ゴッドイーター オフィシャルウェブ

CONTENTS

「GOD EATER 3」キャラクターノベル 第一章 ユウゴ編「始まりの誓い」


「GOD EATER 3」キャラクターノベル ユウゴ編「始まりの誓い」 ~1章-2話~
 対抗適応型ゴッドイーター・AGE。
俺たちは、通常のゴッドイーターでは活動できない灰域へと潜行する、特別なゴッドイーターになるのだと説明された。
各地から身寄りのない子供を集めて強引に適合試験を受けさせ、使える奴らを片っ端から灰域に放り込んで情報をかき集める。
それがこのミナト・ペニーウォートのやり方だった。
PW-01407 ユウゴ・ペニーウォート――
それが、適合試験を乗り越えた俺の新しい名前だった。
手錠のような腕輪をはめられ、牢獄にぶち込まれた俺は、適合試験の影響で朦朧とする意識の中、真っ先に看守に食って掛かった。
「おい、他のみんなは……俺の拠点から連れて来られた奴は、他に居ないのか?」
「ああ、あの威勢の良いガキどもか。違う区画に放り込まれる予定だ。良い子にしてれば、そのうち会わせてやるさ」
看守は馬鹿にするようにそう言ったが、俺の心には更に希望が湧いた。
「みんなここに来てるんだな? ……良し……良しっ!」
出来ることなら拠点で安全に暮らしていて欲しいとも思ったが、全員ここに居るんだという事実は、何より俺を安心させた。
自称・防衛班のみんなと、ルカ。
俺は一人じゃない。その意識は、未だ不安が渦巻く牢獄の中でも俺を奮い立たせた。
思っていた形とは違ったが、ここで俺たちは夢を叶えられるんだと確信したからだ。
ガラクタを寄せ集めて作ったような神機を前にした時も、不安は感じなかった。
こいつでアラガミを蹴散らして、自称・防衛班のみんなと一緒に、いつかサテライト拠点で待ってるみんなの所へ帰る。
そしたら、もう何も心配しなくて大丈夫だって、大好きなみんなに堂々とそう言ってやれるんだ。
手に馴染んだ長刀型神機を握り締めて、俺はその夢を少しでも早く現実にしてやろうと決めた。
別の区画に入れられているという自称・防衛班のみんなとは中々会えなかったが、つらい訓練の日々が始まっても、俺は弱音一つ吐かずに努力を続け、俺の姿に影響されたのか、牢獄の子供たちも、少しずつ笑顔を見せてくれる奴が増えていった。
仲間意識の芽生えはますます俺の心を支え、そして――
AGEとして、初めての任務に就く日がやってきた。


 初任務の内容は、偵察だった。
新たに灰域濃度が上昇したエリアに潜行し、灰域内の情報を持ち帰る。
アサインされたのは俺と、ルカの二人だった。
あの日のように暗いトラックに揺られるのは嫌気が差したが、満を持しての実戦に、俺はどこか浮かれていた。
「いよいよ初任務だな……頑張ろうぜ、ルカ。俺たち、きっと期待されてんだ。良い結果を残せれば、看守の態度も変わるかもしれねえしな!」
ルカは薄く微笑みながら頷いてくれたが、その顔には不安が滲み出ていた。
「大丈夫だ。危なくなったら俺の後ろに居ろ。どんなアラガミからも守ってやるからさ!」
俺が前衛。ルカは後ろでサポート。それが最適な形だと思った。
「……ありがとう。俺も、ユウゴを守るよ」
「ああ、サンキュー。頼むぜ相棒!」
ルカなりに、勇気を振り絞って言ってくれたのだろう。
その言葉で、俺の胸に残っていた微かな不安も完全に消え去った。
『子犬ども、そろそろだ。準備をしろ』
通信機に、看守たちの無線が届く。
重い神機のケースを引きずって、俺たちは停車したトラックの外に出た。
「ここが、灰域……」
サテライト拠点に迎えられて以来、対アラガミ装甲壁より外の景色を見ることはほとんどなかったから、こうして世界を見渡すのは随分久しぶりな気がした。
どこまでも続く荒れ果てた大地。宙を漂う黒い灰と、肌に刺さるようなピリピリした空気がとにかく気持ち悪かった。
『ペニーウォート専属AGE。ハウンド1、ハウンド2の拘束解除の処理を開始する』
繋がれたままだった腕輪が、激しい電光と共に切り離される。
束の間の自由を取り戻したような感覚が、気持ちを一層引き締めた。
「さぁ、行こうぜルカ! 一緒に生きて帰るぞ!」
神機を取り出し、周囲を警戒しながら、灰域濃度の高い地点までひたすら走る。
ゴッドイーターになったお陰で身体能力は驚くほど向上していたが、進めば進むほど体にかかる空気の重さも増していった。
「ユウゴ、あれ見て」
任務開始から数分後。ルカがいち早く敵影を発見した。まだ距離があるが、鬼の面のような尻尾を持つ小型アラガミ、オウガテイルが五体走っていく。
「……どうしよう? 俺たちの進む方向に行くみたいだけど」
「こっそり追いかけるぞ。群れで行動してるみたいだし、巣みたいなもんがあるなら、場所を見つけて報告するんだ」
気付かれないよう十分な距離を取って、俺たちはオウガテイルの群れを追った。
冷静な状況判断と、的確な指示が出来ている。首尾は上々だと思った。
だが、小型とはいえ相手は五体。いつ気づかれるかという緊張感と、灰域の重い空気が合わさって、少しずつ疲労を感じ始めていた時だ。
「……あれ?」
ふと、足を止めて視線の先にある物を見つめた。
「ユウゴ? どうしたの?」
アラガミに喰われて、一部が不自然に削れた岩山がある。
俺はその岩山に、見覚えがあるような気がした。
「……え?」
改めて周囲を見渡してみた。
ここは灰域。生身の人間が決して活動出来ない未知の危険地帯。
そのはずなのに――俺はかつて、ここを歩いたことがある気がした。
「そうだ……あの変な岩山を超えて……すぐに」
覚えている。忘れるはずがない。
厄災で家族を失い、絶望に暮れながら必死に前へと進み続けた放浪の旅。
その終着点が、この先にあったのだから。
せり上がってくる不吉な予感に突き動かされて、俺は走り出した。
岸壁をよじ上り、その先の景色が一望できる場所まで必死に駆け上がる。
そして。
「……なん、で?」
見下ろした眼下の景色に、言葉を失った。
薄汚れた狼のエンブレムが刻印された、巨大な装甲壁に囲まれた場所。
人々が肩を寄せ合う、小さな揺り籠。
――サテライト拠点が、そこにはあった。
「サテライト拠点……こんな所にもあったんだ。けど、この灰域の中じゃ……」
追いついてきたルカの言葉も耳に入らなかった。
目の前の光景が何を意味するのか、考えることを頭が拒んだ。
装甲壁の入口は完全に開いていて、追っていたオウガテイルたちは、まるで自分の家に帰るように拠点の中へと入っていく。
『おい、何をやってる。指定のポイントについたなら報告しろ』
無線から、看守の冷たい声が響いた。
「……え? だって、ここ……俺が居た、サテライト拠点……」
『ああ、だから土地勘のありそうなお前を使うことにしたんだ。ボサッとするな』
「それじゃあ、灰域に飲まれたエリアって……」
『感謝しろよ? 俺たちが拾いに行かなかったら、お前もそこで灰になっていたぞ?』
「っ……拠点のみんなは!?」
『生存者が居るように見えるのか? 居たら世紀の大発見だな、はははは!』
頭に響く看守の笑い声。
耳障りなその声が、真っ白に凪いだ心の中に、ドス黒い波紋を広げていった。
「お前ら……初めからここが灰域に飲まれるって分かってたのか……?」
お前らだって、ゴッドイーターなんだろ?
人類のために神機を振るっていたんだろ?
なのに――なのに――
「何で……何でみんなを助けなかったんだよおっ!」
喉が張り裂けそうになるほどの怒鳴り声を吐きだす。
だが返ってきたのは、相も変わらず無機質で、興味なさげな声だった。
『馬鹿が、適合試験も受けられない大人を何十人も食わせる余裕があるわけないだろう』
「っ……ふざけんな……ふざけんなっ! 嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だっ! ……嘘だ……」
枯れた大地に膝をつく。涙が溢れて止まらなかった。
みんな死んだのか? 俺はまだ、何一つ恩返し出来ていないのに。
死ななきゃいけないような人なんか一人もいなかった。
優しくて、温かくて、みんな大切な――俺の本当の家族だったのに。
「こんなこと、あいつらに何て言えば……っ!」
ミナトで待ってる自称・防衛班のみんなは、まだこのことを知らないはずだ。
俺が、あいつらを絶望させる事実を伝えなければいけない。
そのことが、余計に胸を締め付けた。
『ああ、そういえばその拠点から連れてきたガキが他にも居たな。丁度いい、教えておいてやる。あのガキどもはな――』
次の瞬間。
俺は、この世界の真実を知った。
『全員死んだぞ』
「………………は?」
『四人全員、適合失敗だ。わざわざ拾ってやったってのに、一人はアラガミ化までしやがって、処分するのに骨が折れた』
みんなは別の区画に居るから、会えないんじゃなかったのか……?
会えなかったのは……もう、あそこに居ないから……?
気付いた瞬間。拠点で過ごした日々の思い出が、走馬燈のように脳裏を駆け抜けた。
俺たちは五人で一緒に夢を叶えて、この拠点を守る本当の防衛班になるんだ。
英雄になって凱旋して、みんなに――ただいま、って――
『分かったか? お前らの命は安いんだ。精々救ってやった主人の役に立てよ、犬ども』
乾いた突風が吹き抜けていく。
灰の混じったザラザラした風が、冷たく俺の頬を撫でていった。
「ぁ……あ、あぁ……あああああああああああっ!」
牢獄の子供たちの方が、俺なんかよりずっと冷静に現実を見ていた。
俺たちは死ぬ。特別な存在でも何でもなく、ただそこに居たからという理由で使われて、何の意味もなく消えていく。
犬のように惨めな存在なんだと、ようやく分かった。
「……てめぇら……どいつもこいつも……」
だが――絶望に落ちた心の底で、猛烈に燃え上がる感情があった。
ゴミみたいな価値しかなくても、この命をどう使うのかは自分で決めていいはずだ。
それがせめてもの反抗。俺がここで生きていることを証明する方法だと思った。
忌々しい無線機を引き剥がし、我が物顔で拠点に出入りしているアラガミを、神機を握り締めて見下ろした。
「絶対に許さねええええええ!」
激情に突き動かされるままに、岩山から飛び出そうとする。
だが咄嗟に、ルカが俺の手を取った。
「ユウゴ、駄目だ! 俺も一緒に!」
「お前は逃げろ! 絶対に来るんじゃねえ!」
これは俺の問題だ。ルカを付き合わせるわけには――死なせるわけには、いかない。
その手を振り払って、俺は拠点を目指して走り出した。
装甲壁が開いているのはきっと、みんな灰域の接近に気づいて逃げようとしたからだ。
拠点の中で閉じこもったまま、灰域に飲まれるのを待つか。
一か八か、外に希望を見出すか。
選択を迫られた拠点のみんなは……諦めず、生きようとしたんだろう。
だが、拠点で一台だけ保有していたトラックは装甲壁のすぐ外で無残に潰されていた。
使う暇さえなかったのか、陽動に使う小型の爆薬がトラックの傍に沢山転がっている。
「みんな……っ!」
記憶にある拠点の風景は、見る影もなく塗り替えられていた。
家屋は軒並み廃材と化し、そこら中に黒ずんだ血痕が見て取れる。
温かな人たちに囲まれた思い出の場所は今、小型アラガミの巣に変貌していた。
「くそっ……くそぉ! お前らああああっ!」
オウガテイル。アックスレイダー。コクーンメイデン。マインスパイダー。
数十体以上居る。熟練でも一人で戦いを挑むのは無謀を通り越して自殺行為だろう。
だが、それがどうした。
初めから――ここが俺の命を燃やす場所だった。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
アラガミたちが俺に気づき、一斉に咆哮を上げる。
オウガテイルが飛ばす尻尾の針を掻い潜り、その顔面に神機を振り抜く。
存外にあっさりと、その体を傷つけることが出来た。
……戦える。この手で、みんなの仇を討ってやれる。
アラガミの死体を盾にすれば小型の遠距離攻撃をやり過ごせるし、銃撃で減った神機のオラクルも、死体を斬りつけることである程度安全に回復出来る。
皮肉なことに、使える物は何でも使う戦闘スタイルを構築するペニーウォートの訓練プログラムは優秀だった。
ぶち切れていたせいもあってか、俺の体は初陣とは思えないほど軽快に動いた。
しかし、灰の舞う空に赤いオラクルの光が上がった。コクーンメイデンのレーザーだ。
四方から続けざまに、二発、三発と赤い光が飛んでくる。
「く、くそっ!」
シールドの展開が間に合わず、まともにレーザーを受けて吹っ飛んだ。
どうにか体勢を立て直す。だが、オウガテイルの巨大な口がすぐ眼前に迫っていた。
「う……うわああああああっ!」
無我夢中で、長刀型神機の奥の手であるインパルスエッジを放つ。
神機のオラクルが一発で空になるほどの凄まじい衝撃波が、眼前のオウガテイルはおろか、接近してきていた周囲のアラガミをまとめて粉砕した。
だが反動が凄まじく、踏ん張りが効かずに吹っ飛んだ俺は、地面を転がって装甲壁に叩きつけられた。
衝撃に一瞬だけ意識が飛びかける。しかし、体は反射的に動いてくれた。
活路を開くため、近づいてきたマインスパイダーに神機を深く突き刺した、瞬間。
その体が、不気味に膨らみだした。
「しまっ――」
マインスパイダーの絶命と同時に、活性化したオラクルが爆発となって周囲に炸裂する。
熱を伴う爆風に煽られ、俺の体は呆気なく宙を舞い、地面に叩きつけられた。
感じたことのない痛みが全身を襲う。オラクルの消耗も想像よりずっと激しい。
だが、それでも。
「こんなもんじゃ、足りねえ……っ!」
戦意を奮い起こし、震える足で尚もアラガミに突撃をかけようとした。その時。
地中から、新たなアラガミが無数に飛び出してきた。
ザイゴート。空を飛べるくせに、地中に隠れていやがったらしい。
「くそっ、新手……っ!?」
厄介な奴が出てきたと舌を打ったが、新手の出現はそれだけじゃなかった。
拠点の地面から、次々にアラガミが湧いて出てくる。
ずっと隠れていたのか。それとも――たった今、誕生したのか。
数秒後には、俺が倒した数を何倍も上回る量のアラガミが、視界一杯に蠢いていた。
まるでパンくずに群がるアリの大群だ。拠点内にはもはや足の踏み場もないほどのアラガミがひしめき、一斉に俺の方へと距離を詰めてきていた。
「は……はは……ふざけやがって……」
この絶望こそがアラガミ。そしてこれがゴッドイーターの戦いなんだ。
世界中で、これより酷い絶望が毎日。何十年も繰り広げられている。
現実を突きつけられた瞬間。激情で何とか抑え込んでいた恐怖が、胸の内に溢れだした。
神機が地面に落ちる音と共に、膝から力が抜けていく。
「……みんな」
この場所を、守りたかった。
優しいみんなの笑顔を、仲間と一緒に守りたかった。
だが、もうその夢は叶わない。
――ここで死ねば、或いはみんなと同じ場所に行けるのだろうか。
「ごめんな……ルカ」
どうか、無事に生き延びてくれ。
俯いて、最後の祈りと共に、小さくその名を口にした。
次の瞬間――
サテライト拠点の一角で、派手な爆発が起こった。
「――ユウゴオオオオっ!」
アラガミたちの注意を一手に引き付け、立ち昇る爆炎の中から何かが飛び出してくる。
ギラつく二振りの神機――バイティングエッジを携えたルカが、アラガミの大群の中を流星のように翔け抜け、俺の前に降り立った。
「ルカ、お前……馬鹿野郎! 逃げろって言っただろ!」
その背中に、俺は怒声を浴びせかけた。
お前まで犠牲になって、どうするんだと。
「……俺だって言っただろ」
振り向いたルカが、決意に満ちた眼光で俺を射抜いた。
「ユウゴを、守るって!」
直後、ルカが神機を変形させた。
右手の刀身から現れたのは、アラガミと見紛う漆黒の捕喰口。
「はああああああああああっ!」
そのまま薙ぎ払うように一閃された神機が、押し寄せていたアラガミをまとめて喰い千切る。捕喰口がルカの手元に戻ると同時、その体から金色のオラクルが噴き出した。
「逃げるはずないだろ。死なないって……一緒に生きて帰るって約束した!」
二振りの神機を一つに繋ぎ、ルカが叫んだ。
「俺が必ず約束を守るから。だから――ユウゴも逃げるな!」
空中から群がってきたザイゴート目がけて、ルカが薙刃形態の神機を振り上げる。
活性化した神機の刃から金色のオラクルが噴き出し、月のように美しい弧を描いてアラガミを両断した。
溢れだすオラクルの奔流が、ルカの背中から翼のように広がり、空中のザイゴートをまとめて大地に叩き落していく。
「すげぇ……」
アラガミをも平伏させる光の翼を前に、俺は間違っていなかったんだと確信した。
こいつは希望だ。
この光が。生きようとする意志が。この世界で生きていくたった一つの力なんだ。
そして俺は――俺たちは――この光を守るんだと、確かに誓い合った。
「……そうだったよな」
再び神機を握り締め、湧き上がってくる力と共に、ルカの隣に並び立つ。
「悪かった……やろうぜ、ルカ!」
「ああ、やろうユウゴ! もうすぐ装甲壁が閉じる。出口まで走れる?」
ルカの言葉とほぼ同時に、装甲壁が地響きを上げながら閉じ始めた。
「お前、装甲壁を動かしたのか!? 何でやり方知ってんだ!?」
クスッと小さく笑う声の後、ルカはこう言った。
「……適当」
「……はっ! やっぱ、お前面白ぇよ!」
だが最善の判断だ。
拠点の内部がアラガミの巣になっているのは、単純に入口が開いてしまっていたから。
ならそこを封鎖すれば、ここに居るアラガミ共を完全に閉じ込めることが出来る。
問題は封鎖より速く、この数のアラガミを突破して拠点の外に出られるか否か。
「外のトラックに積んであった爆薬はさっき全部使った。あとは力尽くで行くしかない」
「心配すんな、お前と二人なら辿り着ける! 行くぞ!」
閉じていく装甲壁の隙間を目指して、俺たちは飛び出した。
ルカが先陣を切り、行く手を阻むアラガミを蹴散らしていく。
俺はすぐ後ろでアシストをしながら、ルカの背中を守った。
この連携が面白いくらい上手くいった。これが俺たちにとって最高の形なんだと全身で理解出来た。
……もう装甲壁が閉じる。
自称・防衛班のみんな。優しくしてくれた沢山の人たち。
生まれて初めて、仲間と、夢を見つけた大切な場所。
沢山の幸せな思い出が残るこの場所に――永遠に戻れなくなる。
奥歯を噛みしめ、脳裏に蘇った記憶を、それでも全速力で振り切った。
「ユウゴ!」
一足先に拠点の外に出たルカが、振り向いて手を伸ばす。
子供一人がギリギリ通れるかどうかの隙間。
過去と未来の境界へ、俺は、迷うことなく飛び込んだ。
――気が付くと、俺はルカと折り重なるように拠点の外に倒れていた。
幸い周囲にアラガミの気配はなく、壁を超えて追ってくる奴も居ない。
もう立ち上がる気力はなく、揃って地面に寝転がりながら、俺は尋ねた。
「……何でこんな無茶しやがったんだよ」
寝転んだまま空に手を伸ばして、ルカは口を開いた。
「……あの日。トラックの中で、俺このまま死ぬんだろうなって思ってた。一人ぼっちで、怖かったんだ。だけど……ユウゴが俺を見つけてくれた」
壁一つ隔てた先は地獄。黙っていても刻一刻と命を削られていく灰域の中。
自分も満身創痍のはずなのに、それでもルカは安心したように微笑んだ。
まるで、救われたのは自分の方だとでも言わんばかりに。
「あの時の約束は――俺の希望なんだ」
こいつも、俺と同じだったんだ。
……ありがとうも、ごめんも、違う気がした。だから。
俺は小さく笑いながら片腕を持ち上げた。ルカも、それに応えてくれた。
「……帰るか」
「うん。帰ろう」
打ち鳴らされた互いの腕輪の音が、灰域の中に高らかに響き渡った。

1 2 3 4 5 6
CONTENTS TOP