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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 序章・第一章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~1章-2話~

 戦場では、情報は黄金よりも価値がある。
敵はもちろん、味方の情報も重要だ。
 自分たちに何ができるのか把握しておけば、いざというときの助けになる。俺はいつもそうやって戦ってきた。
(マリアからはよく、難しく考えすぎだと言われていたな……)
 カリーナからの説明は、そういう意味でとてもありがたいものだった。
「施設については、大体こんなところでしょうか。わからないことがあったら、何でも聞いてくださいね!」
 支部の広場まで戻ってきたところで、カリーナはそう言ってまとめる。
 侮っていたわけではなかったが、彼女の施設紹介はとても丁寧で、わかりやすいものだった。人は外見によらないとはこのことだろう。
「そういえば、あなたはまだ私とゴドーさんぐらいにしか会っていませんよね?」
「はい」
「それならまずは、同じ所属となるゴドーさんの第一部隊の隊員を紹介しましょう。えーと……」
 そう言うとカリーナは、何かを探すように周囲に視線を巡らせる。
 ちょうどその時だ。一人の少女が近づいてきたのは。
「……」
 無言のまま歩み寄ってきたのは、小柄で細身な少女だ。
 輝くような金髪はよく手入れされていて、整った顔立ちからは育ちの良さが感じられる。
 年齢は、俺よりいくつか下だろうか。……カリーナの例があるからなんとも言えないが。
 進み出てきた少女を見て、カリーナが嬉しそうに声を弾ませる。
「あ、レイラ! ちょうどいいところに来ましたね! こちらは新しく第一部隊に配属になった――」
「八神セイです。よろしく」
 カリーナの言葉を引き継ぐ形で名乗る。しかし……
「…………」
 レイラと呼ばれた少女は答えなかった。
 堂々とした立ち姿で、ただじっとこちらを見つめてくる。
 愛想笑いを浮かべることも、冷ややかな感情を表に出すこともない。その表情には好意も悪意も感じられなかった。
「……? レイラ、さん?」
「…………」
 話し方が悪かったのかもしれないと思い、もう一度声をかけてみる。
 けれど、反応は変わらない。
「……?」
どういうことなのだろう。何か怒らせるようなことを言ってしまっただろうか?
 いや、目の前の少女は怒っているという感じでもない。
 だからこそ余計に口を開かない理由がわからない。
「えと、悪気はないんですよ、この子。無視してるとか嫌ってるとかではなくて……」
「そう、あなたとは話す理由がない……それだけです」
 やっと口を開いたレイラだったが、その言葉はひどく冷たいものだ。
 馴れ合うつもりはない、ということなのだろうか。
しかし、同じ隊の相手とまともにコミュニケーションも取れないというのはやりにくい。
 どうしたものかと思案していると、カリーナが苦笑を漏らす。
「レイラは初対面の相手に必ずこれをやるんですよ。私にもやりましたし、ゴドーさんにもしましたよね?」
「必要なことですから」
 淡白に振舞い続けるレイラに、カリーナはため息を漏らしてから俺に向き直った。
「レイラはある国の王家の血筋なんだそうです」
「王家の?」
「はい……国なんてアラガミが現れてから全部なくなっちゃいましたけど」
 付け足すように言ったカリーナに、レイラが首肯した。
「ええ……だからといって王族、貴族が代々背負ってきたものがある日突然、無になるのかといえば、そうではありません」
 亡国の姫君は、毅然とした態度できっぱりと言った。
「背負うもの……か」
 俺は王族でも貴族でもない。それがどういったものなのか、想像もできなかった。
 だが、何かを守りたいという気持ちは、少しわかる気がした。たとえ今は失われたものだとしても……
 俺のつぶやきをどう受け取ったのか、レイラはわずかに眉をひそめた。
「……あなたがた庶民には理解できなくて結構。では、ごきげんよう」
 突き放すように言って、踵を返す。
 そのまま去ろうとするレイラを、現れたゴドーが押し留めた。
 いつの間に戻ってきたのか、通せんぼするようにレイラの前に立ちはだかる。
「姫様ごっこはそこまでだレイラ。急な仕事が入った」
「ちょっと!? 邪魔しないでよゴドー!」
「文句は後で聞く」
 レイラの怒りを軽く受け流しながら、ゴドーは顎で俺を示してみせる。
「彼と仲良く出撃だ」
「なっ……!?」
「アラガミの動きがどうも妙だ。至急、情報を集める必要がある。頼むぞ」
 ゴドーからの直接の命令。
 そのことを強調するようにカリーナが付け加える。
「だ、そうですよ?」
「…………」
 不本意そうに口をつぐんでいたレイラだが、さすがに断れないと悟ったのだろう。諦めるように肩を落とした。
「……了解」



 そうして俺とレイラがやってきたのは、ハイウェイだった。
 かつては多くの車が行きかっていたのだろうが、今は見る影もない。
 路面は荒れ果て、左右の壁にはアラガミによって捕食された形跡が残っている。戦闘の跡もいくつか見て取れる。
 そんな一本道を警戒するように見回して、レイラは何度目かのため息をついた。
「まさかあなたと出撃することになるとは……」
「…………」
 どうして、こう毛嫌いされているのか。
反応に困った俺が黙っていると、レイラは不満そうに目を細める。
「だんまり? 先ほどのお返しのつもりなら、戦場ではやらないことよ?」
 先ほどというのは、支部での挨拶にレイラが答えなかったことだろう。
その意趣返しだと勘違いされてしまったらしい。
「任務に私情は持ち込まない……今はお互いただのゴッドイーター、アラガミを倒す者でしかありません」
 レイラは警戒するように神機を構えて、続けた。
「ゆえに会話の必要がある、ということです。よろしいですね?」
「……ああ、わかった」
 レイラの言葉に、少しほっとする。支部では「話す理由がない」と言っていた彼女だが、逆に理由さえあれば会話をしてくれるらしい。
 不本意そうな態度は気になるが……
「ところで、ちゃんと銃形態は使えている? 連携のために、確認させてもらいますからね」
「銃形態か……」
 神機には近接武器形態と銃形態の二種類がある。
 敵対するアラガミ、任務に同行する仲間との連携に合わせ、シームレスに形態を切り替えて戦うことが可能なのが、神機の特徴ではあるが……。
この神機を手にしてからは、まだ近接武器形態しか使ったことがなかった。
「あまり銃形態は使わないんだが」
「連携には必須です。銃形態に切り替えてみて」
「……わかった」
 わずかに不安はあったものの、俺はもうこの神機に適合している。おかしなことにはならないだろう。
 意識を神機に集中させる。
 腕や足に動けと命じるように、体の一部に指令を飛ばすように、銃形態に変わる姿を想像した。
 ロングブレード型だった神機が、アサルト型に変化する。
「……」
 特に異常も起きない。問題なさそうだ。
 安堵するように息をついていると、レイラが遠くを指さした。
「では、実力のほどを見てあげます。あの三つの標識をアラガミだと思って攻撃よ」
「そんなことでいいのか?」
 レイラが示した標識は、ギリギリ視認できるかどうかといった距離にあった。
 けれど、動かない的に当てることは難しくないだろう。
 神機を構え、きっちり三発分、トリガーを引く。
 放たれたバレットは狙い通りの軌道を進み、すべての標的を粉砕した。
「これでいいか?」
 レイラに向き直ると、彼女は不満そうに眉をよせる。
「それだけできれば、まあ合格です。マリアの足元にも及びませんけど」
「……ああ、そうだな」
 レイラの言葉に首肯する。彼女の言う通り、マリアは俺よりずっと銃の扱いが上手かった。
 俺がもっと強ければ、あの時も彼女を守ることができたのだろうが……
「あなたは……」
 レイラが何かを言いかけた、その時だ。
「グォオオオオオオオオッ!」
 咆哮が俺の意識を現実に引き戻した。
 慌てて音のしたほうに目を向けると、そこには大猿のようなアラガミが確認できた。
 そのアラガミに、レイラが怪訝そうな声を漏らす。
「あれは……コンゴウ? なんで……?」
「どうかしたのか?」
「あのアラガミは、ヒマラヤ支部の周りでは見かけないタイプです」
 普段とは違うアラガミの出現。それは確かに気になる。
 けれど考えている暇はなさそうだ。
「グォオオオオオオオオッ!」
 背後からもアラガミの咆哮が聞こえた。どうやら敵は、コンゴウだけではなさそうだ。
「挟み撃ちにされるわけにはいきません。わたくしがコンゴウの相手をしますから、あなたは……」
「コンゴウの相手は俺がする。他のアラガミを引き付けておいてくれ」
「なんですって? あなたまさか、わたくしの力を侮って……!」
「頼む」
 コンゴウを、ましてレイラの実力を侮っているわけではない。
 恐らく俺は、臆病になり過ぎているのだろう。
マリアを失った時のように、自分の判断ミスで仲間を失うことが怖いのだ。
もう二度と、マリアのときのような思いはしたくない。
だから俺は、誰より前に立って戦いたかった。他の仲間たちを守れるように……
「……わかりました。コンゴウはあなたに任せます。ですが、勘違いしないように」
顔をあげると、レイラは真剣な眼差しでこちらを見つめていた。
「いいですか、アラガミを討伐できるゴッドイーターは、例外なくこの世にとって貴重な存在です」
 はじめは何の話をしているのか、わからなかった。けれど続く言葉で、彼女の真意が理解できた。
「いかなる時も生きて戻りなさい。それが選ばれし者の務めなのだから」
 怒鳴られたわけでもないのに、レイラの言葉に圧倒された気がした。
 自分の命を軽く考えていたわけではない。だが、誰かを守りたいと考え戦っているのは、俺だけではないのだろう。
 だったら、周りの気持ちに応えるためにも、俺は生き残らなくてはならない。
「……わかった。必ず生きて帰る」
 俺の言葉に、レイラは満足そうに頷いた。
 それ以上はお互いに何も口にすることなく、それぞれの敵に向かって駆け出した。



 何度バレットを叩き込んだろうか。
 傷ついたコンゴウは、最後の力を振り絞るように駆け出した。
「グォオオオオオオオオッ!」
 咆哮を上げながら、一直線に突っ込んでくる。
 迫り来るコンゴウに向けて、俺は冷静に銃口を定めた。
「……トドメだ」
 トリガーを引く。
 放たれたバレットは狙い通りの弾道を描き、アラガミの脳天に直撃した。
 倒れたコンゴウに、起き上がる気配はない。無事に倒せたようだ。
「レイラは?」
 遠くから、まだ戦闘音が聞こえる。早く加勢に行かなければ。
「――っ!」
 駆け出そうとしたその時、俺は奇妙な感覚に襲われる。
 この感覚を、俺は知っていた。
 以前にも体験した、自分の内側に別の存在がいるような奇妙な感覚。

「危険です……」

 聞こえてきたのは、やはりあの声。
 忘れるはずがない。誰かと間違えることもありえない。
「マリア……っ!」

「再告……危険です……」

 どこから声が……?
 周囲を見回してもマリアの姿はない。
 以前に姿を現した、マリアによく似た純白の女性も見当たらなかった。
「っ!」
 そこで奇妙な感覚は終わってしまった。
 声ももう聞こえない。マリアの姿も見当たらない。
 けれど、今度こそ確信した。あの声はマリアのものに間違いない。
 マリアが俺にメッセージを送ってくれているのだ。
 彼女は警告していた。危険です、と。
「危険って、一体……?」
 よくわからないが、用心したほうがよさそうだ。神機を握る手に、自然と力がこもる。
「無事だったようですね」
 声のした方向に目を向けると、そこにはレイラの姿があった。
 いつの間にか戦闘の音は止んでいた。周囲にアラガミの姿も見当たらない。
 レイラのほうも無事に勝てたようだ。どうやら助太刀は必要なかったらしい。
 相手も同じことを考えていたようだ。レイラは息をついて、微笑を浮かべる。
「少しだけ、心配していました。あなたの実力は未知数ですし、それに……」
 そこで彼女の言葉が止まった。
 レイラの瞳は、なぜか俺の神機に向けられている。
 しばらくの間、そのまま何か言いたそうにしていたが……
「いえ、何でもありません」
 彼女は首を左右に振ると、話題をそらすように言葉を続ける。
「アラガミについて、何か不審な点はありましたか」
「いや、特には……」
 反射的に答えかけてから、思い直す。
 眉唾な話だと叱られるかもしれないが、報告しておいたほうがいいだろう。
「アラガミに異変はなかったが、声が聞こえた」
「声?」
「マリアの声だった。危険だ、と」
 俺の出した名前に、レイラは一瞬だけ息を呑んだ。だが、すぐに否定するように首を振った。
「そんなのただの幻聴です。だってマリアは……」
 そこから先を言わないのは優しさか、彼女なりに思うところがあるからなのか。
 どちらが理由なのかはわからないが、レイラは否定を続けた。
「もし仮にマリア本人がいたのだとしたら、なぜわたくしたちの前に出てきてくれないの?」
「……前にも声が聞こえたことがある。その時は、マリアに似た女性が姿を見せてくれた」
「似ていた、ということはマリア本人ではなかったのでしょう?」
「それは……」
 否定はできなかった。あの透き通るような白髪……マリアの黒い髪とは似つかない。
 マリアにとてもよく似ていたのは間違いない。しかし、本人かと聞かれると……
「……」
 それでも、俺は彼女がマリアと無関係だとは思えなかった。根拠はないが、確信していると言ってもいい。
 だからこそ、少女が口にしていたことが気にかかる。
「……もしかしたら、マリアは俺たちに、何か伝えようとしているのかもしれない」
「わたくし、オカルトには興味ありません」
 突き放すように言いながらも、レイラはわずかに思案してから続けた。
「あなたの言い分が事実だとしても、たかがコンゴウです。この支部一帯では珍しいですが、危険というほどではありません」
 そういうレイラだが、わずかに声が固い。まるで強がっているように。
 よくよく見てみれば、彼女の華奢な身体には多くの傷ができていた。キレイな金髪は乱れ、息も荒くなっている。
 かなり疲労していることが伺える。
 そうして観察していると、レイラが鋭い眼光を返してきた。
「……何を見ているのです? わたくしに何かご不満でもおあり?」
「いや……結構苦戦したんじゃないのか?」
「っ! だ、誰が!」
 即座に否定するが、その表情には焦りのようなものが浮かんでいた。
 そのことを隠すようにレイラが慌てて付け足す。
「そんな勘違いをするなんて、あなたこそ疲れているようですね。もう戻るとしましょう」
 反論は許さないとばかりに、背中を向けられてしまう。
 しかしお互い消耗しているのは事実だ。俺としても、支部に戻ることは賛成だった。



 支部に戻った俺たちから報告を受けて、ゴドーは考え込むように唸った。
「ふむ、コンゴウは確かに珍しいが……」
 これにレイラが否定的に首を振った。
「コンゴウ程度を気にすることはないでしょう」
「そうかもしれんが、マリアらしき声が言った「危険だ」というメッセージも気になる」
「ゴドー、あなたはそんな戯言を信じるのですか?」
 レイラの言葉に怒気が混じる。
 彼女としては、俺が幻聴を聞いただけだと思っているのだろう。
 俺自身も、あれが何だったのか説明はできない。聞き間違いや見間違いと言われても、否定するのは難しい。
けれども、ゴドーは俺からの報告を真剣に取り合ってくれるようだ。
「最近、支部周辺のアラガミが増えている。原因があるなら潰さねばならん……あらゆる可能性は考慮すべし、だ」
 アラガミの数が増え、ヒマラヤ支部周辺では珍しいコンゴウが出現した。
 確かに危険な状況だろう。俺が聞いた声と、何か関係があったとしてもおかしくはない。
「ですが……」
 それでも何か言いつのろうとするレイラに、ゴドーは遮るように言った。
「次の出撃に備えておいてくれ。いいな」
 拒否することを許さない強い態度。
 これにさすがの彼女も諦めたように肩を落とした。
「……はい」
 返事をしながら、レイラは一瞬だけ俺に鋭い視線を投げてきた。憤りのようなものが乗った視線を。
 同じ部隊だというのに、彼女との関係は最悪のスタートとなりそうだ。
 これから先の苦労を想像して、俺は一つため息をこぼした。

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