にははっきりと『問題あり』と書かれている。
 そのことがリュウにも分かったのだろう。少し眉を顰めてゴドーに言う。
「尊敬するゴドー隊長に反発する訳ではありませんが、アラガミを恐れる必要はないのでは?」
 リュウの挑発には乗らず、ゴドーはゆっくりと嘆息した。
「……もし君が勇敢であることを美徳だと思っているならば、この言葉が役に立つだろう」
 そこで一度言葉を切ってから、ゴドーは真剣な様子で続けた。
「蛮勇は勇気にあらず、だ」



  支部に戻った俺たちを、カリーナが笑顔で出迎えてくれる。
「クアドリガ討伐、お疲れ様でした!」
 これに、ゴドーが皮肉っぽく笑みを返す。
「疲れるのはこれからだ……支部長業務の山も、誰か討伐してくれ」
「ゴドーさんも大変そうですけど、アラガミ討伐のほうも全然楽にならないんですよ?」
 だから文句を言わないでください、とゴドーを窘めるカリーナだったが、彼への助け舟は思わぬところから出た。
「そうかな、僕はつらくないですよ? ……アラガミ狩りはやり甲斐があるし、苦労が増えればその分、いい素材が手に入りますからね」
 どこか楽しげにそう言うリュウに、ゴドーは困ったように頭を掻いた。
「リュウ、アラガミは狩るものじゃない。あれは……」
「分かっていますよ」
 真剣に語るゴドーの言葉を、リュウは笑顔で遮った。
「人類の敵、喰うか喰われるか、存亡をかけて討伐し続けるしかない存在……でしょう?」
 確認するように言ってから、彼は笑みを深める。
「ですが我々はアラガミから素材を得て神機や防壁を強化している、それも事実です」
 その場にいる全員を順番に眺めながら、リュウは話す。
「なら、アラガミを倒すことに喜びを感じても、いいのでは?」
「…………」
 口元には笑みが湛えられているが、リュウの口ぶりは、至って真面目だ。
 アラガミを倒すことが快感だと、本心から言っているのだろう。
 だからこそ、ゴドーは対応に困っているようだった。
 それから言葉を探すような素振りを見せたが、すぐに諦めたようにため息を漏らす。
「……書類の山と戦ってくる」
 短く宣言すると、ゴドーはそのまま支部長室へと向かってしまった。
 結果、その場には俺とリュウとカリーナの三人が残された。
「……」
 ゴドーが中途半端な形で会話を終えたこともあって、なんとも居心地の悪い雰囲気だ。
 そんな空気を打ち消すように、カリーナが両手をぽんと打ち鳴らした。
「と、とりあえず、次の任務まで時間もありますし、休める時にしっかり休んでくださいね」
 明るくリュウに言ってから、俺のほうにも目が向けられる。
「隊長代理もですよ? 仕事のし過ぎはよくないですから」
「……カリーナさんがそれを言いますか」
 指摘すると、彼女の顔が赤くなる。
 つい思ったことをそのまま口にしてしまったが、それも仕方のないことだろう。
 彼女が仕事のし過ぎで休まされたのは、まだ今朝の話なのだから。
「そ、それはもう忘れてくださいっ!」
 カリーナは大声でそう言ってから、そのまま心配そうに俯く。
「私もそうかもしれないですけど……皆さんはいざという時のために、しっかり休むべきです。こうしてる間にも、アラガミは増え続けているんですから……」
「……」
 カリーナはそう言ったきり、黙り込んでしまった。
 改めて、ヒマラヤ支部の状況の悪さに思い至ったのだろう。
 いくら戦いに備えても、順調に任務をこなしていってもアラガミが増える一方では、あまりに救いがなさすぎる。
 浮かない表情のカリーナに向けて、リュウが柔和な笑みを向ける。
「アラガミが増えてるってことは、いい素材も増え続けているってことですよ……ふふふ」
「い、いやそれ、フォローになっていませんよ……」
 そう言ってカリーナはなんとか笑って返していたが、リュウの口ぶりは本気だった。
(どうにかしないとな……)
 ゴドーが匙を投げた以上、リュウのことは俺が対処する必要がある。
 今のリュウは危険だ。今は何とかフォローできているが、いつまた危険を顧みずアラガミに挑んでいくか分からない。
 大型種を倒した経験から、自信を付けつつあることも厄介だ。
 このままではよくないことが起こるだろう……予感ではない。自明の理なのだ。
 リュウが試すような視線をこちらに寄越す。
 俺はしばらく、その目をまっすぐに見つめ返していた。

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