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「GOD EATER 3」キャラクターノベル 第一章 ユウゴ編「始まりの誓い」


「GOD EATER 3」キャラクターノベル ユウゴ編「始まりの誓い」 ~1章-4話~
 緊急のヴァジュラ討伐任務にアサインされたのは四人。
俺、ルカ、ディン。そして。
「……ありがとな、オウル。お前まで付き合ってくれると思わなかった」
「来る途中にも言ったろ? ユウゴ君とルカ君どっちが欠けても、僕らの計画は上手くいかなくなる。協力するさ。それに……ディンが出るなら、僕も出るに決まってるよ」
スナイパー型の銃身を担いで、オウルが肩をすくめて笑った。
――眼前に広がるのは、古い市街地。
燃えるような色のオラクルが、あちこちの建築物にべったりと付着しているのが見える。
俺たちは、ボロボロになった高速道路の上に陣取っていた。
ここから周囲を見渡し、ヴァジュラを先に発見するのが狙いだ。
「どうだオウル、見えるか?」
重量級の神機、ヘヴィムーンを軽々と扱いながら、ディンがオウルの隣に立つ。
「背の高い建物が多いからなぁ……もうちょい待ってね……」
乗り捨てられた車の上からスコープ越しにヴァジュラを探すオウルの姿は、まさに狩人といった様子で、普段の頼りなさげな雰囲気は全くなかった。
「ディンとオウルって、ペニーウォートに来る前から友達だったの?」
首を傾げるルカの質問に、ディンが鼻を鳴らした。
「まぁな。オレたちの両親はフェンリルの職員で、一緒にアラガミをぶっ倒す研究をしてたんだ。オレもオウルも、もっとガキだった頃から家族ぐるみの付き合いだ」
フェンリル――厄災が起きる前まで世界を統治していた、ゴッドイーターの組織。
「親父もおふくろも、オレたちを守って死んでいった……だからオレは、オウルと誓ったんだ。親の意志を継いで、アラガミから世界を守る英雄になるってな!」
「そういうこと。あの牢屋から抜け出して、僕らは夢を叶えられる場所を必ず作る。だからユウゴ君とルカ君だけじゃない、AGEみんなの協力が必要なんだ」
重く、固い信念を楽しそうに語る二人に、俺は圧倒された。
「夢を叶えられる場所を作るのが、夢、か……」
ただ漠然と自由を夢見るだけだった自分の中に、一つの指針が出来たような気がした。
「っ! 見つけた!」
オウルの鋭い声に、俺たちは全員神機を握り締める。
「おいユウゴ、てめぇの作戦でいくって決めたんだ。足引っ張んじゃねーぞ!」
「こっちのセリフだ。全員揃って生きて帰るぞ!」
士気を高めるための掛け声だったが……募ってくる恐怖感は中々抑えられなかった。
子供四人だけでのヴァジュラ討伐。
絶対的な、死に挑む任務になる。
ディンも、オウルも、緊張しているのが分かる。
自分でも、呼吸が荒くなっていくのを感じていた時だ。
「みんなで一緒に帰ろう。そしたら……明日も一緒にいられるから」
穏やかなルカの一声で、ふと、場の緊張が和らいだ。
自信ありげに頷くオウル。生意気な笑みを取り戻したディン。
俺も、神機を握る手に確かな力が宿ったのを感じた。
「――オウル、撃てぇっ!」
開戦を告げる銃声と共に、死に抗う意志の弾丸が、遠方のヴァジュラの体を強かに抉る。
次の瞬間。腹の底に響くような咆哮が、静まり返った市街地を震撼させた。
「命中! こっちに気づいた!」
「ユウゴ、ルカ、仕上げはこっちに任せとけ! 絶対死ぬなよっ!」
ルカと一緒に今にも崩れそうな高速道路から飛び降りて、まだ距離のあるヴァジュラの前に身を晒す。
……巨大な地響きが近づいてくる。
鎧のように発達した四肢。荒々しくたなびく朱色のマント。
目に映る獲物の一切を逃さない捕喰者の眼光が、俺たちを捉え、猛然と大地を震わせる。
こいつが、獣神――ヴァジュラ。
「で、でけぇ……っ!」
強がりなど一瞬で吹き飛ぶほどの神威に、足がすくみそうだった。
だが、その時。
「ユウゴ」
――行こう、と。
一歩先から俺を振り返るルカの姿が、もう一度、俺に力をくれた。
「……ああ。俺たちの未来は、こいつの向こうに広がってる! 行くぞっ!」
もはや見上げるほどの距離に迫って来たヴァジュラが、大きく飛びかかってくる。
地面が割れるような衝撃から逃れ、俺たちは左右からヴァジュラを銃撃した。
目的は一つ。このポイントを死守し、数分だけ時間を稼ぐこと。
ヴァジュラは電撃を操るという。特に、帯電状態のヴァジュラの攻撃を受けると、一発で意識が吹っ飛んで、そのまま死に直結する。
距離を置いての銃撃戦を基本に、俺とルカ、どちらかが常に気を引き、隙あらばバーストを狙っていく戦術を徹底した。
だが、こちらが捕喰する隙すら見せないスピードで動き回るヴァジュラに、俺もルカも翻弄された。逃げ回るので精一杯で、攻勢に転じるきっかけを掴めないまま、ジリジリと体力を削られていく。
その時。ヴァジュラが不意に動きを止め、こちらを威嚇するような動作を見せた。
チャンスと見たのか、ルカが矢のように突進していき、神機を突き立てようとする。
だが同時に、ヴァジュラのマントに鮮烈な雷光が走った。
「っ! よせ、ルカ!」
咄嗟に飛び出し、ルカの体を横から攫う。
一瞬の後、ヴァジュラの周囲に、轟音と共に無数の雷が降り注いだ。
ギリギリのところでルカを庇うことが出来た。が――二人揃って地面に倒れてしまった。
「っ! ユウゴ、逃げ――」
ルカの叫びも間に合わず、ヴァジュラが容赦なく地面を蹴った。
獣神の巨体が、俺たちをまとめて押し潰そうと頭上から降ってくる。
死を確信した。濃密な時間の中で、せめてルカだけでもとその体を庇おうとする。
次の瞬間。
疾走してきた一発の弾丸がヴァジュラの横っ面に命中し、その巨体が瓦礫に突っ込んだ。
「二人とも、無事かい!? すぐに動いて!」
いつの間にか廃ビルの屋上にポジションを移していたオウルが、ヴァジュラを止めた。
「は、はは……今のはヤバかった……サンキュー、オウル!」
「ありがとうオウル!」
どうにか命を拾ったが、戦闘開始から数十秒で、もう土壇場だ。
わずかでも足を止めれば一瞬で追い詰められる。
奥歯を噛みしめたその時。高速道路の上から、ディンの声が響き渡った。
「準備完了だ! お前ら、巻き込まれんなよおおおっ!」
「いいタイミングだぜ、ディン! ルカ、離れるぞ!」
即座にルカと一緒にその場から離脱する。
直後――轟音と共に、崩落してきた高速道路の残骸がヴァジュラの上に降り注いだ。
崩落しかけた高速道路を、ディンのレイガンとヘヴィムーンで破壊し、ヴァジュラの上に落下させる。
周囲にある物は全て使う、ペニーウォート流の作戦だったが、見事に成功した。
「今だ、みんなっ!」
瓦礫の山の中から、上半身だけを脱出させたヴァジュラ目がけて、俺、ルカ、オウルの三人で、残ったオラクルを全て撃ちまくる。
そこへ――
「英雄さまのご登場だぜっ! くっ――たばれえええええっ!」
飛び降りてきたディンが、レイジングムーン形態に変形させた神機を、ヴァジュラの頭に叩きつけた。
削り取られたヴァジュラのオラクルが血飛沫のように周囲に舞う。
これで決まってくれと、祈りにも似た思いで、神機の引き金を引き続ける。
途方もなく長く感じた攻勢の果て――遂に、ヴァジュラの断末魔が鼓膜を震わし、ディンがレイジングムーンを停止させた。
辺りに、虚しい静けさが満ちていく。
動かなくなったヴァジュラの亡骸を前に、俺は恐る恐る口を開いた。
「……勝っ、た……? 勝ったよな? なぁ!?」
「ああ……やってやったぜ……オレたちの、勝ちだああっ!」
思わず、空に向かって雄叫びを上げた。
俺たちは結果を出した。ここに居る四人で、明日に希望を繋いだんだ。
「ふぅ……みんな、お疲れさまー。いやぁ、何とかなるもんだねー」
「ったりめえだぜ! オレたちが揃ってんだからよ! ま、ユウゴの作戦も良かったな!」
「……ユウゴ。これでまた、一緒にいられるかな?」
「ああ……まだ信じらんねえけど……これで誰も文句はねえはずだ」
いつものように微笑んで、片腕を掲げるルカに、俺も応えようとする。
腕輪がぶつかる小気味良い音で、灰域に、勝利を告げよう。
そう思った。
……最初に認識出来たのは、光だった。
反射的に目を閉じてしまうような閃光。
そして、直後の――雷鳴。
耳をつんざく轟音に、意識を切り替えることが出来ないまま、俺たちはそれを見た。
遠くにそびえる、古びた聖堂。
その屋根の上から、まるで嘲笑うかのように。
もう一体のヴァジュラが、俺たちを見下ろしていた。
「……オウル?」
ディンの声に、視線を戻す。
つい数秒前まで飄々と笑っていたオウルが、背中を焦げ付かせて倒れていた。
「オウル……オウル!? おい! しっかりしろ!」
来る。想定外の、もう一体のヴァジュラが走ってくる。
ここに来てようやく、頭が事態を理解した。
「――逃げろぉっ!」
無我夢中で叫んだ。だが、どこへ逃げる。どうやって守ればいい。
パニックに陥りかけた中で、さっき高速道路の上から、たまたま姿勢良く落ちてきた、大きな白いバンが見えた。
「ルカ、運転出来るか!?」
「適当!」
奇跡的に、俺たち全員を乗せて走り出したバンで市街地を駆け抜けた。
だが後ろからは、凄まじい速度でヴァジュラが猛追してくる。
「くそったれえええっ!」
ディンがバックドアを蹴り開き、背後のヴァジュラ目がけてレイガンを照射した。
僅かに残ったオラクルが全てヴァジュラに注がれる。だが、その勢いを止めることは出来ず、ヴァジュラの放った雷球がタイヤに命中し、車体が大きく跳ねた。
岩に激突した衝撃で車体が傾き、ルカがいくらアクセルを踏んでも反応しなくなった。
もう、すぐそこまでヴァジュラが迫っている。
「……オウルはまだ息がある。車ん中に隠しといた方が安全だ。とにかく逃げ切って、態勢を整えてオウルを助けに戻る。全員生きて帰るにはそれしかねえ!」
そう言って、先陣を切って外へ飛び出して行くディンに続く。
それがどれだけ絶望的な作戦だろうと、やるしかない。
神機を振りかざし、俺たちは外へと飛び出した。
だが、希望という名の幻想を踏みにじるように、帯電したヴァジュラが突進してくる。
「――くっそがあああああっ!」
咄嗟に、ディンが俺たちの前に躍り出てシールドを展開する。
だが、その巨体から繰り出される渾身の一撃を止められるはずもなく、炸裂した雷と共に、俺たち三人は吹き飛んだ。
正面からまともに食らったディンが瓦礫に突っ込み、呆気なく宙を舞ったルカの体が、地面に開いた大穴の中へと落ちていく。
一瞬だった。たった一瞬で、細い糸のような希望が引き千切られた気がした。
「ディン……ルカ……?」
辛うじて意識を保った俺は、神機を支えにどうにか立ち上がった。しかし。
「……ちく、しょう……っ! うあああああああっ!」
眩暈を覚えながらも、懸命に振り下ろしたブレードは、獣神の体に浅く喰い込むだけだ。
目の前で、ヴァジュラの腕が振り上げられる。
死ぬ――そう直感した瞬間。
またしても、ヴァジュラの頭部に命中した弾丸が俺を救った。
視線の先。車から這い出してきたらしいオウルが、神機を構えたまま微笑んでいた。
「――馬っ鹿野郎おおおおっ!」
オウルの方へ飛びかかっていったヴァジュラが、帯電した前足を振り下ろす。
凄まじい雷鳴と共に、付近の地面が大きく陥没するほどの衝撃が辺りを震わせた。
「オウル……っ!」
独りになった。
ゆっくりと振り返ったヴァジュラの眼光が俺を捉える。
もう逃げられない。絶対の死が、地響きと共に迫ってくる。
親友を。仲間を殺されて。このまま大人しく、死を受け入れるしかないのか……?
「……冗談じゃねえ」
込み上げてくる感情を抑えられず、俺は一歩も退かずにヴァジュラと向き合った。
「俺は約束したんだ、あいつと」
胸に残る誓いと共に、荒ぶる神へと、真っ向から神機を突きつける。
「生きて、明日に辿り着くって!」
その瞬間――全身からオラクルが噴き出した。
金色のリングが全身を包み、頭の中に、誰かの声が響いてくる。
『――ユウゴ』
頭に、ルカの声が響いてくる。その強靭な意志が伝わってくる。
「ああ、俺たちは――絶対に、生きて帰る!」
決意の叫びを上げた瞬間。背後で、閃光が走った。
俺の体から伸びる、金色の光のライン。
眩いその繋がりを、手繰り寄せるように。
「……お待たせ、ユウゴ」
神機を携え、瓦礫を吹き飛ばしたルカが、飛ぶように駆けつけてきた。
「ああ……どうしてか分からないけど、お前が来るって分かったよ」
光で繋がったこの現象が何なのかは分からない。だが、ハッキリと分かることは。
俺もルカも、諦めるつもりは欠片もないということだった。
「――はああああああっ!」
声を重ね、動きを合わせ、神速でヴァジュラに突撃しながら捕喰形態の神機を繰り出す。
凄まじいスピードが出た。頭の中にルカの思考が流れ込んできて、次の一瞬に何をしようとしているのか、手に取るように分かる。
ヴァジュラも咄嗟に反応出来ない完璧な同時攻撃でルカと一緒にバーストし、すぐさまルカの体に、捕喰したオラクルを受け渡すリンクバースト弾を放った。
バーストの出力を大幅に向上させたルカが、薙刃形態に変形させたバイティングエッジでヴァジュラの体を斬り刻む。
反撃に転じたヴァジュラの一撃すら、ルカは神機の切っ先で止めてみせた。
「ユウゴ!」
ヴァジュラを押し返したルカの呼び声に応え、すかさずヴァジュラの眼前に滑り込む。
かつては反動で吹っ飛ばされた情けない俺の背を、ルカの温かな手が支えてくれた。
「これは……あいつらの分だ」
ディンとオウル、二人の攻撃の痕が残るその顔面に向けて。
俺は、インパルスエッジを立て続けに撃ち込んだ。
口内から頭部を粉々に吹き飛ばされたヴァジュラが、力なくその場に倒れ込む。
……雷鳴も、咆哮も聞こえなくなり、市街地に静けさが戻ってくる。
同時に、俺とルカを繋いでいた光のリングも消えてしまった。
「ユウゴ……」
俺たちは勝った。アラガミに立ち向かい、意志の力で勝利をもぎ取った。
だが。
「……ち、くしょう……っ!」
その喜びを分かち合うことは――もう出来なかった。


「……よう、生きてっか……?」
何とか探し出したディンは、瓦礫の中で大量に血を流しながら、それでも笑っていた。
もう、何をしても間に合わない。
何を言うべきなのか分からないまま、俺は立ち尽くすことしか出来なかった。
「……これ、持ってけ」
ディンは震える手で、自分の首に巻いていたチョーカーを外すと、俺に差し出した。
「忘れんなよ……ここに、英雄が居たって」
差し出された思いを、俺は強く握りしめた。
「忘れねえ……絶対に!」
俺の言葉を受けて、勇敢な英雄は――笑顔のまま、その使命を終えた。
「……ユウゴ」
オウルの方へと走っていったルカが、重い足取りで戻ってくる。
その手には、ディンと同じチョーカーが握られていた。
ここは灰域。数分もすれば、遺体すら灰となって消えてしまう。
その死を弔う時間すら、俺たちには与えられない。
それでも、俺たちに出来ることがあるとしたら。
「……連れて行くぞ」
託されたチョーカーを握り締めて、俺は誓った。
みんなが夢を叶えられる場所を作る。
みんなの意志を、願いを守れる場所を作って、その場所に託された思いを届ける。
こいつらの夢は……俺が絶対に未来で叶えてみせる」
それが、この世界でたった一つ。意志を繋いでいく方法だから。
「ルカ、お前も……ついてきてくれるか?」
返事の代わりに、ルカは、チョーカーを握り締めた手を持ち上げた。
こみ上げてくる涙を殺して、俺も、願いを込めた拳を掲げる。
打ち鳴らされた誓いの音が、英雄の還った空に、どこまでも響いていった。

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