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「GOD EATER 3」キャラクターノベル 第二章 ルル編「蛍火の記憶」
「GOD EATER 3」キャラクターノベル ルル編「蛍火の記憶」 ~2章-6話~
……長い過去の記憶を語り終え、ふと息をつく。
蒼い月から目を逸らして、ずっと話を聞いてくれていたルカに向き直る。
「結局私はバランに捨てられ、またしても居場所を失った……もちろん今は、船のみんなのために戦えることを誇らしく思っている。……けれど」
自分の手を見下ろして、遠いあの日に思いを馳せる。
「今でも時々、心の奥に迷いが生じるんだ。こんな私が幸せを感じていいのかどうか」
どんな理由があろうと、恩人の命を奪ったのはこの私だ。
そのことがずっと、楔のように私を繋いでいる。
あのゴミ溜めの底で、届かない光を見上げ続ける人生こそが相応しいのではないかと。
「……すまない、こんな話を聞かせてしまって。失望したか?」
船のみんなとの絆は、確かなものだと信じている。
だが、私の過去が不意にその絆を断ち切ることだってあるかもしれない。
内心の恐怖を隠しながら、無言でルカを見つめる。
しばらくの間、水面で揺れる月を見つめていたルカは、やがて口を開いた。
「そのニケって人はきっと……ルルに殺されて良かったんだと思う」
「……え?」
戸惑った。この呪いのような記憶を、まさか肯定されるなんて思わなかったから。
深く考え込んだ後、ルカは夜空を見上げた。
「もしも俺がアラガミになったら……ユウゴやルル。船のみんなに殺してほしいと思うから」
「な、何故だ。何故そんなことが言える!?」
「だって他の誰かに任せたら、みんなは絶対にそのことを後悔する」
澄み切った水を手のひらにすくって、ルカは零すように思いを口にする。
「俺を殺した人のことを、みんなは恨むかもしれない。憎むかもしれない……自分のことを追い詰めて、背負わなくていい余計なものまで背負って、明日に歩いていけなくなる。そんな結末になるくらいだったら……」
月明りのように無垢な瞳が、私を見据えた。
「俺はみんなの手で、俺を殺してほしい」
……何が正しかったのかは、分からない。
だがもしも、ニケが私以外の誰かに殺されていたら。
きっと私は、やり場のない憎悪をまき散らすだけの、空虚な人形に成り果てていただろう。生きる気力など欠片も残らず、死ぬことすら厭わなくなったはずだ。
ニケならきっと、そのことに気づいていた。
ニケがもし、ルカと同じ意志を抱いていたのなら。
私がこの手で幕を引いたことは、彼女にとって――救いだったのだろうか。
「いつか、みんなで探しに行こうよ」
「え?」
「ホタル。俺も見てみたい」
夜空に浮かぶ月を指差して、ルカは子供のように微笑んだ。
その一言が、笑顔が、私の記憶に光を当てる。
私の心を縛っていた過去を、現在に、そして未来へ繋げてくれる。
「っ……ああ……もちろんだ」
ニケ。私は、貴女が願った通りには生きて来られなかったかもしれないけど。
それでも、もう一度だけ貴女と同じ夢を見ることを許してほしい。
貴女が導いてくれたこの場所でなら……今度こそ叶えられる気がするから。
――遠い日の記憶を、少しだけ真っ直ぐ見つめ返せるようになって。
クリサンセマムへ帰還した私は、ルカと共に神機をキースに託した。
「お疲れ、整備はしておくよ! それにしてもさ、ルルって本当に神機と相性が良いよね」
「え?」
「ほら、この数値。出力はみんな一定になるように調整してるはずなんだけど、ルルがアクセルトリガーを使う時、何故かいっつも神機側のオラクル細胞が強めに励起するんだ」
神機の状態を表示するタブレットを見ながら、キースが首を傾げた。
「どう考えても、神機が自分の意志でルルの負担を請け負ってるとしか思えないんだよねぇ……ひょっとして、バラン独自の戦闘技法とかあるの?」
息を飲むルカの隣で、私はあまりの衝撃に立ち尽くした。
「私の神機が、自分の意志で……?」
アクセルトリガーの実証実験の時、カリギュラを屠ったあの動き。
極限状態の中、体が無意識に慣れ親しんだ動きを取ったものと思っていた。
だけど、もし。もし本当に、この奇跡のような考えが正しいのなら。
あの絶大な負荷の中、私が命を繋いたのは――
「っ……ぅ……あぁ」
直前まで、懐かしい思い出に浸っていたせいだろうか。
私は思わず膝を突き、止めどなく溢れてくる涙を手で覆った。
「うぇぇ!? どどど、どうしたのルル!? 泣くほどつまんない話だった!?」
「あ、キースがルルのこと泣かした」
「先輩ぃ!? なんつー言い方すんのさ!? ちょ、兄ちゃん近くに居ないよね!?」
騒ぎだす仲間たちの声に、涙を零しながら笑みを浮かべる。
……何も終わっていなかったんだ。
貴女はずっと、何よりも近くで私を守ってくれていた。
『……その意志を、手放すなよ』
師匠が最後に私に送った言葉が脳裏に蘇る。
あの言葉は、バランに殉じる覚悟を求めるものではなくて。
師匠もあの時、姿を変えて尚、私を守ろうとするニケの意志を感じて――
「ルルの師匠も、忘れてなかったんだね」
傍らに寄り添ってくれるルカが、微笑みながらそう言ってくれた。
「ふふ……本当に、お前たちは……っ!」
どれだけ私に、希望を見せれば気が済むのか。
涙を拭い、鮮やかな紅の神機を手に取って掲げる。
……随分長い間、情けない姿を見せてしまった。
「後でみんなに話したいことがある。聞いてもらえるだろうか?」
キースは戸惑っていたが、ルカは無言で頷いてくれた。
心からの笑顔を浮かべて、私は告げる。
「私には――叶えたい夢があるんだ」
この美しい世界に、ここからもう一度羽ばたいていこう。
貴女と過ごした、ホタルのような思い出と共に。
著 翡翠ヒスイ(株式会社テイルポット)
原案 吉村 広(株式会社バンダイナムコスタジオ)
……長い過去の記憶を語り終え、ふと息をつく。
蒼い月から目を逸らして、ずっと話を聞いてくれていたルカに向き直る。
「結局私はバランに捨てられ、またしても居場所を失った……もちろん今は、船のみんなのために戦えることを誇らしく思っている。……けれど」
自分の手を見下ろして、遠いあの日に思いを馳せる。
「今でも時々、心の奥に迷いが生じるんだ。こんな私が幸せを感じていいのかどうか」
どんな理由があろうと、恩人の命を奪ったのはこの私だ。
そのことがずっと、楔のように私を繋いでいる。
あのゴミ溜めの底で、届かない光を見上げ続ける人生こそが相応しいのではないかと。
「……すまない、こんな話を聞かせてしまって。失望したか?」
船のみんなとの絆は、確かなものだと信じている。
だが、私の過去が不意にその絆を断ち切ることだってあるかもしれない。
内心の恐怖を隠しながら、無言でルカを見つめる。
しばらくの間、水面で揺れる月を見つめていたルカは、やがて口を開いた。
「そのニケって人はきっと……ルルに殺されて良かったんだと思う」
「……え?」
戸惑った。この呪いのような記憶を、まさか肯定されるなんて思わなかったから。
深く考え込んだ後、ルカは夜空を見上げた。
「もしも俺がアラガミになったら……ユウゴやルル。船のみんなに殺してほしいと思うから」
「な、何故だ。何故そんなことが言える!?」
「だって他の誰かに任せたら、みんなは絶対にそのことを後悔する」
澄み切った水を手のひらにすくって、ルカは零すように思いを口にする。
「俺を殺した人のことを、みんなは恨むかもしれない。憎むかもしれない……自分のことを追い詰めて、背負わなくていい余計なものまで背負って、明日に歩いていけなくなる。そんな結末になるくらいだったら……」
月明りのように無垢な瞳が、私を見据えた。
「俺はみんなの手で、俺を殺してほしい」
……何が正しかったのかは、分からない。
だがもしも、ニケが私以外の誰かに殺されていたら。
きっと私は、やり場のない憎悪をまき散らすだけの、空虚な人形に成り果てていただろう。生きる気力など欠片も残らず、死ぬことすら厭わなくなったはずだ。
ニケならきっと、そのことに気づいていた。
ニケがもし、ルカと同じ意志を抱いていたのなら。
私がこの手で幕を引いたことは、彼女にとって――救いだったのだろうか。
「いつか、みんなで探しに行こうよ」
「え?」
「ホタル。俺も見てみたい」
夜空に浮かぶ月を指差して、ルカは子供のように微笑んだ。
その一言が、笑顔が、私の記憶に光を当てる。
私の心を縛っていた過去を、現在に、そして未来へ繋げてくれる。
「っ……ああ……もちろんだ」
ニケ。私は、貴女が願った通りには生きて来られなかったかもしれないけど。
それでも、もう一度だけ貴女と同じ夢を見ることを許してほしい。
貴女が導いてくれたこの場所でなら……今度こそ叶えられる気がするから。
――遠い日の記憶を、少しだけ真っ直ぐ見つめ返せるようになって。
クリサンセマムへ帰還した私は、ルカと共に神機をキースに託した。
「お疲れ、整備はしておくよ! それにしてもさ、ルルって本当に神機と相性が良いよね」
「え?」
「ほら、この数値。出力はみんな一定になるように調整してるはずなんだけど、ルルがアクセルトリガーを使う時、何故かいっつも神機側のオラクル細胞が強めに励起するんだ」
神機の状態を表示するタブレットを見ながら、キースが首を傾げた。
「どう考えても、神機が自分の意志でルルの負担を請け負ってるとしか思えないんだよねぇ……ひょっとして、バラン独自の戦闘技法とかあるの?」
息を飲むルカの隣で、私はあまりの衝撃に立ち尽くした。
「私の神機が、自分の意志で……?」
アクセルトリガーの実証実験の時、カリギュラを屠ったあの動き。
極限状態の中、体が無意識に慣れ親しんだ動きを取ったものと思っていた。
だけど、もし。もし本当に、この奇跡のような考えが正しいのなら。
あの絶大な負荷の中、私が命を繋いたのは――
「っ……ぅ……あぁ」
直前まで、懐かしい思い出に浸っていたせいだろうか。
私は思わず膝を突き、止めどなく溢れてくる涙を手で覆った。
「うぇぇ!? どどど、どうしたのルル!? 泣くほどつまんない話だった!?」
「あ、キースがルルのこと泣かした」
「先輩ぃ!? なんつー言い方すんのさ!? ちょ、兄ちゃん近くに居ないよね!?」
騒ぎだす仲間たちの声に、涙を零しながら笑みを浮かべる。
……何も終わっていなかったんだ。
貴女はずっと、何よりも近くで私を守ってくれていた。
『……その意志を、手放すなよ』
師匠が最後に私に送った言葉が脳裏に蘇る。
あの言葉は、バランに殉じる覚悟を求めるものではなくて。
師匠もあの時、姿を変えて尚、私を守ろうとするニケの意志を感じて――
「ルルの師匠も、忘れてなかったんだね」
傍らに寄り添ってくれるルカが、微笑みながらそう言ってくれた。
「ふふ……本当に、お前たちは……っ!」
どれだけ私に、希望を見せれば気が済むのか。
涙を拭い、鮮やかな紅の神機を手に取って掲げる。
……随分長い間、情けない姿を見せてしまった。
「後でみんなに話したいことがある。聞いてもらえるだろうか?」
キースは戸惑っていたが、ルカは無言で頷いてくれた。
心からの笑顔を浮かべて、私は告げる。
「私には――叶えたい夢があるんだ」
この美しい世界に、ここからもう一度羽ばたいていこう。
貴女と過ごした、ホタルのような思い出と共に。
著 翡翠ヒスイ(株式会社テイルポット)
原案 吉村 広(株式会社バンダイナムコスタジオ)