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「GOD EATER 3」キャラクターノベル 第五章 イルダ編「白き花の名の下に」
「GOD EATER 3」キャラクターノベル イルダ編「白き花の名の下に」 ~第五章-5話~
サテライト拠点から脱出し、かろうじて命を繋いだ私たちは、すぐにグレイプニルの輸送機に発見され保護された。
輸送機内で治療を受けたリカルドも、何とか一命を取り止めてくれた。
しかし、私たちがそのままフェンリル本部に戻ることは叶わなかった。
各地で同時多発的に発生した と見られている、物質を捕喰する謎の領域――
現在も急速に拡大を続けているこの領域は、瞬く間にフェンリル本部をも飲み込み、本部内に暮らしていた人々や、ゴッドイーターたちも、その多くが消息を確認出来なくなっているという。
生き延びたゴッドイーターたちを中心に、どうにか生存者を回収しながら再集結を進めているらしいが、事態を正確に把握している者は一人もいないらしい。
私たちは難を逃れた人々の一時集結地点となっている前線基地へと運ばれ、脳裏に焼き付いた拠点の惨劇を引きずるように、大地に降り立った。
「父上!」
「ヴェルナー。イルダも……よく無事でいてくれた」
現在臨時で現場の指揮を執っているというガドリン師団長が、私たちの肩に手を置く。
「……ヴェルナー、しばらくイルダの傍にいてやりなさい」
衣服を血で染めた私たちを見て、師団長は短くそう告げる。
ヴェルナーは頷いたけれど、私の意識は不思議なほどクリアだった。
「私は大丈夫です。ヴェルナー、今は貴方の指揮能力も必要なはず。どうかみんなを助けてあげて」
「だが……」
「お願い。私も出来ることを探すから」
私の眼差しを見つめ返したヴェルナーは、一度だけ頷いて師団長と部隊の中に戻っていった。
「……イーリス」
失意と混乱に包まれている人混みをかき分けるようにして、私は子供たちの姿を捜した。
孤児院のみんなは、無事に脱出出来たのだろうか。
もし、彼女たちまで失ってしまったら――
私の夢を支えてくれていた、みんなの笑顔の記憶。
それが、生々しい血と炎の記憶で塗り潰されていく。
時間が経つほどに、必死で抑え込んでいた恐怖が再び吐き気と共に込み上げてくる。
どうか――どうか――
「……イルダお姉ちゃん?」
か細い呼び声に顔を上げる。
視線の先に、目を見開いたイーリスが佇んでいた。
あのスケッチブックを抱えた子と手を繋いで、こちらを見つめている。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん!」
希望に縋りつくように駆け出してきたその体をしっかりと抱き止める。涙を堪えることなんて出来るはずもなかった。
「イーリス……ああ、良かった……良かった……っ!」
「うん! 孤児院のみんなも大丈夫! みんな生きてるよ! お姉ちゃんも生きててくれて良かった……っ!」
互いに涙を流し合いながら、再会と無事を喜び合う。
イーリスと手を繋いでいた子も、私たちの様子を見て安心したように微笑んでいた。
「貴女も無事で良かった……みんなとはお友達になれた?」
「今みんなとお話しする練習してるの! 自己紹介は元気になってからでいいから、その時は一杯お喋りしようねって約束したんだ!」
本当の姉妹のようにイーリスにぴったりくっ付いている女の子は、恥ずかしそうに頬を赤らめて、こくこくと頷いていた。
二人の様子に、私の心にも希望が湧く。
基地内に建てられた仮設テントに案内されて、施設のみんなとも再会出来た。
「イルダお姉ちゃん、ヴェルナーおじちゃんは……?」
「大丈夫よ。今、みんなのために一生懸命頑張ってくれてる。すぐにまた会えるわ」
その知らせを受けて、子供たちの顔に花が咲くような笑顔が浮かぶ。
希望は、まだ繋がっている。
私たちは、この先の未来に進んでいける――そう思った。
接触物を捕喰、灰化させながら拡大を続ける空間。
多くの命を飲み込んだこの空間の発生は、欧州地域で『厄災』と呼ばれるようになり、その名が生き延びた人々の間に広まっていった。
「厄災によって発生した、大規模な捕喰空間……これを暫定的に『灰域』と呼称する」
フェンリルの要人たちの大半が、発生した灰域に飲まれて消息不明。
グレイプニル師団長、エイブラハム・ガドリンを総督として組織の再編が進み、未だ有効な対策が見つからない灰域に対するために、連日昼夜問わず大会議が行われた。
私もヴェルナーと共に、灰域発生直後の混乱を生き延びた研究者として会議に参加していた。
とにかく最優先で議論されたのは、生き残った人々の安全な居住地の確保。
万が一灰域に飲み込まれたとしても、機能を維持できる次世代の拠点の建造が急務であるとされた。
その方針が打ち立てられてすぐに注目されたのが――灰域の影響を受けない地下に生活圏を広げていく、私とヴェルナーの研究だった。
「既にヴィクトリアス家の協力の下、候補地の選定と、建造の準備が進められている。ヴェルナー、イルダ、拠点建造に関して意見を求められた時は応えてやってほしい」
私もヴェルナーも、無言で頷くしかなかった。
思い描いた理想郷は、ほんの一瞬で私たちの手を離れ、グレイプニル主導の下で開発が進められることになってしまった。
仕方のないことだと頭では理解していても、歪んでいく夢の形を見せつけられるのは、無念でしかなかった。
「続いて、灰域の調査結果の報告を」
「はい。灰域を構成しているのはウィルス大の微小構造体 であることが分かっています」
「オラクル細胞……極小のアラガミの群体が、灰域の正体ということかね?」
「断定は出来ません。偏食傾向が多様過ぎて、従来の特性と一致しない点が多く……」
「だが、神機や装甲壁は灰域に飲まれても機能を維持出来ていた! 新種のアラガミと考えて良いのでは?」
極僅かな手がかりを手繰り寄せるように、各分野の専門家たちが激論を繰り広げる。
……ゴッドイーターでさえ、数分で命を落とす死の領域。
既にこの欧州地域のインフラは灰域によって破壊、分断されている。
かろうじて生き延びた私たちも、迫りくる死の壁に四方を囲まれているようなものだ。
一刻も早く打開策を見つけなければ、遠からず、人々の心に限界が訪れるのは誰もが予想出来た。
「仮に、灰域がアラガミとするならば……オーディンで捕喰することも可能かね?」
ガドリン総督の不意の一言が、大会議場に沈黙をもたらした。
対アラガミ決戦兵器オーディン。フェンリル本部の地下で研究が進められていた、人型の超大型神機。
もし、あれを完成させることが出来たなら――
「お待ちください父上。オーディンを完成させるには、まだまだ解決すべき問題が多数残っている。本部にすら到達出来ないこの状況で考えるのは現実的ではない!」
この場は、ヴェルナーの言葉に賛同する者が大半だった。
けれど、その言葉に頷きを返しながらも、総督はじっと空中の一点を見つめて、この場にいる誰とも違う景色を見つめているように感じた。
「とにかく、その地下拠点が首尾よく完成したとしても、生き延びた人々が暮らしていく物資が決定的に不足しています! フェンリル本部を初め、豊富な物資が保管されていた場所のほとんどが灰域に沈んだ!」
答えのない議論が続く中、徐々に私たちがすべきことに焦点が絞られていく。
「優先して考えるべきは、灰域内部から物資を回収する手段だ! それが出来なければ……我々は滅ぶぞ!」
揺るがない絶望的な現実に、皆が黙り込む。
「しかし、灰域内で未確認の強大なオラクル反応を観測したという情報もある ! 一体どうすれば……」
誰もが俯く中、不意に――
「開発すれば良いではありませんか。灰域への耐性を獲得した、進化したゴッドイーターを」
重い沈黙の中、真っ先に口を開いたのは、派手なマフラーを巻いた男だった。
私の隣で、すかさずヴェルナーが立ち上がる。
「犬飼博士。貴方は今、進化と口にしたが……それがどれほどの犠牲を伴うものなのか、理解しているのか?」
「無論理解していますとも。しかし犠牲を怖れて二の足を踏んでいる状況ですか? お集まりの皆さんも、内心それしかないと考えているのでは?」
灰域に適応するための、進化――
あの男の言う通り、それしかないと誰もが思っているはずだ。
けれど、この場に集まった有識者たちは例外なく、その言葉が到底背負いきれない犠牲の上にしか成り立たないことを知っている。
その道が、血に塗れたものになることが理解出来てしまう。
「……父上」
気付けば誰もが、ガドリン総督へと視線を移していた。
重く、長い沈黙。俯いたその背中に、計り知れない重圧がかかっていることが分かる。
「……致し方ない、か」
やがて、短くそう口にして。
総督は、ゆっくりと立ち上がった。
「今後もあらゆる可能性を考慮して対策を講じていく。しかし――至急、対灰域用に調整を施したゴッドイーターを開発する! 人類を救う新たなる剣として!」
総督は、そう告げて会議を締めくくった。
会議が終わり、引き続き哨戒任務に出るというヴェルナーと別れて、私はリカルドの様子を見に行くことにした。
……あれからずっと意識を失ったままだ。
医務室のカーテンを開く。しかし。
「え……?」
そこにリカルドの姿は無かった。
後には、律儀なほど丁寧に整えられたベッドがあるだけだ。
「そんな……あの傷で何処に!?」
医師たちも、私の知らせで初めて不在に気づいたらしい。
慌てて外に飛び出す。けれど、どれだけ捜してもその姿を見つけることは出来なかった。
この状況で行方が分からなくなったら、捜し出すことなんて出来ないのに。
「あれ、イルダお姉ちゃん?」
そこに、イーリスが施設の子供たちを連れて通りがかった。
イーリスたちは、少しでも自分たちに出来ることがしたいと言って、傷ついた人たちに励ましの声をかけて回ってくれていた。
「イーリス、右腕に包帯を巻いて入院していた男の人……見なかった?」
「え? ……ごめん。沢山いるから分からないよ……」
するりと、大切な何かが手の間から落ちてしまったような気がした。
喪失感を埋めるように、そっとイーリスの頭を撫でる。
私は一体、何処を目指して歩いていたのか。
こうして子供たちと触れ合わなければ、思い出すことも出来なくなりつつあった。
サテライト拠点から脱出し、かろうじて命を繋いだ私たちは、すぐにグレイプニルの輸送機に発見され保護された。
輸送機内で治療を受けたリカルドも、何とか一命を取り止めてくれた。
しかし、私たちがそのままフェンリル本部に戻ることは叶わなかった。
各地で同時多発的に発生した と見られている、物質を捕喰する謎の領域――
現在も急速に拡大を続けているこの領域は、瞬く間にフェンリル本部をも飲み込み、本部内に暮らしていた人々や、ゴッドイーターたちも、その多くが消息を確認出来なくなっているという。
生き延びたゴッドイーターたちを中心に、どうにか生存者を回収しながら再集結を進めているらしいが、事態を正確に把握している者は一人もいないらしい。
私たちは難を逃れた人々の一時集結地点となっている前線基地へと運ばれ、脳裏に焼き付いた拠点の惨劇を引きずるように、大地に降り立った。
「父上!」
「ヴェルナー。イルダも……よく無事でいてくれた」
現在臨時で現場の指揮を執っているというガドリン師団長が、私たちの肩に手を置く。
「……ヴェルナー、しばらくイルダの傍にいてやりなさい」
衣服を血で染めた私たちを見て、師団長は短くそう告げる。
ヴェルナーは頷いたけれど、私の意識は不思議なほどクリアだった。
「私は大丈夫です。ヴェルナー、今は貴方の指揮能力も必要なはず。どうかみんなを助けてあげて」
「だが……」
「お願い。私も出来ることを探すから」
私の眼差しを見つめ返したヴェルナーは、一度だけ頷いて師団長と部隊の中に戻っていった。
「……イーリス」
失意と混乱に包まれている人混みをかき分けるようにして、私は子供たちの姿を捜した。
孤児院のみんなは、無事に脱出出来たのだろうか。
もし、彼女たちまで失ってしまったら――
私の夢を支えてくれていた、みんなの笑顔の記憶。
それが、生々しい血と炎の記憶で塗り潰されていく。
時間が経つほどに、必死で抑え込んでいた恐怖が再び吐き気と共に込み上げてくる。
どうか――どうか――
「……イルダお姉ちゃん?」
か細い呼び声に顔を上げる。
視線の先に、目を見開いたイーリスが佇んでいた。
あのスケッチブックを抱えた子と手を繋いで、こちらを見つめている。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん!」
希望に縋りつくように駆け出してきたその体をしっかりと抱き止める。涙を堪えることなんて出来るはずもなかった。
「イーリス……ああ、良かった……良かった……っ!」
「うん! 孤児院のみんなも大丈夫! みんな生きてるよ! お姉ちゃんも生きててくれて良かった……っ!」
互いに涙を流し合いながら、再会と無事を喜び合う。
イーリスと手を繋いでいた子も、私たちの様子を見て安心したように微笑んでいた。
「貴女も無事で良かった……みんなとはお友達になれた?」
「今みんなとお話しする練習してるの! 自己紹介は元気になってからでいいから、その時は一杯お喋りしようねって約束したんだ!」
本当の姉妹のようにイーリスにぴったりくっ付いている女の子は、恥ずかしそうに頬を赤らめて、こくこくと頷いていた。
二人の様子に、私の心にも希望が湧く。
基地内に建てられた仮設テントに案内されて、施設のみんなとも再会出来た。
「イルダお姉ちゃん、ヴェルナーおじちゃんは……?」
「大丈夫よ。今、みんなのために一生懸命頑張ってくれてる。すぐにまた会えるわ」
その知らせを受けて、子供たちの顔に花が咲くような笑顔が浮かぶ。
希望は、まだ繋がっている。
私たちは、この先の未来に進んでいける――そう思った。
接触物を捕喰、灰化させながら拡大を続ける空間。
多くの命を飲み込んだこの空間の発生は、欧州地域で『厄災』と呼ばれるようになり、その名が生き延びた人々の間に広まっていった。
「厄災によって発生した、大規模な捕喰空間……これを暫定的に『灰域』と呼称する」
フェンリルの要人たちの大半が、発生した灰域に飲まれて消息不明。
グレイプニル師団長、エイブラハム・ガドリンを総督として組織の再編が進み、未だ有効な対策が見つからない灰域に対するために、連日昼夜問わず大会議が行われた。
私もヴェルナーと共に、灰域発生直後の混乱を生き延びた研究者として会議に参加していた。
とにかく最優先で議論されたのは、生き残った人々の安全な居住地の確保。
万が一灰域に飲み込まれたとしても、機能を維持できる次世代の拠点の建造が急務であるとされた。
その方針が打ち立てられてすぐに注目されたのが――灰域の影響を受けない地下に生活圏を広げていく、私とヴェルナーの研究だった。
「既にヴィクトリアス家の協力の下、候補地の選定と、建造の準備が進められている。ヴェルナー、イルダ、拠点建造に関して意見を求められた時は応えてやってほしい」
私もヴェルナーも、無言で頷くしかなかった。
思い描いた理想郷は、ほんの一瞬で私たちの手を離れ、グレイプニル主導の下で開発が進められることになってしまった。
仕方のないことだと頭では理解していても、歪んでいく夢の形を見せつけられるのは、無念でしかなかった。
「続いて、灰域の調査結果の報告を」
「はい。灰域を構成しているのはウィルス大の微小構造体 であることが分かっています」
「オラクル細胞……極小のアラガミの群体が、灰域の正体ということかね?」
「断定は出来ません。偏食傾向が多様過ぎて、従来の特性と一致しない点が多く……」
「だが、神機や装甲壁は灰域に飲まれても機能を維持出来ていた! 新種のアラガミと考えて良いのでは?」
極僅かな手がかりを手繰り寄せるように、各分野の専門家たちが激論を繰り広げる。
……ゴッドイーターでさえ、数分で命を落とす死の領域。
既にこの欧州地域のインフラは灰域によって破壊、分断されている。
かろうじて生き延びた私たちも、迫りくる死の壁に四方を囲まれているようなものだ。
一刻も早く打開策を見つけなければ、遠からず、人々の心に限界が訪れるのは誰もが予想出来た。
「仮に、灰域がアラガミとするならば……オーディンで捕喰することも可能かね?」
ガドリン総督の不意の一言が、大会議場に沈黙をもたらした。
対アラガミ決戦兵器オーディン。フェンリル本部の地下で研究が進められていた、人型の超大型神機。
もし、あれを完成させることが出来たなら――
「お待ちください父上。オーディンを完成させるには、まだまだ解決すべき問題が多数残っている。本部にすら到達出来ないこの状況で考えるのは現実的ではない!」
この場は、ヴェルナーの言葉に賛同する者が大半だった。
けれど、その言葉に頷きを返しながらも、総督はじっと空中の一点を見つめて、この場にいる誰とも違う景色を見つめているように感じた。
「とにかく、その地下拠点が首尾よく完成したとしても、生き延びた人々が暮らしていく物資が決定的に不足しています! フェンリル本部を初め、豊富な物資が保管されていた場所のほとんどが灰域に沈んだ!」
答えのない議論が続く中、徐々に私たちがすべきことに焦点が絞られていく。
「優先して考えるべきは、灰域内部から物資を回収する手段だ! それが出来なければ……我々は滅ぶぞ!」
揺るがない絶望的な現実に、皆が黙り込む。
「しかし、灰域内で未確認の強大なオラクル反応を観測したという情報もある ! 一体どうすれば……」
誰もが俯く中、不意に――
「開発すれば良いではありませんか。灰域への耐性を獲得した、進化したゴッドイーターを」
重い沈黙の中、真っ先に口を開いたのは、派手なマフラーを巻いた男だった。
私の隣で、すかさずヴェルナーが立ち上がる。
「犬飼博士。貴方は今、進化と口にしたが……それがどれほどの犠牲を伴うものなのか、理解しているのか?」
「無論理解していますとも。しかし犠牲を怖れて二の足を踏んでいる状況ですか? お集まりの皆さんも、内心それしかないと考えているのでは?」
灰域に適応するための、進化――
あの男の言う通り、それしかないと誰もが思っているはずだ。
けれど、この場に集まった有識者たちは例外なく、その言葉が到底背負いきれない犠牲の上にしか成り立たないことを知っている。
その道が、血に塗れたものになることが理解出来てしまう。
「……父上」
気付けば誰もが、ガドリン総督へと視線を移していた。
重く、長い沈黙。俯いたその背中に、計り知れない重圧がかかっていることが分かる。
「……致し方ない、か」
やがて、短くそう口にして。
総督は、ゆっくりと立ち上がった。
「今後もあらゆる可能性を考慮して対策を講じていく。しかし――至急、対灰域用に調整を施したゴッドイーターを開発する! 人類を救う新たなる剣として!」
総督は、そう告げて会議を締めくくった。
会議が終わり、引き続き哨戒任務に出るというヴェルナーと別れて、私はリカルドの様子を見に行くことにした。
……あれからずっと意識を失ったままだ。
医務室のカーテンを開く。しかし。
「え……?」
そこにリカルドの姿は無かった。
後には、律儀なほど丁寧に整えられたベッドがあるだけだ。
「そんな……あの傷で何処に!?」
医師たちも、私の知らせで初めて不在に気づいたらしい。
慌てて外に飛び出す。けれど、どれだけ捜してもその姿を見つけることは出来なかった。
この状況で行方が分からなくなったら、捜し出すことなんて出来ないのに。
「あれ、イルダお姉ちゃん?」
そこに、イーリスが施設の子供たちを連れて通りがかった。
イーリスたちは、少しでも自分たちに出来ることがしたいと言って、傷ついた人たちに励ましの声をかけて回ってくれていた。
「イーリス、右腕に包帯を巻いて入院していた男の人……見なかった?」
「え? ……ごめん。沢山いるから分からないよ……」
するりと、大切な何かが手の間から落ちてしまったような気がした。
喪失感を埋めるように、そっとイーリスの頭を撫でる。
私は一体、何処を目指して歩いていたのか。
こうして子供たちと触れ合わなければ、思い出すことも出来なくなりつつあった。