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「GOD EATER 3」キャラクターノベル 第四章 ジーク編「紡がれる絆」
「GOD EATER 3」キャラクターノベル ジーク編「紡がれる絆」 ~4章-5話~
兄ちゃんたちが死んで、数ヶ月――
オレたちは拠点同士を繋ぐ輸送隊に忍び込んで、密航を繰り返しながら旅を続けていた。
兄ちゃんたちが居なくなってからの生活は、本当にどん底だった。
ガキが三人。運良く集落やサテライト拠点に辿り着けても、仕事を任せるには頼りないし、優しさを向けるには重すぎる、そんな存在。
食料や物資を求めて、泥水をすすりながらあちこちフラフラ歩き回って、生きるか死ぬかの線の上を、弟たちと手を繋ぎながらギリギリ歩き続ける毎日。
こんな状況で、周りの人たちを次々と味方にしていた兄ちゃんたちがどれだけ凄かったのか、改めて思い知らされた。
ソール兄ちゃんみたいに、二人を励ましながら。
リース兄ちゃんみたいに、二人を笑わせながら。
オレが兄ちゃんたちの代わりになって、五人で居た頃のオレたちで居続けようって、必死に振る舞い続けたけど――
いつ誰に騙されるか。襲われるか。弟たちを守るためには、四六時中気を張ってなきゃいけなかった。
人と人との繋がり。兄ちゃんが教えてくれた最強の武器を、オレはまだ手に入れたことがない。
兄ちゃんたちが生きていたら、きっとこの輸送隊の運転手とも仲良くなって、今頃は世界を巡る一員になっていたかもしれない。
だけどオレじゃ、とてもそんなことは出来なかった。
「あれ……?」
その時――突然、船が停止した。次の拠点に到着するのはまだ先のはずなのに。
そう思った瞬間。オレたちが隠れていた積荷の蓋が開いて、制服を着た大人たちがオレたちを覗き込んだ。
「ほう、積荷を検分するだけのはずが、思わぬ掘り出し物だな」
摘まみ出されたオレたちは、別のトレーラーに放り込まれた。
内側に檻のような補強がされた、真っ暗なトレーラーだ。
「お、おい! 何なんだよお前ら! ここから出せよ!」
「騒ぐな。密航なんかしなくたって、お前らには安全な居場所を与えてやるよ」
冷たく笑った男の腕には、イヤな記憶を思い出させる赤い腕輪が嵌まっていた。
――ゴッドイーターにはならない。
あの日以来、オレたちにとってゴッドイーターは、ある意味でアラガミ以上に、死と、絆が失われる恐怖の象徴になった。
出来る限りミナトから距離を置いてきた。もし、あの拠点の奴らみたいに捕まったら。そう考える度に、兄ちゃんたちの最期が脳裏に蘇ったから。
だけど世界にはオレたちの意志なんか関係なく、どんどんミナトが増えていって、捕まって無理やりゴッドイーターにされる子供も、それだけ増えていった。
オレたちも結局、その大きな流れに飲み込まれて、こうして辿り着いちまった。
利益至上主義のミナト――ペニーウォートに。
看守たちはどいつもこいつもオレの言葉に耳を貸さなかった。
どうか、ニールとキースだけは見逃してやってほしい。何度もそう叫んだのに。
こいつらはバカにするような薄ら笑いを浮かべながらオレを押さえつけて、扉の向こうで適合試験を受ける弟たちの悲鳴を、生々しくオレに聞かせた。
それでもキースが。ニールが。扉の向こうから歩いて出てきてくれた時は、涙が出るほど安心した。
生きててくれた。オレたちはまだ、繋がってるんだって思えたから。
だけど、牢獄に放り込まれて、三人で肩を寄せ合いながらこれから先のことを考える度に、脳裏に焼き付いた兄ちゃんたちの最期が、オレの体を強張らせた。
オレも、ニールも、キースも、もうすぐああやって死んでいくのか?
弟が死ぬのを、目の前で見なくちゃいけないのか?
ニールとキースの前で、オレが死ぬかもしれないのか?
……それだけはダメだ。絶対にダメだ。
強くならなきゃいけない。怖いなんて言ってられない。生きて、生きて、生きて。ニールとキースを守らなくちゃいけないんだ。どんな強いアラガミと戦うことになったとしても。オレが、オレが、オレが、オレが、オレがやらなきゃ――
「よーう、新入り! しけた顔してどうしたんだよ!」
目が血走るほど必死に考えを巡らせていたオレの頭が、思いっきり叩かれた。
「痛ってえ!? な、何だよお前!?」
目の前に、陽気な笑みを浮かべた男がしゃがみ込んだ。
「うっす! 俺はディン! お前らの先輩で、この世界の英雄になる男だ! よろしくな!」
にっ、と笑って親指で自分の胸を差すディンに、オレもニールもキースも、ぽかんとした顔で、しばらく黙り込んだ。
「……なに言ってんだ、お前?」
「冷めてんじゃねーよ! せめて笑えって!」
何だこいつ、と目を細めていると。
「連れて来られたばかりなのに、いきなりそんな挨拶じゃ戸惑うに決まってるだろディン。……三人共、よろしくね。僕はオウルって言うんだ。困った時は相談してね?」
にっこりと優しく微笑むオウルに、オレたちはまた呆気に取られた。
こんな状況なのに、ディンとオウル、二人の笑顔は本物だって感じたから。
「ま、とにかく! 俺たちはこれから一緒に暮らす仲間だ! 今はまだ不安かもしれねえけど、俺とオウルがついてるから安心しろ! 絶対誰も死なせねえよ!」
ほんの一瞬。だけど確かに。
二人の存在感は、オレに兄弟五人が揃っていた頃のことを思い出させた。
――オレたちの他にも、似たような境遇の子供たちが集まった牢獄の中は、いつだって重い空気に満ちていた。
けど、ディンとオウルはそんな空気の中で、いつだって周りに希望を振りまいていた。
「お前ら喜べ! 偵察に行った先で保存食の詰まったケース見つけてきたぞ! 看守たちにはバレてねえ。今のうちに分けるぞ! 集まれ集まれ!」
二人はどんな時でも楽しそうで、とても同じ境遇の奴だとは思えないほどだった。
初めは、そんな二人のことを鬱陶しく思っていたけど。
「ほれ、三兄弟。お前らにはもう一つおまけでやるよ」
ディンはそう言って、こっそり自分の食料までオレたちに分けてくれた。
「なっ……これ、お前の分だろ。そういうのいいって!」
「実は俺、死ぬほど腹が痛ぇんだ。今何か食ったらマジで死んじまうかもしれねえからな。人助けだと思って食ってくれよ。んじゃ、先に寝るぜー」
「同じく僕も死ぬほどお腹が痛いから、人助けよろしく。じゃ、おやすみー」
そう言って、食料を押し付けてさっさとベッドで寝ちまった。
「ディンとオウルって……大きい兄ちゃんたちに似てるね」
「ああ……何でか分からないけど、傍に居るとホッとする」
横を向くと、久しぶりにキースとニールが笑顔を浮かべていた。
「……そうだな……って、あんな奴ら、兄ちゃんたちと全然似てねえって!」
今日はどう生き延びるか。明日はどこへ向かおうか。いつの頃からか、そんな話ばっかりするようになっていたオレたちだけど。
気が付いたら、また他愛のない話題で笑いあえるようになっていた。
AGEとしての本格的な訓練が始まってからもディンとオウルには世話になった。
「ジークの神機はブーストハンマーだな。変形させるのにコツがあるんだ、いいか?」
二人は神機の扱いにも精通していて、新入りのAGEにも熱心に指導をしてくれた。
「うお、マジで上手くいくようになった……使ってる神機違うのに、何で?」
「俺とオウルの親はフェンリルで働いてたんだ。神機の話はさんざん聞かされたし、色んな実験も見てきたからな。これくらい楽勝だぜ!」
「すっげー……オウルはともかく、ディンは頭の悪い奴だと思ってたぜ」
「んだと、この野郎! もう一回言ってみろ!」
「あはははははっ!」
「おいガキども! 訓練中だ、やかましいぞ!」
「うるっせえ、やかましいのはてめえだクソ看守!」
「な、な、何だと!?」
巻き込まれて懲罰を受けることもあったけど……それも、楽しかった。
ディンとオウルの作る空気が、いつの間にか、互いを仲間として受け入れ合う力になっていたんだ。
兄ちゃんたちが死んでからずっと感じてた、心の中の隙間。
心の中の同じ場所に、同じ傷を負ってたオレたち三人じゃ、どれだけ寄り添いあっても埋まらなかったものが、暗くて冷たい牢獄の中で埋まったなんて皮肉な話だけど。
これが、人との繋がりで得られる力なんだって、ようやく分かった気がした。
オレたちはこの場所に来れて良かったのかもしれない。
そう感じるほどに、仲間がいる牢獄の中は居心地が良かった。
そして――
「みんな聞いて。キース君が頑張ってくれたお陰で、ようやく使える通信機が手に入ったんだ」
看守たちが寝静まった夜中。牢獄の中で作戦会議が開かれた。
毎日遅くまで何かを弄ってたキースが、まさかディンとオウルに頼まれて通信機の修理をしていたなんて、思いもよらなかった。
「こいつを他の区画のAGEに渡す。そして……俺たちの夢のために、このミナトのAGE全体で協力して、反乱を起こすんだ!」
ざわめきが牢獄の中に広がっていく。
「夢、って?」
「いいか、よく聞けよ? 俺たちは――みんなの夢を叶えられる場所を作る! それが俺とオウルの夢なんだ」
武者震いするほどの力強い言葉と、熱い眼差しが、オレたち全員に向けられる。
「ここにいる奴らはみんな、理不尽に何かを奪われた奴ばっかりだ。だから、俺たちみんなで全部取り戻す!」
「互いに手を差し伸べて、支え合って、お互いの好きなことや、したいことを応援できる……そんな場所。誰もが家族みたいに安心して過ごせる場所を、僕らで作りたい」
二人の語る、壮大な夢。その言葉は、オレたち兄弟がいつの間にか諦めてしまっていた夢を、もう一度照らし出した。
兄弟揃って安心して暮らせる居場所。
そこに連れていってくれるのは、こいつらだったんだって本気で思った。
「けど、俺とオウルだけじゃ無理なんだ。だからみんな……俺たちの夢に乗ってくれ!」
あの傍若無人なディンが、初めてオレたちに頼みごとをした。
考えるまでもない。牢獄の奴ら全員が、笑顔と、自信のみなぎる表情を浮かべていた。
「……もちろん乗るぜ、ディン、オウル! オレたちで夢を叶えよう!」
真っ先にそう言って、オレは満面の笑みでその夢を応援することに決めた。
自分には無いものだと思っていた、人を信じる勇気。
最強の武器を手に入れるための資格は、それすらも誰かに与えられるものなんだって、オレはやっと理解した。
「……へへっ、ありがとなジーク」
「みんなもありがとう。僕たちで……自由を掴もう!」
暗闇の中、オレたちの希望が広がっていく。
キースも。争い事が嫌いなニールですら、期待と希望に目を輝かせている。
オレたち兄弟の夢は、ここでディンとオウルと繋がって、もっと大きな光になって、この先の未来に進むんだ。
もう一度ここから全てが始まる。そう思っていた。
だから……
ディンとオウルが戦死したなんて話を、受け入れられるはずがなかった。
兄ちゃんたちが死んで、数ヶ月――
オレたちは拠点同士を繋ぐ輸送隊に忍び込んで、密航を繰り返しながら旅を続けていた。
兄ちゃんたちが居なくなってからの生活は、本当にどん底だった。
ガキが三人。運良く集落やサテライト拠点に辿り着けても、仕事を任せるには頼りないし、優しさを向けるには重すぎる、そんな存在。
食料や物資を求めて、泥水をすすりながらあちこちフラフラ歩き回って、生きるか死ぬかの線の上を、弟たちと手を繋ぎながらギリギリ歩き続ける毎日。
こんな状況で、周りの人たちを次々と味方にしていた兄ちゃんたちがどれだけ凄かったのか、改めて思い知らされた。
ソール兄ちゃんみたいに、二人を励ましながら。
リース兄ちゃんみたいに、二人を笑わせながら。
オレが兄ちゃんたちの代わりになって、五人で居た頃のオレたちで居続けようって、必死に振る舞い続けたけど――
いつ誰に騙されるか。襲われるか。弟たちを守るためには、四六時中気を張ってなきゃいけなかった。
人と人との繋がり。兄ちゃんが教えてくれた最強の武器を、オレはまだ手に入れたことがない。
兄ちゃんたちが生きていたら、きっとこの輸送隊の運転手とも仲良くなって、今頃は世界を巡る一員になっていたかもしれない。
だけどオレじゃ、とてもそんなことは出来なかった。
「あれ……?」
その時――突然、船が停止した。次の拠点に到着するのはまだ先のはずなのに。
そう思った瞬間。オレたちが隠れていた積荷の蓋が開いて、制服を着た大人たちがオレたちを覗き込んだ。
「ほう、積荷を検分するだけのはずが、思わぬ掘り出し物だな」
摘まみ出されたオレたちは、別のトレーラーに放り込まれた。
内側に檻のような補強がされた、真っ暗なトレーラーだ。
「お、おい! 何なんだよお前ら! ここから出せよ!」
「騒ぐな。密航なんかしなくたって、お前らには安全な居場所を与えてやるよ」
冷たく笑った男の腕には、イヤな記憶を思い出させる赤い腕輪が嵌まっていた。
――ゴッドイーターにはならない。
あの日以来、オレたちにとってゴッドイーターは、ある意味でアラガミ以上に、死と、絆が失われる恐怖の象徴になった。
出来る限りミナトから距離を置いてきた。もし、あの拠点の奴らみたいに捕まったら。そう考える度に、兄ちゃんたちの最期が脳裏に蘇ったから。
だけど世界にはオレたちの意志なんか関係なく、どんどんミナトが増えていって、捕まって無理やりゴッドイーターにされる子供も、それだけ増えていった。
オレたちも結局、その大きな流れに飲み込まれて、こうして辿り着いちまった。
利益至上主義のミナト――ペニーウォートに。
看守たちはどいつもこいつもオレの言葉に耳を貸さなかった。
どうか、ニールとキースだけは見逃してやってほしい。何度もそう叫んだのに。
こいつらはバカにするような薄ら笑いを浮かべながらオレを押さえつけて、扉の向こうで適合試験を受ける弟たちの悲鳴を、生々しくオレに聞かせた。
それでもキースが。ニールが。扉の向こうから歩いて出てきてくれた時は、涙が出るほど安心した。
生きててくれた。オレたちはまだ、繋がってるんだって思えたから。
だけど、牢獄に放り込まれて、三人で肩を寄せ合いながらこれから先のことを考える度に、脳裏に焼き付いた兄ちゃんたちの最期が、オレの体を強張らせた。
オレも、ニールも、キースも、もうすぐああやって死んでいくのか?
弟が死ぬのを、目の前で見なくちゃいけないのか?
ニールとキースの前で、オレが死ぬかもしれないのか?
……それだけはダメだ。絶対にダメだ。
強くならなきゃいけない。怖いなんて言ってられない。生きて、生きて、生きて。ニールとキースを守らなくちゃいけないんだ。どんな強いアラガミと戦うことになったとしても。オレが、オレが、オレが、オレが、オレがやらなきゃ――
「よーう、新入り! しけた顔してどうしたんだよ!」
目が血走るほど必死に考えを巡らせていたオレの頭が、思いっきり叩かれた。
「痛ってえ!? な、何だよお前!?」
目の前に、陽気な笑みを浮かべた男がしゃがみ込んだ。
「うっす! 俺はディン! お前らの先輩で、この世界の英雄になる男だ! よろしくな!」
にっ、と笑って親指で自分の胸を差すディンに、オレもニールもキースも、ぽかんとした顔で、しばらく黙り込んだ。
「……なに言ってんだ、お前?」
「冷めてんじゃねーよ! せめて笑えって!」
何だこいつ、と目を細めていると。
「連れて来られたばかりなのに、いきなりそんな挨拶じゃ戸惑うに決まってるだろディン。……三人共、よろしくね。僕はオウルって言うんだ。困った時は相談してね?」
にっこりと優しく微笑むオウルに、オレたちはまた呆気に取られた。
こんな状況なのに、ディンとオウル、二人の笑顔は本物だって感じたから。
「ま、とにかく! 俺たちはこれから一緒に暮らす仲間だ! 今はまだ不安かもしれねえけど、俺とオウルがついてるから安心しろ! 絶対誰も死なせねえよ!」
ほんの一瞬。だけど確かに。
二人の存在感は、オレに兄弟五人が揃っていた頃のことを思い出させた。
――オレたちの他にも、似たような境遇の子供たちが集まった牢獄の中は、いつだって重い空気に満ちていた。
けど、ディンとオウルはそんな空気の中で、いつだって周りに希望を振りまいていた。
「お前ら喜べ! 偵察に行った先で保存食の詰まったケース見つけてきたぞ! 看守たちにはバレてねえ。今のうちに分けるぞ! 集まれ集まれ!」
二人はどんな時でも楽しそうで、とても同じ境遇の奴だとは思えないほどだった。
初めは、そんな二人のことを鬱陶しく思っていたけど。
「ほれ、三兄弟。お前らにはもう一つおまけでやるよ」
ディンはそう言って、こっそり自分の食料までオレたちに分けてくれた。
「なっ……これ、お前の分だろ。そういうのいいって!」
「実は俺、死ぬほど腹が痛ぇんだ。今何か食ったらマジで死んじまうかもしれねえからな。人助けだと思って食ってくれよ。んじゃ、先に寝るぜー」
「同じく僕も死ぬほどお腹が痛いから、人助けよろしく。じゃ、おやすみー」
そう言って、食料を押し付けてさっさとベッドで寝ちまった。
「ディンとオウルって……大きい兄ちゃんたちに似てるね」
「ああ……何でか分からないけど、傍に居るとホッとする」
横を向くと、久しぶりにキースとニールが笑顔を浮かべていた。
「……そうだな……って、あんな奴ら、兄ちゃんたちと全然似てねえって!」
今日はどう生き延びるか。明日はどこへ向かおうか。いつの頃からか、そんな話ばっかりするようになっていたオレたちだけど。
気が付いたら、また他愛のない話題で笑いあえるようになっていた。
AGEとしての本格的な訓練が始まってからもディンとオウルには世話になった。
「ジークの神機はブーストハンマーだな。変形させるのにコツがあるんだ、いいか?」
二人は神機の扱いにも精通していて、新入りのAGEにも熱心に指導をしてくれた。
「うお、マジで上手くいくようになった……使ってる神機違うのに、何で?」
「俺とオウルの親はフェンリルで働いてたんだ。神機の話はさんざん聞かされたし、色んな実験も見てきたからな。これくらい楽勝だぜ!」
「すっげー……オウルはともかく、ディンは頭の悪い奴だと思ってたぜ」
「んだと、この野郎! もう一回言ってみろ!」
「あはははははっ!」
「おいガキども! 訓練中だ、やかましいぞ!」
「うるっせえ、やかましいのはてめえだクソ看守!」
「な、な、何だと!?」
巻き込まれて懲罰を受けることもあったけど……それも、楽しかった。
ディンとオウルの作る空気が、いつの間にか、互いを仲間として受け入れ合う力になっていたんだ。
兄ちゃんたちが死んでからずっと感じてた、心の中の隙間。
心の中の同じ場所に、同じ傷を負ってたオレたち三人じゃ、どれだけ寄り添いあっても埋まらなかったものが、暗くて冷たい牢獄の中で埋まったなんて皮肉な話だけど。
これが、人との繋がりで得られる力なんだって、ようやく分かった気がした。
オレたちはこの場所に来れて良かったのかもしれない。
そう感じるほどに、仲間がいる牢獄の中は居心地が良かった。
そして――
「みんな聞いて。キース君が頑張ってくれたお陰で、ようやく使える通信機が手に入ったんだ」
看守たちが寝静まった夜中。牢獄の中で作戦会議が開かれた。
毎日遅くまで何かを弄ってたキースが、まさかディンとオウルに頼まれて通信機の修理をしていたなんて、思いもよらなかった。
「こいつを他の区画のAGEに渡す。そして……俺たちの夢のために、このミナトのAGE全体で協力して、反乱を起こすんだ!」
ざわめきが牢獄の中に広がっていく。
「夢、って?」
「いいか、よく聞けよ? 俺たちは――みんなの夢を叶えられる場所を作る! それが俺とオウルの夢なんだ」
武者震いするほどの力強い言葉と、熱い眼差しが、オレたち全員に向けられる。
「ここにいる奴らはみんな、理不尽に何かを奪われた奴ばっかりだ。だから、俺たちみんなで全部取り戻す!」
「互いに手を差し伸べて、支え合って、お互いの好きなことや、したいことを応援できる……そんな場所。誰もが家族みたいに安心して過ごせる場所を、僕らで作りたい」
二人の語る、壮大な夢。その言葉は、オレたち兄弟がいつの間にか諦めてしまっていた夢を、もう一度照らし出した。
兄弟揃って安心して暮らせる居場所。
そこに連れていってくれるのは、こいつらだったんだって本気で思った。
「けど、俺とオウルだけじゃ無理なんだ。だからみんな……俺たちの夢に乗ってくれ!」
あの傍若無人なディンが、初めてオレたちに頼みごとをした。
考えるまでもない。牢獄の奴ら全員が、笑顔と、自信のみなぎる表情を浮かべていた。
「……もちろん乗るぜ、ディン、オウル! オレたちで夢を叶えよう!」
真っ先にそう言って、オレは満面の笑みでその夢を応援することに決めた。
自分には無いものだと思っていた、人を信じる勇気。
最強の武器を手に入れるための資格は、それすらも誰かに与えられるものなんだって、オレはやっと理解した。
「……へへっ、ありがとなジーク」
「みんなもありがとう。僕たちで……自由を掴もう!」
暗闇の中、オレたちの希望が広がっていく。
キースも。争い事が嫌いなニールですら、期待と希望に目を輝かせている。
オレたち兄弟の夢は、ここでディンとオウルと繋がって、もっと大きな光になって、この先の未来に進むんだ。
もう一度ここから全てが始まる。そう思っていた。
だから……
ディンとオウルが戦死したなんて話を、受け入れられるはずがなかった。