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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 序章・第一章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~1章-5話~


「おう、ご苦労さん! ずいぶん頑張ってるみたいだな!」
 整備場に入ったところで、JJが労いの言葉と共に俺を出迎えてくれた。
「頑張ってる……?」
「今回の戦闘のことだよ。かなり大規模な戦いだったんだろ?」
 帰ってその足でやってきたのに、すでにJJは今回の戦いについて知っていた。
 支部を悩ます人手不足も、意外と情報伝達の速度向上には一役買っているのかもしれない。
「ザイゴートってのは飛んでるから戦いにくいんだってなあ? 倒すの、大変だっただろう?」
「そうですね。キツい戦闘でした」
「なんだよ、謙遜してんのか? リュウの話じゃ、ずいぶんな活躍だったそうじゃないか」
「……いえ」
 謙遜どころか、自分の実力不足が浮き彫りになった戦いだった。
 ゴドーなら、ああも苦戦はしなかったはずだ。マリアなら、もっとスマートに立ち回っただろう。
「俺は弱いので、必死に戦うしかありませんから」
「弱い……か。ま、本当のところは置いといても、そういう気構えでいたほうがいいのかもな」
 俺の言葉に、JJはうんうんと何度も頷いてみせる。
「これからも油断はすんじゃねぇぞ。なにしろ小型種相手でも、命を落とす奴もいるんだからな」
 そう言うと、JJは丸太のような腕を、こちらに向けて突き出した。
「生きて戻れりゃ御の字だ。だろ?」
「はい」
 JJに倣って、俺も腕を突き出した。そのまま互いの腕を軽くぶつけ合う。
 そうしていると、背後からパタパタとこちらに駆け寄る足音が聞こえてきた。
「あ、新人さん! こちらでしたか!」
「カリーナさん? 俺に何か用ですか?」
「はい! 支部長がお呼びですよ」
 俺が返事をする前に、背後からJJが身を乗り出してくる。
「なに? まさかゴドーのウソがばれたのか?」
「正規の神機を紛失した件は、ばれてないみたいです。支部長の機嫌はよさそうでしたし」
「そうか……なら、いいんだが」
俺の代わりに、JJが安心するようにため息をついた。
JJやカリーナは、あくまでも俺の味方をしてくれるらしい。
それにしても、支部に来たばかりの新人を、ここまで庇ってくれる理由は何なのだろう。
それだけゴッドイーターの人手が必要なのか、支部長に対する信頼値の問題なのか。
単に、彼らが善良な人たちなのかもしれない。
「支部長室は役員区画にあります。よろしくお願いしますね」
カリーナの笑顔に頷いてから、俺は支部長室へと向かった。

初めて訪れた役員区画をまっすぐに進んでいくと、やがて支部長室と書かれた扉が見つかる。
支部長はどんな人間なのだろうか。
念のため姿勢を正してから、部屋のドアをノックする。
「第一部隊、八神セイです」
「――ああ、入りなさい」
 俺が名乗ると、部屋の中から男性の声が返ってきた。
「はっ。失礼します」
 言葉に従い部屋へ入ると、広々とした部屋が目に入る。
石造りの床に、高級そうな調度品の数々……壁には金色の額縁に収められた絵画も飾られている。
 全体の色調としては落ち着きがあり、清潔感を感じさせる部屋だったが……資材不足に苦しむヒマラヤ支部のなかにあって、この部屋だけが別世界のようだった。
 そんな部屋の中央で、白髪交じりの壮年の男性がこちらに向けて立っていた。
「来たか……支部長のパトリック・ポルトロンだ。会うのは初めてだったかな?」
 支部長……ポルトロンはそう言って、値踏みするようにしてこちらを見る。
「はっ、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
「構わないよ。楽にしたまえ」
「はっ」
「ここに呼んだのは君とマリア君に行ってもらった、不審な施設の件だ」
「あの施設の……? まさか、何かマリアのことが……っ!?」
「ああ、マリア君の生存確認については、現在進めている最中だよ」
 俺の言葉を遮って、ポルトロンが答えた。
「そう……ですか。逸ってしまい、申し訳ありません」
 頭を下げる俺の前で、ポルトロンは鷹揚に頷いて見せる。
「ただ、マリア君とも関わる話だ」
(マリアと……?)
「あの施設でフェンリルのエムブレムを見た、という報告があっただろう? そのことで私の方でも調査をしたんだ」
 そこでポルトロンは勿体ぶるように一拍置いてから、再び口を開いた。
「調査でわかったことだが、あそこにはもうひとつ『支部』があったようなのだよ」
「支部……?」
「そう、フェンリルの支部だ……古いもので、アラガミの侵入を防ぐ設備がなく壊滅、放棄されたままになっていたらしい」
(……あの施設は、フェンリルに関係する研究所などではなく、支部そのものだったのか)
 それならばフェンリルのエンブレムがあったことや、神機があったことも納得がいく。
「そこで君達には、もう一度あの支部だった施設を調査してもらいたい」
「あの施設を……?」
「そうだ。すでにゴドー隊長には調査を命じてある。君も同行したまえ」
 ポルトロンは言い終わると、そのまま口を閉じた。俺が頷くのを待っているのだろう。
「了解しました」
俺としても望むところだ。
あの場所に行けば、マリアにつながる手がかりが見つかるかもしれない。
「あー、ただし……余計な深入りはするんじゃあないよ? ゴッドイーターの役目は『宝探し』では、ないのだからね」
「心得ています」
「ならいい。ゴドー隊長は作戦司令室にいるはずだ、君も合流したまえ」
「はっ、失礼します」
 俺は挨拶を済ませ、ゴドーが待つ司令室へと向かうことにした。

「今回は俺とリュウ、そしてセイと三人で出るぞ」
 指令室に入るなり、ゴドーは俺とリュウにそう告げた。
「レイラは留守番ですか?」
「そうだ。支部長の指示でな」
「……へえー」
 ゴドーの言葉に、リュウは何か含みのある返事をする。
 レイラが残る理由に、何か心当たりがあるのかもしれない。
「……行くとしよう。任務については道すがら説明する」
 ともかくゴドーの号令で、俺は再びあの場所へと向かうことになった。



放棄されたかつてのフェンリル支部……
その名残もほとんど残っていない、朽ち果てた施設の前に立つ。
アラガミとの戦闘を極力避けながら進んできたこともあって、ここまでは何事もなく辿り着けた。
ゴドーとリュウの後に続いて、俺も一歩、施設に足を踏み入れる。
「大丈夫ですか?」
 そんな俺にリュウが心配そうに声をかけてきた。
 どうやらあのときの……白毛のアラガミとの戦いを思い出し、気づかないうちに、身体がこわばっていたらしい。
「……ああ、大丈夫だ。問題ない」
「気持ちはわかるが、今は任務に集中してくれ」
「すみません、もう大丈夫です」
 ゴドーの言葉を受け、俺は改めて施設の調査に集中することにした。
 白毛のアラガミや、この神機についての情報、そしてマリアの手がかり……
 それらを見逃さないよう、必死に周囲へ目を配っていたが、それらしいものは見当たらない。
 そうして何も見つからないうちに、そのままエンブレムのある壁の前までたどり着いてしまう。
「フェンリルのエンブレム……確かにあるな」
「外壁に『対アラガミ装甲壁』が使われていませんでしたから、本当に古い施設です……これではアラガミの侵入を防げません」
 対アラガミ装甲壁は、素材に「偏食因子」を練り込むことで、アラガミからの捕食を阻害する特性を持つ装甲で出来た壁だ。
 それが無いということは、かなり古い時代の支部だったのだろう。
 それこそ、アラガミ出現当初に作られたものかもしれない。
「それで、どこから調査していきますか?」
 リュウが辺りを見渡したところで、レーダーに反応があった。
 施設の奥から、複数のアラガミが俺達に近付いている。
「面倒だが、調査の前にアラガミの掃除だ。カリーナ、オペレートを頼む」
『了解しました!』
 ゴドーの呼び掛けに、カリーナが通信機越しに返答する。
「例の白毛のアラガミのこともある。あまり離れすぎるなよ」
「……了解」
 白毛のアラガミと対峙した時のことを思い出すと、身体の奥から震えが来る。
 その悪寒を振り切るように、俺は神機を握る手に力を入れた。

 カリーナのオペレートに従いながら、俺たちは施設の奥へと進んでいく。
 途中、小規模の戦闘を何度か繰り返したが、襲ってきたのは小型種のアラガミばかりだった。
 危惧していた白毛のアラガミについても姿を現すことはなく、調査は円滑に進められた。
 だが……
「ふむ……支部の設備はほぼ死んでいるな」
「生きてたって、古すぎて使えないんじゃないですか?」
「データの回収ぐらいはできたさ。それが役立つかと言われれば、微妙だがな」
 残念ながら、求めていた情報は何一つ見つからなかった。
「隅々まで調べますか?」
「支部長が求めているのは発見ではなく、安全の確証だ。小型種の巣になっているが危険な種はいない、と報告すればいい」
 たしかに、ポルトロンも「宝探しではない」と話していた。
 これ以上の調査は、求められていないのだろう。
「……」
「マリアさんに関する手がかりもありませんでしたね」
 施設の調査に対しては冷めた様子のリュウだったが、マリアのことは残念そうに呟いた。
 マリアの痕跡が見つかることを期待していた俺も、少なからず気が滅入る。
「セイ、マリアの声についてはどうだ? 何か聞こえたりはしなかったのか?」
「いえ……残念ながら、何も」
 注意は常にしていたので、気づかなかったということはないだろう。
 何度か経験した、声が聞こえてくる前の奇妙な感覚もなかった。
「そうか……では、支部に戻るぞ」



 支部へと戻った俺は、ふたたび役員区画に足を踏み入れる。
 隣にゴドーとリュウの姿はない。ポルトロンへの任務報告は俺が行うことになっていた。
 再び支部長室の前に立ったところで、俺は扉が少し開いていることに気が付いた。
 それに、中から声も聞こえてくる。
(声の主はポルトロンと……レイラか?)
 不審に思った俺は、ドアの隙間から中の様子を窺った。

「テレジア姫殿下にあらせられましては、なにとぞ健やかにこの地にてお過ごしくださいますよう……」
「パトリック、そなたの計らい、嬉しく思います」
「は……つきましては私めの忠順、篤実をお父上様、テレジア国王陛下にお伝えくださいますようお願い申し上げます」
「しかと聞き届けました。勤倹力行に励みなさい」
「ははっ! 出精いたします!」

 どういうことなのか、ポルトロンがレイラの手を取り恭しく跪いていた。
 そんなポルトロンを直立不動で見下ろすレイラの表情は、まさしく王族のものに見える。
(あの二人の関係は一体……? とにかく、今は入っていくのはマズそうだ……)
 これ以上覗き見することも気が引けた俺は、そっとその場を後にした。

 時間つぶしに広場へやってきた俺は、そこで先ほどの光景について考えていた。
(さっきのポルトロン支部長とレイラのやりとりは、一体……?)
「茶番劇、です」
「……!」
 いつの間にやってきたのだろう。
 俺の背後に立ったレイラが、こちらの考えを見透かすようにして言い放った。
「……茶番劇というのは?」
「わざとドアを少し開けておいたのです。あなたに見せておくために」
「……アレは何だったんだ?」
「まだ国家というものがあった時代の、恭順の意を示す作法……」
「だが、確かレイラの国はもうないはずだろう?」
「ええ。ですが、わたくしの父はフェンリル本部に強い影響力を持っています。彼はそれを利用したがっている」
 レイラは心底つまらなさそうに、吐き捨てるようにして言葉を続ける。
「つまりはご機嫌とりというわけです」
 なるほど、とレイラの言葉に合点がいく。
 仮にも支部長である人間が、配下の……それもレイラのような少女を相手に頭を下げる。
 その異様さには驚かされたものの、種明かしを聞けば、拍子抜けするような理由だった。
「では何故、それを俺に見せた? まさか……」
「あなたもやりなさい、なんて思っていません。彼がそうしたがるから、させてあげているだけのこと」
「そうか……」
 レイラの言葉を受け、ため息をつく。
 頭を下げるくらい訳はないが、細かく礼節を説かれていたら、戦闘に支障が出るかもしれない。
「しかし良かったのか? 支部長にも面子があるだろう」
「ゴドーやリュウ、カリーナも知っていることよ。別に隠すことではないもの」
「何だって……?」
 レイラの言葉に、少なからず面食らう。
 調査任務に向かう前、リュウがポルトロンとレイラに関して含みのある言い方をしていたことを思い出した。
 ということは、ポルトロンはレイラに気に入られるために、戦いを免除したのだろうか。
 この少女の気性を考えれば、かえって逆効果のようにも感じるが……
「隠そうとすれば疑われる、そういうものでしょ」
 レイラは突き放すようにそう言った。
 なるほど。ポルトロンにしてみれば、「パトリック家とつながりがある」という事実のほうが、自分の面子よりも大事なのだ。
 そのことを俺や周囲に知られて、陰口を叩かれることくらい、なんとも思っていないのだろう。
「支部長がどういう人間か、わかったか?」
 ポルトロンの思惑について考えていると、ゴドーが会話に加わってくる。
「……大物ですね」
「はあ? どうすればそんな評価になりますの?」
 俺の言葉を聞いて、レイラが眉を顰める。
 しかし、目的のためならば、周囲から軽蔑されることも厭わないというその姿勢は、並大抵のものではない。
人間的に褒められるかどうかは置いても、曲者なのは間違いないだろう。
「ふふ、面白いものの見方だ。君にはいい観察眼がありそうだな」
不機嫌そうなレイラに対し、ゴドーはおかしそうに笑っていた。
いずれにせよ、俺にして見れば、癖の強い隣人がまた一人増えたというだけだ。
支部長との出会いも、マリアを探し出すために必要なものになるのだろうか。
それとも……



「……」
 テレジアの小娘がいなくなったあと。
 ひとりになった支部長室で私は、グラスへ注いだ一級品のワインを優雅に傾けていた。
(ふん……小娘相手にへつらうのも骨が折れる。我ながらよくやるものだ)
 呆れや自嘲を通り越し、ただただ乾いた笑いが込み上げた。
「これも我が身を護るため……ふふふ」
 周囲になんと思われようが構わない。生き残るため、考えつく限りあらゆる手段を使ってきた。
 そしてそのやり方は、これからも変わらないだろう。
 事実、生き残ってきたのだから。
 誰になんと思われようとも、私が今ここにいることが、私の正しさを証明している。
 揺るがぬ信念を再確認し、私は一気にワインを煽った。

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