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「GOD EATER 3」キャラクターノベル 第四章 ジーク編「紡がれる絆」


「GOD EATER 3」キャラクターノベル ジーク編「紡がれる絆」 ~4章-7話~
 旧市街地でのミッションが始まった。
「うらぁっ!」
 オレは内心のイライラを発散するように、ブーストハンマーで小型の雑魚を薙ぎ倒しながら、がむしゃらに戦った。
 こんな時なのに、出てくるのはマインスパイダーばっかりだ。気持ち悪いし、昔の思い出したくないことまで思い出す。
「はは、気合入ってんだな。ジーク?」
「うるせえ、馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえよ!」
 ふて腐れて、つい怒鳴っちまう。そんな自分にもっとイライラが募った。
「何だか分からねえが、冷静にいこうぜ。……周りが見えなくなると、死んじまうぞ」
 ユウゴとルカ。二人の連係は、高いレベルに達しているように見える。
 お互いの動きが分かっているような戦い方だ。エンゲージを発動すると、その動きに更に無駄が無くなる。
 ……これだけの動きが出来るなら、大型アラガミが相手でも引けは取らなかったんじゃないのか。
 なのに、どうして。
「ジーク?」
 一人で立ち尽くしているオレを、ルカが心配そうに振り返る。
「何でもねえよ……それより、もっと奥まで行ってみようぜ」
 ヴァジュラ討伐任務で何があったのか。聞くのが怖かった。
 聞いて、もし仕方ないことだったんだって、自分で納得しちまったら。
 全部、終わっちまうような気がして――
 自分でもどうしたらいいのか分からなくて、つい一人で先行し過ぎた、その時。
 ビルの間から、甲高い鳥みたいな鳴き声が響き渡った。
「うわっ!?」
 一瞬の後、目の前に派手な色のアラガミが舞い降りた。
 捕捉されてなかった中型だ。確か名前は、ネヴァン。
「ジーク、下がって!」
 ルカが後ろから駆け寄ってくる。
 その時、心の中にルカの意識を強く感じた。
 この感覚に素直に手を伸ばせば、エンゲージが発動する。
 それなのに――オレの脳裏には、ニールの笑顔が浮かび上がった。
「……くそっ、いらねえんだよっ!」
 オレはルカの意志を振り切って、ネヴァンに飛びかかる。
 けど、焦ってブースト機構の発動に失敗したオレは、真正面からネヴァンの飛ばすナイフみたいな羽根に迎撃されて、無様にひっくり返った。
「い、痛ってぇ……」
 何やってんだオレ。やりたいことも、出来ることも、全部ガタガタだ。
 ……ああ、そうだ。自分でも分からないんだ。これから何をどうすればいいのか。
 この先どうやってキースを守ってやればいいのか。
 自分を奮い立たせる方法すら分からねえ。
「このっ、バカ野郎!」
 ユウゴの叫びで、我に返る。
 目の前には、ブレードを掲げたネヴァンが迫っていた。
 よく似た光景を見たことがある。兄ちゃんが死んだ時とそっくりだ。
 こんな時まで、自分の無力を思い知らされるのか。
「……っ」
 ブレードが振り下ろされる、その瞬間。
「ルカっ!」
「おおおおおおおおっ!」
 ユウゴのリンクバースト弾を受けたルカが、装甲を展開してネヴァンに突っ込んだ。
 押し返されたネヴァンからオレを庇うように、ユウゴとルカ、二人が神機を構える。
「しっかりしろジーク! 俺たちは死なねえ! お前も死なせねえ!」
「俺たちは一緒に辿り着くんだ。みんなの……夢を叶えられる場所に!」
 ルカの言葉に、オレは息を飲んだ。
「お前、どうしてそれ……」
「行くよ、ジーク!」
 振り返ったルカが、オレに手を伸ばす。
 心の中にはまだ、ルカの温かい存在感が残っていた。
 導かれるように、この手で。心の中で。差し伸べられた手を取る。
 その瞬間、オレとルカの意識が繋がった。
 全身からオラクルが噴き出し、ルカの意識がよりはっきりと頭の中に流れてくる。
 温かくて力強い光のような意識の中に、ディンとオウルの背中が見えた気がした。
「そういう、ことなのか……?」
 あいつらの夢は――今もこいつらの中で生きている。
 この光が本当に、あいつらから託されたものなんだとしたら。
「……分かったよ……行こうぜ、ルカ!」
 オレが、それを無にするわけにはいかない。
 ディンに教わったコツの通りに、今度こそブーストハンマーを起動する。
 ユウゴの陽動に、ルカの嵐のような攻撃が加わって生まれた、ネヴァンの隙。
 今だ、と。心の中で今も繋がっている色んな奴らの声に背中を押されて。
「当たれええええっ!」
 オレは渾身の一撃を、ネヴァンの脳天に叩き込んだ。
 たまらず崩れ落ちた体に、すかさずルカとユウゴが捕喰口を捻じ込む。
 コアを引き抜かれたネヴァンが灰になって消えていくのを見て、一気に体の力が抜けた。
「はぁ……はぁ……オレ、中型にとどめ刺したの初めてだわ……」
 大の字になって寝転がる。
 灰域の中だけど、空は綺麗だった。
「ったく、あんだけ息巻いて付いてきたくせにボーッとしやがって。しゃきっとしろよ」
 ユウゴの言うことも当然だ。
 今、自分がするべきことは流石に分かる。
「……悪かった。迷惑かけちまって……本当にすまねえ!」
 素直に頭を下げる。オレの下らない意地に付き合わせちまった。
「みんな無事だったんだ。気にしないで」
 微笑むルカにそう言われて、むず痒さを覚えながら、オレも小さく笑う。
「それより、お前らさ……さっき言ってただろ。夢を叶えられる場所に辿り着くって。あの言葉、本気なのか?」
 ルカとユウゴが目を見合わせた。
「ああ、本気だ。たとえこの先どんなことがあっても、俺たちはその夢を諦めねえ。願いを託して死んでいった奴らの思いを……俺たちが必ず未来に届ける」
 ユウゴの右腕に巻きつけられたチョーカーを見て、オレはそれが誰のものなのか気づいた。
 こいつらにとって、死は、終わりじゃないんだ。
 オレにとって誰かの死は、いつだって後悔の場所だった。
 一生背負っていかなきゃいけない重石なんだって、ずっとそう思ってた。
 だけど、そうじゃない。
 受け継がれていく願いは。意志は。どこまでも未来へ繋がっていく。
 そしてオレの中にも、こいつらの中で輝いているものと同じ意志が確かに残っている。
「……そうか」
 ようやくオレも、前を向けるような気がした。
 だけど――こいつらが、あの二人の夢を繋いでいくって言うなら。
「……だったら」
 立ち上がって、ユウゴとルカの胸倉を掴んで引き寄せた。
「だったらお前ら! 一つだけ約束しろ!」
 その夢が、オレたちの英雄から受け継いだものなんだとしたら。
「お前らの夢は、お前らだけのもんじゃねえ! ミナトで待ってるガキどもを……誰一人見捨てんな!」
 あの日、牢獄の中で二人が語ったその夢が、どれだけの希望をオレたちに見せたのか。
 どれだけ、オレを救ってくれたのか。
 お前らが知らなくていい余計な重荷は、全部オレが背負ってやる。だから――
「それさえ誓ってくれるなら……オレも、お前らの夢に乗ってやる!」
 オレだってあいつらに、約束したんだ。
 一緒に夢を叶えようって。
 灰域に響き渡った思いに、ユウゴもルカも、真っすぐに応えてくれた。
「ああ、当たり前だ。誰も見捨てたりしねえ」
「この夢は、みんなで繋いでいく力なんだ。誰一人……死なせない」
 ルカの言葉に、オレはソール兄ちゃんの言葉を思い出した。
「おう! この世に……死んでいい奴なんていねえんだからな!」
 ソール兄ちゃん、リース兄ちゃん、ニール。
 みんなが託してくれた願いは、全部覚えてる。
 オレたちの旅はこれからも続いていくんだ。そして――
 これから進む道の先には、きっと五人揃って辿り着ける場所があるんだって、オレはもう一度信じてみようと思う。


 心の中に新しい風が吹き込んだような気持ちで、オレは牢獄の中へ戻った。
 だけど、キースには……ニールのことを、ちゃんと話さなきゃいけない。
 不甲斐ない兄貴を、キースは許してくれるか分からなかった。
「……あれ?」
 牢獄の中に、キースの姿がない。
 今日も咳が止まらなくて、あんなに辛そうにしてたのに。
 すぐに連れていかれたニールのことが頭に浮かぶ。
 まさか――全身の血が冷えた、その時。
「ごほっ、ごほっ……ジーク兄ちゃん……」
 鉄格子の向こうから、キースが重そうな荷物を引きずってやってきた。
「キース!? お前、任務に出たのか!?」
「うん……大丈夫だったよ。ほら、見て」
 キースが開いた荷物の中には、食料が詰まっていた。
「俺が一人で見つけたんだ。みんなの分もあるから、分けよう?」
「お前……」
 荷物を下ろして、キースはオレの前に堂々と立った。
「……ニール兄ちゃんのこと、看守から聞いた……だからジーク兄ちゃん、あんなに辛そうだったんだね」
 けど、とキースは首を振る。
「ジーク兄ちゃんは、ずっと俺たちを守ろうとしてくれた。でも見て? 俺、もう一人でも大丈夫だよ? 頑張って、任務もこなせるんだよ?」
 優しく笑って、キースはオレを見つめる。
「だから、ジーク兄ちゃん……もう、一人で全部抱え込むのはやめて? 俺だって、もう守られるだけはイヤなんだ!」
「キース……」
「ディンとオウルが死んだ時も、ニール兄ちゃんの時も、俺、何も出来なかった! 兄ちゃんがどんだけ悔しかったか……悲しかったか……俺にも分かるから!」
 キースは涙を流しながら、オレの胸に頭を当ててきた。
「俺、強くなるから! 兄ちゃんの傍から居なくなったりしないから! だから……だから俺にも兄ちゃんのこと守らせてよ……っ!」
 ――やっぱりオレは、ダメな兄貴だ。
 一番小さい弟に、ここまで心配かけてどうするんだよ。
「……ありがとな、キース」
 腕輪がロックされている今は抱きしめてやれない。だから、その手をしっかり握り締めた。
 もう暗い顔は見せねえ。格好悪い姿も見せねえ。
 オレに出来ることは少ないけど、それでも、もう迷わねえ。
「一緒に生きるぞ、キース。オレたちはこれからも……五人で一つだ」
「……うん!」
 この気持ちがある限り、いつかきっと、ニールとだって――
 オレは牢獄のみんなを振り返る。
 一度はみんなの胸に宿った英雄たちの夢。それをもう一度輝かせるために。
「……おいお前ら! オレの弟が食料見つけてきてくれたぞ! 一緒に食おうぜ!」
 オレはジーク・ペニーウォートとして、夢の欠片を繋ぎ始めた。


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