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「GOD EATER ONLINE」が帰ってくる!
ストーリーノベル 序章・第一章


「GOD EATER ONLINE」 STORY NOVEL ~1章-9話~


「『趣味の時間』ですか」
「ああ。二人はどう思う?」
 JJやカリーナと別れた後……。
 広場で偶然レイラとリュウに出会った俺は、ゴドーの行動について二人に尋ねていた。
「なるほど……ゴドー隊長は理想的な時間の使い方をしている。公私は分けたほうがいい」
 感心したようにリュウが頷くが、対するレイラは、それを聞いて冷たい視線を彼へと送る。
「俗人らしい考え方だわ。公人は、人の上に立つ者は違います」
「古いものの考え方だな」
「わたくしはそうは思いません」
 レイラの意見をバッサリ切り捨てたリュウに対し、すかさずレイラが反論する。
(……二人は今日も平常運転だな)
 双方とも自分の考えを譲らず、口論の熱も徐々に上がりはじめている。
 二人が揃っている場面で意見を聞いたのは、やはり間違いだったらしい。
 俺は自分の判断ミスを反省しつつ、この状況を収める方法を思案する。
「八神さんは、どちらの意見を支持するつもり?」
「どちらが理知的な答えか、考えるまでもないだろう」
「それは……」
 状況は刻一刻と悪くなりつつあった。
(どちらを支持しても、片方と険悪になるだけ、か……最悪だな)
 手づまりな状況に閉塞感を感じつつ、俺は助けを求めるように周囲に目を向ける。
 すると……
「みなさん、ちょっといいですか?」
 困惑した表情を浮かべたカリーナが、俺たちに声をかけてきた。
 助け舟を出しに来てくれたのかと思ったが、どうも様子が違う。
「どうしましたカリーナ?」
「それがですね……」
 レイラの疑問に答えようとカリーナが口を開こうとするが、すぐさま閉じてしまう。
「いえ……実際に見てもらった方が早いかもしれません。ついてきてください」
 そう言うと、彼女は作戦司令室のある方向へと歩きはじめた。
「……何なんだ?」
「ともかく、ついていってみましょう」
 レイラの言葉に頷き、俺たちはカリーナの後を追うのだった。

「ゴドーさん、連れてきました」
「ああ、ご苦労」
 カリーナと共に作戦司令室に入ると、そこには設置されたモニターを見ているゴドーの姿があった。
「ゴドー、何かあったのですか?」
「これを見てくれ」
 ゴドーに示され、彼が見ていたモニターに視線を移す。
(……何だ、これは)
 眉をひそめて、モニターを注視する。
 モニターには以前と同様に、支部周辺の地図が表示されている。
 そして地図上には、アラガミの出現個所を示す赤いマーカーが表示されているのだが……
 その赤いマーカーによって、画面のほぼ全体が赤く染まってしまっている。
「見てのとおり、アラガミの反応がだな……」
「何ですかこれは? 表示にエラーが出ているみたいですが」
 リュウが機材を軽く弄るが、モニターの表示は変わらない。
「機材の故障、なのでしょうか? 異常な大きさのアラガミ反応が出ています」
「え……」
 カリーナの言葉を受けて、レイラが小さく声を漏らす。
 確かに、もしこれが故障の類でないとすれば、マーカーが意味するものは一つだ。
 巨大なアラガミ……それも、見たことも聞いたこともない規模の存在が、この支部の周辺にいるということだ。
 状況は非常に深刻……いや、そんな表現では生ぬるいだろう、異常な事態だ。
 だからこそ、この場にいる誰もがその表示に、現実感を持てずにいた。
「何かの間違いだと思うんですけど、ゆっくり支部に近づいてきていまして」
 カリーナは抑揚もつけずにそう言った。その声は、ほんのわずかに震えている。
 皆、なんと言えばいいか判断がつかず、黙り込む。
 沈黙を破ったのはリュウだった。
「現地に行って調べる、それが手っ取り早い」
「軽率ですよ、リュウ!!」
 レイラの言うとおりだった。この反応が間違いでなかった場合、危険すぎる。
「だったら、何もせずこの場に残るつもりか? そんなの……」
「いや、行こう」
「ゴドー!?」
 リュウとレイラの口論を遮り、ゴドーが宣言する。
 俺としても、ゴドーがリュウの味方をするのは予想外だった。
 危険や面倒ごとは避けて通る男だ。常に慎重に動く彼の発言とは思えない。
 驚く俺やレイラ、カリーナとは真逆に、支持を受けたリュウは満足そうに笑みを浮かべる。
「では、さっそく……」
「ただし、現地へ行くのは俺だけだ」
「隊長?」
 今度はリュウが面食らう番だった。
「機材の故障であろうとなかろうと、俺一人の方が都合がいい。君たちは留守番だ……仲良くな?」
「……」
「……」
 レイラとリュウは何か言いたげにゴドーを見たが、命令を受ければ背くわけにもいかない。釘を刺されて、悔しそうに押し黙る。
 話は済んだという様子で、ゴドーが指令室から出ていこうとする。
 その行く手を遮るようにして、俺は扉の前に立った。
「俺も同行します」
 ゴドーの実力はわかっている。俺が行ったところで、たいして力にはなれないかもしれない。
 しかしだからと言って、何もせずに見守っていたいとは思えない。
「君が来てもやることは無い。ヘリの燃料の無駄だ」
 そう考えての発言だったが、ゴドーにあっさりと却下されてしまった。
「じゃ、さっさと終わらせて戻る。『趣味の時間』のためにな」
 そう言うと、ゴドーは気楽な様子で作戦司令室を後にするのだった。



「やれやれ……」
 作戦司令室を後にした俺は、隊員たちの姿を思い返して軽く息を吐く。
(隊長というのは、気を遣うものだな)
 内心でそう独りごちる。
 リュウにレイラ、カリーナ、そしてセイ。
 皆、辺境のヒマラヤ支部にはもったいないほど、将来有望な若者たちだ。
 だが、未熟だ。皆、揃いも揃って青すぎる。
(さて、行くか……)
 あいつらの反対を押し切ってきたんだ。失敗すれば、あとで何を言われるかわからない。
 レーダーに映った巨大な反応を確かめるべく、俺は発着場にまで足を進めた。



「…………」
 ヘリが離陸してから、その異様が目に入るようになるまで、そう時間はかからなかった。
 操縦士の動揺が、後部座席からでもありありと伝わってくる。
(……無理もないな。この光景を前に、平常心でいられるものか)
 手のひらにじんわりと汗がにじんでいるのがわかる。
 十年もの間、多くのアラガミと戦ってきたが、こんなことは初めてかもしれない。
『ゴドーさん、聞こえますか? 現地の状況を教えてください』
 カリーナからの通信を無視し、大きく息を吸って吐き出した。
 神機を握りしめる手に力を込め、ヘリから身を乗り出して地上を見据える。
「ゴドーだ、これより地上に降下する。ヘリには一旦、離脱してもらう」
『地上に降下? その前に状況をですね……』
「行ってくる」
『え、ゴドーさん!?』

 地上に降りた俺は、ここまで運んできてくれたヘリを静かに見送ってから、前に向き直った。
 先ほどからしつこく呼び掛けを続けるカリーナに、そろそろ返事をしておこうか。
「朗報だ……支部の機材は故障していない」
『えっ? てことは、えっ!? この巨大なアラガミの反応は!!』
「ああ、いい眺めだ」

 通信機越しに困惑するカリーナの声を聴きながら、俺はその「巨大な黒い山」を仰ぎ見る。
 一体何を、どれだけ捕食すればそこまで巨大になるのか。
 全身に生え揃った鱗、背中には、先端にトゲがついた触腕のようなものまで生えている。そして岩があろうが廃墟があろうが、その悉くを踏み潰し、破壊しながら進んでいく巨躯。
 目の前のすべてが、その巨大な影で黒く禍々しく染まってみえる。
ヒマラヤ山脈にも劣らない、壮麗で雄大な「黒い山」は、ただひたすらにヒマラヤ支部目掛けて突き進んでいた。
「適切に処理して帰るさ……ちいっとばかし、残業だな」
『ただちに増援を手配します!!』
「戦うつもりは無い。注意をひきつけて誘導し、支部から遠ざける……一人で充分だ」
『しかし……!!』
「全員、万一に備えておけ。住民の避難誘導は迅速にな」
『ゴドーさん!!』
「以上だ。気が散るから通信は切るぞ」
 宣言通り、カリーナの言葉を一方的に遮った。
 何と言われようが意見を曲げるつもりもないし、これ以上時間を浪費するわけにもいかない。
「さて、やるか」
 長年の相棒である神機を握り直し、俺はゆっくりと山に歩み寄った。



『以上だ。気が散るから通信は切るぞ』
 その淡白な一言で、ゴドーさんからの通信は途絶えた。それから先は、どれだけ呼びかけようが返答はなし。
 最悪の状況に、私はその場でうなだれる。
 自分勝手なゴドーさんに対して、怒るような気持ちにもなれない。
 ただひたすらに、悲しかった。ゴドーさんに頼ってもらえなかったことが。
 そしてもしかしたら、もうゴドーさんとは会えないかも、なんてことが……
(ううん、ありえないわ。あのゴドーさんが、そんなこと……)
「それで、どうするつもり、カリーナ」
 そう言って私の背中を揺さぶったのは、レイラだ。
 彼女の顔を見て、私は自分の職務を思い出す。
 しっかりしなくちゃいけない。私はゴドーさんに、この場を任されたのだから。
「全員、待機せよとのことです……」
「そんな!?」
 ゴドーさんからの指示を伝えると、レイラは非難するように私を見た。
 でも、私から言えることは変わらない。
 できることなら、ゴドーさんを助けに行きたい。だけど、命令を破るわけにはいかない。
 こういう緊急事態だからこそ、勝手な行動は慎まなきゃいけない。
 今の私にできることは、それだけ……
(本当に、それだけなのかな……)
 皆を危険に巻き込むわけには行けない。だから、私の判断は正しいはず。
 ゴドーさんからの指示だって受けてる。私は何も、間違ってない……
(だけど……)
 私はいつもこうやって、最後には何もしてあげられない。
 そうやって、たくさんのゴッドイーターたちが命を落とすのを見てきた。
「待機か……隊長がアラガミと戦うのを、黙って見ていることしかできないなんて……」
 リュウやレイラも私とおんなじ気持ちみたいだった。
 ゴドーさんはめちゃくちゃな人だけど、私たちを庇うために戦ってくれている。
 それなのに、今度も私は、見ていることしかできないなんて……
「って一人……いなくなっていないか?」
「え……?」
 リュウの言葉を聞いて、慌ててまわりを見回してみる。
 するとたしかに一人……あの人の姿がどこにも見当たらない。
「八神さん……こんな時に一体どこに……?」


「……」
「どうした、お前さん一人で出撃か?」
 作戦指令室を抜け出し、整備場までやってきたところで、ふいに背後から声がかかった。
 俺は振り替えりもせずに、その声の主……JJに対して言葉を返す。
「ええ」
 そのまま整備場に置いてあった、自らの神機を手に取ろうとする。
 その俺の腕を、JJが掴んで止めた。
「いや、出撃命令は出ちゃあいないな。どこへ行くつもりだ?」
 JJが鋭い目つきでこちらを見る。
 だが、構っている暇はない。俺は思い切り手を伸ばし、神機を掴んだ。
(……!?)
 その瞬間、あの奇妙な感覚に襲われる。

「強大なアラガミが接近中。行かねばなりません」

 声はすぐ隣から聞こえた。マリアそっくりの、白い髪の女性……彼女がまっすぐに俺を見て、そう告げた。
「っと、どうした兄ちゃん、大丈夫か?」
「……悪い、JJ」
 彼女が何者なのかは未だに見当もつかない。しかし、今やるべきことだけは決まっている。
 純白の女性に頷き返すと、俺はJJの手を跳ねのけた。
「うおっ……? お、おい!?」
背後から、困惑した様子のJJの声が聞こえる。
だが俺は、かまわずヘリポートへ向けて駆け出していた。
ゴドーを……隊長を助けなければいけない。
そのために、振り返っている時間はなかった。



「……ッ!」
 神機を操り、巨大なアラガミを何度も斬りつける。
 しかし、どれだけ攻撃を繰り返そうとも、アラガミがその歩みを止めることはなかった。
「あのアラガミ、俺を完全に無視して支部の方へ向かっていくか……」
 アラガミが支部に到達するまで、時間はあまり残されてはいないだろう。
 だというのに、俺が何をしようともアラガミはこちらを気にする素振りすら見せない。
「このままでは誘導できん……奴が支部へ向かう理由は何だ……?」
 アラガミの目的について考える。そうする間も、攻撃の手は緩めない。
(何かないのか。奴の気を引く方法は……)
 その時だった。支部へと向かい、緩慢な歩みを続けていたアラガミがふいに足を止める。
(何、ヘリが……)
 遥か上空から、プロペラの音が聞こえてくる。
アラガミはどうやら、そのヘリに気を取られているらしかった。
「……誰だ?」
 出撃命令は出していない。部下は跳ね返り揃いだが、命令違反をするような奴は……
 そこまで考えて、ふいにあの新人の顔が頭に浮かんだ。
 口数の少ない男だが、いつも妙にまっすぐな目でこちらを見ていた。
(八神セイ……君なのか)
 アラガミの意識がヘリコプターに向かう。
 俺はそれを止めるため、ふたたびアラガミに攻撃を浴びせ始めた。



「……こいつが、レーダーに映っていた奴か」
 眼前に広がる光景に、目を疑う。
 強固な黒い外皮に覆われたアラガミ自体は、特に珍しいとも思わない。
 鋭く尖った牙や爪も、多くのアラガミが持ち合わせているものだ。
 だが、その体躯だけが明らかに異常だった。通常のアラガミの数倍、いや何十倍と言ってもいい。今までゴッドイーターとして活動してきたが、これほどの大きさを持つアラガミの存在など見たことも聞いたこともなかった。
「ふっ!」
 そのアラガミの足元で、攻撃を仕掛けるゴドーの姿が目に入った。
(……よかった、無事だったんだな)
 思わず安堵の息を吐きそうになるが、状況は何も好転していない。
 何としても、このアラガミの進行を止めなければならない。
 そうしなければヒマラヤ支部は壊滅してしまうだろう。
(だけど、どうすれば……。……っ!)
 ふと、ゴドーがこちらに向けて何かを叫んでいるのが見えた。
 それを理解した瞬間、俺は操縦席から飛び降りた。
「くっ……!」
 背後で爆音が響き、激しい爆風が俺の背中を突き飛ばす。
 ヘリが攻撃を受けた……そのことを理解したのは、宙に投げ出された後だった。
「セイ!」
「ッ……!」
 ゴドーの声で、飛びかけていた意識をなんとか繋ぎ止める。
 そのまま俺は、空中で神機を構えていた。
「こ、のォ……ッ!」
 巨大なアラガミの背中に向け、身体ごと神機を振り下ろす。
 視界の隅で、赤々と燃えるヘリコプターが、くるくるとその身を回転させながら落下していくのが見えた。それが地面と接触すると同時に爆発があって、世界が一瞬赤白く焼ける。
 同時に、痺れるような衝撃が、俺の全身に伝わってきた。
「……!?」
 爆風と、落下速度まで利用しての捨て身の一撃。
 しかし巨大なアラガミの硬質的な黒い外皮はそれさえも通さず、はじき返した。
(ぐっ、硬すぎる……!)
 しかし、支部を守るためにも手を止めるわけにはいかなかった。
 俺は全身の痛みを抑えて立ち上がると、そのまま連続でアラガミを切り付ける。だが……
(効かない、か……)
 まるで効いている様子が感じられないと思った次の瞬間。
「グルル……」
 煩わしそうな様子で、アラガミが俺へと視線を向けてきた。
「セイ!」
 ゴドーが俺の名前を呼んだとほぼ同時、アラガミが前足を振りかぶり、俺に向かって振り下ろしてきた。
「くっ……!」
 すんでの所で回避に成功するが、巨体から発せられる風圧の大きさにバランスが崩れ、後ろに吹き飛ばされてしまう。
 体勢を立て直し、神機を構えたところで、ゴドーが俺の側へとやって来ていた。
「無事だな?」
「はい。……すみません」
 二度だ。俺がこの場所に来てから、すでに二度もゴドーに助けられている。
 ゴドーの声がなければ、少なくとも、こうして話せてはいないだろう。
「何故ここに来た。待機していろと言っただろう?」
「すみません」
 俺には詫びることしかできない。
 それでも、ゴドーを……仲間の窮地を放っておくことはできなかった。
 なんと言われようが、何度同じ場面があろうが、俺は同じ選択をしただろう。
「まったく……」
 命令無視をした俺に、呆れた様子でゴドーがため息を吐く。
「まあいい。今はとやかく言っている時間も惜しい」
 そう言うと、ゴドーはあのアラガミに向き直った。
「理由は不明だが、あのアラガミは俺が攻撃しても反応しないが、君には反応した」
「……俺にだけ?」
「ああ。だから君なら誘導できるかもしれん。支部から引き離せるか、試してみるんだ」
 ゴドーは俺に、囮になれと言っていた。
 カリーナやレイラがこの場にいれば、非情な判断だとゴドーに詰め寄っただろうか。
(いや、構うことか……)
 ゴドーの判断は合理的だ。そして現状、ヒマラヤ支部を守れる可能性がある、唯一の方法だ。
「……はい」
 決意をもって、ゴドーに頷づいてみせる。
 それと同時……

「その必要は、ありません」

「えっ……?」
 俺の行動を遮るようにして、純白の髪の女性が姿を現す。
「どうした?」
 俺の様子を訝しんでか、ゴドーが声をかけてくる。
 だが、わからないのは俺も同じだ。
「必要がない? それはどういう――」
「む、あれは……!」

「グオオオオオオオオオ!!」
 鼓膜が破れるかと思うほどの、強大な咆哮が辺りに響き渡る。
 そうしながら、アラガミはゆっくりとその進行方向を変えはじめていた。
「アラガミが、去っていく……?」
(なぜ……?)
 その疑問の答えを求めようと純白の髪の女性の方を見る。
「これは、一体――」
 どういうことなんだ。
 という言葉を発する前に、女性はその場から姿を消していた。
「マリア……」
 それからしばらくの間、俺とゴドーはその場に残り、アラガミの動向を確認していたが、巨大なアラガミがこちらに戻ってくることはなかった。
 ひとまず危険はないだろう、と判断したところで、ゴドーがこちらに話しかけてくる。
「今、君が以前から言っていた、マリアの声とその姿が発現していたんだな?」
「……はい」
「俺には何も認識できなかった。なるほど、レイラの言った通りだ」
 ゴドーもレイラと同じく声も聞こえないし、姿も見えないということか。
「訊きたいことは多々あるが、まずは支部に戻るとしよう」


 
「戻ったぞ」
「お疲れ様です!!」
 支部の広場まで戻ってくると、リュウとレイラがすぐさまこちらに駆け寄ってきた。
「無事でよかった……今回ばかりは、どうなることかと思いました」
「俺は命拾いしただけだ……彼のおかげでな」
 レイラの言葉に対し、ゴドーは俺に目線を送ってニヤリと笑った。
「命令違反をして出撃した不届き者が、英雄になって帰ってきましたね」
 リュウは皮肉っぽく口にしたが、その口調に厭味は感じない。むしろ晴れやかなくらいだ。
「本来なら一週間の独房入りです。ほめられたものではありません」
「ああ、そうだろうな」
 レイラもいつも通り厳しい言葉をかけてはくるが、その声色には安堵の色が入り混じっているように感じる。……俺の思い過ごしでなければ、だが。
(随分と、心配をかけてしまったみたいだな)
 正直、もっと責められるかと思っていたが……それだけ俺が気を揉ませてしまったのだろう。
 二人の様子に、かえって申し訳なくなってくる。
「それからゴドーも八神さんも、カリーナにはあとで必ず謝っておいてくださいね。本当に心配していたんだから」
 たしかに、彼女にも申し訳ないことをしてしまった。カリーナ、それにJJも……
 ついこの間、信頼される人間になれと言われたばかりだと言うのに、今回のことで謝る相手は多そうだ。
「さてと。事情と経緯は改めて確認し、今回の件はよくよく検証する」
 レイラとリュウが一通り言い終わってから、ゴドーが発言する。
「正直、俺もまだ何がどうなったのか理解しきれていない。だが、大きな危機を脱したことだけは……」
「大変です!!」
 その時だった。
 ゴドーの言葉を遮って、支部の奥から慌てた様子でカリーナが走り寄ってくる。
 俺やゴドーを心配したり、怒っていたりという様子ではない。
 ただならない様子に、またあのアラガミが戻ってきたのかと身構える。
「何だ?」
 ゴドーの言葉に、息を整えながらカリーナが答える。
「ポルトロン支部長が、いなくなりました!!」
「なんだって!?」
「なんですって!?」
 この危機的状況の中にあって、支部長が行方不明になる。
 ……ある意味では、先のアラガミと同等か、それ以上の事件と言ってもいいだろう。
(まさか、逃げたのか……?)
 あの支部長を思い描いて、真っ先に思い浮かぶのはその可能性だ。
 仮にも支部長が、在り得ない……そう思いながらも、俺はその不安を払拭できずにいた。

 人材不足のヒマラヤ支部に、行方をくらませたポルトロン。
 原因不明のアラガミ増加に、先の戦いで姿を見せた巨大なアラガミ。
 白毛のアラガミ、ネブカドネザルと、俺にしか見えない白い髪の女性。
 正体不明の、俺の神機。そして……マリアのこと。

 山積みになった問題は複雑に絡み合うことで、さらに新たな問題をもたらしていく。
 それでも、俺たちは戦い続けるしかないのだ。
 人類のために、仲間のために。そして、自分自身のために。
 それが俺たち、ゴッドイーターの宿命なのだろう。



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