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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第二章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~2章-5話~

「第一部隊、全員揃いました」
「よし、まずはこれを見てくれ」
 俺たち第一部隊のメンバーを作戦司令室へと呼び出したゴドーは、全員が揃うなりモニターに画像を表示させた。
 モニターに映されたのは、背中にコアを持つ、カマキリに似たアラガミだった。
 俺にはどうも、馴染みの少ない姿をしているが……
「珍しいアラガミが現れた。ヒマラヤだけでなく、世界的にも目撃例が少ない種だ」
「チェルノボグじゃないですか!! そんな珍種が現れるなんて!!」
 ゴドーからの説明を遮るほどの勢いで、リュウが興奮した様子で声を上げる。
「知ってるの?」
「まあね。発見されたのは昨年で、目撃件数も少ない。フェンリルのデータベースに載ったのもここ最近だ」
 レイラの言葉に、リュウが流暢に答えてみせる。
「能力は?」
「情報がまだ少ないから、戦って調べる必要がある。うまく素材を手に入れないとな……」
 興奮気味に語るリュウに対して、ゴドーが釘を刺すようにして付け加える。
「討伐が最優先だ。リュウ、いつも通りのいいフォローを頼むぞ」
「心得ました」
 リュウはあっさりと頷いて見せたが、ここ最近の行動を考えると、先走る可能性も否めない。
 出撃したら、リュウの様子に気を配ったほうがいいかもしれない。
「どんな相手でも、戦術の基本は同じだ。時間はかかってもいい、確実に仕留めるんだ……いいな」
「はい!」
 ゴドーの言葉に、リュウはとびきり明るく返事をした。
 ……レアなアラガミを追うとだけあって、実に素直だ。
 普段なら反目し合うレイラのほうも、毒気を抜かれた様子で彼を見ている。
 なんにしても、争いが起きないなら、こちらとしては何よりだ。
 俺はレイラとリュウに向き直り、号令をかけた。
「第一部隊、出撃!」



 ハイウェイにまでやってきた俺たちは、対象の捜索を開始した。
 目撃情報によれば、チェルノボグはこの辺りで発見されたそうなのだが……
「……見つけた」
 レーダーの反応頼りに探索していると、やがて目標を発見する。
 司令室で見た通りの赤黒い姿だ。四つの細足で巨大な身体を支えて立っている。
 臀部に当たる部分は花の蕾のようにぷっくらと膨れ上がっており、それを背負って歩く姿はヤドカリのようにも見える。
 しかし、何より目立つのは、その両腕に備える巨大な鎌だ。
 銀色の怪しい輝きを放つその鎌は、常に正面へと向けられており、その細く歪な体を何倍にも大きく見せている。
 まっすぐ伸びるその刃は、剣聖の構えた刀のようでもあった。……鋭利で隙がなく、不気味なほどに静かなのだ。
 迂闊に近づけば、一瞬で引き裂かれてしまうだろう。そういう怖さが、あの鎌にはあった。
「チェルノボグ……! 本当にこの目で見ることができるだなんて……!」
 遅れてチェルノボグに気づいたリュウが、小さく歓喜の声を上げた。
「リュウ……。分かっているとは思うけれど、一人で先走ることなんてないようにね」
「言われるまでもないさ」
 レイラの疑うような視線に対し、リュウは鼻を鳴らして言葉を返す。
「チェルノボグの素材は貴重だからね。焦って逃しでもしたら後悔してもしきれない」
 リュウからの返答に、レイラは呆れるように肩をすくめた。
 常にアラガミ素材第一というリュウの姿勢には思うところもあるが、それだけに今回の戦闘では自重してくれそうだ。
「それで隊長代理。どんな感じで仕掛けます?」
「チェルノボグは、まだ情報が少ないって言っていたな」
「ええ」
「攻撃パターンが分からないのであれば、慎重に見極めるしかないだろう」
 無理に突撃すれば、予想外の反撃を受けかねない。
「まず俺とレイラの二人でチェルノボグへと攻撃を仕掛ける。リュウは銃形態で、俺たちの援護を頼む」
「了解です」
「分かりました」
「よし……じゃあ、行くぞ!」
 目線でレイラを促し、二人でチェルノボグに向けて駆け出す。
「キシャアアアアアアア!!」
 俺たちの存在に気づいたチェルノボグは、こちらを威嚇するように鎌を振り上げる。
「はあ!」
 俺は側面へと回り込み、近接武器形態の神機でチェルノボグを斬りつける。
 この角度からなら、あの鎌も届きにくいだろう。
「キシャアアアアアアア!!」
 チェルノボグはこちらへと向き直り、鋭利な鎌をこちらへと向けて振り下ろしてきた。
 大振りの攻撃を、最小限の動きで回避する。ヒュンという風切り音が耳に届いた。
「ふっ!」
 神機を強く握りしめ、再度チェルノボグの側面へと滑り込み、その勢いのまま相手の足へと斬撃を加える。
「はぁ!」
 レイラも俺とは逆の側面に回り込み、神機での一撃を与えていた。
 情報が少ないアラガミということで警戒を怠る訳にはいかないが、今のところは通常の戦い方で十分通用しているように感じる。
 攻撃はその鋭利な鎌を振り下ろしてくるものが主なようで、それ以外の行動は見られない。
 このまま押し切れれば……そう考えた次の瞬間。
「キシャアアアア!!」
 チェルノボグが咆哮と共に、こちらに向けて突進してくる。
「くっ!」
 先ほどまでとは違う攻撃パターンに驚きながらも、横に飛び込むことで何とか回避することができた。
 しかし、体勢を整える暇もないままに、チェルノボグが鎌を振り上げてこちらに襲い掛かる。
「隊長代理!」
 リュウの声と共にバレットの発射音が耳に届いた。
 リュウの神機から放たれた弾丸は、振り下ろされようとしていたチェルノボグの鎌へと吸い込まれていく。
 バレットが直撃したおかげか鎌の軌道が逸れ、俺に当たることはなく地面へと接触する。
 その隙に体勢を立て直した俺は、神機による一撃を再びチェルノボグの足へと叩き込んだ。
「キシャアアア!?」
 何度となく斬撃を足に与えたおかげか、チェルノボグは自分の体を支えきることができなくなったらしい。そのまま前のめりに地面へと倒れ込んだ。
「この隙に一気に決めるぞ!」
 俺の言葉と共に、離れていたリュウも神機を近接武器形態に切り替え、チェルノボグへと斬りかかる。
 三人の一斉攻撃を受け、ほどなくしてチェルノボグは沈黙するのだった。



「よおおおおし! チェルノボグの素材を手に入れた!!」
 チェルノボグ撃破と同時に、リュウは両腕を高く掲げ、勝鬨をあげた。
「それにしても、あまり強さを感じませんでしたね、本来は、あんなものではないはず……」
「細かいことを気にしてもしょうがない。今は希少な素材を手に入れられたことを喜ぼうじゃないか!」
「え、ええ」
 リュウの勢いに、レイラは若干引き気味のようだ。
 皮肉屋の喧嘩仲間が少年のように笑っていては、毒気も抜かれるということだろう。
 だが、そのこと以外は特に問題らしい問題もない。戦闘中も、二人が衝突するようなことはなかった。
(今回の任務は、いろいろと上手くいったみたいだな……)
 これほどチーム連携が上手く機能したのは、初めてのことかもしれない。
 前線に立つレイラの突破力はいつものことながら頼りになるし、リュウの戦闘スキルはやはり鮮やかで際立ったものがある。
 普段から彼らが上手く力を合わせられれば、相当強力な部隊になると思うのだが……
(……リュウは、どうしてあそこまで、アラガミ素材にこだわるんだろうな)
 そう考えながら、チェルノボグを神機で捕喰する。

「中型種を捕喰しました。新たな機能を解放します」

 正直、どこかで期待しているところはあった。
 アラガミを捕喰すれば、彼女にもう一度会えるのではないかと。
(……今日は、どうにも上手くいき過ぎているな)
 問題が起きないことを不安に感じる、というのもおかしな話だ。
 あるいは問題に慣れ過ぎて、この状況をおかしいと感じられていないだけかもしれない。
 苦笑しながら声のほうへ向き直ると、白い髪の女性がそこに立っている。
(さてと……『機能の解放』って言ったよな)
「それは、もしかして会話の機能か?」
「はい、ガイドおよびインフォメーションのみではなく、会話機能が順次解放されていきます」
 女性はスムーズに答えた。
 確かに、初めて彼女を見た頃から考えると、だいぶコミュニケーションが取れるようになってきている。
 機能やガイドという言葉についても気になったが……前回のことを考えると、彼女との会話には時間制限があると見たほうがいい。
(質問する内容は、なるべく慎重に選ぶ必要がある、か)
 とはいえ、どんなことを聞くべきなのか。
 それを考えるための判断材料も、今は不足している。
「他にも機能は増えるのか?」
「はい、機能の解放と追加が可能です」
(今までよりも受け答えがしっかりしている。確かに会話ができている……気がするな)
 とはいえ、会話というには少し味気ない。もう少し質問してみよう。
「今日の天気は?」
「……」
 返事はない。
(もしかして、まだ機能に関する返事しかできないのか?)
 円滑なコミュニケーションを期待できるわけではなさそうだ。
 それか単純に、今日の天気を理解する機能は備わっていないということなのか……
 ならばと思い、次の質問内容を考える。
「君は、神機と関係があるのか?」
「はい」
 今度は返事があった。
 やはり機能……彼女自身に関連することであれば、会話をしてくれるようだ。
 だとすれば……
 俺には一つ、どうしても彼女に確認しなければならないことがあった。

 目を閉じて、軽く深呼吸をする。
(落ち着け……時間は限られているんだ。躊躇している暇はない)
 それから目の前にいる女性をまっすぐに見つめ、意を決して口を開く。
「君は……マリアなのか?」
 それは、ずっと聞きたかったこと。
 そして、ある意味では聞きたくなかったことだ。
 彼女がマリアなのだとすれば、俺の知る彼女はどうなったというのか……
 しかし、まったくの無関係というには、彼女はマリアに近すぎる。
 真実は目の前にある。どういう形であれ、俺には彼女のことを知る必要があった。
「……」
 しかし結局、返ってきたのは沈黙だけだ。
(もしかして、質問の意味が分からなかったのか……?)
「……っ」
「タイムアップです」
 もう一度、言葉を選び直そうとしたところで、無情にも時間切れが宣告される。
 純白の髪の女性の姿は、徐々に風景に溶けるように消えていく。
 その姿に追いすがるようにして、俺は彼女に手を伸ばした。
「……また、会えるか?」
 口をついて出たのは、そんな言葉。
 なんの計画性も算段もない、無意味な問いかけ。
「はい、また会いましょう」
 しかし彼女は、確かにそう答えてくれた。
 そしてその言葉を残すと共に、女性の姿は完全に掻き消えてしまう。
「……」
 結局今回も、彼女について決定的な情報を掴むことはできなかった。
 もっと上手く質問できていれば、違った情報が得られたのだろうか。
 狼狽が、逡巡が……真実を拒もうとする俺自身の臆病さが、彼女を遠ざけてしまったのか。
 しかし彼女は、『また会いましょう』と言ってくれた。
 もう一度会える確証を得られた訳でもない。曖昧な言葉で濁されただけだ。
 再会を望む言葉にしては定型的で、淡々とした口ぶりからは感情もほとんど読み取れない。
 しかし、それでも彼女は、『また会いましょう』と言ってくれたのだ。
 
 今後もアラガミを捕喰していけば、きっと機能とやらが解放されていくのだろう。
 そうすればまた、彼女に会える。
 未だ興奮冷めやらぬ様子のリュウと、うんざりとした様子で彼を見るレイラと共に、俺は支部へと戻るためにヘリを目指す。
 その足取りは自然と軽いものになっていたらしい。
 テンションの高いリュウと併せて、レイラから気味悪がられてしまった。



「隊長代理、チェルノボグ戦、お疲れ様でした」
 支部で任務についての報告を済ませた後、部屋へ戻ろうとしていると、広場でリュウと鉢合わせた。
「さっきの任務の報告ですか?」
「ああ」
「今回の任務は、非常に有意義でしたね」
「珍しいアラガミと戦えたからか?」
「ええ」
 リュウは迷いなく頷いてみせる。
 アラガミの増加によって、俺たちの出撃の回数は以前より格段に増え、危険なことも多くなっている。しかしリュウは、むしろそのことを歓迎している節がある。
「このままチェルノボグのようなアラガミが現れるのであれば、もっといいアラガミ素材が手に入るはず……また珍種と戦えるといいな」
 そう言って上機嫌に笑うリュウに、俺は前から感じていた疑問を投げかけてみた。
「そんなにアラガミ素材が欲しいのか?」
「ええ、もちろんです」
 間髪入れずにリュウは答えた。
「どうしてそこまで、アラガミ素材にこだわるんだ?」
「それは……」
 リュウは一瞬、言葉を止めた。
 しかしすぐに調子を戻し、明るい声で話しはじめる。
「隊長代理はホーオーカンパニーって知ってます? フェンリルに神機や神機のパーツを納入しているメーカーなんですけど」
「ああ。そこまで詳しくはないがな」
 リュウの言葉に首肯する。
 事業などには疎いほうだが、それでもフェンリルに所属する以上は、関連企業の名前は自然と耳に入ってくる。
「僕はあそこの社長の息子なんですよ」
「そうか……」
 リュウの言葉に頷く。
 ホーオーカンパニーは、有名な企業の一つだ。ゴッドイーターの中では知らない者はいないだろう。
 ネブカドネザルに壊されてしまった神機も、確かホーオーカンパニーが製作した神機だったはずだ。
(なるほどな。リュウはそこの跡取り息子だったのか。だから……)
 と納得しかけてから……
(いや、待てよ……俺は今、とんでもない話を聞いたんじゃないのか?)
 そう思ってリュウを見るが、彼のほうはまったく気にせず、話を続けている。
「僕は経営者一族の長男として、いずれはホーオーカンパニーを継ぐ。だから神機の素材となるアラガミ素材に関心があるんですよ」
 リュウの言葉を受けて、いくつかの疑問が解消される。
「なるほど、そういうことだったのか……」
 確かに、神機開発に関わる企業の人間であれば、アラガミ素材に関心を持つのも当然だ。
 たまに彼が見せる冷めた雰囲気も、将来経営者になる人間だからこそ身についたものかもしれない。
「でも、これまでヒマラヤ支部周辺は小型種ばかりで、中型種さえほとんどいない僻地でした」
「そうらしいな」
 他の地域ではありふれたアラガミのコンゴウやシユウでさえ、この地では珍しい存在だ。
 そういう危険の低い土地だったからこそ、ポルトロンは支部長になり、リュウやレイラのような特殊な生まれの人間が、配属されたのかもしれないが……
「だから今、僕はとても刺激的な環境にいることが嬉しいんです。希少なアラガミ素材が手に入りますからね!」
 リュウはそうして、アラガミ増加や強敵の出現を、純粋に喜んでみせた。
「……危険だとしてもか?」
「ええ……そうでなければ、ゴッドイーターになったりしません。そうでしょ?」
「……」
 リュウは迷いなく頷いてみせる。
 アラガミ素材のために戦う……彼の中では、それが当たり前であり、彼の目的でもあるのだ。
 だとすれば、俺から言えることなどそう多くはないだろう。
「軽蔑しましたか?」
「いや……戦う理由は人それぞれだからな」
「そうですか。ご理解いただけたようで何よりです」
 リュウはにっこりと微笑んで見せるが、その口ぶりはどこか冷たい。
 元々、本心をなかなか表に出さない相手だ。
 今の俺に分かることと言えば、アラガミ素材を得るために戦うリュウと、誇りのために戦うレイラの争いは、今後も続いていくのだろうということくらいだ。
「そうだ。この話は別に秘密じゃないので、支部のみんなには隠さなくていいですよ」
「ああ、分かった」
 別に広めるような話でもないし、そんなつもりもない。
 そう考えながら一応頷くと、リュウが少しだけ寂しそうな表情を見せる。
「ただ……このことはあまり意識しないでください」
「……?」
「僕は僕、ってことで……よろしくお願いしますね」
 そう付け加えると、リュウは元のにこやかな表情に戻った。
 そうして俺に笑いかけると、リュウは手を振り広場から出ていくのだった。

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