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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 第十章
「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~10章-10話~
「だいぶ維持してきたけど、そろそろ限界だな……」
東部戦線の戦況は、お世辞にもいいとは言えない。
接近するアラガミをなんとか足止めしている間に、背後からさらに強力なアラガミが迫る。
ありがたいのは、そのうちにヤツらが共喰いをはじめてくれることくらいだが、それで敵の数が減る訳でもない。
長期戦を強いられた僕たちは疲労回復の暇もなく、いたずらに後退し戦線を下げ続けている。
とはいえ、諦めるつもりは毛頭ない。
僕は一度、ゆっくりと息を整え、乱れていた呼吸を落ち着かせる。
「これ以上ラインを下げると、支部へ抜けていくアラガミも出る。それだけは阻止しなくては……!」
支部には僕が守るべき人たちがいる。僕たちを信じ、待ってくれている人たちがいる。
彼らのためにも、ここで引くわけには絶対に行かない……!
『お待たせ! 援軍到着よ!』
「来たか!」
待ちわびた連絡が、カリーナによって届けられる。
これでまだ戦える。……いや、違うな。
これでようやく戦える……!
「東部戦線各位へ! 北東に援軍到着! 北から順に攻勢へと転じ、切り崩せ!!」
すぐさま東部戦線全体に対し通信を行う。
通信機の向こうからも、安堵と喜びの声が聞こえてくる。
よし……皆の気持ちも切れてない。
当然だ。そのためにはじめから、防戦一方で戦線を下げ続けていたんだ。
力を温存させ――ろくに戦えないフラストレーションを一気に爆発させるために!
「南東へは僕が行く! 南北から挟み込むぞ!」
僕は弱い。
それはいつか、嫌というほど思い知ったことだ。
だけどそれを自覚したことで、新たに見えてきたこともある。
この東部戦線に、ゴドー隊長や八神さんのような派手な実力者はいない。
だけどここには、たくさんのゴッドイーターたちがいる。
ならば戦える。群れを成し、目的を同じくした人間たちが集まれば、どんな強敵にも打ち勝てる。
「敵を知り己を知れば……なんて。使い古された言葉だと思ってたけど――」
知ってるはずの言葉の意味が、すっと飲み込める瞬間がある。
知識ではなく経験として、自分の血肉になった感覚とでも言うべきか。
それを感じる時、僕は強くなれたとはっきり感じる。
自分が弱いと知れてよかった。
おかげで僕は、まだまだ強くなれそうだ。
そんなことを考えている間にも、状況は刻一刻と変わっていく。
『北東、大型種一体撃破!』
「速いな! 相当な連戦だっていうのに、まったく……!」
どうやら北東で動きがあったらしい。
そこに誰がいるのか、全てを聞かずともすぐに分かった。
あの人がこちらに向かってきている。
それも、派手にアラガミを蹴散らしながら進んでいくのだからたまらない。
――僕含め、皆の気持ちが折れていない理由の一つには、間違いなく彼の活躍があるだろう。
一人で戦局すら変えてしまえる存在……英雄か。
正直、まったく羨ましくない訳じゃないけど……
ここを任せされている以上、僕も負けていられない――
「無理をするななんて言える状況じゃないけど! カリーナさん、後で会おうって伝えてください!」
『ええ! リュウもしっかりね!』
彼女の通信が切断されると同時に、僕は神機を握る拳に力を込める。
脳裏にかつて、戦場で命を失いかけた時の光景が浮かんだ。
一度目は、初めてネブカドネザルに会った時――
二度目はクロムガウェインに壁を打ち破られた時――
いずれも自分の弱さを知らず無謀に突き進み、現実を突きつけられた苦い経験だ。
だけど、おかげで今の僕がいるのだとすれば……すべてが悪い思い出でもない。
一度目は八神さんに、二度目はレイラに救われた。
――だから今度は僕が、皆の命を救う番だ。
「やってみせるさ……リュウ・フェンファンは二度、戦いで過ちを犯してきた……三度目は無い!!」
「リュウ!」
「――……!」
リマリアの声で我に返る。
そのまま視線を巡らせると、見慣れた姿がそこにあった。
「やった! 合流だ!!」
『やりましたね! 東部戦線、南北から突破成功です!』
(そうか……もう辿り着いたのか)
ゴドーの元を離れてからまだ数時間。
目についた大型種を片っ端から相手してきたこともあり、もっと到着が遅れるかと思ったが……
存外、他愛のないものだ。
「それで、どうですか調子は……?」
(調子……?)
リュウの表情を確認し、彼が連戦続きの俺を心配しているのだと気づく。
「余裕だ」
あまりに的外れな問いかけに、吹き出しそうになりつつ答えた。
調子は過去最高と言ってもいい。
疲労はない。
むしろ戦えば戦うほどに自分が磨かれ、余分な力や思考が削ぎ落されていく感覚がある。
「これなら、南部戦線もいけそうですね」
「ん……そうだな」
リュウに応えながら、俺は周囲の様子を見渡す。
南部戦線――クロエを助けに行くのは構わないが、少し物足りないな。
「え? あの、八神さん、どうするんです?」
「もう少し、アラガミを喰ってから行く」
「ええっ……!?」
俺の言葉に、リュウが慌てた表情を浮かべる。
……そんなにおかしなことを言ったか?
アラガミを多く倒してやると言っているんだ。むしろ喜ぶべきことじゃないのか?
「東部戦線は圧倒的に優勢です! クロエ支部長が守る南部へ向かってください!」
「セイさん、リュウの言う通りです。南部戦線に向かいましょう」
「……あ、ああ。そうだな」
リマリアの声を聞き、再びハッと我に返る。
何の話をしていたんだったか……そうだ。南部戦線に向かうのだった。
そうすれば、この空腹も少しは紛れることだろう。
問題はクロエが喰いごたえのあるアラガミを残してくれているかどうかだが……
それか、クロエが俺の相手をしてくれるなら、少しは面白くなるんだがな。
「八神さん……」
「カリーナさん、西部と北部の状況は?」
『戦線は維持されています。予定通り、まずは南部戦線ですね!』
リマリアの言葉を受けて、即座にカリーナから通信が返ってくる。
「分かりました。――行きましょう、セイさん」
「ああ」
リマリアに応え、そのままリュウに背中を向ける。
「それにしても……」
そのまま走り出そうとしたところで、リュウが背後でポツリと呟く。
「どうした?」
振り返って尋ねると、リュウは慌てた様子で首を振った。
「……いえ、なんでもありません。戦闘中ですから、気を抜かないように」
「そんなことか。当然だな」
俺はリュウの冗談に笑って返すと、そのまま神機を大きく振るう。
切っ先から跳んだ返り血が地面を濡らす。戦いが終われば、JJが整備に苦労しそうだ。
そう言えば、消耗品も全然使っていない。
もう少し減らしておかないと、またドロシーにため息をつかれてしまうな。
(JJ……ドロシーか……)
急に彼らの声が聞きたくなる。
……この戦いに勝って、彼らのところに戻らなくてはな。
そのためにも、もっとアラガミを倒さなければ――
「行きましょう!」
「ああ」
リマリアに応え、今度こそ俺は走り出す。
『クロエ支部長に報告します。では!』
カリーナからの通信も途絶えた。
すると辺りは急激に静かになり、俺の思考もすぐにクリアなものに変わっていく。
「スサノオか……」
目の前に見知ったアラガミの姿がある。
いつかはかなり苦戦して、仲間たちと協力してなんとか倒したんだったな。
だが今なら――
(……お前が接触禁忌種なら、今の俺は何なんだろうな?)
「――っ。セイさん……?」
リマリアが狼狽えるように俺を見る。
しかし俺は彼女に応えずスサノオに向かった。
気にならなかった訳ではないが……今はそれよりも戦いたい。
「行ったか……」
彼の姿が見えなくなってから、遅れてカリーナからスサノオ討伐の報告が届く。
相変わらず、恐ろしいスピードと力だ。頼もしいという言葉では足りないほどに……
「それにしても異常じゃないか……? ここまでずっとアラガミの大群と戦ってきたというのに……」
顔を合わせた瞬間、すぐに違和感を覚えた。
八神さんのことはよく知っているつもりだが……その顔つきも振る舞いも、今日は別人のようだった。
「不自然なほど生気に満ちていた。あんな彼は見たことが無い……」
何より気になるのは、あの目つきだ。
僕が知る八神さんは、いつも無口で冷たく見えるが、その目にはいつも穏やかで頼もしい光がたたえられていた。
それなのに、獰猛で自信に溢れ、獲物を見定めるようなあの目つき、あの雰囲気……
彼は本当に、八神さんだったのか……?
「まるでアラガミを喰って奪った力が溢れ出ているような……」
たしかに、今の八神さんは頼もしい。
彼がいなければ、ヒマラヤ支部はすでに崩壊しているかもしれない。
だけど……
「あんな状態、ずっと続くものなのか……?」
あれだけの力を目の当たりにして、どうしてこんな不安を覚えるのだろう。
大丈夫のはずだ。彼自身、余裕と言っていたじゃないか。
だけど……
もう八神さんは帰ってこないような、どうしてかそんな予感がしていた。
「だいぶ維持してきたけど、そろそろ限界だな……」
東部戦線の戦況は、お世辞にもいいとは言えない。
接近するアラガミをなんとか足止めしている間に、背後からさらに強力なアラガミが迫る。
ありがたいのは、そのうちにヤツらが共喰いをはじめてくれることくらいだが、それで敵の数が減る訳でもない。
長期戦を強いられた僕たちは疲労回復の暇もなく、いたずらに後退し戦線を下げ続けている。
とはいえ、諦めるつもりは毛頭ない。
僕は一度、ゆっくりと息を整え、乱れていた呼吸を落ち着かせる。
「これ以上ラインを下げると、支部へ抜けていくアラガミも出る。それだけは阻止しなくては……!」
支部には僕が守るべき人たちがいる。僕たちを信じ、待ってくれている人たちがいる。
彼らのためにも、ここで引くわけには絶対に行かない……!
『お待たせ! 援軍到着よ!』
「来たか!」
待ちわびた連絡が、カリーナによって届けられる。
これでまだ戦える。……いや、違うな。
これでようやく戦える……!
「東部戦線各位へ! 北東に援軍到着! 北から順に攻勢へと転じ、切り崩せ!!」
すぐさま東部戦線全体に対し通信を行う。
通信機の向こうからも、安堵と喜びの声が聞こえてくる。
よし……皆の気持ちも切れてない。
当然だ。そのためにはじめから、防戦一方で戦線を下げ続けていたんだ。
力を温存させ――ろくに戦えないフラストレーションを一気に爆発させるために!
「南東へは僕が行く! 南北から挟み込むぞ!」
僕は弱い。
それはいつか、嫌というほど思い知ったことだ。
だけどそれを自覚したことで、新たに見えてきたこともある。
この東部戦線に、ゴドー隊長や八神さんのような派手な実力者はいない。
だけどここには、たくさんのゴッドイーターたちがいる。
ならば戦える。群れを成し、目的を同じくした人間たちが集まれば、どんな強敵にも打ち勝てる。
「敵を知り己を知れば……なんて。使い古された言葉だと思ってたけど――」
知ってるはずの言葉の意味が、すっと飲み込める瞬間がある。
知識ではなく経験として、自分の血肉になった感覚とでも言うべきか。
それを感じる時、僕は強くなれたとはっきり感じる。
自分が弱いと知れてよかった。
おかげで僕は、まだまだ強くなれそうだ。
そんなことを考えている間にも、状況は刻一刻と変わっていく。
『北東、大型種一体撃破!』
「速いな! 相当な連戦だっていうのに、まったく……!」
どうやら北東で動きがあったらしい。
そこに誰がいるのか、全てを聞かずともすぐに分かった。
あの人がこちらに向かってきている。
それも、派手にアラガミを蹴散らしながら進んでいくのだからたまらない。
――僕含め、皆の気持ちが折れていない理由の一つには、間違いなく彼の活躍があるだろう。
一人で戦局すら変えてしまえる存在……英雄か。
正直、まったく羨ましくない訳じゃないけど……
ここを任せされている以上、僕も負けていられない――
「無理をするななんて言える状況じゃないけど! カリーナさん、後で会おうって伝えてください!」
『ええ! リュウもしっかりね!』
彼女の通信が切断されると同時に、僕は神機を握る拳に力を込める。
脳裏にかつて、戦場で命を失いかけた時の光景が浮かんだ。
一度目は、初めてネブカドネザルに会った時――
二度目はクロムガウェインに壁を打ち破られた時――
いずれも自分の弱さを知らず無謀に突き進み、現実を突きつけられた苦い経験だ。
だけど、おかげで今の僕がいるのだとすれば……すべてが悪い思い出でもない。
一度目は八神さんに、二度目はレイラに救われた。
――だから今度は僕が、皆の命を救う番だ。
「やってみせるさ……リュウ・フェンファンは二度、戦いで過ちを犯してきた……三度目は無い!!」
「リュウ!」
「――……!」
リマリアの声で我に返る。
そのまま視線を巡らせると、見慣れた姿がそこにあった。
「やった! 合流だ!!」
『やりましたね! 東部戦線、南北から突破成功です!』
(そうか……もう辿り着いたのか)
ゴドーの元を離れてからまだ数時間。
目についた大型種を片っ端から相手してきたこともあり、もっと到着が遅れるかと思ったが……
存外、他愛のないものだ。
「それで、どうですか調子は……?」
(調子……?)
リュウの表情を確認し、彼が連戦続きの俺を心配しているのだと気づく。
「余裕だ」
あまりに的外れな問いかけに、吹き出しそうになりつつ答えた。
調子は過去最高と言ってもいい。
疲労はない。
むしろ戦えば戦うほどに自分が磨かれ、余分な力や思考が削ぎ落されていく感覚がある。
「これなら、南部戦線もいけそうですね」
「ん……そうだな」
リュウに応えながら、俺は周囲の様子を見渡す。
南部戦線――クロエを助けに行くのは構わないが、少し物足りないな。
「え? あの、八神さん、どうするんです?」
「もう少し、アラガミを喰ってから行く」
「ええっ……!?」
俺の言葉に、リュウが慌てた表情を浮かべる。
……そんなにおかしなことを言ったか?
アラガミを多く倒してやると言っているんだ。むしろ喜ぶべきことじゃないのか?
「東部戦線は圧倒的に優勢です! クロエ支部長が守る南部へ向かってください!」
「セイさん、リュウの言う通りです。南部戦線に向かいましょう」
「……あ、ああ。そうだな」
リマリアの声を聞き、再びハッと我に返る。
何の話をしていたんだったか……そうだ。南部戦線に向かうのだった。
そうすれば、この空腹も少しは紛れることだろう。
問題はクロエが喰いごたえのあるアラガミを残してくれているかどうかだが……
それか、クロエが俺の相手をしてくれるなら、少しは面白くなるんだがな。
「八神さん……」
「カリーナさん、西部と北部の状況は?」
『戦線は維持されています。予定通り、まずは南部戦線ですね!』
リマリアの言葉を受けて、即座にカリーナから通信が返ってくる。
「分かりました。――行きましょう、セイさん」
「ああ」
リマリアに応え、そのままリュウに背中を向ける。
「それにしても……」
そのまま走り出そうとしたところで、リュウが背後でポツリと呟く。
「どうした?」
振り返って尋ねると、リュウは慌てた様子で首を振った。
「……いえ、なんでもありません。戦闘中ですから、気を抜かないように」
「そんなことか。当然だな」
俺はリュウの冗談に笑って返すと、そのまま神機を大きく振るう。
切っ先から跳んだ返り血が地面を濡らす。戦いが終われば、JJが整備に苦労しそうだ。
そう言えば、消耗品も全然使っていない。
もう少し減らしておかないと、またドロシーにため息をつかれてしまうな。
(JJ……ドロシーか……)
急に彼らの声が聞きたくなる。
……この戦いに勝って、彼らのところに戻らなくてはな。
そのためにも、もっとアラガミを倒さなければ――
「行きましょう!」
「ああ」
リマリアに応え、今度こそ俺は走り出す。
『クロエ支部長に報告します。では!』
カリーナからの通信も途絶えた。
すると辺りは急激に静かになり、俺の思考もすぐにクリアなものに変わっていく。
「スサノオか……」
目の前に見知ったアラガミの姿がある。
いつかはかなり苦戦して、仲間たちと協力してなんとか倒したんだったな。
だが今なら――
(……お前が接触禁忌種なら、今の俺は何なんだろうな?)
「――っ。セイさん……?」
リマリアが狼狽えるように俺を見る。
しかし俺は彼女に応えずスサノオに向かった。
気にならなかった訳ではないが……今はそれよりも戦いたい。
「行ったか……」
彼の姿が見えなくなってから、遅れてカリーナからスサノオ討伐の報告が届く。
相変わらず、恐ろしいスピードと力だ。頼もしいという言葉では足りないほどに……
「それにしても異常じゃないか……? ここまでずっとアラガミの大群と戦ってきたというのに……」
顔を合わせた瞬間、すぐに違和感を覚えた。
八神さんのことはよく知っているつもりだが……その顔つきも振る舞いも、今日は別人のようだった。
「不自然なほど生気に満ちていた。あんな彼は見たことが無い……」
何より気になるのは、あの目つきだ。
僕が知る八神さんは、いつも無口で冷たく見えるが、その目にはいつも穏やかで頼もしい光がたたえられていた。
それなのに、獰猛で自信に溢れ、獲物を見定めるようなあの目つき、あの雰囲気……
彼は本当に、八神さんだったのか……?
「まるでアラガミを喰って奪った力が溢れ出ているような……」
たしかに、今の八神さんは頼もしい。
彼がいなければ、ヒマラヤ支部はすでに崩壊しているかもしれない。
だけど……
「あんな状態、ずっと続くものなのか……?」
あれだけの力を目の当たりにして、どうしてこんな不安を覚えるのだろう。
大丈夫のはずだ。彼自身、余裕と言っていたじゃないか。
だけど……
もう八神さんは帰ってこないような、どうしてかそんな予感がしていた。