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「GOD EATER 3」キャラクターノベル 第四章 ジーク編「紡がれる絆」


「GOD EATER 3」キャラクターノベル ジーク編「紡がれる絆」 ~4章-2話~
 子供の頃。オレたちは、あちこちのサテライト拠点を巡って旅をしていた。
 だけど、どの拠点もいつ灰域に飲まれるか分からなかったし、実際に飲まれちまった拠点も多かった。ギリギリのところでアラガミの襲撃から逃げきったことも何度もあった。
 どこまで歩いても、何もない荒野しか見えない時もあった。
 日に日に軽くなっていく食料が、自分の命の重さのように感じたこともあった。
 ニールが不安に声を殺して泣き出した時。
 体の弱いキースの咳が何日も止まらなくなった時。
 兄貴のオレが何とかしなくちゃいけないのに、オレに出来ることは何もなくて。
 悔しくて、怖くて。世界のど真ん中で、全部ぶん投げて叫びだしたい気持ちになった時――
「心配すんな!」
「大丈夫だよ。僕たちがついてる」
 ――千切れそうな心を繋ぎ止めてくれたのは、いつだって兄ちゃんたちだった。


 どこもかしこもボロボロで、もう名前も分からない町の中。
 生き物の気配のない町の隅っこで、偵察を終えてきた兄ちゃんの声が響いた。
「右、左、前、後ろ、上、下、全部良し! アラガミは見当たらねえ! 出発するぞ、お前ら!」
 頼もしく胸を張って、オレたち五兄弟の長男 ――ソール兄ちゃんが号令をかけた。
「はいはい偵察お疲れさま、ソール兄ちゃん。……ほら、ジーク、ニール、キース、僕らの後についてきて?」
 颯爽と歩き出すソール兄ちゃんの後ろで優しく微笑みながら――次男のリース兄ちゃんが、オレたちを手招きした。
 瓦礫の隙間から、オレ、ニール、キースが、ひょっこり顔を出す。
 こんな風にアラガミから隠れながら旅をするのにも、随分慣れてきた。
「ジーク! 今日はお前が隊長やってみるか? 先頭を歩いて、何か見つけたらハンドサインで後ろに知らせるんだ。やり方、覚えてるよな?」
「オレが隊長!? やるやる、任せとけって!」
 ガシガシとオレの頭を撫でるソール兄ちゃんに、オレは満面の笑みで頷いた。
 ――兄ちゃんたちは、本当に何でも出来た。
 喧嘩も強いし、物資の取引だって上手だ。頭も良いし、手先も器用で、いつも生き延びるための手段を手繰り寄せる。
 これまではずっと兄ちゃんたちに支えられてきたけど……オレだって、いつか兄ちゃんたちに負けないくらい強くなる。
 そんな野望を思い描いていたオレは、初めて先頭を任されたことが嬉しくて、荒れ果てた町を足取り軽く突き進んだ。
「……お? ……おお!」
 出発からそれほど経たないうちに、オレは視線の先にあるものを見つけた。
 すぐ後ろにハンドサインを出す。『お宝発見、即集合!』の合図だ。
「どうしたジーク隊長? 何か見つけたか?」
 追いついてきたソール兄ちゃんが、またオレの頭に手を置いた。
「あれは……サテライト拠点か! お手柄だぞジーク! ……だが、装甲壁はかなり雑に補修されてるな。管理が行き届いてるようには見えないが……」
 ソール兄ちゃんが慎重に拠点の状況を見極めようとしていた、その時。
「二人とも! キースが……」
 後ろから、やや慌てた様子でリース兄ちゃんが追いついてきた。
 振り返った先で、顔色の悪いキースをニールが支えている。
「キース、どうした? 具合悪いのか?」
「けほっ……けほっ……ごめん、なさい……だい、じょうぶ……」
「無理しなくていい。リース、薬の残りは?」
「……あと少しだけ」
 何度も苦しそうに咳き込む様子を見て、ソール兄ちゃんはすぐさまキースを背中に担ぎ上げて、遠くの拠点を見つめた。
「迷ってる暇はなさそうだ。あの拠点まで行くぞ!」
 互いに頷きあって、オレたちは町外れにそびえるサテライト拠点まで走り出した。
 ――幸い、オレたち五人はあっさり拠点の中に迎え入れてもらえた。
 装甲壁を開いてくれたのは、オレと変わらないくらいの歳の小さい子供たちだった。
「この拠点に薬は残っているか? いくつか分けて欲しいんだが……」
 ソール兄ちゃんがそう質問すると、装甲壁を開けてくれた奴らは、落胆したように首を振った。
「……薬が欲しいのは、こっちの方だよ」
 改めて、拠点の中を見回す。
 大人が一人も居ない。ボロボロになった建物が並んでいて、あちこちに痩せ細って具合の悪そうな子供たちが寝転がっていた。
「この拠点、大人が居ないんだ……生き残ってるのも、二十人くらい。たまに食料や薬を売ってくれる行商のおっちゃんが来るけど、高いし、数も少なくて……」
「……そうなのか」
「何もしてあげられないけど……それでいいなら、ここで暮らしてもいいよ」
 疲れたようなため息と一緒に、一応リーダーらしいそいつはそう言った。
 ここも、長く暮らせるような場所じゃなさそうだ。
 不安に思ったオレは思わずソール兄ちゃんを見上げた。けど――
「そうか、大変な時に受け入れてくれてありがとうな。しばらく世話になるから、力になれることがあったら何でも言ってくれ!」
 と、そう笑って、その子供の頭をガシガシと撫でた。
 そいつはビックリしたように目を丸くすると、気恥ずかしそうに唇を噛んで、走って行っちまった。
「ひとまず、その行商人が頼みの綱だな。ジーク、ニールと一緒にキースを休ませられる場所を探してくれ。俺はリースと一緒に町の様子を見てくる」
 そう言って、兄ちゃんたち2人は拠点の中に歩いていった。
 オレとニールは無人の家を探し回って、拠点の端っこに、屋上のついた二階建ての家を見つけた。
 家具も割と綺麗な状態で残ってて、何とかベッドの上にキースを寝かせてやれた。
「キース、大丈夫だからな。薬、きっと手に入るから」
 ニールは苦しそうなキースをずっと介抱してくれている。
 ……その行商人が薬を持ってきても、きっとこの拠点の子供たちと取り合いになる。
 キースの命には代えられない。けど、もしキースの代わりに誰かが薬を手に入れられなくなったら?
「何か、良い方法ねえのかな……」
 誰も傷つかずに解決する方法を、オレは思いつかなかった。
 しばらくしてキースが眠った頃。兄ちゃんたち二人が戻ってきた。
「お、三人共ここに居たか」
「やっぱりね、ジークが目をつけそうな家だと思ったんだ」
 どの家を住処にするかなんて決めてなかったのに、すぐオレたちを見つけるあたり、兄ちゃんたちはやっぱり流石だ。
「キースは眠ったんだな。ジーク、ニール、ちょっと話があるんだ。付き合え」
 ニールと揃って首を傾げて、オレたちは兄ちゃんたちにくっ付いて、屋上に出た。
「色々話を聞いて回って、大体この拠点の状況が分かってきた」
「少し前までは大人たちも普通に暮らしていたらしいんだけど……大型アラガミの侵入を許して、その時に大人たちは全滅。子供たちは地下にある大きな資材保管庫に避難していたから、何とか助かったらしいよ」
 この拠点が子供ばっかりなのは、そういう理由があるのか。
「それ以来、ここの子供たちは協力し合って何とか生き延びてきたらしいんだけど……ちょっと気になることがあってね」
 そう言って、リース兄ちゃんはポケットから小さなアンプルを取り出した。
「この拠点の外れに病院があったんだ。ま、医者は居ないから、病気になった子たちを集めるだけの場所だったんだけど……そこでこの薬を見つけた。例の行商人が売ってる薬らしい」
 リース兄ちゃんは冷めた目つきで、そのアンプルを見つめながら続けた。
「手持ちの医療キットじゃ詳しい成分までは分からなかったけど……この薬、貼ってあるラベルも、中身も全部デタラメ。偽物なんだ」
 オレとニールが同時に息を飲んだ。
「しかもその行商人はこの薬を、ゴッドイーターにも効果がある貴重な薬って宣伝してるらしい。つまり――そいつは、この拠点の子供たちを騙して偽物の薬を売りさばいてる悪党ってわけだ」
「なっ! ふざけんなよ! そんなの許せねえ!」
 こみ上げてくる怒りのままに、オレは怒鳴った。
「話が早いな。ああ、そうだジーク。放っておくわけにはいかない」
「とはいえ、ここの子供たちにとっては、その行商人が生き延びるための唯一の希望って雰囲気だ。新入りの僕たちが勝手に叩きのめしても、結局誰も救われない」
「そこで、俺たちで手を打とうと思う。協力してくれないか?」
 兄ちゃんたち二人の視線に、オレとニールは即決で頷いた。


 数日後。デカいトレーラーに乗って、拠点に行商人がやってきた。
 あっという間に拠点の子供たちが集まってきて、トレーラーの周りには背の低い人だかりが出来ていく。
「さぁチビども! 今日は食料も薬も沢山持ってきたぞ! 金は無いだろうから、今回も貴重品と交換だ。早い者勝ちだぞ!」
 トレーラーから降りてきた小太りの男が、にんまり笑ってそう言った。
 いち早く人だかりを割って進み出たのは、オレと、ニールだ。
「おっちゃん、弟の体調が悪いんだ! これと同じ薬が欲しい!」
 オレはリース兄ちゃんに渡された薬を行商人に見せた。
「んー? 見ない顔だが、お前さん新入りか? 交換出来るもんは?」
 行商人は渡した薬をろくに確認もせずにそう尋ねてきた。
「……これ」
 ニールが持ってきた包みを開く。
 中には、これまでの旅の途中で拾い集めた神機パーツが山になっていた。
「神機の欠片って高く売れるんだろ? これ全部やるから、ありったけの薬をくれよ!」
「こいつぁ凄い……よ、よーしよし分かった。ちょっと待てよ……そら、こいつだ」
 目の色を変えた行商人が取り出したのは、あの偽物のアンプルだった。
「は? 一本だけかよ! もっとくれって!」
「こいつはゴッドイーターの間でも使われてる貴重な薬なんだ。そう何本も渡してやれねえんだよ」
 胡散臭い笑顔で、行商人がそう語った時。
「――へえ、だったら証明してもらおうかな」
 横から進み出てきたリース兄ちゃんがニコニコ笑いながら、男の持っていた薬を一瞬で奪い取った。
「はい、みんなご注目! 実はゴッドイーターが使う薬品っていうのは、オラクル細胞に反応する性質があるから、同じオラクル細胞を含んでいる神機に振りかけると薬液の色が変わるんだ!」
 そう言って、リース兄ちゃんは二種類のアンプルを高々と掲げる。
「片方は僕らが入手した、正真正銘グレイプニルで使われている純正の薬品! これをこの神機の欠片にかけると……」
 薬液の振りかけられた神機の欠片は、すぐ青い色に変わった。
 周りの子供たちが驚きでざわついていく。
「はいこの通り。続いて、おじさんの売ってる薬を試してみよう。すると……」
 もう一度、薬液が振りかけられる。
 しかし、今度は何の反応もなかった。
「見ての通り、反応なし。……おじさん、これは一体どういうことかな?」
 僅かな救いを求めて集まって来たはずの子供たちは、いつの間にか男を逃がさないためのバリケードになっていた。
「で、デタラメだ! 薬液の色が変わるなんて話、聞いたこともねえ!」
「だったら積荷の中身、調べさせてくださいよ。ねぇみんな?」
 リース兄ちゃんの問いかけで、無言の中、子供たちの輪がじりじりと縮まっていく。
 狼狽える男の前に、ソール兄ちゃんがズンズンと進み出ていった。
「悪あがきはやめときな、おっさん。ガキだと思って舐めた商売してっからこういう目に遭うんだよ」
「く……くそっ!」
 男が懐から取り出したのは、スタングレネード。
「さっせるかあ! ニール!」
「うん!」
 怪しい動きをしたら速攻で取り押さえろ、と言われていた通り、オレとニールは同時に男の腕と足に飛びついた。
「観念しやがれっ!」
 よろめいた男の顔面に、ソール兄ちゃんが拳を一発叩き込む。
 白目を剥いてひっくり返った男の前で、にっと笑ったソール兄ちゃんが拳を掲げた。
 オレも勝利を確信して笑みを浮かべたけど――周りの子供たちは、不安そうに顔を曇らせただけだった。
 きっとみんな、騙されていたことにも薄々気づいていたんだろう。
 けど、こいつを捕まえたらこの先どうすればいいのか分からなくなる。
 重い沈黙が、こいつらの絶望をどんな言葉よりもはっきりと伝えてきた。
「――心配すんな!」
 その時、真っ先に声を上げたのはソール兄ちゃんだった。
「まず、このトレーラーの積荷はみんなで平等に分けるって約束する! それと、これからは俺たちがこのおっさんの代わりになろう! 締め上げて、他の拠点や物資を取引するルートを全部吐いてもらう! そしたら俺たちがいつでも美味い飯と薬を仕入れて来てやる!」
 堂々と語られる、これから先の未来。その言葉に、少しずつ周りの子供たちの目に光が戻っていく。
「……ほ、本当に?」
「ああ、信じろ! リース、ジーク、ニール、お前らもそれでいいだろ?」
 家族に向けた眼差しに、オレはもう一度笑顔を浮かべた。
「おう! もちろんだぜ、ソール兄ちゃん! キースも絶対それが良いって言うよ!」
 リース兄ちゃんも、ニールも、微笑みながら頷いた。
「決まりだな! それじゃあみんな、改めて……これからよろしく頼むぜ!」
 今度こそ、何の不安も恐怖もない温かい歓声がオレたちを包んだ。
 ――こうして、オレたちはデカいトレーラーと、その積荷。
 そして、新しい居場所と、一緒に暮らす沢山の仲間たちを手に入れたんだ。


 トレーラーの積荷の中には、ちゃんとした純正の薬もあった。いくつかは本物を用意しておかないと、まず信用させてから騙すってことが出来ないからだろう。
 お陰でキースの体調も落ち着いて、夜には一緒に飯が食えるようになった。
 兄弟五人揃って、住処の屋上で飯を食いながら、拠点中の子供たちが笑っているのを眺めていると、こっちまで自然と笑顔になれる。
 オレたちはきっと、良いことをしたんだと思う。
 だけど、それはそれとして…… 
「ソール兄ちゃんは甘すぎるんだって! あのおっさんを捕まえておくなんてさ! 身ぐるみ剥いで放り出しちまえば良かったのに!」
 オレはパンをかじりながら、ソール兄ちゃんに文句を言っていた。
「ははは! そんなことしたらあのおっさん、間違いなく死んじまうだろ」
「別にいいじゃん、あんな奴!」
「ま、頭に来るのは分かるけどな……あのおっさんが居たから、この拠点の奴らが今日まで生き残ってたのも事実だ。みんなも捕まえておくって結論に納得してくれたんだし、何も殺さなくったっていいだろ?」
 悪い奴なんだから、もっと酷い目に遭ったっていいのに。
 そう思って膨れていたオレを、ソール兄ちゃんが笑いながら撫でてくれた。
「みんな必死に生きてるんだ。利用し合う形も多いが……一度出来た繋がりを大切にしておけば、もしかしたらいつかその繋がりが、俺たちを助けてくれることがあるかもしれない。いつか仲間になれるって可能性を、俺は信じたい」
 相変わらず、ソール兄ちゃんはお人好しだ。
 あんなおっさんに助けられることなんて、あるはずないのに。
 そう思って黙っていたけど。
「この世界で最強の武器は、人と人との繋がりだと思ってる。俺たち兄弟みたいにな。だからジーク、この世に死んで良い奴なんて居ないんだぞ?」
 ソール兄ちゃんの笑顔と、その言葉は、オレも否定したくなかった。
 目に映るみんなが、いつか希望になるかもしれない。
 その考え方はいつだって――優しさを強さに変えてくれるような気がしたから。
「……分かったよ、ソール兄ちゃん。……それよりさ、リース兄ちゃん! 薬を神機につけると色が変わるなんて、よく知ってたな!」
「ああ、あれは嘘。空気に触れると色が変わる、ただのイタズラ道具」
「は!? じゃあ全部ハッタリだったのかよ!」
「そういうこと。ま、辿り着いた結論は正しいんだし、細かいことは抜きでよろしく」
「へへっ、リース兄ちゃん、悪い奴だなぁ!」
「お褒めに預かり光栄です、ジーク隊長」
 優しく微笑むリース兄ちゃんに、オレも笑みを返した。
「とにかく、こっからが大変だぞ。奪った積荷もここの奴ら全員で分けるとなると、そう長持ちはしないだろう。早く取引相手を見つけていかないとな……」
 立ち上がったソール兄ちゃんは、そう言いながらも楽しそうに笑っていた。
「だが、新しい居場所と仲間が出来た! これは間違いなくラッキーだ! 俺たち五人でこの場所を、もっと暮らしやすい場所にしていこう!」
「おう! 何でも協力するぜ、ソール兄ちゃん!」
 みんなでソール兄ちゃんに笑顔を向ける。
 兄弟五人で安心して暮らせる場所に辿り着く――その夢を叶えるために。
 兄ちゃんたちが手繰り寄せてくれる光の下で、オレたちの新しい生活が始まった。


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