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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第二章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~2章-2話~

  調査任務を終えて支部に帰還した後、俺は報告のためにゴドーの姿を探していた。
 そうして広場までやってきたところで、明るい声で迎えられる。
「やあ! カリーナから聞いたさ! 隊長代理になったんだってね?」
 声の主はドロシーだった。
 飲み物を片手に、広場の一角に腰掛けている。
「それでどうだい? 調子のほうはさ」
「……考えていた以上に大変そうです」
「そりゃ、あのゴドー隊長の後釜となりゃ、大変だろうよ。あの人、ホント強いからな」
 ドロシーの言う通り、ゴドーは強い。その実力の高さは、俺も何度か垣間見てきた。
「ゴッドイーター歴十年、チャージスピアで風穴を開けてきたアラガミは星の数、ってね」
 そう言ってドロシーは、槍を振り回すようなポーズを取ってみせる。
 演舞のように大立ち回りは見事だが、ゴドーの真似にしては派手過ぎる。とはいえ、あの無駄のない正確な動きは、俺にも真似しようがないのだが。
「それに、ここのゴッドイーターはみんなあんな感じだから、気が休まることもないよな?」
「それは……」
 ゴドーを始め、レイラやリュウの姿が思い浮かぶ。
 皆、戦闘においては文句のつけようのない実力者たちだ。
 しかしそれと比例するように、性格や個性も強いものを持ち合わせている。
 それでも、俺一人が泣き言を言っていられる状況でもない。
「……ゴドー隊長のように、上手くやります」
「ああ、頑張りな。応援してるからさ」
 そう言うとドロシーは立ち上がり、大きく胸を叩いて笑顔を見せた。
「大丈夫、しんどい時はあたしんとこにおいで! あんたの味方はここにいるよ!!」
 晴れやかなその表情からは、単純明快で温かな優しさが感じられる。
「……ありがとうございます。少し気が楽に――」
「ただし有料、ってのはナシだぜ?」
 俺の言葉を遮って、別の声が割り込んだ。
 JJの言っている意味を理解して、俺は思わずハッとした。
(っ!! まさか、今のも商売文句……?)
「人聞きの悪いこと言うんじゃないよ! 何でも売るのがあたしの主義だけど、ココロとカラダは売らないぞっ!」
 ドロシーは心底心外そうに言い放つ。
「人が真面目に話してたってのに……ていうか、何の用だいおっちゃん!」
 ふん、と拗ねた様子のドロシーだったが、口を尖らせつつも律義に尋ねた。
「おう、それなんだが……しばらくゴドーの神機はメンテがいらんだろ? いい機会だから、お前さんの神機をじっくり見させてもらったんだよ」
「……俺の神機に、何か問題が?」
 そうでなければ、わざわざ会いに来る理由がない。
「実は、前々からどうも損耗が激しいんで、気になってはいたのさ」
「消耗が?」
「ああ。神機との適合率が低いから脆いのか、扱いが乱暴だからなのかと思ったが……そういうことじゃないらしい」
「なるほど……」
 俺にもいくつか思い当たる節があった。
 ゴドーには気のせいだと言われたが、この神機は日に日に強さを増している。
「ふーん。で、結局原因は何なのさ?」
「悪いが、そこはまだはっきりしてない」
JJは頭を掻いてそう言った。それから姿勢を正し、こちらを見つめる。
「だが、じっくり調べた結果、お前さんがどこぞから手に入れた神機はな……」
「俺の神機は……?」
 正直、前々から妙な神機だとは思っていた。
 白い髪の女性が現れるようになったのも、この神機を手にしてからだ。
 これは完全な憶測だが、ネブカドネザルやクベーラが俺の前から撤退したことも、この神機に関係があるのではないだろうか。
 ともかくこれで、あの神機のことがようやく分かるのだ。
 俺はそう思い、固唾を呑んで次の言葉を待った。
「いいか、あの神機はな……」
 そこで一度、ゆっくりと息を吐きだしたJJが、覚悟を決めたように勢いよく叫んだ。

「すごい!!」
 そう言ってJJは、白い歯を覗かせ、満面の笑みを浮かべてみせた。
「はあ!?」
 隣で話を聞いていたドロシーが素っ頓狂な声を上げる。
 俺はといえば、完全に虚を衝かれてしまい呆然としていた。
「はーっはっはっは! よく分からんのだが、すごいんだよ! どうだ、いい報告だろう?」
 まるで悪戯が成功した子供のように、JJは大口を開けて笑っていた。
「何がすごいのか言わんのかい!」
 そんなJJに対し、たまらずドロシーがツッコミを入れる。
「オレはこう見えても技術者だからな、デタラメなことは言えん」
「言ってるじゃないのさ!?」
「まあいいじゃないか……今、明るい話題が少ないだろう? 急にゴドーの後任をやらされることになったお前さんは特にな」
 不意に声のトーンを落としたJJが、俺の肩にポンと手を乗せる。
「下向いてため息なんかついてちゃあ、いい明日なんて来やしない。隊長は前向いて胸を張れ! そうすりゃ誰かがやってくれる……たぶんな」
 そこでようやく俺は、JJが俺を励まそうとしてくれていたことに気がついた。
「なんかイイこと言ってそうだけどそれ、ただの他力本願だよな?」
「うっ……」
 ドロシーに言葉尻を捕られ、JJが短く呻く。
 そのままJJは俺の肩から手を離し、心なしか気まずそうにそっぽを向く。
「おっちゃん、人を励ますのヘタだな」
 ドロシーからの追い打ちを受け、JJの大きな背中が更に丸くなった。
「……そんなことありません。励みになります」
「だろ? だろ? 結構よかったよな?」
 俺の言葉に、食い気味にJJが乗っかってくる。
 さっきまでとは打って変わり、JJは自信たっぷりの笑みを浮かべる。
「な?」
「そんな確認してる時点でダメだって気づけよ……」
 ご機嫌なJJに向けて、ドロシーは心底呆れたようにため息をついた。
 とはいえ俺は、別にJJが可哀想になったからフォローを口にした訳ではない。
 温かく見守り、励ましてくれる二人に対し、俺はもう一度深く感謝した。



  ドロシーとJJの二人と別れた後、俺はカリーナの案内で作戦司令室へと向かった。
 ゴドーはそこで、支部周辺の調査を行っているとのことだ。
 扉の前に立った俺は、念のため姿勢を正してノックをする。
「八神です」
「入っていいぞ」
 するとすぐに、中から気だるそうな声が返ってきた。
 扉を開くと、ゴドーは椅子に腰かけ、コンピューターにかじりつくようにして事務作業をしていた。
「アラガミ増加の調査報告だな、ご苦労」
 ゴドーはこちらを一瞥だけして、すぐさま作業に戻ってしまう。
 そうしてそのまま手を動かしつつ、俺に報告を促してくる。
「外はどうだった?」
「小型種との遭遇、戦闘がありました。他に異常はありません。部隊も全員無事です」
「ふむ、そうか」
 短く答えたゴドーが何か思案する様子を見せる。
 一瞬の間があり、手を止めたゴドーが顔を上げた。
「こちらでも調査を進めていてな。原因はまだ特定できていないが、分かったことが一つある」
「分かったこと、ですか……?」
「ああ。クベーラの出現後、またアラガミの増加率が上がった」
「……!」
 驚く俺に対し、ゴドーはあくまでも冷静だ。
「悪い知らせだと思うだろうが、そうでもない」
「と、言うと……?」
「ああ、クベーラと何らかの因果関係があることが分かったからな」
 ゴドーはずれかけたサングラスを直してから、話を続ける。
「クベーラは相当数のアラガミを捕喰したはずだ。本来なら数は減るが、逆に増えてきている」
(そういえば……)
 確かに、あの山のような巨体が動くためには、相当のエネルギーを必要とするはずだ。
 なのにそのエネルギー源になり得るアラガミが、数を増やしているというのは不自然な話だ。
「数が増え、アラガミ同士の喰い合いも激化すると、アラガミの進化も促進される……その結果、クベーラが現れたのかもしれん」
「それが、悪い話ではない、ですか……」
 現場で起きていることだけを考えれば、アラガミが増え、クベーラという強敵もいつ現れるか分からない状況だ。歓迎すべき要素は何もない。
 そんな俺の発言に対し、ゴドーはニヤリと笑って見せた。
「君は情報の有用性をもっと理解するべきだな。状況が分からなければ、対策を講じようもない」
「……確かに」
 ゴドーの言葉を受け、自分の発言が迂闊なものだったと気がついた。
 選り好みしていられる状況でもない。今は一つでも多くの情報が必要なのだ。
「もっと広い視野を持ち、よく考えろ。君は強くなりたいのだろう?」
「……はい」
 全てを見透かしたようにゴドーが言った。
 実際、彼の強さを裏付けているのは、戦闘技術だけではない。
 知識、判断力、指揮能力……今より強くなるために、学ばなければいけないものは多そうだ。
「いずれにせよ、クベーラを放置しておく訳にはいかんな」
 言いたいことを言い終わると、ゴドーはさっさと元の話題に戻った。
「何か策が?」
「検討中だ。ま、君に倒して来いなどと丸投げしたりはしない」
 ゴドーは冗談めかして言うが、彼ならそういう指示も出し兼ねないのが恐ろしい。
 あの巨体を相手にして、また運良く退けられるなんて考えないほうがいいだろう。
 早急に、支部として対策を講じる必要がある。
「ところで、神機の調子はどうだ?」
 また唐突に、ゴドーが違う話題を投げかけてきた。
 相変わらず、必要なことしか話すつもりがないのだろう。
「問題ありません。戦闘も万事滞りなく行えます」
「そうか。何か気になるようなことはないか?」
「いえ。これまでに報告した以上のことは、何も……」
 そう答えかけてから、俺はJJの言葉を思い出した。
「そう言えば、俺の神機はすごいそうです」
「らしいな。JJから軽く話は聞いている」
 掴みどころのない情報に対し、ゴドーはしっかりと納得を示した。
「もし神機に違和感を覚えたら、必ず言ってくれ。JJにも言ってある」
「了解です」
「それと、例のマリアの声はどうだ?」
「……あの声は、クベーラが現れた時以来、聞こえません」
「そうか……」
 ぽつりと言ったゴドーが考え込むように僅かに俯いた。
 質問の意図は分からなかったが、何か思うところがあるようだった。
「もし機会があれば、礼を言いたいな。また現れてくれるといいんだが」
「礼、ですか……?」
「そうだ。クベーラの時は助けられたからな。君の出撃を後押ししてくれたのだろう?」
「……はい」
「だとすれば俺の命と、この支部の恩人だ。もう一度現れたら教えてくれ」
 ゴドーの言葉の中に、冗談めかした様子はない。
 本気で俺の言葉と、あの白い髪の女性の存在を信じてくれているらしかった。
「分かりました」
 何となく、あの純白の女性はまた現れるような気がしていた。
 最初のうちは幻や幻聴のように希薄な存在だったが、最近は声も姿も徐々に明瞭になっている。
 ただ、だからこそ余計にあの女性の謎は深まるばかりだった。
(マリアによく似た純白の姿、マリアそのものの声……彼女は一体なんなんだ……?)


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