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「GOD EATER 3」キャラクターノベル 第一章 ユウゴ編「始まりの誓い」


「GOD EATER 3」キャラクターノベル ユウゴ編「始まりの誓い」 ~1章-3話~
 初任務で揃って命令違反を犯し、百に届こうかというアラガミの大群に正面から突っ込んでいった挙句、そのアラガミ共を完全に封じ込める大戦果を上げて生還――
どんなゴッドイーターでも驚愕するような実績を残した俺とルカは、看守たちの間でいつしか『狂犬』と呼ばれるようになっていった。
看守たちを許せない気持ちはある。だが、こいつらに命を救われたことと、今はこいつらに頼らなければ生きていけないのも事実。
いつか、自由を掴むその日まで利用し続ける。
それがとりあえずの俺の結論だった。
俺たちの姿に影響を受け、看守なんかに負けてたまるかと息巻く子供たちも増えて、牢獄の中にはいつしか、強固な連帯感と、一緒に笑い合える空気が生まれていった。
そして、初陣から数ヶ月が経ち――


 ある日の訓練中。短い休憩時間に、俺とルカに声をかけてくる奴がいた。
「よーう、ユウゴ、ルカ! 英雄さまのお通りだぜ、場所空けろ!」
ボサボサの金髪を掻きながら、そいつは俺とルカの間に乱暴に座り込んだ。
「……よう、ディン。また看守殴って懲罰房に放り込まれてたって?」
ディン・ペニーウォート――俺たちとは別の区画に入れられていて、他のAGEたちよりも少しだけ年上。
こいつも、看守と何度も暴力沙汰を起こしている異端児として有名だった。
「英雄は悪い奴をぶっ飛ばすもんだろ? なあルカ?」
「……仲間を守るためだったんだよね? 格好いいと思う」
「はははは! やっぱお前は話が分かる奴だな!」
訓練中は拘束が解かれる両腕を俺たちの肩に回しながら、ディンは豪快に笑ってみせた。
「わざわざ何の用だよディン。お前と話すことなんかないぞ」
「とんがるなよ、悪い話じゃねーんだ。聞くだけ聞いとけ、チビユウゴ」
「大して変わんねぇだろ!」
からかうように俺の頬をつねったディンの手を振り払う。すると。
「おーい、ちょっと待ってよディン! ユウゴ君、ルカ君、僕からも説明させて?」
ディンを追って、小柄な男が黒い長髪を揺らしながら走ってくる。
オウル・ペニーウォート――いつもディンにくっついている腰巾着だ。
頼りなさげな雰囲気とは裏腹に、こいつもディンと組んで何度もアラガミを倒している実力者らしい。
ディンとは対照的に、気弱そうに苦笑しながら、オウルは俺たちに顔を寄せてきた。
「二人とも、率直に聞くよ? ……僕たちと一緒に、反乱を起こさない?」
――耳を疑った。
温厚そうなオウルが、笑みさえ浮かべながら口にしたとは思えない言葉だった。
「なっ!? 反乱って……!?」
「しーっ! しーっ! 時間ないからとにかく聞いてよ」
訓練の様子を監視している看守たちを伺いながら、オウルが声を潜めた。
「この間のミッション中、小型の通信機を何台か見つけたんだ」
「オレたちの牢屋に三兄弟が居るんだが、そいつらの末っ子が機械に詳しくてな。まだチビっちゃい癖に、簡単に修理しちまったんだ」
「看守たちにはまだ見つかってない。これがあれば看守たちの通信をこっそり傍受出来るし、他の区画のAGEたちとも話が出来る」
わずかに、胸が高鳴るのを感じた。
それが本当なら、ミナトのAGEの間だけで、反抗作戦を練ることも可能になる。
「一台は僕らの牢屋に隠してある。で、もう一台をこっそり君たちに渡すから、これで密かに連絡を取り合いながら、交渉材料を集めるんだ」
「交渉って、誰と?」
「今、この辺りに新しい航路を開拓したがってる連中がいるらしい。安全が確保されれば、別のミナトの奴らが定期的に近くを通るかもしれねえってこった」
「チャンスがあればその人たちと接触して、ここの機密情報とか、僕たち自身を戦力として売り込めるかもしれない。酷い扱いを受けてるって分かれば、助けてもらえるかも」
思わずルカと目を見合わせた。
……可能性はある。少なくとも、現実的な勝算のある計画に思えた。
「細かい所はこれからだが、実行するなら看守どもと正面からやり合えるくらい、頭のネジがぶっ飛んだ戦力が必要になる」
「そこで、ギラギラしてる狂犬の二人に最初に相談したって訳。どう? 乗らない?」
ディンとオウルは、悪戯を仕掛ける子供のように楽しそうな笑みを浮かべている。
この牢獄の中で久しく見ない表情。その目には、確かな希望が宿っていた。
「……面白ぇ、もちろん乗るぜ。ルカ、お前は?」
「いいよ。俺も手伝いたい」
「っしゃあ、そうこなくっちゃな! んじゃユウゴ、早速だが――おらぁっ!」
次の瞬間、ディンのヘッドバッドで大きく吹っ飛ばされた。
「痛ってえ!? ディン、てめぇ何しやがる……っ!」
慌ててオウルが間に割って入った。
「ちょ! ディン、先に説明しなきゃ! ご、ごめんね。その通信機、懲罰房に隠してあるんだ。訓練には持ち込めないから、他の区画のAGEに渡すにはそこしかなくて……」
「つーことだ。オレも一緒に入ってやっから、遠慮なくやり返せユウゴ!」
「ちっ、そういうことかよクソ野郎……いいぜ、お望み通りぶっ飛ばしてやらぁ!」
派手な喧嘩が始まったことで、辺りが一斉にざわつき始める。
「ふ、二人とも、演技でいいんだって! る、ルカ君、止めて!」
「ユウゴ、助走をつけて殴るんだ」
「煽ってどうすんのさ!?」
その後。速攻で看守に取り押さえられた俺とディンは、予定通り懲罰房に放り込まれた。
「ちっくしょぉ……覚えてろよディン……」
「へへっ、言われなくても殴られた時のダッセえ顔は覚えといてやるよ」
そう言って、ディンは笑いながら固いベッドの上に身を投げ出した。
さり気なくベッドの下を示すディンにため息をついて、俺は冷たい床の上に寝転がる。
……確かに、小さな黒い箱が貼り付けてあった。
これが、未来に繋がっているかもしれない。
自分の意志で、やりたいことを、やりたいようにやれる……そんな場所に。
子供たちだけの反抗作戦。久しぶりにワクワクした。
看守が居なくなる夜まで待とうと目を閉じて――しばらく経った時だった。
「……おい、うちのAGEを他所に売り払うって話、どうなった?」
「ああ。適合率甲判定の神機使いって聞いて、食いついてきたミナトがある。バランとかいう羽振りの良いミナトだ」
「そいつぁいい。相棒を売られれば、あの狂犬も大人しくなるだろ」
――外から聞こえてきたやり取りに、不意に胸がざわついた。
ディンも身を起こし、一瞬俺と顔を見合わせてから、揃って鉄格子に駆け寄った。
「お、おい! 今の話、どういうことだ!?」
「ん? ……何だお前ら、また懲罰房に入れられてたのか」
呆れたようにそう言って、看守たちは俺に向かって底意地の悪い笑みを向けた。
「可哀想になぁ。そんな所に入れられるようなバカ犬じゃなけりゃ、お友達とずーっと一緒に居られたのに」
――ゾッとするような悪寒を感じた。
「……おい、待てよ……嘘だろ?」
笑いながら去って行く看守の背中に、いつかの憎悪が再び燃え上がる。
ルカが売られる? 身勝手な看守の都合で、今度は金に換えられるだと?
唐突過ぎる。実感が湧いてこない。
だが、この空虚な感覚が、絶望の一端であることを俺は知っていた。
「待て……待てよ畜生っ! お前ら、また……また俺から奪うのかよっ!?」
懲罰房の外に向けて必死に怒鳴った。
だが、今の看守たちには、それこそ負け犬の遠吠えにしか聞こえないのだろう。
舌打ちしたディンが、ベッドを蹴飛ばして毒づいた。
「エグイ手使いやがって……こいつはマジでやべえぞ。反抗するとダチが売られるなんてことになってみろ。ガキどもの心が折れちまう。そうなったら計画も……クソッ!」
ディンと肩を並べて座り込み、虚空を睨みながら必死に頭を回した。
もう二度と――仲間を失いたくない。
あいつは、暗闇の中でやっと見つけた希望なんだ。
何でもいい。何か……この状況をひっくり返せる何かがあれば。
爪が食い込むほど拳を握りしめた、その時。
――突如、ミナト内に警報が鳴り響いた。
「……何っ!? 航路にヴァジュラだと!?」
声を上げて、看守たちが一斉に走っていく。
「ヴァジュラ……?」
この騒ぎに乗じて、通信機を取り出したディンが、牢獄で待っているオウルに繋ぐ。
「おいオウル、聞こえるか? こりゃ何の騒ぎだ!」
『大変だよ。開拓中の航路に、大型アラガミのヴァジュラが出たんだって! 航路が塞がれて、予定してた物資のルートが潰されるかもしれないって、看守たちが大騒ぎしてる』
金になるはずだったルートが、使えなくなる可能性が出てきたということらしい。
激変していく状況の中で、俺の頭は静かに一つずつ可能性を繋いでいった。
儲け。航路。価値。大型アラガミ。そして、AGE――
「ちっ、もう看守が戻ってきやがる……切るぞオウル」
大型アラガミへの対策について話しながら歩いてくる二人組の看守。
そいつらに向けて、俺は声をかけた。
「おい……そのヴァジュラってアラガミが居なくなればいいんだよな?」
足を止めた看守たちが、白けた目で俺を見た。
「そのアラガミが居なくなれば、航路が開通して金になるんだろ? お前らの金……俺が稼いできてやる」
賭けだった。だが、この状況を最大限利用するにはこれしかない。
「俺がそいつを倒す。これからどんなアラガミが来ようと、全部俺が倒してやる。その代わり……成功したらルカを売り払うって話は無しだ!」
「馬鹿が。ガキが簡単に言うな! ヴァジュラだぞ。犬死にするのがオチだ!」
その時、俺の隣にディンが進み出てきた。
「じゃあ黙って大損こきやがれクソ看守。オレとユウゴでヴァジュラを倒してやる。クソガキ二人使うだけで、厄介事が片付くかもしれねーんだぜ? 賭けてみろよ」
「ディン、お前……」
「大型アラガミを倒せる最強のAGEが二人! それと新しい航路! わざわざ神機適合率の高い奴を売るなんてケチなことするより、よっぽど金になんだろうが!」
ディンも、俺と同じことを考えたらしい。
黙り込む看守たちとの間に、緊張が満ちていく。
勝算なんてほとんどない。だが、何もしなければ何も得られない。何も守れない。
それは、俺たちAGEの胸に強く刻まれている真実だった。
息が詰まるような空気の中――不意に。
「……ユウゴ、戦いに行くの?」
――何故か、ふらりと現れたルカが俺に声をかけた。
「ルカ!? お前、何でここに!?」
「……折角ユウゴとディンが懲罰房に居るんだから、俺も一緒に入れば話がしやすいと思って、適当に一発、どついてきた」
ルカの横には、後頭部を押さえている看守が忌々しげに立っていた。
ひっくり返るほど爆笑するディンの横で、俺は鉄格子を挟んでルカと向き合った。
……何処から聞いていたのだろう。自分が売られると、知られただろうか。
自分のために無茶をする必要などないと、ルカは俺を止めるかもしれない。
だが、もしそんなことを言い出したとしても、俺は――
「ユウゴ。俺たち、一緒にいられなくなるの?」
ルカの問いに、俺は鉄格子を握り締めて、絞り出すように答えた。
「……誰にも負けないくらい強くなきゃ、そうなっちまうかもしれない……っ!」
「分かった。じゃあ――戦おう」
自分の立場を本当に分かっているのか不安になるほど、ルカはいつもそうしてくれるように、優しく俺に微笑んだ。
「ユウゴだけだと、きっとまた無茶するから。俺も一緒に無茶するよ。いいだろ?」
普段ぼーっとしている癖に、こいつは一度言い出したら絶対に折れない。
だからこそ。こいつの言葉は……不安で潰れそうな俺の心に、いつも勇気をくれる。
心底楽しそうなディンも並び立ち、俺たちは看守に猟犬の眼光を向けた。
「――死んでも勝つ! 俺たちを使え!」

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