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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 序章・第一章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~1章-1話~

目が覚めると、そこは見覚えのない場所だった。
記憶の最後にある、薄暗い部屋のなかではない。人工的な明かりに照らされた白い天井。
首を横にそらせば、仕切りのような緑色のカーテンが目に入る。
(ここは……?)
どうやら俺は、長い間眠りについていたようだった。
まだぼんやりとしている頭で、ゆっくりと自分の状況を探っていく。
「目覚めたか。……気分はどうだ?」
そんな俺を見下ろすようにして、大きなサングラスをかけた長身の男が声をかけてくる。
「……ゴドー、隊長?」
そう、隊長だ。
ゴドー・ヴァレンタイン。ヒマラヤ支部第一部隊隊長。俺と彼女の直属の上司に当たる人物。
そこまで考えを巡らせたところで、俺はようやく彼女のことに思い至った。
「マリア!! マリアは……!?」
「ま、落ち着け……まずは状況から説明する」
 跳び起きた俺に驚くそぶりも見せず、ゴドーは淡々と言葉を紡いでいく。
「ここはヒマラヤ支部の医務室。君とマリアは任務で出撃し、帰還予定時刻を越えても戻らなかった」
 責めるようでもなく、慰めるようでもなく。ゴドーは作業のように、状況をひとつひとつ並べていく。
「捜索に向かった俺は、現地で君を発見し、回収してここに戻ってきたが……」
 そこまで抑揚もつけずに話を進めていたゴドーが、そこではじめて言葉を切った。
「それじゃ、マリアは……」
 それ以上、俺は言葉を紡ぐことができなかった。
ゴドーは明らかにマリアについて言及することを避けていた。
俺への配慮、というわけでもないのだろう。
彼もまた、状況を正確に知りたがっている。そんな風に見えた。
俺が黙っていると、ゴドーは視線の位置を俺に合わせて、つぶやくようにして尋ねてきた。
「……あの場で何があった?」
 その言葉に従い、俺は研究所で見てきたことを、ありのまま彼に語った。
レーダーに反応しない未知のアラガミに襲われたこと。応戦したが神機を捕喰されたこと。
戦いの中でマリアが負傷し、現地で偶然発見した神機で戦おうとしたことを……。
「そうか」
 ゴドーは短く答えると、小さく俯き、何か考えるようにして押し黙った。
「支部長への報告もある。続きは歩きながらでも構わないか?」
再び顔を上げたゴドーはそう言うと、返事も待たずに医務室の入口に向かい始める。
俺は慌ててベッドから出ると、ゴドーの後を追った。



「神機を喰われたのか……しかし恐いもの知らずだな、君は」
 支部の広場へと差し掛かったところで、ゴドーが再び口を開いた。
「自分のものではない神機を使うのは自殺行為だ……博打にもならん」
「……あの場で生き残るためには、他に方法はありませんでした」
 あの時は本気でそう思った。しかし、その判断のせいで、マリアは俺を庇って……
 俺の目の前で、マリアは神機に喰われてしまった。少なくとも俺にはそんな風に見えた。
 そして俺は、一度は適合できなかった神機を使ってあのアラガミと戦った。
「マリアは神機に捕食されたというのか? ……君がその神機に適合できた、というのも謎だ」
「俺にも何が起きたのかよくわかりません……ただ、そのおかげで俺は今生きています」
「そうだな……不明な点も多いが、生き残ったことだけはほめてやる」
 皮肉でそう言ったわけではないのだろう。とはいえ、それで俺の気持ちが晴れるわけでもない。
 俺が生きているのは、マリアのおかげだ。しかし、彼女は……
「――それで、マリアのことだが」
 ふいにゴドーがその名を呼んだ。俺は弾かれるようにして彼を見る。
「マリアについて、何かわかってることがあるんですか?」
「いや、わからないんだ。……何しろキミを回収した時、マリアの神機と腕輪は見つからなかった」
「腕輪が……? それでは――」
腕輪というのは、当然「P53アームドインプラント」のことだ。装着すると生涯外せない、ゴッドイーターの証。同時に位置情報特定用のビーコンとしての役割も持つ。
 それが見つかっていないということは……
「マリアは現時点では失踪、ということになる」
「では、まだ生きている可能性があると……?」
「だとすれば、君はどうするつもりだ?」
 ゴドーは試すようにして俺を見た。
 当然、答えは決まっている。
「マリアを探しに行かせてください」
「そう言うだろうと思っていたよ……よし、カリーナ、ちょっといいか?」
「はーい!」
 ゴドーが声をかけると、広場にいた女性がこっちに向かって駆け寄ってきた。
 褐色の肌の小柄な女性は、こちらに向けて屈託のない笑みを浮かべる。
「あ、初めまして! カリーナ・アリ・ラーイ、二十二歳です!」
ヒマラヤ支部のオペレーターだろうか。
二十二歳と言ったが、その外見は俺やマリアと同じくらいか、あるいは年下に見えるが……
「コドモじゃないですよ?」
 こちらの内心を見透かしたその言葉に、俺は思わず視線を逸らした。
「は、はい。八神セイ です。えっと、カリーナ……」
「カリーナさん」
「カリーナ、さん……」
「よろしい♪」
 俺の言葉にカリーナ、さんは満足そうに笑みを浮かべた。
 なんだかわからないが、どうやら逆鱗に触れることは避けられたらしい……
 俺がほっとため息をついていると、カリーナにゴドーから声がかかった。
「しばらく彼の相手をしていてくれ。五分で戻る」
「かしこまりました!」
 そのままどこかに向かったゴドーを、カリーナは特に疑問も挟まず見送った。
 テンポ良くやり取りする二人に、俺はと言えば、置いてけぼりだった。
俺はマリアを助けたいとゴドーに言った。
それがどうして、オペレーターに相手してもらう状況になるのだろうか……
「えと、ゴドー隊長はヒゲのおじさんですけど、仕事は速いんですよ!」
 釈然としない、そんな表情を表に出してしまっていたのだろう。
 気を使ってか、カリーナが声をかけてくる。
「……なるほど」
「はいっ。ヒマラヤ支部で一番頼りになるゴッドイーターなんです!」
 カリーナは明るい調子で言い切った。その表情からは、ゴドーへの率直な信頼が伺える。
「ただ、彼にも困ったところがあって……」
 そう言って、カリーナが何か言いかけたとき、その背後から大男が顔をのぞかせた。
「戻ったぞ」
「はやっ!?」
  俺の代わりに、カリーナが即座に言い放った。
 そんなカリーナを意にも介さず、ゴドーは俺に向けて言い放った
「出かける準備をしてくれ。俺と君でひと仕事、だ」



「……ここは一体?」
「元は市街地だった場所だ。今はこんな有様にはなっているがな……」
 ゴドーはそう言って目の前の荒涼とした景色を見据えた。廃墟と化した旧市街地に人気はない。
 ただ、穿たれた建物が連なる道路を、アラガミたちが我が物顔で闊歩しているだけだ。
「ゴドー隊長……」
「ん? どこで何をしてきたのかって?」
 俺の言葉を先読みするようにして、ゴドーは飄々と笑みを浮かべた。
「……ちょっとした小細工さ」
「小細工、ですか?」
「ああ。本来、神機を失った君はゴッドイーターとして支部の外には出られないはずだろう?」
「……そうか。この神機は、フェンリルの正規品ではないから……」
「そうだ。そこを特例として外に出られるよう、支部長に話をつけてきた」
「話……?」
「交渉内容は、秘密だ」
ゴドーは簡単そうに口にするが、正規の手段ではないのだろう。
カリーナも頼りになるとは口にしていたが、どうやら戦場だけの話ではなさそうだ。
「……そこまでして、どうして俺を外に……?」
「君の持ち帰った神機が正常に動作するか調べる必要がある……個人的な興味も含めてだがね」
 言われて俺は、自分の手元に視線を移した。
 間違いなく、俺はこの神機に適合したのだろう。そうでなければ、あの白毛のアラガミにやられていたはずだ。
 しかし、正常に動作するのかと聞かれれば……確かにそれは未知数だ。
 この神機について、俺は何も知らなさすぎる。
「どうした? マリアを探しに行くためにも、君は自分の力を知る必要があるはずだ」
 マリア……その名前を聞いて、俺は弾かれるようにゴドーを見据えた。
「……ゴドー隊長は、マリアが生きていると考えていますか?」
「腕輪も神機も見つからなかった以上、可能性は否定しない」
 ゴドーは淡々と答えた。安易に希望を持たせるつもりも、慰めるつもりもないのだろう。
 いずれにせよ、俺が前に向き直るには、十分な答えだった。
 マリアが生きている……その可能性が少しでもあるなら、立ち止まっている暇はない。
「決心したなら構えるんだな。危険レベルが低いとはいえ、ここにもアラガミはいる」
 言われた意味を理解するよりも早く、俺の目が数匹のドレッドパイクの姿を捉えた。
「近くにはいるが、基本的には別行動だと思え。自分の身は自分で守れよ、新人」
「はっ……!」
 隊長からの檄に短く答えると、俺は新しく手に入れた神機を握りしめた。

「ハァアアッ!」
最後の一匹を切り伏せたところで、俺は安堵のため息をついた。
不安要素の多い神機だが、戦うには問題なさそうだ。それがわかっただけでも十分な成果だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
乱れた呼吸を整えながら、神機を捕食形態へと変形させていく。
禍々しくも形成された黒い影は、アラガミの死体を喰らうと、そのまま元の近接武器形態へと戻っていった。
(捕喰の方も問題ないようだな……)
 これで少なくとも、戦闘面についての不安は払拭できた。
 ゴドーと合流して、報告しておくべきだろう。
 そう考えて首を巡らせた、その瞬間――
(うっ、この感覚は……? 頭が……ッ!)
 ふいに頭が痛み、視界が揺れる。
 脳内でノイズが奔っているような、歪な感覚。痛みは消えても、違和感は拭い去れない。
 周囲に敵影はなく、危険を感じるような要素もない。
 目立った怪我や傷もない。それなのに、俺の本能が何かの異常を訴えていた。
 そして――
 戸惑う俺のもとに、その声が届いた。

「聞こえ……ますか……?」

「マリア……ッ!?」
 弾かれる様に周りを見渡す。
 今の声……消え入るような微かな声……しかし俺の耳にははっきりと聞こえた。
(どこだ! どこから、声が……!?)
 必死に辺りを見渡していく。交差点、ビルの影、道路の隅、古びた陸橋……
 しかし、聞こえたはずの声の主はどこを探しても見当たらない。
(幻聴? いや、そんなはず……っ!?)
 焦る俺の背中に、何かがふわりと優しく触れた。
 振り向いた俺の目に映ったのは、透き通るような白銀の髪。
 沈む夕陽の光の中に向けて、誰かを探すような足取りで、少女が一人歩いていた。
 やがて少女は、俺の視線に気づいたように、ゆっくりとこちらへ振り返って……

「マリア……ッ!」
 呼びかけた瞬間には、少女は音も立てずに姿を消していた。
 代わりに戦いを終えたゴドーが姿を現す。
「やはり、君も神機も大丈夫そうだな? ……適合できているとみて、間違いなさそうだ」
「……」
「マリアが生存していると思われる痕跡は、発見できなかったな」
 ゴドーの言葉に返事をすることも忘れて、俺はただ、呆然と立ち尽くしていた。
「どうした、セイ。何か見たのか……?」
 俺は何を見ていたのだろう。
 美しい純白の女性。あれは、何者だったのだろう……。
 髪の色は違えど、その姿形はマリアによく似ていた気がする。それに、声はマリアそっくりで……
(いや……マリアそのものだった……)
 俺は不可思議な出来事に、ただ呆然と立ち尽くした。



「何、また声を聴いただと? 姿も見えた気がする……?」
 尋ねられるままに、俺は今しがた起きた現象について、ゴドーに話した。
 妄言……おかしくなったと言われても仕方のない話だ。
 俺自身、そう言ってもらった方がかえって気が楽なくらいだったが……
「それを幻覚、幻聴だと決め付けるのは容易いが、ふむ……そうだな……」
すぐさま否定されるかと思ったが、ゴドーは何か考え込むような様子を見せる。
「支部に戻ったら、その神機を少し見せてもらってもいいか?」
「俺の神機を、ですか? それで何かわかるのなら……」
 俺が戸惑いながら首肯すると、ゴドーは頷き、こちらに背中を向けた。
「すまんな……支部に戻るか」
ゴドーの考えはわからなかったが、俺は素直に従うことにした。

「マリアの声が聴こえた、ですか……」
 俺が話すと、カリーナは複雑そうな表情を浮かべ言葉を濁した。
人当たりのいいマリアとカリーナだ。きっと親交もあっただろう。
(彼女にマリアの話をしてしまったのは、少し無遠慮だったかもしれないな……)
「それにしてもゴドーさん、遅いですね? 神機のチェックにしては時間がかかりすぎているような?」
「待たせたな」
 と、カリーナが首をひねっていると、タイミングよく扉が開き、ゴドーが現れる。
 間を置かず、ゴドーは預けていた神機を俺に手渡した。
「神機をチェックしてみたが……どうやら君の神機は、ただの第二世代型とは違うようだ」
「え? そうなんですか?」
「この部分を見てくれ、どうやら神機本体に通常のものとは違う箇所があるようなんだが、いじれるか?」
「……はい」
 ゴドーとカリーナに見つめられながら、俺は受け取った神機に触ってみる。
一通り基本動作を試してみたが、問題なく動作したように思う。
「特に異常は感じられないか……わかった。マリアのことも含め、よくよく調べる必要があるな」
「調べるって言いますけどゴドーさん、彼は正規の神機を失ったのですから、隊員資格を失効しているのでは?」
 呆れたようなカリーナの言葉を受けて、俺もようやくそのことに気が付く。
 隊員資格失効と言えば、当然ゴッドイーターとしては大ごとなのだが……
「そうか、じゃあひと小細工してくる。五分、待っててくれ」
 ゴドーは小さく笑みを浮かべて、ふたたび扉の外へと向かった。
「小細工ですか? 何を企んでるのかだいたい、察しはつきますけど!」
 せわしなく出入りするゴドーを、カリーナが呆れ半分に見送る。
「小細工、というのは?」
「あ、ヒマラヤ支部はずーっと戦力不足ですから、そのための交渉ですよ」
 なるほど、と俺も合点がいった。
 カリーナは小細工と言ったが、ヒマラヤ支部にとってはどうしても必要なことなのだろう。
 この支部の戦力不足については、俺も以前から聞いていた。その上に……
「マリアが、いなくなったから……」
「あっ、違いますよ? そういう意味ではなくて! ごめんなさい!!」
「わかってます。俺のほうこそ……」
 マリアがいない。会話がなくなると、そのことがいっそう寂しく思えた。
「マリアのこと……あのね、私も信じたいと思っているんです」
 そのうちに、カリーナがゆっくりと話し始めた。
「どんな小さな可能性でも、それがある限りは……信じるつもりです」
 その暖かな言葉と裏腹に、カリーナの表情はどこまでも暗い。
「危険レベルが低いといっても、このヒマラヤで命を落としたゴッドイーターは決して少なくありません。私はオペレーターとして、何人も……その最期をみてきました」
「カリーナさん、それは……」
「本当に本当の、命の尽きる瞬間を…………だから!!」

「戻ったぞ」
「はやっ!?」
 本当に、五分ほどでゴドーが戻ってきた。
「今、真剣な話をしていたのに……まったくもう。それで、支部長と話はついたんですか?」
「元の神機を回収してきたから、それを使わせると支部長に言っておいた……ま、ウソだが」
「えー。支部長をだましてきたんですか……」
「ただでさえやっと極東から回してもらった隊員だ。神機が変わったぐらいで無駄飯喰いにするわけには、いかんよな?」
 呆れるカリーナの様子など意にも返さず、ゴドーはこちらに視線を向ける。
「君は予定通り、隊長である俺の指揮下に入る。頼むぞ」
「……はい、俺にできることがあれば」
 俺としても、マリアの手がかりを探すため、この支部を離れるわけにはいかない。ゴドーの申し出は、むしろありがたいくらいだった。
「まぁ……いろいろありましたけど、よろしくお願いしますね! ゴドーさんの隊だと、仕事が1.5倍ぐらいになりますけど!」
「おいおい、俺はそんなに働いてないぞ?」
「だから隊員の仕事が増えるんじゃないですか!」
「仕事が速いからって追加してくる連中が悪い」
「人手不足なんだから仕方ないでしょ……もう!」
いつもこんな調子なのだろう。
ゴドーたちの緊張感のないやりとりに、自然と頬が緩む。そんな自分に、少し驚いた。
 彼らと一緒なら、マリアを見つけられるかもしれない。甘い考えかもしれないが……
「やってくれるか、八神セイ」
「……はい。俺でよければ、頑張ります」
「いい返事だ。それじゃ、カリーナ、仕事の説明をしておいてくれ」
「わかりました! では、ついてきてください」
 俺はゴドーに見送られ、説明を受けるためにカリーナの後に続いた。

「あれが、新参者……?」
 そう呟きながら、厳しい視線を俺に向ける人物がいたことを、この時はまだ知る由もなかった。

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