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「GOD EATER 3」キャラクターノベル 第四章 ジーク編「紡がれる絆」


「GOD EATER 3」キャラクターノベル ジーク編「紡がれる絆」 ~4章-6話~
 ――別の区画のAGEと一緒にヴァジュラ討伐ミッションに出撃して、ディンとオウルだけが死亡。
 何度その記録を読み返しても、兄ちゃんたちが死んだ時以上に、実感が湧かなかった。
 昨日まですぐ傍にあった温かさや賑やかさが不意になくなって、牢獄の中は涙を流すことも出来ないほど虚しい静けさに包まれていた。
 キースは一気に体調を悪くして、ニールも前以上に口数が減った。
 オレも、何もする気力が湧かなかった。
 ディンとオウルが死んだミッションを境に、看守たちは、AGEたちの間で発生するエンゲージって現象に目をつけ始めた。
 上手く言葉で表すのは難しいけど、アラガミと戦っている最中、不意に心の中に一緒に戦っている奴らの存在を強く感じることがある。
 心の中でそいつに手を伸ばして、そして、その手を握り返してもらった瞬間。
 金色のオラクルの光が、オレたちを繋ぎ合わせるんだ。
 ……まるで、兄ちゃんの遺した言葉をそのまま形にしたような力だと思った。
 AGEたちの戦闘力が向上する、まだ分からないことの多い現象――看守たちはこの力を危険だと判断して、詳しく調べることにしたらしい。
『肉親同士によるエンゲージの検証実験、開始』
 キースが動けない間、オレはニールと一緒に出撃しては何度も実験のためにエンゲージを繰り返した。
「畜生……っ」
 ニールと繋がったまま、虚しさの底に広がる絶望と悔しさを発散するように、オレはアラガミをぶちのめしていく。
 でも、ニールとのエンゲージも日が経つごとに。回数を経るごとに。繋がりがだんだん弱々しくなっていくのが分かった。
「ジーク兄ちゃん……このままみんな、居なくなっちゃうのかな……」
 薄くなっていくエンゲージの光の中で、オレたちの気持ちが、ぎこちなく交わる。
 初めて出来た対等な立場の仲間。それが失われた時の衝撃が、あまりにも大きすぎたこと。
 失うくらいなら、繋がりなんて無い方がいい。
 いつ死ぬかも分からないこの世界で、誰かの手を取るのがどうしようもなく怖い。
 もう何も失いたくない、って。
 考えていたことは、ほとんど同じだった。
「……大丈夫だ」
 神機を置いて、不安に立ち尽くすニールを抱き締めた。
 オレたちみんなの夢は、折れちまったかもしれない。
 だけどオレの中には、何があっても絶対に変わらない気持ちがあるから。
「ずっと前に約束しただろ? これからもずっと一緒だって」
「兄ちゃん……」
「オレたちは生き残るんだ。キースと一緒に三人で! オレたちは一つだろ?」
 守り抜く。この約束だけは何があっても。
 オレにはもう――本当にこいつらしか居ないから。
 情けない兄貴の言葉に、ニールは薄く、優しく微笑んでくれた。
「……ありがとう、兄ちゃん。ずっと一緒だよ」
 その笑顔に、オレも、精一杯の笑顔で応えた。


 そして――ニールと一緒にミナトに帰還した途端。
 突然、看守たちがオレを押さえつけて、ニールを担ぎ上げた。
「お、おい、何だよ!? ニールをどこに連れていく気だ!」
「さっき話がついたんだ。こいつは所属するミナトを移ることになる」
 何を言われたのか。何が起ころうとしているのか、理解出来なかった。
「ニールが別のミナトに……? お、おい、ふざけんなっ! 離せっ!」
 必死にもがいても、看守の手を振り払えなかった。
「折角の甲判定なのに、例の狂犬の片割れと比べたら、戦力としてあまりにもお粗末だ。エンゲージの出力も毎回低下している。死ぬ前に売り払うのが正解だからな」
 正解、だって?
 ニールはお前らの商品じゃねえんだぞ。
「ジーク兄ちゃん! く、くそ……離せ、離せよっ……た、助けて! ジーク兄ちゃん!」
「ニール! ……ニールっ!」
 やめてくれ。もう、これ以上、オレたちから奪うのはやめてくれ。
 あのニールが。頑固で、真面目で、兄貴にだって気を遣う優しいニールが、オレに向かって助けてって叫んでるんだぞ。
 だったら、助けるに決まってるだろ。腕が千切れたって、喉が裂けたって、オレが助けなきゃいけないんだよ。
 なのに、どうして――どうしてオレは、身動き一つ取れないんだ。
 どうしてオレは、遠ざかっていくニールに叫ぶことしか出来ないんだよ。
「ニール……くそっ……くそぉぉぉっ! 何でだよっ! 何でだああああっ!」
 冷たい床に押し付けられたまま、オレは、また一人家族を失った。


「ねぇ、ジーク兄ちゃん……ニール兄ちゃん、どこに居るの?」
 辛そうに咳をしながら、キースがオレに尋ねる。
 ……オレはたった一人残された弟にも、ろくに返事をすることが出来ずにいた。
 そのうちオレも、この先に待っている絶望にゆっくり飲み込まれていくんだろう。
 オレには、兄貴を名乗る資格なんかない。
 希望を追いかける力なんて、最初から無かったんだ。
 へし折れた心を見つめながら、そんな風に思っていた、その時。
「あいつらだろ、ヴァジュラを倒した狂犬って……すげえよな」
 噂話に顔を上げる。別の区画のAGEが鉄格子の外を通りがかるところだった。
 ヴァジュラを倒した、狂犬――
 ディンと、オウルを、死なせた奴ら。
 ニールと同じなのに、ニールより価値があると判断された、甲判定のAGE。
 二人並んだその姿を見た途端。
「……おい、待てよっ!」
 衝動的にオレは怒鳴り声を上げて、鉄格子にぶつかるように駆け出した。
「今から任務かっ! オレも連れていけっ!」
 自分でも驚くほど、刺々しい声が出た。
 看守と、振り向いた二人を睨みつけながら、オレは必死に怒鳴り続ける。
「盾にでも、何にでもなってやるからよ! オレも一緒に出撃させろぉ!」
 鬼気迫るオレの様子に、看守すら一瞬怯んだ。
「……どうせエンゲージの検証に向かわせるんだ。こいつが一番エンゲージの経験回数が多い。同行を許可する」
 看守の判断で、オレは牢獄の外に出される。
 初めて、狂犬二人と同じ目線で向き合った。
「……俺はユウゴ。こいつはルカだ。よろしくな」
 暗い目つきと、澄んだ目つき。二人の眼差しを睨み返しながら、オレは鼻を鳴らした。
 ――オレの目にはもう希望が映らない。だけど、それでも。
 最後に、こいつらだけは見極めなきゃいけない。
 ディンとオウルが死んで尚、ヴァジュラを倒して舞い上がってるようなクソ下らない奴らなんだとしたら。
 一発ぶん殴ってやらねえと、気が済まなかった。


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