ゴッドイーター オフィシャルウェブ

CONTENTS

「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 序章・第一章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~1章-3話~

ゴドーとレイラの二人と別れた後。
俺はそのまま広場に残り、ひとり考えを巡らせていた。
脳裏によぎるのは、戦場で聞いたあの声……。あれは、確かにマリアの声だった。
だが……どうして俺にだけ、マリアの声が聞こえるんだろうか。
そして、彼女が俺に伝えた「危険」とは、一体……
「やあ、あんたが第一部隊の新入りだね?」
 考え事をしている間に、ふいに声を掛けられた。
「そうですが……」
 返事をして視線を向けると、気の強そうな雰囲気を漂わせる赤髪の長身の女性の姿があった。年齢は二十代前半といったところだろうか。
「そう堅苦しく構えないでよ。あたしはドロシー、マリアのダチさ」
「マリアの……?」
「そう。あんたにお届けものがあって来たんだ」
ドロシーはゴソゴソと背負っていた鞄を漁る。
「はい、これ!」
目的の物を見つけたらしい彼女は、飾りのついた箱を俺に手渡してきた。
「これが、俺への届け物……?」
「マリアがあんたの着任祝いにって、用意した贈り物だよ。輸送便が遅れて、あんたの着任日には間に合わなかったんだ」
「マリアのやつ……こんなものまで用意してくれてたのか……」
 別に着任祝いなんてなくとも、俺はマリアに……家族に会えるだけでよかったっていうのに。
「どれが似合うだろうかって毎日カタログを眺めては悩んでたよ。たくさんの候補から絞り込むの、あたしも手伝ったんだぜ?」
「……そういうところは、昔から変わらないな」
「あはは、やっぱりそうなのかい」
「はい」
昔から皆へとプレゼントを贈る時もそうだった。誰が相手でも何日も悩んで……俺もよく一緒に考えさせられたものだ。
「……妥協ってもんが苦手だから、頑張りすぎちまうんだろう。一生苦労するタイプだ、あれは」
「マリア……」
渡された箱を握りしめ、マリアの姿を思い浮かべる。
「悲しい贈り物になってしまうから、渡していいものか迷ったけど、マリアが生きていると信じてるあんたなら、大丈夫だと思ってね」
「……はい。マリアは生きている。俺は、そう信じます」
「ああ。マリアは生きてる。あたしも一緒……少しでも可能性があるなら、そう信じるさ」
そういうと、ドロシーは俺から視線を外し、空を見上げた。
「あたしも弟と妹がいてさ。マリアとは似た者同士で、気が合う間柄なんだよ」
「……そうだったんですか」
「神機に適合する可能性のある子が集められた施設……マリアはそこの最年長で、年下の子達をかわいがってたってね」
 ドロシーの言葉に、施設での光景が思い出される。
 懐かしいものだ。マリアはいつもお姉さんぶって、俺や他の皆の世話を焼いていた。
 だが……。
「でも、みんな死んでしまった……あんた以外は」
「………………」
「たったひとり生き残った弟だって、あんたのことをいつも気にかけてた」
昔は大勢いた家族も、みんな様々な理由で命を落としていった。
施設から逃げ出すもの。訓練や実験に耐えきれず命を落とすもの。
あの時の俺は、ただただゴッドイーターになるために必死だった。兄弟たちが苦しむのを、見てるだけで何もできなかった。
だからこそ俺はゴッドイーターを真剣に目指した。そうして力を得たことでやっとみんなを……マリアを守れるようになったと思っていたのに……。
「口ぐせのように言っていました」
そう口にしたのはレイラだった。
一体いつからそこにいたのか、まっすぐに立ってこちらを見据えている。
「『あの子は好き嫌いが激しくて、食べさせるのに苦労した』、と」
 ……いつの頃の話だ。マリアが楽し気に話して回る姿を想像し、俺は思わず頭を抱えた。
「なんだ、見てたのかい」
「話の途中で悪いけど任務よ、またわたくしとあなたでね」
「……わかった。すぐに準備する」
「姫様がじきじきに呼びに来るとは、明日は何か降るのかね?」
ドロシーがからかうようにそう言うと、レイラは不機嫌そうに視線をそらした。
「待たされるのが嫌いなだけです。ほら、さっさと行きましょう」
「ああ」
レイラに返事をした後、ドロシーに向き直る。
「ドロシー。プレゼント、届けてくれてありがとう」
「なぁに、気にすることないさ」
そういうと、彼女はバンッと勢いよく手のひらを俺の背中に叩きつけてくる。
「つもる話はまだまだあるけど、仕事じゃしょうがない。……行ってきな! 夕飯までには帰ってくるんだぞ?」



ドロシーに送り出された俺は、レイラと一緒に旧市街地までやって来ていた。支部から少し離れるだけで、荒れ果てて、今にも崩れそうなビル群が目に入るようになる。
「それじゃあ、支部周辺地域のアラガミに関する現地調査を開始します」
「了解した。……しかし、またレイラと二人での任務なんだな」
「あなたとわたくしを組ませたのはゴドーよ。不本意ですが、隊長命令では仕方がありません。あなたもわたくしと組みたくないでしょう?」
「いいや、そんなことはない」
俺の返事を聞くと、レイラは苦々しい表情を浮かべた。
「……任務に私情は持ち込まない。そう言ったのはわたくしでしたね」
レイラは視線を前へと向けそう言うと、旧市街地の奥へと足を向けた。
そうして会話が途切れてしまうと、後に残ったのは建物の間を抜ける風の音と、コツコツという自分たちの足音だけだ。
しばらくそんな調子で周辺の調査を続けていると、唐突にレイラが口を開いた。
「ねえ、あなたはなぜゴッドイーターに?」
「……別に大した理由じゃないさ。生きるためには、ならざるを得なかった」
神機に適合することが出来なければ、あのまま施設に一人取り残され、いずれ他の皆と同じように命を落としたか。それとも用なしとみられ放り出されるか……どちらにしろ、ろくな未来は待っていなかっただろう。
「……そう」
「レイラは、どうしてゴッドイーターになったんだ?」
 レイラがふっと立ち止まる。踏み込んだ質問が気に障ったのかと身構えるが、彼女は俺のほうなど見てはいなかった。遠くを見据え、粛々と語る。
「わたくしはあなたとは違う。人を活かすためよ」
「活かす……守るということか?」
「ええ……それが貴族の証だから」
 貴族の証……初めて会った時にも、レイラは似たような話をしていた。
 正直、俺には理解しにくい話だ。施設育ちの俺と、王族生まれの彼女では当然だろう。
しかし、彼女が真摯な気持ちでそう口にしていることはよくわかる。
「さて……雑談は終わりよ」
「……みたいだな」
 レーダーに反応がある。アラガミが何体か近くにいるようだ。
「さあ、任務を果たしましょう」



「これで終わりよ!」
レイラが最後に残ったアラガミに神機の刃を突き立てる。
アラガミは断末魔の叫びをあげると、絶命しその場に倒れ伏した。
「任務はこれで終わり――うっ……!」
レイラに声を掛けようとしたその瞬間、以前と同じ脳内にノイズが走るような奇妙な感覚が襲ってきた。
(この感覚は、この前と同じ……ッ!)

「アラガミ、増加」

(この声は……!?)
視線を声が聞こえてきた方向に向ける。
すると、以前にも見た純白の髪の女性の姿が目に入る。
「捕食……を……」

「待っ――)
引き留めようとするが、女性の姿はすぐに掻き消えてしまった。
(……今の声、やっぱりマリアだった。だが、あの姿は……?)
 声はマリアそっくりなのに、俺は彼女の姿に心当たりはない。
 それに、『アラガミ、増加』という言葉の意味も気になった。
アラガミなら、たった今掃討したばかりだというのに……
「どうかしたのですか?」
様子がおかしい俺を心配してくれたのか、レイラが声を掛けてくる。
「実は今――」
「グアアアアアアアッ!」
レイラに答えようとした瞬間。遠くからアラガミの咆哮が耳に届く。
「……新手のアラガミ?」
「みたいですね。レーダーに反応があります」
さっきのマリアの声は、このことを告げていたのだろうか。
だとしても、どうしてアラガミの接近に気づいたのか。何故、俺だけにそれを伝えるのか。
「……何があったのか知りませんが、呆けている暇はありませんよ」
レイラの言葉通り、レーダーに映ったアラガミはこちらに向かってきているようだ。
接敵するのも時間の問題だろう。
「――来ます!」
「グアアアアアアアッ!」
咆哮と共に、黒く硬そうな翼手を持つ人型のアラガミが現れ、レイラに向けてその翼を振りかぶってきた。
「くっ!」
 レイラは神機の刃でアラガミの攻撃を防ぐ。
 だが、完全には防ぐことが出来なかったのか、弾き飛ばされてしまう。
 急いで起き上がろうとするが、アラガミはすでに彼女を追撃するために行動を開始している。
「レイラ!」
 彼女の元へは向かわせないと、俺はアラガミに向けて刃を叩きつけるが、硬質的な翼に阻まれてしまう。
「八神さん、離れてください!」
 その言葉に反応し、咄嗟に回避行動を取る。
 神機から放たれたバレットはアラガミの翼を掻い潜り、標的の下半身に命中する。するとアラガミはのけぞるように怯み、逃げるように距離を取っていく。
「助かった」
「礼はいりません」
 会話の間も視線を外さず、アラガミの様子を伺う。
「…………」
 バレットから逃れ、態勢を整えたアラガミはまるで洗練された武人のように、こちらを挑発するために翼手を使い、手招きをしてきた。
「 シユウか……やはりあの翼が厄介だな……」
「ですが二人いれば翼も掻い潜れます。わたくしが囮として攻撃を引き付けますから、あなたは隙を見て神機での一撃を叩き込んでください」
「ああ、わかった」
「では、行きます!」
彼女の合図を聞き、シユウに向けて駆けだす。
「やああああ!」
声と共にレイラがシユウに向けて神機を叩きつける。
しかし、予想通り彼女の一撃はシユウの翼に防がれてしまった。
そのままシユウは翼を広げ、レイラに向けて拳を突き出した。
「くっ!」
それを不安定な姿勢ながらレイラが回避すると、攻撃を外したシユウに若干の隙が生じた。
「はああああああああ!」
それを見逃さず、シユウの懐に刃を滑り込ませる。
翼とは異なり柔らかい肉体の上半身を、刃が切り裂いた確かな感触が手に伝わってきた。
「ガアアアアアア!?」
「今だ、畳みかけるぞ!」
「ええ!」
怯んだシユウを休ませないよう、レイラと連携を取り更なる攻撃を加えていく。
すると、それから程なくしてシユウはその場に倒れ伏すのだった。

「……これで付近一帯のアラガミは片付きましたね」
「ああ、みたいだな」
レイラに答え、荒くなった息を落ち着かせるように大きく息を吐く。
「シユウ……この前のコンゴウに続いて、この地では珍しい種です」
「そうなのか?」
「ええ。とはいえ、よその支部ではこの程度のアラガミはいて当然。驚くほどのことではありません」
確かに、アラガミの出現自体はそこまで驚くことじゃない。だが……。
(さっきの声の主は、どうしてシユウが現れることが分かったんだ……?)
「どうかしたのですか? そういえば、先ほども何か妙な様子でしたが……」
「……シユウがレーダーに反応する前。またマリアの声が聞こえたんだ」
 それを聞くと、レイラは呆れたように嘆息した。
「まだそんなことを言うのですか?」
「それだけじゃない。白髪の女性の姿をはっきりと見たんだ」
「またそれですか……しかし白髪ということは、見えた姿はマリアではなかったのでしょう?」
「それは……」
「それが答えです。白昼夢か風鳴りか、知りませんけど、任務中に気を抜いたら死ぬ、ということだけは忘れないことね」
 こればかりはレイラの言う通りだろう。
 声が聞こえるたびに呆けていたら、いずれ致命的な失敗を犯してもおかしくはない。
 とはいえ……。
(レイラも今回は、かなりダメージを受けたように見えるが……)
「その目……何が言いたいの?」
「いや、何でもない」
正直に伝えたら、機嫌を悪くされるのが目に見えている。
「ならいいけれど」
まだ疑わしそうにこちらを見ているが、こちらに答えるつもりはない。
「まあいいわ。任務は『無事』完了したわ。戻りましょう」


「おかえりっ!」
 支部に戻ると、任務に向かう俺たちを見送ってくれた時と同様に、ドロシーが迎えてくれた。
「任務、どうだったさ?」
「問題なし、収穫もなし、です」
「はーん、いつものヒマラヤ支部、って感じだねぇ。で、何か補充しておくものはあるかい?」
「……今は結構、入浴してマッサージを受けますから、失礼」
レイラはつれなくそう言うと、浴場のある方向へと歩きだしてしまった。
「おやおや……お得意さんが行っちまったか」
「お得意さん……?」
「ああ、うちの店でいつも大量に買っていってくれるのさ」
「うちの店で? ということは……」
「ああ、あたしはここで商売をやってるんだ。それで、あんたはどうだい? あたしの売り物、見てっておくんなよ!」
体よく客引きに捕まった気もするが、誘い方に嫌みがないから悪い気もしない。
「……わかりました。それで、どんなものを売っているんですか?」
俺が尋ねると、ドロシーは背負っている鞄の中身を広げ始めた。
「そうだねぇ……スタングレネードにトラップと……まあ基本的な物は全て扱ってるよ」
 彼女の言う通り、パッと見るだけで随分とラインナップが豊富だ。
「支部からの支給品だけじゃ足りないだろ? ゴッドイーターは働き者ほど稼ぎがいいから、
あんたもしっかり稼いで、買い物してくれよな!」
 威勢のいい商売文句に苦笑しながら、端から商品を眺めていく。
 しかし、着任したばかりということもあって、今すぐ必要なものはなさそうに思えた。
 嗜好品の類には興味がないし、最低限の装備はすでに支給されている。
 マリアの安否も確認できない状況で、贅沢することに気が引けたということもあった。
「待った、まさか何も買わずに行くつもりかい?」
 会釈し、立ち去ろうとしたところで、ドロシーが真剣な表情で俺を止めた。
「……マリアの腕輪と神機を回収するまでは、生きてると信じて探すんだろ? だったらまずは自分が生きなくちゃならんさ。生き残るために使う金は惜しんじゃダメだ」
 商売人としてではなく、純粋に心配しているのだろう。
 ドロシーはそういう表情をしていた。
「それは……」
「あの子ほど大量に買っていく必要はないけどさ、そこはレイラを見習ってもらいたいね」
「……そう、ですね」
生き残るため。マリアを探すため。
そのために俺は改めて、本当に必要な道具がないか、ドロシーが広げた商品を確かめた。



「いたたた……お湯が沁みて……くぅぅ……!」
 バスタブに身を沈めたわたくしを出迎えるのが、心地よい充足感であればよかったのに。
やってきたのは痛み。
膝や肘などだけでなく、全身のいたるところからジンジンとした痛みが伝わってくる。
「すり傷も打ち身も、関節も痛みが……そんなにダメージを受けたかしら、今日……?」
 戦場では予想外のこともあったものの、相手はたかがシユウ。
 そう、たいしたことのない相手のはずなのに。それなのに、湯に浸かった程度でわたくしの身体は、情けなく悲鳴をあげてしまっている。
(あの程度のアラガミ相手にここまでの傷を負っていて、大丈夫かしら……)
 ちゃぷん。蒸気で濡れた天井をしずくが伝って、鼻の頭にぴたりと落ちてきた。
 そのひんやりとした一滴が、やっと温まってきたはずの体の熱を、すべて奪っていってしまう。
 その感覚を振り払うように、湯水を掬いあげた手で、そのままぴしゃりと頬をはたいた。
「……いいえ! 貴族たる者、これしきで弱気になるものですか!」
 そう。わたくしは貴族。この程度で挫けているようでは、ゴッドイーターになった意味がない。
「守られたくない……いいえ、負けたくないのです!!」
 自らの声が、浴室の中を反響する。湯船に浮かぶ泡を、あえて自らの傷口に寄せる。
 自虐的になっているわけではない。強くならなければならないのだ。
 王族として、貴族として……
「もっと強くなって、わたくしは……!!」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
CONTENTS TOP