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「GOD EATER 3」キャラクターノベル 第四章 ジーク編「紡がれる絆」


「GOD EATER 3」キャラクターノベル ジーク編「紡がれる絆」 ~4章-3話~
 それからしばらくの間、オレたちは拠点の一員としての日々を過ごした。
 ソール兄ちゃんは、あの行商人に教えてもらった安全なルートを使って、リース兄ちゃんが選別した高く売れそうな物資をさばきに、毎日トレーラーで遠征を繰り返している。
 今日はキースを連れて、近くの集落で簡単な市場を開くんだそうだ。
 オレたちは拠点に残って、久しぶりに穏やかな時間に浸っていた。
「……と、いうわけで。以上がポーカーのルールだけど、分かったかな?」
「んー……何となく」
 オレは住居の屋上で、リース兄ちゃんにトランプを教えてもらっていた。
「で、これが一番強い役。同じ数字4枚に、ジョーカーを加えたファイブカードだ」
 スペード。ハート。ダイヤ。クラブ。そして最強のジョーカー。
 それぞれのエースで作った五枚のカードを、リース兄ちゃんが並べていく。
「へー、これが最強なのか……同じ仲間が5枚で最強って、オレたち兄弟みたいだな!」
「なるほど。最強の役が、最強の仲間の象徴か……その考え、僕は好きだな」
 楽しそうにリース兄ちゃんが微笑んでくれた、その時。
「リース兄ちゃん、ジーク兄ちゃん!」
 階下から、ニールが上がってきた。
「どうしたんだい、ニール? ……って、それ」
 ニールの指先には、見たことないほど綺麗な羽をした蝶が止まっていた。
「さっき窓から入ってきたんだ! こいつ、飼ってもいい?」
 珍しく興奮した様子のニールが、目を輝かせてそう言った。
 すぐ逃げちまいそうなもんなのに、ニールの指先に止まった蝶は、居心地良さそうにじっとしている。
「おいニール! 飼うのはいいけど放し飼いにすんなよ! 家ん中、虫だらけになっちまうだろ!」
「む……何でだよ、みんな可愛いだろ」
 ニールがポケットに突っ込んだ手を開くと、小さい蜘蛛が何匹も楽しそうに這い回っていた。
「げっ! 何で服の中に入れてんだお前! 気持ち悪ぃから今すぐ放り出せ!」
 どん引きしたオレがそう言うと、ニールはムッとしたように目つきを鋭くした。
「………………分かった」
 次の瞬間、ニールはオレ目がけて蜘蛛の群れを投げつけやがった。
 オレの甲高い悲鳴が拠点中に響き渡る。
 背中に入り込んだ蜘蛛を追い出すために、脱いだ服をバサバサ振り回しながら外まで走っていくと、ちょうど兄ちゃんたちがトレーラーに乗って帰ってきた。
「帰ったぞー! ……ん? ジーク、お前何で泣いてんだ?」
「泣いてない! けど、ニールが……」
 べそをかきながら振り向くと、屋上でニールがこっちを見下ろしながら、ふんと鼻を鳴らしていた。その横でリース兄ちゃんがやれやれと手を振っている。
「何だよ、また喧嘩したのか? あとでちゃんと仲直りしろよ?」
 ニールと同じように鼻を鳴らすと、キースも助手席から降りてきた。
「にいちゃん、ただいま!」
「おう、キース。お帰り! 面白いもんあったか?」
「うん! これみて!」
 キースは、腕に三本のドリルを装備した古いロボットの玩具を持っていた。
「すげえんだぞキースは。壊れてたこの玩具、そこら辺に落ちてた機械の部品組み合わせて、動くように直しちまったんだからな」
 キースがスイッチを入れると、ロボットのドリルがぐるぐる音を立てて動き出した。
「うおお!? すっげえ! 本当にキースが一人で直したのか?」
「えへへ……」
「もしかしたらキースには、機械弄りの才能があるのかもな。……死んだ親父も言ってたが、本気で何かを極めれば、たとえ1%でも生き残る確率が確実に上がるんだ 。案外キースに向いた言葉だったのかもな」
「おとうさんが……?」
「ああ、今じゃ遺言になっちまったが……機械が好きなら、本気でやってみろよキース。いつかきっと助けになるぞ」
「う……うん! わかった! おれ、そのことば、わすれないよ!」
 今日は、弟たちの珍しい表情がよく見れる日だ。
 こんなに嬉しそうなキースの顔、初めて見た。
「っと、それよりちょっと集まってくれ。面白い話を聞いてきた」
 ソール兄ちゃんに言われるがまま、オレたちは五人で集まった。
「さっき立ち寄った集落の奴らから聞いたんだ。近頃この辺りをミナトの船が走り回ってるらしい……子供を保護するためにな」
 ミナトっていえば、確か厄災の後に建造され始めた新しい拠点 だ。
 サテライト拠点より安全な場所だって聞いたことがあるし、そこで暮らす人たちを守るために、ゴッドイーターも沢山配備されてるらしい。
「その船と接触してみようと思ってる。ミナトと繋がりが持てれば、俺たちも保護してもらえるかもしれないし、それが無理でも、この拠点に物資を配給してもらえるようになるかもしれない。こいつはチャンスだと思う」
 いきなり大きな話を聞かされて、オレは目を輝かせた。
 けど――ソール兄ちゃんは何故か難しい顔を浮かべている。
「ただし……ちょっと胡散臭い気配も感じる。話を聞く限り、保護されてるのは小さい子供たちばかりらしい。自分の子供と引き離された親も居るって話もあった」
「え……?」
「詳しいことは分からねえが、油断しない方が良さそうだ。けど、上手くミナトと繋がりを持てれば当分は安心できる。このチャンスを逃したくない」
 これまで想像もしなかった新しい希望だ。
 もしかしたらオレたち五人の旅は、ゴールに近づいているのかもしれない。
「あのさ兄ちゃん。ミナトって、沢山のゴッドイーターが守ってるんだよな? だったら……いっそゴッドイーターになるってのは、どうかな!」
 子供でもゴッドイーターになれるって話は聞いたことがある。
 アラガミをぶっ倒す最強の戦士。そんな力を手に入れられたら、もう何も怖くない。
 それにゴッドイーターになれれば、その家族だってミナトに保護してもらいやすくなるはずだ。
「何なら、オレだけでも――」
「ダメだ」
 いつになくキツい口調で、ソール兄ちゃんが言った。
「……あのな、ジーク。お前が俺たち兄弟のことを守りたいって、いつも考えてくれてるのは知ってる。そのことを嬉しくも思う。だが、ゴッドイーターはダメだ」
「な、何でだよ! 強くなれるんだろ!」
「強くなって、それでどうなる? 毎日いつ死ぬかも分からない戦場でアラガミと戦い続けるんだぞ? ……俺たちが目指すのは戦場じゃない。安全な居場所だ」
 しゃがみ込んでオレと視線を合わせたソール兄ちゃんが、優しく頭を撫でてくれた。
「俺たち兄弟は五人で一つ。……誰か一人に危ない橋を渡らせたりしない。そうだろ?」
「……ごめん」
 危ない橋を渡る時は、五人で一緒。それは分かってる。
 だけど実際、兄ちゃんたち二人は、いつだって危ない橋を渡りながらオレたちを守ってくれている。
 そろそろオレだって、兄ちゃんたちを助けたいのに――
「分かってくれたならいい。それじゃ、積荷を下ろすぞ! みんな手伝ってくれ!」
 リース兄ちゃんがさり気なくオレの背中を叩きながら、気にするなって励ましてくれたけど、どこか子供扱いされているような気がして、その日はあんまり元気が出なかった。


 その日の夜中。
 もうすぐ空が白くなってくる頃に、ふと目を覚ましたオレは、寝床にニールの姿がないことに気づいた。
 みんなを起こさないようにこっそり抜け出して、しばらく外を捜し回った後、ニールが拠点の隅っこで膝を抱えてうずくまっているのを見つけた。
「ニール! こんな時間に何やって……って、お前……泣いてるのか?」
「ごめん……ごめんね……」
 静かに涙を流しているニールを見て、慌てて隣に座り込む。
 その足元には――昼間の、あの綺麗な蝶が静かに横たわっていた。
「こいつ……死んじまったのか」
「ちゃんと、ケースの中に入れておいたんだ……なのに、様子を見たらもう……」
 もう動かない蝶を見つめて、ニールは目元を真っ赤に腫らしていた。
「お前、ここでずっと泣いて……?」
 たかが一匹の虫だと思った。
 だけどニールにとっては、かけがえのない友達だったんだ。
「……ごめんな、ニール。お前の友達に酷いこと言っちまって」
 隣に座り込んで、弟の背中に手を置く。
 ニールが落ち着くまで、しばらくそうしていた。
「……ジーク兄ちゃん。俺もね? ソール兄ちゃんと同じことを思ったんだ」
「え?」
「ジーク兄ちゃんだけ、ゴッドイーターになるなんてイヤだ……一人でどっかに行っちゃうなんて、絶対にイヤなんだ」
 ニールの潤んだ瞳がオレを見つめた。
「みんなでずっと一緒に居たい。キースも、絶対同じこと言う……だから、お願い。危ないこと考えないで?」
 ――やっぱりオレは、ダメな兄貴みたいだ。
 弟をこんなに不安にさせて、何が『守る』だ。
 オレが一番、兄弟の気持ちを蔑ろにしてた。
「……そうだよな。お前らがどう思うか、考えてなかった」
 ニールの肩を、しっかりと抱き寄せる。
 夜通し泣いて冷たくなってる体に、自分の温かさを伝えながら、オレは誓った。
「悪い。もうバカなことは考えねえよ。オレたち兄弟は五人で一つ、だもんな」
「……約束だよ?」
「ああ、約束だ! 誰も置いていったりしないし、一人にもさせねえ! だからもう泣くな!」
 目元を拭ったニールが、今度こそ、小さく微笑んでくれた。
 兄ちゃんたちのことも助けられるようになりたい。その気持ちは本当だけど……結局、兄ちゃんたちの言う通り、オレは焦ってたのかもしれない。
 オレがやるべきこと。出来ることは、こんなに近くにあったんだ。
 兄弟の絆を守るっていう、大事な使命が。


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